ユーザーの声

Arctic Sun™ 体温管理システム
独立行政法人国立病院機構 京都医療センター
救命救急科・救命集中治療科 救命救急部長 救命救急センター長 趙 晃済先生
医療技術部 臨床工学科 平野 雄大様

  • 掲載:2025年11月
  • 文責:急性期ケアエリアチーム
Arctic Sun™ 体温管理システム<br>独立行政法人国立病院機構 京都医療センター<br>救命救急科・救命集中治療科 救命救急部長 救命救急センター長 趙 晃済先生<br>医療技術部 臨床工学科 平野 雄大様

独立行政法人国立病院機構
京都医療センター

救命救急科・救命集中治療科 救命救急部長 救命救急センター長

趙先生
(ちょう) 晃済(こうさい) 先生
趙先生
[ご略歴]

2002年 京都大学 医学部 ご卒業。京都大学医学博士。

2023年より現職。

[資格]

日本救急医学会指導医・専門医

日本集中治療医学会専門医・評議員

日本麻酔科学会指導医・専門医

日本内科学会認定内科医・指導医

日本高気圧潜水医学会高気圧医学専門医

日本災害医学会評議員

日本DMAT隊員・統括DMAT


医療技術部 臨床工学科

平野様
平野(ひらの) 雄大(ゆうだい)
趙先生
[ご略歴]

2018年 近畿大学 生物理工学部 医用工学科 ご卒業。

2020年より現職。


[独立行政法人国立病院機構 京都医療センター 施設概要]

所在地 :
京都府京都市伏見区深草向畑町1-1

診療科 : 39

病床数 :
600床、救急救命センター 30床、ICU 6床、NICU 6床、GCU 3床

Webサイト : https://kyoto.hosp.go.jp/

趙 晃済 先生 レポート

京都医療センターについて

救命救急センターは、1984年に京都市で2番目に救命救急センターとして指定を受け、長らく京都市南部における救急医療の最後の砦として地域に貢献してきました。また京都府災害拠点病院かつ基幹原子力災害拠点病院でもあり有事へも備えております。近年、救急車での搬送数が増加しており2024年度には5300人に達しました。このうち、救急経由の緊急入院患者数は4400人(うち1200例を救急科で担当)であり、CPA患者は150人前後でした。多様な重症疾患を受け入れ、救急科医師と臨床工学技士などが連携し、多職種横断的な高度なチーム医療を展開しております。

体温管理療法と当センターでの状況

心肺停止後症候群(PCAS)に対する体温管理療法(TTM:Targeted Temperature Management)は、蘇生後脳障害の予後改善を目指す標準的介入として国際的に位置づけられています。冷却デバイスには明確なエビデンスはないとされますが、Arctic Sun™ 5000 体温管理システム(以下 Arctic Sun)は迅速なセットアップが可能であること、非侵襲的で重篤な合併症がないことから、当センターでは第一選択と位置づけております。
実際に当センターで施行した2023年3月から2025年7月までのTTM症例51例のうち、42症例でArctic Sunを使用しました。そのうち発赤などの皮膚トラブルが13症例で見られましたがいずれも軽微なもので、他に重大な有害事象は見られませんでした。

さて、心停止後の体温管理は従来低体温療法と呼ばれていましたが、近年TTM2トライアルをはじめとする大規模RCTにより「低体温(32~34℃)」と「厳格なnormothermia(≦37.5℃)」の予後差は明確でないと示されました 1)。一方、HYPERIONトライアル 2)や国内ECPRレジストリ(SAVE-J II)からは 3)4)、非ショックリズムやVA-ECMO下の重症例では低体温の有益性が示唆されており、病態に応じた温度目標選択が今後整備されてくるものと思われます。

目標温度設定がいずれの場合においても、基本的に国際ガイドライン(AHA 2023 5)、ERC/ESICM 2022 6))にあるように、「一定温度の維持+72時間発熱予防」が重要であることは共通していると考えられます。そこで、当センターでは循環不安定や外傷など凝固障害が懸念される症例などでも汎用性のある「normothermiaを72時間維持+48時間を発熱予防」を基本的なプロトコールとしています。72時間の時点で鎮静をoffとし、意識・画像評価や脳波測定など神経学的評価を行います。当センターでは汎用性を重視して一律normothermiaとしておりますが、院内心停止の非ショックリズム症例 7)や溺水・窒息など 8)において軽度低体温の有益性を示唆する報告もあり、これらの動向を注視して目標体温について検討していく予定です。

実運用ではシバリング対策と皮膚トラブルが重要です。シバリングは代謝負荷増大につながるため、当センターではBSASスコアを用い段階的対応を行います 9)(表)。

シバリング評価(BSAS) Bedside Shivering Assessment Scale
スケール説明
0 シバリングなし
1 クビや胸に軽度のシバリング
2 クビや胸に加え、四肢1~2ヶ所にシバリング
3 2ヶ所を超える四肢に及ぶ、全身にわたる継続的なシバリング

非薬理的介入(カウンターウォーミング、体位工夫)に加え、アセトアミノフェン・Mg補正を第一選択としています。必要時にはデクスメデトミジンやプロポフォールを追加し、さらに難治例では非脱分極性筋弛緩薬短期投与を行います。またパッド貼付は骨突出部を避け、ジェル面の密着を確認します。さらに、体液滞留を防ぐ看護手順を標準化し、定期的にスキンチェックを行っております。これにより皮膚損傷の発生率は低下し、損傷が生じた場合でも軽微なものにとどまっております 10)
また、臨床工学技士・看護師によるArctic Sunの準備、TTM導入後のデバイス稼働状況の管理、患者管理、電子カルテへの記入などを日勤帯、夜勤帯でルーチンに行っています(下図)。

症例提示

症例 ①

若年男性。縊頸によるCPAで搬送、初期波形はPEA。家族によるbystander CPRあり。当センター搬送後、1サイクルでROSCし、意識障害残存のためArctic SunでTTM開始、72時間normothermiaを維持した。シバリングが強く一時的に筋弛緩薬を使用するなど厳重な全身管理を行った。合併症として右下肢に軽度の発赤が見られたが軽快。完全社会復帰した。

症例 ②

70代男性。駅で倒れて搬送。初期波形はVF。当センター搬送後、CPRを継続し2サイクルでROSC、身元が判明し他院に心疾患で通院中との情報を得る。PCI施行、Arctic SunでTTM開始、72時間normothermiaを維持した。経過中、自発呼吸、体動など生命徴候がよく見られ、合併症なくTTM終了。覚醒し意識状態良好、完全社会復帰した。現在当センター循環器外来通院中。

以上、当センターでのTTMをご紹介させていただきました。
今後研究が進むにつれて、病院前や搬送時の予後予測精度が上がり、病態に応じたPCAS管理が整備され、その一環としてTTMについてもテーラーメイド化してくることが予測されます。設定温度を逸脱しないよう一定温を維持するために、シバリング対策を含めた厳密な全身管理を行い、使用するデバイスに応じた全身管理を自施設で習熟していくことが重要だと思います。

平野 雄大 様 レポート

Arctic Sun

Arctic Sunは、Arcticジェル™パッド(以下パッド)を体に貼り付け患者を冷却・加温するデバイスです。非侵襲的な処置が行え、医師の指示のもと看護師やコメディカルのみで対応できます。患者体温、デバイスの循環水温、体温変化の経時的な曲線、循環水流量をリアルタイムで測定でき、測定データは操作画面上に表示されるため、視認性に優れています。また、精密な温度の自動調整機能により、繊細な体温コントロールが可能です。プライミング等の工程が不要なため即時に導入でき、事前に治療のプロトコールを定めれば治療条件を設定する手間を減らせます。
非侵襲性のデバイスであることから、ダウングロース(下図)(カテーテル出口部周囲の皮膚が皮下の組織にのめり込んで出口部から皮膚表面が深くなり、ポケット状になっている部位を指します)から生じるカテーテル関連血流感染症(CRBSI)やカテーテル関連血栓症(CRT)のリスクがない点 11)12)13)や、ベッドサイドモニタ上に表示される体温に温度誤差が生じにくい点も特徴です。

TTM デバイスの使い分け

当センターでは、CPAからROSCに至った症例には、Arctic Sunを第一選択としています。
理由として、体温管理療法では導入が1時間遅れるごとに死亡率が20%増加する点 14)や、Arctic Sunはプライミングがなく、デバイスの立ち上げが非常に迅速な点が挙げられます。
その他、頭部外傷・熱中症等の症例や患者バイタル、感染状況、皮膚の状態を考慮して、TTMデバイスを選定しています。

当センターにおけるTTMプロトコール

当センターでは、CPAからROSCに至った患者に対し、神経集中治療においてTTMを意欲的に導入しています。当センターでは、基本的にnormothermiaで72時間の体温維持療法を第一選択のプロトコールとしています。より酸素消費量(VO2)を減少させて脳保護を重視する場合は、低体温療法として35℃または34℃で24時間冷却させます。復温は35℃の場合は0.05℃/h、34℃の場合は0.1℃/hで 36℃まで20時間かけて行い、以降は36℃で維持します。

TTM の導入及び管理

TTM導入時は、医師により適応疾患及び治療プロトコールを決定してもらい、医師の指示のもとでArctic Sunの準備を臨床工学技士が行っています。その際、使用前チェックリストを用いて電源供給源、循環水の残量、パッドサイズの選定等を確認して導入時に不備がないよう対応しています。導入後は、デバイスの稼働状況や目標温度との乖離、アラーム、バイタル、循環動態、シバリング、感染兆候等を医師や看護師、コメディカルと連携の上、確認しています。また、臨床工学技士が確認する内容及び特記事項は、電子カルテに必ず記録しています(日勤帯と夜勤帯で実施)。TTM終了時も使用後チェックリストを用いて、パッド内の循環水を忘れずに回収するとともに、装置の循環水の残量を確認し、次回使用時もトラブルなく使用できる環境を整えています。

パッドについて

最大5日間使用可能で粘着の持続性があり、ある程度脱着しても貼り直しできます。また、幅広い患者サイズにも対応可能です。ただし、選定を誤ると体温管理を適切に行えず、不十分な治療を施すリスクがあります。また、皮膚血管の収縮による皮膚紅斑の出現や、辺縁部の加圧による褥瘡等の皮膚トラブルのリスクがあるため、定期的な皮膚チェックが必要です。さらに、輸液等による体重増加で浮腫が増悪する症例もあり、患者の皮膚に食い込む場合は、一度剥がして皮膚状態を確認後、再固定します。

TTM2(Targeted Hypothermia VS Targeted Normothermia after Out-of-Hospital Cardiac Arrest)トライアルについて

TTM2トライアル(2021年6月)1)では、院外心停止の心拍再開後昏睡患者に対する33℃ 24時間と発熱(≧37.8℃)是正(37.5℃)24時間の2つのTTMの解析結果を比較すると、死亡率及び神経学的転帰に有意差は認められず、37.5℃以下の発熱防止でよいことが報告されています。

当センターでは、上記のTTM2トライアルの結果により、近年は体温維持療法を第一選択としていますが、低体温療法の優位性を否定できないとも考えています。特に、体外循環では、その優位性として以下の4点が挙げられます。

1. 酸素消費量(VO2)の抑制
中心温度が37℃から低体温状態の33℃に変化すると基礎代謝率が低下し、全身の酸素消費量は中心温度が1℃下がるごとに5.2%程度減少するといわれています 15)
体外循環中は酸素供給量(DO2)が限定される場面もあり、VO2の低下は脳や心臓、その他の臓器に対する酸素の需給バランス改善に寄与するのではないかと考えられます 16)
2. 脳の代謝の抑制
脳のVO2は1℃低下するごとに約6~7%減少するといわれています 17)
特に虚血症例の虚血再灌流後の脳では、代謝の抑制によって細胞死(アポトーシス)を減少させる可能性があることも示唆されています 17)
3. フリーラジカル産生の抑制
再灌流後のフリーラジカルを低体温状態が抑制させ、低体温が臓器の酸化ストレスを減少させることが考えられます 17)
4. 炎症反応の抑制
低体温はサイトカイン産生を抑制するため、血管透過性の低下や浮腫の軽減につながることが考えられます 17)

当センターでは、現在はプロトコールの変更に関する議案はありませんが、低体温療法には一定のメリットが考えられるため、先生方とも再度プロトコールの見直しを慎重に進め、多職種間で連携して治療を行いたいと考えています。


引用・参考文献

  1. PMID: 34133859
  2. PMID: 31577396
  3. Shiraishi A, et al. Post-cardiac arrest care with targeted temperature management after extracorporeal cardiopulmonary resuscitation: Analysis from the SAVE-J II study. medRxiv 2023 (preprint).
  4. Sawano H, et al. Resuscitation 2020;155:39-47.(SAVE-J II:日本ECPR多施設レジストリ)
  5. Sawyer KN, et al. 2023 AHA Focused Update on Adult Advanced Cardiovascular Life Support: Temperature Management. Circulation. 2023;148:e168-e180.
  6. Nolan JP, et al. European Resuscitation Council and ESICM Guidelines 2022: Post-resuscitation care. Resuscitation. 2022;172:229-311.
  7. Maupain C, et al. Hypothermia for In-hospital Cardiac Arrest with Nonshockable Rhythm: HYPERION IHCA Substudy. Chest. 2022;161:574-583.
  8. Suominen PK, et al. Drowning and post-resuscitation care including targeted temperature management. Curr Opin Crit Care. 2022;28:555-562.
  9. Choi HA, et al. Shivering Assessment and Management during Therapeutic Temperature Modulation. Neurocrit Care. 2011;14:389-394.
  10. Badjatia N, et al. Complications of Targeted Temperature Management: Skin Injury and Beyond. Crit Care Med. 2009;37:S211-S215.
  11. PMID: 25886948
  12. PMID: 26092672
  13. PMID: 38020958
  14. PMID: 21747066
  15. PMID: 37405749
  16. PMID: 30375081
  17. PMID: 36789361

アイ・エム・アイ株式会社 IMI.Co.,Ltd

このページは、医療関係者の方へ弊社の販売する商品・サービスに関連する情報をご提供することを目的として作成されております。一般の方への情報提供を目的としたものではありませんので、あらかじめご了承ください。

あなたは医療関係者ですか?
TOPへ