特別企画

PICU人工呼吸管理プロトコール

  • 掲載:2009年05月
  • 文責:レスピラトリ・ケア部
PICU人工呼吸管理プロトコール

掲載:2009年 / 更新:2018年5月
翻訳:IMI CO., Ltd. / 文責:レスピラトリ・ケア部

I. 目的

  1. PICU(Pediatric Intensive Care Unit)において人工呼吸を必要とする患者のマネージメントにおける持続的な診療とタイムリーな医学的処置を提供すること。

II. 提供者

  1. 高度呼吸療法実施者の資格証明及び責任についてのデューク大学病院の方針に適合する高度呼吸療法診療者ライセンスを取得していること。

III. 方針

  1. 当プロトコールはPICUの患者に対する人工呼吸の導入と持続的な提供に対するガイドラインを形成するものである。
  2. 呼吸療法診療者は医師から供給された処方箋に基づき、当プロトコールを導入する。その後、パラメータの変更がプロトコールガイドライン内に収まっている限りにおいては、以降のパラメータの変更をもたらした人工呼吸についての医師の指示を診療記録に記入する必要はない。

IV. 患者/家族に対する指導

  1. 患者とその家族は人工呼吸管理プロトコールに従って指導する。到達点及び目的とウィーニングの方法についても同時に話し合いをおこなう。

V. 適応

  1. PICU人工呼吸管理プロトコールは、人工呼吸を必要とするほとんどの小児の患者に適応する。

VI. 除外

  1. 低酸素ガス吸入療法(N2療法)、もしくは二酸化炭素療法をおこなっている患者。
  2. 手術前の単心室患者。ただし、手術後72時間が経過していて、血行動態が安定していれば、PICU所属の医師の判断によってこのPICU人工呼吸管理プロトコールに沿った処置をおこなうことも可能である。
  3. PICU所属の医師の判断によって、どのような患者であってPICU人工呼吸管理プロトコールから除外することができる。

VII. PICU人工呼吸管理プロトコール - オプション

  1. PICU人工呼吸管理プロトコールは以下の3項目から成る。
    1. 従来の人工呼吸
    2. 高頻度振動換気(HFOV)
    3. 高頻度ジェット換気(HFJV)
  2. 選択
    1. 呼吸療法診療者は患者のイニシャルアセスメントを行い、PICUのメディカルチームと相談し、以下のことを決める。
      1. 人工呼吸に対する臨床的指針をつくる。
      2. 臨床的な目標をたてる。
      3. 患者に必要とされる人工呼吸補助のレベルを決定する。
      4. 的確な人工呼吸管理プロトコールを選択する。

VIII. 従来の人工呼吸

  1. 臨床的な目標
    1. 特別に指示がなければ、従来の人工呼吸のプロトコールによる臨床的な目標は以下の通りである。
      1. ピーク圧(PIP)≦30cmH2Oを維持する。
        1. 機械換気による1回換気量のターゲットを5~8mL/kgになるように維持する。
        2. 補助換気による1回換気量のターゲットを4~6mL/kgになるように維持する。
      2. 動脈血pHを7.25~7.45になるように維持する。
        1. ETCO2を35~55mmHgになるように維持する。
      3. 患者のSpO2≧92%になるように維持する。
      4. 重篤な頭部外傷のある患者に対しては以下のようにする。
        1. PaCO2を33~37mmHgの間で保つようにする。
        2. PaO2>100mmHg、SpO2≧93%となるように維持する。
  2. 機器の準備
    1. 診療部の方針に則り人工呼吸器をセットアップし、始業前点検をする 。
    2. 人工呼吸器の初期設定をする(VIII. Cを参照)。
    3. 非侵襲的モニタリングを開始する。
      1. パルスオキシメータ - SpO2モニタリング
      2. カプノグラフ - ETCO2モニタリング
  3. 人工呼吸器の初期設定
    1. 換気モード
      1. プレッシャーサポート付の間欠的強制換気(SIMV)(VC/PS、PC/PS)。
        1. ボリューム/プレッシャーコントロール換気
          1. ボリュームコントロール換気(VC)-1回換気量を予め設定する。
          2. プレッシャーコントロール換気(PC)-吸気圧を予め設定する。
        2. タイムサイクル
        3. フロートリガ
      2. PRVC、PRVC/PS
      3. PSV(プレッシャーサポート)
    2. 1回換気量(Vt)
      1. 導入時には特別な指示が無い限り、強制換気の1回換気量は(気管チューブでの)モニタ値で5~8mL/kgになるように設定する。
      2. 導入時には特別な指示が無い限り、自発呼吸、補助呼吸の1回換気量は(気管チューブでの)モニタ値で4~6mL/kgになるように設定する。
    3. ピーク圧
      1. ピーク圧≦30cmH2Oになるように維持する。
        1. ピーク圧が30cmH2Oを越えた場合
          1. 気道が開存していることを確認し、ピーク圧を再評価する。
          2. 吸気フロー、もしくは吸気時間を調整してピーク圧を減少させる。
          3. 上記の処置を行っても依然として30cmH2O以上となる場合、フローパターンを漸減波にしてプレッシャーリミット換気に変更する。
          4. HFOVの施行を考慮する。
        2. 高圧アラームはピーク圧モニタ値よりも10cmH2O高い圧に設定する。
    4. 換気回数(f)
      1. 呼吸数は患者の年齢と生理学的なパラメータに基づいて設定する。
    5. PEEPとFiO2
      1. PEEPは4~7cmH2Oに設定する。
        1. PEEPの設定はグラフィック(気道内圧波形/ループ)を用いて設定する。
      2. FiO2は患者がALIに陥った場合には1.00に設定する(患者の状態と矛盾する場合や他の指示がなされている場合は除く)。
      3. ALIがない場合は0.40~0.60に設定する(患者の状態と矛盾する場合は除く)。
    6. プレッシャーサポート(PS)
      1. プレッシャーサポートは10cmH2Oに設定する。
        1. 自発呼吸の1回換気量は、適切なフローとトリガを設定した上で4~6mL/kgになるように調整する。
  4. モニタリングと患者の評価
    1. 呼吸療法診療者は人工呼吸開始直後と以降は少なくとも6時間毎、パラメータ変更後には必ず人工呼吸器をモニタリングし、患者の状態を評価する。
      1. 人工呼吸器のパフォーマンスを評価する。
      2. 人工呼吸器からの補助が患者に適しているかどうか評価する。
      3. プロトコールによる定義に従って提供されるサポートレベルを調節する。
    2. 呼吸療法診療者は以下のことを評価する。
      1. 呼吸音と呼吸動作
      2. 人工呼吸器のグラフィック(通常波形とループ波形)
        1. 肺胞の過伸展、同調不良、内因性PEEP、呼気抵抗に関して評価する(これらの状況に陥った場合の処置法については下記 追加Bを参照)。
      3. 人工呼吸器の設定とモニタ値
      4. 血液ガスの分析結果
      5. 非侵襲的モニタ値の評価(例:SpO2とETCO2
      6. 胸部X線画像の評価
  5. 以後のパラメータ調整
    1. FiO2
      1. FiO2はPaO2とSpO2の値に従って、酸素化の臨床的な目標を達成するように調節する(VIII A 1 cを参照)。
      2. SpO2が30分以上88%を下回った場合、FiO2を0.10増加させる。SpO2が92%以上に回復したらFiO2を0.10減少(前の値に)させる(他の指示が無い限り)。
    2. 換気回数(f)
      1. 設定換気回数はpHの臨床的な目標を達成するような値に調整する(VIII A 1 bを参照)。
      2. 設定換気回数はETCO2が30分以上65mmHg以上に上昇している場合に、他の指示が無い限り4回/分ずつ増加させる。
    3. プレッシャーサポート
      1. プレッシャーサポートは、適切なフローとトリガ感度をもって、補助を受けた自発呼吸の1回換気量が4~6mL/kgになるように調節する。
  6. 抜管の判断基準*
    1. ピーク圧≦25cmH2O
    2. PEEP≦5cmH2O
    3. 換気回数≦10回/分に設定 。
      1. 患者の自発呼吸も合わせた総呼吸回数<30回/分
    4. プレッシャーサポート≦10cmH2O
    5. 血液ガス分析結果が臨床的な目標を達成している。
    6. 鎮静を減少、もしくは中止している時間が少なくとも(抜管前に)4時間は継続している。
    7. GF(Gastric Feed:経腸栄養)を少なくとも3時間は中止している。
    8. 咳や催吐反射が存在する。
    9. エアリークの評価
    10. 医師からの処方箋で抜管を指示している(同僚及び担当看護師は抜管前に処方箋を確認する)。
    1. *抜管後にNPPVが使用される場合、より高値での抜管を検討することも可能である。
  7. 特殊環境
    1. Permissive Hypercapnia
      1. Permissive Hypercapnia(動脈血pH>7.25を伴った肺胞低換気状態)は、フローパターンが漸減波であるプレッシャーコントロール換気において、患者のピーク圧が過剰に高値(ピーク圧>30cmH2O)である場合に許容される換気戦略である。
      2. 高いピーク圧に対応するために1回換気量が減少された場合、結果として高炭酸ガス血症となることがある。
      3. Permissive HypercapniaはPICUのスタッフと協議し、導入の決定をする。
    2. 肺リクルートメントマニューバー(Recruitment Maneuver)
      1. 肺リクルートメントマニューバーは以下の判断基準に当てはまる患者に用いることができる。
        1. 気管吸引後の回復に長期間を要する。
        2. 気管吸引後に5%以上SpO2モニタ値が下がる。
        3. 胸部X線画像に重症の無気肺が存在している。
        4. 12時間以上FiO2の設定値を変更できない(減少させられない)。
        5. PEEP>8cmH2Oである。
      2. 禁忌、患者の評価、手順については、『追加A 肺リクルートメントマニューバー 』を参照。
    3. 急性頭部外傷のプロトコール
      1. 特別な指示がない限り、重篤な頭部外傷に対しては以下のパラメータを維持できる範囲内でボリュームコントロール換気を当初は実施する。
        1. PaCO2:33~37mmHg
        2. PaO2>100mmHg
        3. SaO2>93%
    4. 気管支拡張薬療法
      1. 気管支拡張薬療法は聴診時に喘鳴がある(気管支痙攣)がある場合に適用となる。
      2. 気管支拡張薬療法は医師の処方をもとにおこなう。
      3. 気管支拡張薬療法の効果は以下のものが挙げられる。
        1. ピーク圧の減少。
        2. 内因性PEEPの減少。
        3. SpO2、呼気ピークフロー、1回換気量の増加。
        4. 喘鳴が小さくなり、血液への酸素供給量が増加。

IX. 高頻度振動換気(HFOV)

  1. 適用患者
    1. 肺出血のある患者
    2. 適切な酸素化が得られず、従来の人工呼吸に反応しない患者
      1. Oxygen Index(OI) > 15(OI=Paw×FiO2÷PaO2
      2. PEEP > 10cmH2O
      3. FiO2 > 0.60
      4. ピーク圧 ≧ 32cmH2O
      5. 平均気道内圧(Paw) > 15cmH2O
    3. 肺胞を適切に拡張できない程顕著なエアリークが存在する。
    4. 呼吸性アシドーシスにより、肺胞換気が低下している。
  2. 臨床的な目標
    1. 特別な指示がない限り、HFOVを実施することによって目標とする臨床的な目標は以下の通りである。
      1. 動脈血pHを7.25~7.33の範囲内で維持する。
      2. PaO2を55~90mmHgに維持する。
      3. SaO2 86%、SpO2 > 88%を維持する。
  3. 設定方法
    1. HFOVを始める前に
      1. 診療部の方針に従ってHFOVベンチレータのセットアップ及び点検をおこなう。
      2. tcPO2モニタリングを開始し、血液ガスモニタとの相関の把握をおこなう(時間が許す限りにおいてHFOVの開始前に)。
      3. 吸引する。
      4. 鎮静については医療チームで相談の上、決定する。10kg以上はHFOVに適応するために筋弛緩薬によるブロック及び鎮静が必要となることがある。そうでない場合、機械換気時の標準的な鎮静処置に従う。
    2. HFOV初期設定
      1. FiO2=1.00
      2. 振動数(Hz)は患者の体重(下表)に従って決定する。
        体重 振動数(Hz)
        500 – 1500g 15
        1500 – 2000g 12
        2kg – 5kg 10
        5kg – 12kg 9
        12kg – 20kg 8
        21kg – 30kg 7
        > 30kg 6
      3. アンプリチュード(圧)、もしくはパワーコントロール
        1. 35~40cmH2Oから始め、鼠蹊部まで小刻みに振動するように調節する。
      4. 平均気道内圧(Paw)
        1. 従来の人工呼吸からHFOVに移行した場合、平均気道内圧(Paw) は従来の人工呼吸時の平均気道内圧 (Paw) よりも5~6cmH2O高い値に設定する。至適肺容量となるまで、調整は1~2cmH2O単位でおこなう。
          1. FiO2を低下させることができる程にSaO2が増加したならば、至適肺容量に到達している。平均気道内圧(Paw)はFiO2が0.50以下に減少できるような値に維持する。(胸部X線画像で横隔膜はT9の位置になければならない)。
        2. 人工呼吸をしていない状態からHFOVを始める場合には、平均気道内圧(Paw)はHz、アンプリチュード、吸気時間の設定の関数である。医師の指示が必要である。
      5. 吸気時間
        1. 初期設定では33%に設定する。
        2. アンプリチュードが最大で、振動数が最小になっている場合に、吸気時間の設定を上げる。(体重35kg以下の患者における吸気時間の変更については、PICUの医師間で必ずディスカッションする)。
      6. バイアスフロー
        1. 初期設定では20L/分に設定する。
        2. 平均気道内圧(Paw)の設定が最大になっている場合か、患者の自発呼吸が大きい場合には、設定を上げることを検討する。
  4. 患者の評価とモニタリング
    1. 呼吸療法診療者はHFOV開始直後と以降は少なくとも6時間毎、パラメータ変更後には必ずオシレーターをモニタし、患者の状態を評価する。
      1. オシレーターのパフォーマンスを評価する。
      2. HFOに対する患者の反応を評価する。
      3. このプロトコールによる定義に従って提供されるサポートレベルに調整する。
    2. 評価する際には以下の項目を参照する。
      1. 呼吸音と呼吸動作
      2. 人工呼吸器の設定とモニタ値
      3. 血液ガスの分析結果
      4. 非侵襲的モニタ値(例:経皮ガスモニタ)
      5. 胸部X線画像
  5. パラメータの調整
    1. FiO2
      1. 酸素化についての臨床的な目標が達成できるように、PaO2とSpO2の値を参照しながらFiO2を調整する。
        1. FiO2が0.5以下に下げられたら、平均気道内圧 (Paw)を下げることができる。
    2. アンプリチュードとパワーコントロール
      1. パワーの設定値は、望ましい胸部の小刻みな動き及びPaCO2が得られるように調節する。
        1. 調整する際は、2~5cmH2Oずつ増減させる。
          1. アンプリチュードの設定値が最大に達したら、PaCO2を下げるために振動数(Hz)を0.5~1Hz単位で減少させる。
    3. 平均気道内圧(Paw)
      1. 酸素化についての臨床的な目標を達成する為に、1~2cmH2O単位で増減させる。
  6. 従来の人工呼吸に移行させるための条件
    1. 平均気道内圧 (Paw)=15~22cmH2O(特別な指示がない場合に限る)
    2. 患者の病態生理学に基づき臨床的な目標に則った血液ガスの数値が維持されている。
    3. 移行を決定する際は医療チームの同意を得る。

X. 高頻度ジェット換気(HFJV)

  1. 適用患者
    1. 肺疾患がある患者で、肺血流が受動的である。
    2. 従来の人工呼吸では適切な換気ができない、もしくは反応が見られないALIの場合
      1. 許容できないレベルの呼吸性アシドーシスがある。
      2. FiO2≧0.60
      3. ピーク圧≧32cmH2O
      4. 平均気道内圧(Paw)≧15cmH2O
    3. 先天性横隔膜ヘルニア
    4. エアリーク症候群
    5. 肺高血圧症
    6. 急性肺損傷を伴う反応性気道疾患(RAD)
    7. 臨床的に重症な気管チューブリークが発生している場合
  2. 臨床的な目標
    1. 特別な指示がある場合を除き、pH7.25~7.33を維持できる。
    2. 特別な指示がある場合を除き、あるいは右-左シャント(心臓内)が存在しない状況でSpO2≧88%を維持できる。
  3. 導入
    1. HFJVを始める前に
      1. 診療部の方針に従ってジェットベンチレータのセットアップ及び点検をおこなう。
      2. tcPO2モニタリングを開始し、血液ガスモニタとの相関の把握をおこなう。(時間が許す限りは、HFJVの開始前に)
      3. 吸引する。
      4. 鎮静と筋弛緩については医療チームで相談の上、決定する。10kg以上は鎮静については医療チームで相談の上、決定する。10kg以上はHFJVに適応するために筋弛緩薬によるブロック及び鎮静が必要となることがある。そうでない場合、機械換気時の標準的な鎮静処置に従う。
    2. HFJV初期設定
      1. FiO2=1.00
      2. 回数設定
        1. 1)ジェットベンチレータの回数設定(患者の年齢や状態に依存する)
          1. a)Passive Blood Flow(PBF) – 240~360回/分
          2. b)先天性横隔膜ヘルニア(CDH) – 420回/分(CDHガイドラインを参照)
          3. c)エアリーク症候群 – 420回/分
          4. d)遷延性肺高血圧症(PPHN) – 360~420回/分
          5. e)急性肺傷害(ALI) – 360~420回/分(新生児)、270~360回/分(新生児以外)
          6. f)ALIを伴う反応性気道疾患(RAD) – 240~330回/分
        2. 2)従来の人工呼吸器の設定
          1. i)0~10回/分
      3. ピーク圧
        1. 1)ジェットベンチレータのピーク圧(ΔP、アンプリチュード)
          1. a)従来の人工呼吸器のピーク圧より少なくとも3cmH2Oは高い設定にする。
          2. b)適切な胸郭の振動を得るために必要に応じてピーク圧を上昇させる。
          3. c)ピーク圧は2cmH2Oずつ上昇させる。
        2. 2)従来の人工呼吸器のピーク圧
          1. a)ジェットベンチレータのピーク圧の効果を妨げないように留意する。
          2. b)胸郭の拡張が適切にできる、最低限のピーク圧に設定する(例:肺胞の虚脱を防ぐ)。
      4. 平均気道内圧(Paw)
        1. 1)PEEPを調節して適切なPawが維持できるように調節する。
        2. 2)患者の生理学的な状態によって調節する。
          1. a)PBF:従来の人工呼吸より2~3cmH2O下げる。
          2. b)PPHN/エアリーク症候群:従来の人工呼吸より0~1cm H2O上げる。
          3. c)ALI:従来の人工呼吸より5~6cmH2O上げる。
      5. 吸気時間
        1. 1)0.020秒を維持する。
  4. 患者の評価とモニタリング
    1. 呼吸療法診療者は患者とジェットベンチレータの評価をHFJVの開始直後、その後は少なくとも6時間毎、もしくは設定の変更をおこなった際には必ずおこなう。
    2. HFJVのパフォーマンスを評価
    3. ジェットベンチレータに対する患者の反応を評価する。呼吸療法診療者は以下の項目を評価する。
      1. 呼吸音と呼吸動作の有無
      2. 人工呼吸器の設定とモニタ値
      3. 動脈血ガスの数値
      4. 経皮炭酸ガスモニタなどの非侵襲的モニタの数値
      5. 胸部X線画像(CXR)
  5. パラメータの調整
    1. FiO2
      1. SpO2が88%以下に下げられたらFiO2を徐々に下げていく(特別な指示がある、もしくは右-左シャント(心臓内)がある場合を除く )。
    2. 回数
      1. ジェットベンチレータの回数は患者の生理学的な状態によって調節する。ただし、通常は設定の変更はおこなわない。
      2. 従来の人工呼吸器の換気回数の設定は肺に対するshear force(ずり応力)を制限するために、最小限にする。適切な肺の拡張を維持するために従来の人工呼吸(CMV)を使う。平均気道内圧(Paw)が肺の虚脱を防ぐ上で適切であれば、0回/分にまで下げることも可能である。
    3. 平均気道内圧(Paw)
      1. 至適肺容量(胸部X線画像にて8.5~9.5ribまで拡張すること)を得るように調節する。FiO2の設定が0.60以下にまで下げられ、酸素化が改善するにつれて、徐々に1cmH2Oずつ下げていく。
    4. ピーク圧
      1. HFJV時のピーク圧
        1. 1)pH7.25~7.33を保つことができれば、1~3cmH2Oずつ下げていくことができる(特別な指示ある場合を除く)。
        2. 2)従来の人工呼吸器のピーク圧
          1. a)5~7mL/kgを維持できるようにピーク圧を調節する(可能であれば25cmH2O以下になるようにする)
  6. 従来の人工呼吸に移行させるための条件
    1. HFJV時のピーク圧と従来の人工呼吸器のピーク圧が25cmH2O以下まで下げられれば、従来の人工呼吸器のみの呼吸管理に移行することを試みることができる。従来の人工呼吸での設定は以下のようにする。
      1. PEEPはジェットベンチレータの平均気道内圧(Paw)と同値とする。
      2. ピーク圧は1回換気量が5~7mL/kgとなるように調節する。
      3. 換気回数は患者の年齢によって設定を変更する。
    2. 従来の人工呼吸に移行した後、SpO2/CO2モニタ、もしくはNICOモニタを接続する。
    3. これらすべての決定事項に関する判断はPICUの医師に委ねられなければならない。
    1. ※Non-invasive Cardiac Output monitor

XI. 感染管理

全ての患者に対して、診療部の方針に則ってユニバーサルプレコーションをおこなう。呼気フィルタも診療部の方針によって交換する。

追加A 肺リクルートメントマニューバー

  1. 肺リクルートメントマニューバーは無気肺になった肺胞を再開通させるために、気道に持続的に高い圧をかける方法のことである。
  2. 肺リクルートメントマニューバーは以下の条件にあてはまる患者に適用される。
    1. A.気管吸引をするのに時間が長くかかるような患者
    2. B.気管吸引時にSpO2が5%以上下がるような患者
    3. C.胸部X線画像にて重篤な無気肺の所見がある患者
    4. D.12時間以上FiO2が下げられない患者
    5. E.PEEP > 8cmH2O
  3. 肺リクルートメントマニューバーは以下の患者には禁忌となる。
    1. A.心奇形(一部例外あり、PICUのスタッフと協議する)
    2. B.頭蓋内圧の上昇がみられる場合
    3. C.エアリークが増大するような場合
  4. 患者の評価
    1. A.処置の前後に左右肺に呼吸音があるかどうかを評価する。
    2. B.患者の血行動態が安定しているかどうかモニタする。
    3. C.処置中は患者のSpO2を常時モニタする。
  5. 処置方法
    1. A.上記のⅣに従って患者の評価をおこなう。
    2. B.VIASYS社製AVEAを使用の場合、モードをCPAP/PSにする。→ E へ
    3. C.Sensormedics社製3100Aを使用の場合、患者を接続状態で振動を一度止め、MAPを5~8cmH2O上昇させる。ただし、医師からの指示がない限り、35cmH2O以上には上げない。→ F へ
    4. D.PEEPを平均気道内圧(Paw)よりも5~8cmH2O高く設定する。ただし、35cmH2O以上にならないように注意する。
    5. E.設定を30秒間維持する。
    6. F.肺リクルートメントマニューバーを実施している最中は必ずベッドサイドにて患者を観察する。SpO2、心拍数、心拍リズム、血圧をモニタリングする。
      ベッドサイドを離れないこと。離れる必要がある場合には一旦肺リクルートメントマニューバーを終了させること。
    7. G.30秒後、元の人工呼吸器の設定に戻す。
  6. 合併症
    1. A.気胸
    2. B.血行動態の不安定化(低血圧)
    3. C.一時的な高炭酸ガス血症
  7. 合併症への対処法
    1. A.すぐに処置を終了させる。
    2. B.元の人工呼吸器の設定に戻す。
    3. C.すぐにPICUの医師と看護師と相談する。
    4. D.全てのイベントを治療記録にとる。

追加B 人工呼吸に付随する合併症 と合併症 に対する対処法について

  1. 陽圧式人工呼吸器を使用することによって起こり得る合併症 としては以下が挙げられる。
    1. A.呼吸性アルカローシス、もしくは呼吸性アシドーシス
    2. B.血行動態の不安定化/心拍出量の減少
    3. C.頻脈、徐脈
    4. D.低酸素血症、高酸素血症
    5. E.肺過拡張
    6. F.内因性PEEP
    7. G.呼気抵抗の増大
    8. H.患者-人工呼吸器の同調不良
    9. I.気胸
    10. J.VILI(人工呼吸器に起因する肺損傷)
    11. K.計画外抜管
    12. L.気道損傷、声門損傷
  2. 合併症 に対する対処法
  3. 注意:以下の記載においてFiO2を上昇させるという対処法については、左心低形成症候群(HLHS)やsingle ventricle physiology(さまざまな心機能不全により一方の心室のみ機能している状態)のある患者には除外される。
    合併症のある場合、呼吸療法士がおこなうべきことは:
    1. A.呼吸性アルカローシス
      1. 1.供給1回換気量が5~8mL/kgであることを確認し、動脈血pHもしくはETCO2が求められる数値の範囲内で設定換気回数を減少させる。
      2. 2.看護師、医師に人工呼吸器の設定変更の旨を報告し、診療記録をとる。
    2. B.呼吸性アシドーシス
      1. 1.供給1回換気量が5~8mL/kgであることを確認し、動脈血pHもしくはETCO2が求められる数値の範囲内で設定換気回数を増加させる。
      2. 2.患者に自発呼吸がある場合、プレッシャーサポートで4~6mL/kgの1回換気量が得られるように調節するとともに、フロー及びトリガが自発呼吸に見合っているかどうかを確認する。
      3. 3.看護師、医師に人工呼吸器の設定変更の旨を報告し、診療記録をとる。呼吸回数が30回/分を超えるようであればPICUのスタッフに報告する。
    3. C.血行動態の不安定化
      1. 1.看護師とPICUの医師にすぐに報告する。
      2. 2.不安定な状況が続いている間は、適切に酸素化するために、FiO2を1.00まで上昇させるとともに、SpO2を常にモニタリングする。
      3. 3.平均気道内圧(Paw)、ピーク圧、PEEPをモニタする。
        1. a)手術の直後で、出血によって血行動態が不安定となっている場合には、PEEPを10cmH2Oより小さく設定することを考慮する。その場合はPICUの医師に確認する。
      4. 4.患者を再評価し、PICUの医師と看護師に情報をフィードバックする。
    4. D.頻呼吸
      1. 1.看護師と医師にすぐに報告する。
      2. 2.不安定な状況が続いている間は、適切に酸素化をするために、FiO2を1.00まで上昇させるとともに、SpO2を常にモニタリングする。
      3. 3.気管支拡張薬をいつ投与したのかを確認し、前回の気管支拡張療法の実施された時期から見て、この時点での気管支拡張療法の適応があると思われる場合、MD(Medical Doctor)に報告 する。
    5. E.徐脈
      1. 1.徐脈の有無を再度確認する。
      2. 2.人工呼吸器を外し、用手換気に切り替える。
      3. 3.気管チューブが正しい位置にあるかどうかを確かめる。
      4. 4.看護師と医師にすぐに報告する。
    6. F.低酸素血症
      1. 1.SpO2 < 92% になったら看護師と医師に注意喚起する(特別な指示があれば必要ない) 。
      2. 2.患者の血行動態が安定していれば、FiO2を0.05~0.10増加させ、SpO2を92%以上に保つ。
      3. 3.気道の開存性、人工呼吸器の呼吸回路の異常、呼吸音を評価する。
      4. 4.低酸素血症が一時的であれば、SpO2 92%以上を保てるレベルまでFiO2を0.05~0.10ずつ下げていく 。
      5. 5.上記の介入 をおこなっても低酸素血症がすぐに改善しない場合(そして人工呼吸器に問題の原因があると考えられる場合)、患者から人工呼吸器を取り外して蘇生バッグと100%O2を使用した用手換気に切り替える。
      6. 6.完全な小児の呼吸アセスメントを実施する。
      7. 7.肺リクルートメントマニューバーを実施する。
    7. G.高酸素血症
      1. 1.SpO2が持続的に92%を上回り、且つバイタルサインが安定している場合、SpO2が92%以上を維持できる範囲でFiO2を0.05~0.10ずつ下げていく(ただし、FiO2の設定が0.50未満の状態の場合)。
      2. 2.FiO2が0.50未満で、PEEPが5cmH2Oを超える 場合、PEEPレベルを再評価する。
      3. 3.PICUの医師に気づいた点を報告する。
    8. H.肺過拡張
      1. 1.肺過拡張(OD)がPVループ(プレッシャー-ボリュームループ)上で認められた場合、患者の呼吸音を評価する。
      2. 2.ODの状態が続くようであれば、供給1回換気量を評価し、8mL/kg以上であればODがなくなるまで1mL/kgずつ1回換気量を減らす。
      3. 3.適切な1回換気量が供給されているかどうかは呼吸音で確認し、肺胞換気が適切かどうかはETCO2で評価する。
      4. 4.グラフィックモニタからPEEPレベルを評価する。
      5. 5.PICUの医師に気づいた点を報告する。
    9. I.内因性PEEP(PEEPi)
      1. 1.グラフィックモニタ(フロー、もしくはフロー-ボリュームループ)から呼出が完了できているかどうかと、内因性PEEPの圧レベルに関する評価をおこなう。
      2. 2.設定吸気時間を少なくし、内因性PEEPを再評価する。内因性PEEPがまだ残っているようであれば、気管支拡張療法が必要であるか評価する。
      3. 3.PICUの医師に内因性PEEPの評価を伝え、エアロゾルによる気管支拡張療法を検討する。
      4. 4.PICUの医師と共に充分に呼出ができるまで設定換気回数を減らすかどうかについて検討する。
      5. 5.PaCO2あるいはETCO2によって、酸素化と肺胞換気の再評価をおこなう。呼吸性アシドーシスがあれば、設定換気回数を減らし、肺胞換気を維持できるように1回換気量を上げる。
      6. 6.ボリュームコントロールモードでピーク圧 > 30cmH2Oの状態であれば、漸減波になるよう、プレッシャーコントロールモードに変更する。プレッシャーコントロールモードでピーク圧 > 30cmH2Oであった場合、PICUの医師と共にpermissive hypercapniaをおこなうかどうか検討する(頭蓋内圧の上昇がある場合を除く)。
      7. 7.看護師に人工呼吸器の設定変更を伝え、診療記録をとる。
    10. J.呼気抵抗の増大
      1. 1.グラフィックモニタから呼気抵抗の増大が認められた場合、呼気フィルタと呼気弁の評価(組立及び機能)をおこなう。
      2. 2.フィルタと呼気弁、人工呼吸器を必要に応じて交換する。呼気抵抗が高いままであった場合、呼吸音を聴診する。
      3. 3.喀痰がある場合には吸引をする。
      4. 4.気管支拡張療法が必要かどうか評価する。必要な場合、医師の処方をもらう。
      5. 5.気管チューブや気管切開チューブの位置、キンク、閉塞がないかどうかを確かめる。
      6. 6.これら の介入の後もまだ呼気抵抗が高いようであればPICUの医師に報告する。
    11. K.患者と人工呼吸器の同調不良
      1. 1.グラフィックモニタ上で患者と人工呼吸器の同調不良が認められた場合、その原因を見極め、以下のような介入をおこなう。
        1. a)不適切なトリガ感度の設定
          1. 1)フロートリガ感度の設定値を変更する。
        2. b)過剰なエアウェイリーク
          1. 1)リーク補正をかける(使用している人工呼吸器で設定が可能な場合)。
          2. 2)エアリークによって換気及び酸素化に影響を与えるようであれば、PICUの医師に伝えて再挿管を検討する。
          3. 3)患者の体位を変更する。
          4. 4)PICUの医師と相談し、HFOVを接続するか検討する。
        3. c)不適切な吸気フロー
          1. 1)設定吸気流量を増やす。反応がない場合、患者によってフローが変化する換気モードに変更する。
        4. d)長すぎる吸気時間
          1. 1)設定吸気時間を減らすか、もしくは設定吸気流量を増加させる。それにより吸気時のプラトー圧になっている時間を減らす。
        5. e)不適切なプレッシャーサポート
          1. 1)非同調性が改善されるまで設定プレッシャーサポート圧を上昇させる。1回換気量と換気回数を観察し、供給吸気1回換気量が4~6mL/kgになるように維持する(特別な指示がある場合を除く)かつ吸気の同調性を維持する。
      2. 2.これらの処置をとっても同調不良が続いている場合は・・・
        1. a)Ramsayの鎮静スコアと対照させ、看護師の補助のもと適切な鎮静をかける。
        2. b)PICUの医師に対して、上の処置をとっても同調不良が改善しないことを報告する。
アイ・エム・アイ株式会社 IMI.Co.,Ltd

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