監修:山内 基雄 先生
奈良県立医科大学 医学部看護学科
臨床病態医学講座 教授
睡眠関連呼吸障害群
睡眠関連呼吸障害群とは睡眠中に呼吸異常を呈する疾患の総称です。そのなかでも最も頻繁にみられる疾患が睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)です。実はSASには中枢性睡眠時無呼吸と閉塞性睡眠時無呼吸がありますが、一般的にSASというと後者の上気道が閉塞することによる閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)のことを指していることが多いことから、以下に記載していますSASは閉塞性睡眠時無呼吸のことを意味しているとご理解ください。睡眠中にいびきや窒息感がある人は、のどが狭くなり息が吸えない状態であるSASの可能性があります。特に肥満の方や高齢者は睡眠時無呼吸になりやすく、睡眠時無呼吸があると睡眠で十分な休養が得られにくくなり、高血圧や糖尿病のリスクが高くなります5)。


合併症とリスク
SASは慢性的な睡眠不足、睡眠の質の低下によって生活習慣病関連の合併症があらわれ、高血圧、冠動脈疾患、脳卒中、2型糖尿病などの合併症リスクが増加します6)。
また、一晩に何度も繰り返す無呼吸・低呼吸によって起こる間歇的な低酸素状態が、高血圧、不整脈、脳卒中を含む心血管疾患を誘発させると言われています。
質の良くない睡眠は、日中の眠気を引き起こし、業績不振、失業、家族関係の悪化、全般的に生活の質を低下させてしまいます。
SASが原因とされる事故例
| 年月/場所 | 事故状況 | 判断 |
|---|---|---|
| 2003年2月 岡山県 |
JR山陽新幹線で運転手が居眠りをしたまま運転。 けが人なし。 | 運転手は重症SASと診断。 ※日本ではこの事件をきっかけに睡眠時無呼吸が注目されるようになった。 |
| 2005年11月 滋賀県 |
名神高速道路でトラック・バスなどを含む多重事故が発生。男性7人死傷。 | トラック運転手は重度のSASと診断。 |
| 2012年4月 群馬県 |
関越自動車道で走行中のツアーバスが運転手の居眠りにより防音壁に衝突。乗客45人が死傷。 | 運転手にはSASの所見が確認。 |
| 2012年7月 東京都 |
首都高速湾岸線でトラックがワゴン車に衝突。 東京税関職員6人が死傷。 | トラック運転手はSASと診断。 |
| 2014年1月 東京都 |
路線バスの居眠り運転事故によりバスが電柱に衝突し、19人が重軽傷。 | SASの検査を受けずに放置し、居眠り運転したことが判明。 事故後に中等度のSASと診断。 |
これらの事故はSASが関連している事故の氷山の一角に過ぎず、その他多くのSASが関連している事故は原因が不明と判断されていると考えられる。
SASのチェック項目
夜間、十分に眠れないことが原因でさまざまな症状が現れるようになります。
あなたは、つぎのような症状に心当たりありませんか??


医療機関でSASを診断するには、まず問診で生活習慣や症状について確認します。
睡眠の状態については、眠気の評価として「Epworth sleepiness scale(ESS)」を用いて調べます。
11点を超えるとSASの疑いが強いと考えられます。
※このチェック項目は、診断結果をあらわすものではありません。結果の如何にかかわらず不安がある場合には、専門の医師に相談してください。
エプワース睡眠尺度:眠気の評価
| 眠くなることが多い | 時々眠くなる | まれに眠くなる | 決して眠くならない | |
|---|---|---|---|---|
| 1. 座って読書をしているとき | 3 | 2 | 1 | 0 |
| 2. テレビを見ているとき | 3 | 2 | 1 | 0 |
| 3. 人の大勢いる場所で座っているとき(例えば会議中や劇場など) | 3 | 2 | 1 | 0 |
| 4. 他の人の運転する車に、休憩なしで1時間以上乗っているとき | 3 | 2 | 1 | 0 |
| 5. 午後に横になって休憩をとっているとき | 3 | 2 | 1 | 0 |
| 6. 座って人と話しているとき | 3 | 2 | 1 | 0 |
| 7. 飲酒をせずに昼食後、静かに座っているとき | 3 | 2 | 1 | 0 |
| 8. 自分で車を運転中に、渋滞や信号で数分間止まっているとき | 3 | 2 | 1 | 0 |
| 5点未満 | 日中の眠気は少ない |
|---|---|
| 5~10点 | 日中の軽度の眠気あり |
| 11点以上 | 日中の強い眠気あり |
検査の種類 4,6)
スクリーニング検査
睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)の早期発見を目的に、より多くの人を対象に確定診断のための精密検査が必要かを判断するために行う検査です。
簡易検査
簡易呼吸モニターを使用し、呼吸・呼吸努力・いびき・酸素飽和度(SpO2)・脈拍数・体位・体動の測定を行い呼吸障害の有無(SASの疑いがあるか)を確認します。呼吸障害指数≧40の場合、CPAP療法の適用となります。40以下の場合は精密検査の実施対象となります。この検査は主にご自宅での実施となります。

精密検査
終夜睡眠ポリグラフィ―(以下PSG)は、脳波・眼球運動・心電図・筋電図・呼吸努力・いびき・SpO2・脈拍数・体位・体動などの測定を行い、一夜における睡眠深度、睡眠中の呼吸や循環機能を総合的に評価する検査です。
この検査により、睡眠関連呼吸障害や睡眠関連運動障害、過眠症などの睡眠障害の診断が可能となります。

検査の必要性
日本国内のSASの潜在患者数は500万人と言われていますが、高齢者・軽症例まで含めると2200万人に上るのではないかと推測しているデータもあります。しかし現在、CPAPを使用している患者は全国で約70万人程度にとどまっているとされており、これからも疾患啓発を進めながら診断、治療を浸透させていく必要があると思われます5)。
検査の流れ

2023年改訂版循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン
診断
米国睡眠医学会(AASM)のガイドラインに基づく重症度分類
| 軽症 | 1時間あたり呼吸イベントが2以上15未満 |
|---|---|
| 中等症 | 1時間あたり呼吸イベントが15以上30未満 |
| 重症 | 1時間あたり呼吸イベントが30以上 |
(Epstein LJ, et al.2009を参考)
治療
SASの診断が下された場合、一般的な成人患者では、医科で行う持続的陽圧呼吸(CPAP:Continuous positive airway pressure)、あるいは歯科で行う口腔内装置(OA:Oral Appliance)を用いた治療が行われます。
CPAP療法 4,6)
鼻マスクや鼻口マスク等を介して上気道に圧のかかった空気を送り込み、睡眠中に上気道を陽圧状態に保つことで、上気道が閉塞するのを防ぐ治療法です。現在SASに対する治療において、CPAP療法は標準的治療法とされています。
補足
- CPAPの効果は早い人で翌日から表れ、翌朝すっきりと目覚めることができ、熟睡感を実感できます。
- 昼間の眠気から解放され仕事にも集中できるようになります。
- 元々あったいびきや無呼吸が消えることで日中の眠気や疲れが解消し、熟睡感が増すので快適に生活できるようになります。
- 夜間の頻尿に悩まされていた人もぐっすり眠ることで改善されます。
- これまで述べたような病気も予防できます。

口腔内装置(OA) 9)
いわゆるマウスピースと呼ばれる治療法です。歯形に合わせて、かつ、下顎を前方に移動させるようにマウスピースを作成します。マウスピースを装着して眠ることで、舌全体が前方に移動し、気道の狭窄を防ぎ、夜間の呼吸を促進させることができます。
補足
- 一般的には軽症~中等症に対して行われる治療です。
- CPAPにより空気を強制的に送り込まれることに違和感を覚えている患者に対しては、OAを併用することで気道への空気の通り道が確保でき、CPAPを快適に使用できる可能性もあります。
- 基本的には外泊する際もCPAPを持って行くように指導していますが、どうしても持参できない場合に、外泊先でOAを使用している方もいます。
外科手術 9)
おもに口腔咽頭における器質的な気道狭窄を解除する目的で行われます。
その他 9)
睡眠衛生指導
睡眠衛生指導とは、睡眠に対する正しい姿勢を身につけてもらうような教育や健康的な睡眠をとることができるような環境整備などが含まれます。具体的には、良質な睡眠を妨げる要因を理解していただきます。ここには規則的な食事生活の推進、睡眠の質を悪化させるような喫煙の中止やカフェイン・アルコールなどの嗜好品を夕方以降に摂取させないこと、ブルーライトを発するスマートフォンのベッド上での使用回避などが含まれます。寝室の環境としては、室温や照明など、快適に入眠して睡眠状態が維持できるように整備します。

側臥位睡眠指導
仰向け睡眠では無呼吸が頻回に出現しても、横向きに眠ることで無呼吸やいびきが軽減する症例を体位依存性SASと呼んでいます。このような患者に対して、側臥位睡眠体位の維持を補助するための寝具(枕や抱き枕)の使用等の指導をおこないます。
減量指導
適切な食生活と定期的な運動習慣を身につけてもらうことで減量を図ります。体重過多はSASにおける重大な危険因子であり、中等症~重症SASの約60%は肥満によるものと推定されています。体重が10%増加すると無呼吸の回数は32%増加し、また、体重が10%減少すると無呼吸の回数が26%減少するとの報告があります。
その他の睡眠関連疾患
【 参考文献 】
| 1. | 厚生労働省 健康づくりのための睡眠ガイド2023 https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf |
| 2. | Shen X, et al. Nighttime sleep duration, 24-hour sleep duration and risk of all-cause mortality among adults: a meta-analysis of prospective cohort studies. Sci Rep. 2016 Feb 22:6:21480 |
| 3. | Marc W, et al. Social jetlag: misalignment of biological and social time. Chronobiol Int. 2006;23(1-2):497-509 |
| 4. | 一般社団法人日本睡眠学会:睡眠障害国際分類第3版 株式会社ライフ・サイエンス出版, 2018 |
| 5. | 日本呼吸器学会、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020 https://www.jrs.or.jp/publication/file/guidelines_sas2020.pdf |
| 6. | みんなの呼吸器 Respica 2024 Vol22 no.1:96-98 |
| 7. | Mokhlesi B,et. al. The effect of sex and age on the comorbidity burden of OSA : an observational analysis from large nationwide US health claims database. Eur Respir J. 2016 Apr;47(4):1162-1169 |
| 8. | 井上雄一×山城義広:睡眠呼吸障害Update2022 東京:株式会社ライフサイエンス,2022 |
| 9. | 宮地舞:歯科医師のための睡眠時無呼吸治療. 東京:クインテッセンス出版, 2022 |





