特別企画

在宅人工呼吸器患者の災害対策とその対応
―医療従事者が知っておくべき備えと支援体制―

  • 掲載:2026年01月
  • 文責:メディカ出版
在宅人工呼吸器患者の災害対策とその対応<br>  ―医療従事者が知っておくべき備えと支援体制―

気候変動に伴う台風、集中豪雨、大雪に加え、多発する地震とそれに伴う津波に対する備えは大きな課題である。これらに加え、猛暑に対する避難時・避難所の環境整備や、新型コロナウイルス感染症流行にみられる避難所の感染対策に対しても十分な配慮が必要となっている。本稿では、災害時に最も支援が必要な「災害時要配慮者」の一人となっている在宅人工呼吸器を使用する患者の災害時の対応や準備について概説する。

災害対策の現状と課題

これまでの大規模災害における対応事例

① 東日本大震災(2011年)
停電により人工呼吸器が停止し、バッテリー切れで亡くなった筋萎縮性側索硬化症療養者の事例1や、洪水で亡くなった医療的ケア児の事例2が報告されている。
また、個別支援計画が整備されていなかったり、役に立たなかったりしたケース、あるいは医療を必要とする子どもたちにおいて、避難所への避難を選択した人が少数であったことが報告されている2
大規模災害
② 熊本地震(2016年)
熊本県では在宅人工呼吸療法を必要とする在宅療養児(者)が電源確保のために医療機関に避難するシステムが構築されている。地震発生から48時間以内に人工呼吸器使用者の77%が避難を完了しており、電源確保も問題なく行われたことが報告されている3
③ 北海道胆振東部地震(2018年)
北海道胆振東部地震ではブラックアウト(全域停電)への対応が必要となった。24時間人工呼吸器を装着している患者の多くが避難入院となったが、自宅待機のまま医療機器のみを充電する患者・家族も多かったこと、高層階マンションに住む患者の避難は容易ではなかったことが報告されている4
④ 平成30年台風第21号(2018年)
阪神地区では、電源の完全復旧までに約1週間を要する広範囲かつ長期にわたる停電のために、マンションでは断水が生じ、エレベーターも使用不能となり、電話、インターネットなどの通信機器や信号までも使用不能となった。
人工呼吸器などの医療機器を使用している患者については連携医療機関が避難場所として患者の引き受けを行った5
⑤ 能登半島地震(2024年)
医療機器利用者への業者・医療機関・行政の連携が報告された一方で、患者情報の一元把握・共有ができていない、交通寸断で酸素ボンベの搬送が遅延する、避難所で使えるはずの医療機器が使えないなどの問題が顕在化したことが報告された6

災害時に見落とされがちな盲点と困難

① 自宅の安全性の保障
患者は多くの医療機器だけでなく、ケアに必要な物品に囲まれていることが多く、地震時の物品や家具の落下、転倒などの安全確認を行っておく必要がある。
② 長期停電にも配慮した電源確保の限界
長期停電への備えには、医療機器駆動に必要な消費電力の推定を行ったうえで、生活のための電源も必要である7、8
③ 避難所の受け入れ体制不足と、垂直避難を含めた自宅避難に対する準備不足
避難所では電源の確保に加え、ケアを行うための十分な空間の確保が困難なことが多い。バリアフリーとすること、排泄物の処理、水の確保、入浴環境の整備に対する配慮も必要である。自宅避難での垂直避難も考慮する。
④ 避難者自身の困難さ
避難の際には患者の大量の荷物に加え、家族の荷物もある。高層階マンションに住む患者の避難にはさらに多くの人の支援が求められる。安全な避難経路についても事前に確認しておく必要がある。
⑤ 安否確認と患者情報の共有
患者の居住地や医療機器の使用状況を自治体が主導して支援者に共有する体制と、緊急時の安否確認のためのネットワークを構築する必要がある。
⑥ 実用性の高い個別避難計画の未作成
2013年(平成25年)の災害対策基本法の改正により、避難行動要支援者名簿を作成することが市町村の義務とされた。さらに2021年(令和3年)の改正により、避難行動要支援者の個別避難計画を作成することが市町村の努力義務とされた9。個別避難計画での避難場所を病院のみとせず、病院機能を保持する意味でも非医療機関も避難場所とする視点が求められる。
⑦ 地域住民の理解とつながり
災害時は、地域住民の支援が基本となる。平時からの地域住民の理解とつながりを構築することが最も重要である。
災害時の備え

病院・訪問看護・患者それぞれにおける災害に備えた準備

災害への備えに関しては、「自助」「共助」「公助」を考えることが重要である。在宅医療を提供する医療機関でも、残された医療機能評価に基づいた災害のフェーズごとの業務継続計画の作成が求められている10、11

① 病院
  • 在宅人工呼吸器患者の災害時の受け入れ体制を業務継続計画に明記すること。
  • 酸素や電源の提供のための病棟以外の受け入れ場所についても検討を行うこと。
  • 在宅患者の情報を地域と共有し、緊急時の地域連携体制を構築すること。
② 訪問看護ステーション
  • 自治体、患者と協働して、避難行動要支援者名簿/個別避難計画の作成を支援すること。
  • 患者宅の電源・避難所・避難経路・緊急連絡先の確認と連携を行うこと。
  • 地域の支援者と避難訓練を実施し、問題点の明確化、改善を行うこと。
  • 業務継続計画の策定を行うこと。
③ 患者・家族
  • ハザードマップなどにより、自宅の各災害に対する危険度を把握しておくこと。
  • 現在の災害の危険度を公的な情報で確認12して、計画的な避難を行うこと。
  • 医療機器の消費電力の測定、電源の多重化のために、ポータブル電源や予備バッテリー、電動車・太陽光発電・蓄電池を準備しておくこと。
  • 電気を必要としない医療機器を準備しておくこと。
  • 避難行動要支援者名簿、個別避難計画の策定に自ら協力すること。
  • 平時より地域住民とのつながりを強化し、避難訓練を実施すること。
  • 電力会社の医療機器利用登録を行っておくこと。
地域住民の理解とつながり

災害発生時の対応

厚生労働省などから発表されている指針関連を下記に挙げる。


【参考文献】

  1. 青木正志.神経疾患患者救済のための神経学会災害対策ネットワーク作り:在宅人工呼吸器使用患者への対応をどうするか.臨床神経学.53(11),2013,1149-51.
  2. 田中総一郎ほか.被災地の重症心身障害児者への支援と防災について:普段から大切にしておきたいつながりと備え.宮城教育大学特別支援教育総合研究センター研究紀要号.8,2013,53-63.
  3. 緒方健一.NICU卒業生を中心とした在宅医療小児と家族の震災時の支援活動.周産期医学.47(3),2017,425-9.
  4. 鈴木大真ほか.北海道胆振東部地震に伴うブラックアウトにおける在宅人工呼吸器患者への対応に関する研究.北海道医報.1212,2019,1-4.
  5. 原秀憲ほか.災害時の在宅医療における課題と提言:平成30年台風第21号での経験から.尼医ニュース(第586号平成30年10月1日).2018.
    https://www.amagasaki.hyogo.med.or.jp/news/1585/〈2025年9月参照〉
  6. 濱坂秀一.令和6年能登半島地震における在宅酸素療法・在宅人工呼吸療法・在宅持続陽圧呼吸療法を扱う事業者の災害対応.呼吸療法.41(2),2024,212-6.
  7. 国立研究開発法人国立成育医療研究センター 医療連携・患者支援センター 在宅医療支援室.医療機器が必要な子どものための災害対策マニュアル:電源確保を中心に.第3版.2024.
    https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/cooperation/shinsai_manual.pdf〈2025年9月参照〉
  8. 国土交通省 安全・環境基準課/経済産業省 自動車課/電動車から医療機器への給電に係るコンソーシアム.災害時における電動車から医療機器への給電活用マニュアル.2022.
    https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001617494.pdf〈2025年9月参照〉
  9. 内閣府.避難行動要支援者の避難行動支援に関する制度的な流れ.
    https://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/pdf/yoshiensha.pdf〈2025年9月参照〉
  10. 平成24年3月21日医政発0321第2号.厚生労働省医政局長通知「災害時における医療体制の充実強化について」.
    https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/55722.pdf〈2025年9月参照〉
  11. 厚生労働省.令和6年度在宅医療の災害時における医療提供体制強化支援事業.
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_51491.html〈2025年9月参照〉
  12. 気象庁.キキクル(危険度分布).
    https://www.jma.go.jp/bosai/risk/#lat:34.025348/lon:135.000000/zoom:6/colordepth:normal/elements:inund〈2025年9月参照〉
  13. 平山隆浩ほか.停電時の医療機関及び在宅医療の生命維持管理装置運用の課題.令和4年度厚生労働省科学研究費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業).2023.
    https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202222023A-buntan4.pdf〈2025年9月参照〉
  14. 厚生労働省.BCP策定の手引き 在宅医療を提供する入院医療機関編.
    https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/001410532.pdf〈2025年9月参照〉
  15. 厚生労働省.BCP策定の手引き 在宅医療を提供する診療所編.
    https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/001410547.pdf〈2025年9月参照〉
  16. 厚生労働省.BCP策定の手引き 訪問看護編.
    https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/001410511.pdf〈2025年9月参照〉
  17. 厚生労働省.災害時における福祉支援体制の整備等.
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000209718.html〈2025年9月参照〉
  18. 別府市防災局防災危機管理課.医療的ケアが必要な人と家族のための災害時対応ガイドブック(支援者版).2021年度 内閣府「個別避難計画作成モデル事業」別府市インクルーシブ防災事業.2022.
    https://www.bousai.go.jp/kaigirep/chuobou/jikkoukaigi/18/pdf/shiryo2-2.pdf〈2025年9月参照〉
  19. 小森哲夫.災害時難病患者個別避難計画を策定するための指針(追補版).令和3年度厚生労働行政推進調査事業費補助金(難治性疾患政策研究事業)「難病患者の総合的地域支援体制に関する研究」班.2022.
    https://plaza.umin.ac.jp/nanbyo-kenkyu/asset/cont/uploads/2022/04/doctorMizoguchi_add.pdf〈2025年9月参照〉
  20. 内閣府.福祉避難所の確保・運営ガイドラインの改定(令和3年5月).
    https://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/r3_guideline.html〈2025年9月参照〉
  21. 内閣府.特別支援学校を障害のある子供のための福祉避難所に指定する取組の推進について/文部科学省.特別支援学校を障害のある子供のための福祉避難所に指定する取組への協力について.2024.
    https://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/r6_01.pdf〈2025年9月参照〉
  22. 熊本県健康づくり推進課熊本県難病医療連絡協議会.難病 患者・家族のための災害対策ハンドブック.2019.(2025年9月時点更新中)
  23. 熊本市健康福祉局障がい者支援部障がい保健福祉課.福祉子ども避難所について.
    https://www.bousai.go.jp/fusuigai/koreisubtyphoonworking/pdf/dai3kai/siryo3.pdf〈2025年9月参照〉
  24. 髙橋純子.在宅人工呼吸器患者の災害対策.医療機器学,92,2022,636‐42.
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjmi/92/6/92_636/_pdf/-char/ja〈2025年9月参照〉
  25. TEPCO.在宅医療機器をご使用のお客さまを対象とする広域停電に備えた事前登録のご案内について.2025.
    https://www.tepco.co.jp/pg/consignment/for-general/pdf/20250401_information.pdf〈2025年9月参照〉

関連商品

関連商品はありません。

関連記事

関連記事はありません。

アイ・エム・アイ株式会社 IMI.Co.,Ltd

このページは、医療関係者の方へ弊社の販売する商品・サービスに関連する情報をご提供することを目的として作成されております。一般の方への情報提供を目的としたものではありませんので、あらかじめご了承ください。

あなたは医療関係者ですか?
TOPへ