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当センターにおけるArctic SunTM 5000 体温管理システムの運用について
兵庫県災害医療センター救急部 井上明彦先生

  • 掲載:2020年12月
  • 文責:クリティカル・ケア部
当センターにおけるArctic Sun<sup>TM</sup> 5000 体温管理システムの運用について<br>兵庫県災害医療センター救急部 井上明彦先生
井上明彦(いのうえ あきひこ)先生 ご略歴 井上 先生
井上 先生
[ 経歴 ]
2004年: 鳥取大学 医学部 医学科 卒業
2004年: 鳥取県立中央病院 初期研修医、その後麻酔科専攻医
2007年: 兵庫県立淡路病院 麻酔科、兵庫県災害医療センター 救急部、兵庫県立こども病院 麻酔科
2008年: 公立豊岡病院 麻酔科
2010年: 神戸市立医療センター西市民病院 麻酔科、神戸市立医療センター中央市民病院 麻酔科
2012年: 兵庫県災害医療センター 救急部 現在に至る
2020年: 香川大学 大学院 医学系研究科 博士課程 卒業

[ 所属学会 ] 日本救急医学会、日本麻酔科学会、日本集中治療医学会、日本外傷学会、日本臨床麻酔学会
[ 資格 ] 日本救急医学会救急科専門医、日本麻酔科学会指導医、日本DMAT隊員

[ 兵庫県災害医療センター HEMC webサイト ] http://www.hemc.jp/

兵庫県災害医療センターについて

兵庫県災害医療センター外観
▲ 筆者と救急部専攻医の皆さま

当センターは神戸市中央区にあり、病床数30床の独立型高度救命救急センターです。ICU12床、HCU18床で構成されます。主に3次救急疾患を対象とし、搬入の半数は外傷で、重症外傷は年間200例以上あります。院外心停止患者は年間200-250例で、ECPR(体外循環式心肺蘇生)やPCAS(心停止蘇生後症候群)に対する神経集中治療にて社会復帰へ向け取り組んでいます。

Arctic SunTM 5000 体温管理システム 導入経緯

Arctic SunTM 5000 体温管理システム(以下Arctic SunTM)は、本体のセットアップに時間もかからず、ArcticジェルTMパッド(以下パッド)を体に貼り付けるだけで患者の冷却・加温を非侵襲的に行えるデバイスで、患者体温を測定することにより目標体温となるよう自動的に水温調整することが可能です。

この自動調整により、冷却・維持だけでなく復温にも優れており、目標体温を設定すれば自動的に水温を調整してくれるため、1時間単位での一律な温度設定だけでなく、こまめな管理が可能となります(0.01℃/時間~)。パッドは5日間交換なしで使用可能であり、復温後のリバウンド予防にも使用できることは管理上の利点と考えます。

また、安定した体温管理が可能なだけでなく、医療者の操作回数が少なくて済むため人的資源を削減できる点も魅力であることからArctic SunTMの導入を決めました。

Arctic SunTM 5000 体温管理システム 使用目的又は効果

本品は、患者の体を冷却又は加温するために使用する。心停止・心拍再開患者の成人患者には、体温管理(体温管理療法)にも使用する。

当センターにおけるTTMプロトコール

対象と目標体温

当センターでは、心停止蘇生後の昏睡患者(会話不能かつ従命不可)で、蘇生希望のない患者、または元々日常生活動作が不良である患者を除いて積極的に体温管理療法を実施しています。

基本的には33℃の低体温療法とし、目標体温に達成してから24時間33℃で維持し、24時間かけて36.5℃に復温するプロトコールとしています。

一方で、心停止蘇生後の症例では、心肺蘇生に伴う血胸や縦隔血腫、心嚢液貯留、腹腔内臓器損傷などを併発したり、既往歴や心停止の原因がまったく不明な場合もあり、その場合は平温療法とすることもあります。平温療法では36℃を目標体温として24時間維持して、その後は24時間(0.05℃/hr)で37.0±0.5℃まで復温するプロトコールとしています。

復温後にいつまで体温管理をするかについて当センターではプロトコールに明記していませんが、意識レベルに応じて体温管理デバイスの使用期限内で体温管理を継続しています。

TTMデバイスの使い分け

特定のデバイスを推奨するエビデンスに乏しいのが現状です。当センターでもデバイスの選択に関しては特に明確な基準は作成していません。

中心静脈路を要さない症例、つまり血管内冷却カテーテルを挿入していない症例や、ECPRではない症例では、基本的にはArctic SunTMを用いています。適切なサイズのパッドを正しく使用すれば、安定した体温管理が可能であると考えています。

Arctic SunTM、体外循環、血管内冷却カテーテルなどの各デバイスのメリットとデメリットを勘案した上で冷却方法を選択するようにしています。

TTM中の管理

TTMは急性脳障害患者において二次性脳損傷を予防するために重要ですが、体温管理装置だけで適切に実行できるものではありません。目標体温への迅速な到達と安定した維持・復温のためには、シバリングや合併症への対応も必須であると考え、下記のようなプロトコールを作成しています。

血圧 平均血圧 > 65mmHg(できれば80mmHg)
呼吸 SpO2:92~98%、SaO2:94~99%、PO2:80~200mmHg
FiO2:上記を目標として高濃度酸素は控える
PCO2:35~45mmHg(低体温時、低炭酸ガス血症は避ける)
神経 鎮静:midazolam(0.1~0.15mg/kg/hr)
鎮痛:fentanyl(0.5~1μg/kg/hr)
筋弛緩:rocuronium(0.4mg/kg/hr)
持続脳波併用
復温後、鎮静が必要な場合はRASS -2~0目標で調整
シバリング BSAS<1
電解質 K:4.0~5.0mEq/L
Ca++、Mg、P:3日間は毎日測定し正常高値に維持

導入期では、早期に目標体温を達成するために、救急外来の段階より冷却輸液の急速静注と、治療の邪魔にならない程度に冷却装置をなるべく早く装着して冷却を開始します。導入初期から筋弛緩薬を使用し、シバリングを予防することで冷却効率を高めるようにしています。

また、低体温維持期も、安定した体温管理を施行するために、シバリングの予防/対応として鎮静・鎮痛薬の投与と、当センターでは原則筋弛緩薬を持続投与して併用しています。

例)
鎮静:ミダゾラム(0.1~0.15mg/kg/hr)
鎮痛:フェンタニル(0.5~1μg/kg/hr)
筋弛緩:ロクロニウム(0.4mg/kg/hr)

この体温管理療法の維持期と復温期では、シバリングによる酸素消費量の大幅な増加を防ぎ酸素需給バランスを維持するために、体動や自発呼吸の出現、冷却水の温度低下に注意してシバリングの早期発見に努めています。

シバリング評価には、ベッドサイドシバリングアセスメントスケール(BSAS)を使用しています(1)

当センターでは上記の鎮静・鎮痛・筋弛緩薬を投与しますが、初期あるいは軽度のシバリングを見逃さないように、シバリングは5段階の評価をしています(表)(1A)

平温療法では筋弛緩薬を必須とはしていませんが、シバリングは起こりやすいとされ(2)、体幹を冷やして手足末梢を温めるcounter warmingも併用しています。(右写真)

Bedside Shivering Assessment Scale (BSAS)
スコア 定義 シバリング発生部位
0 なし シバリングとして咀嚼筋、頸部、胸壁に筋収縮がなく心電図上のシバリングも認めない
1 軽度 心電図上のみシバリングを認める
2 軽度~中等度 頸部・胸壁に限局
3 中等度 頸部・胸壁に加えて上肢に及ぶ
4 高度 体幹・四肢全体
文献(1A)より改変

非痙攣性てんかん発作(NCSE)の早期発見・介入ができるように、持続脳波モニタリングを原則としています。

TTM中に変動しやすいものとして、循環管理に関しては最低でも平均血圧を65mmHg以上に維持し、血糖は80-180mg/dl、Kは4.0-5.0mEq/Lとし、Ca++, Mg, Pは3日間毎日測定し、正常高値で管理するようにしています。

復温のペースは、24時間かけて36.5℃に復温するようにしています。筋弛緩薬は、復温終了後に鎮静剤とともに中止し、Arctic SunTMは皮膚合併症がない限り装着を継続して復温後の急激な体温上昇を予防しています。

Arctic SunTMのパッドは最大5日使用可能です。一方で、Arctic SunTMでは皮膚障害を経験しています。皮膚血管の収縮による皮膚紅斑の出現やパッド辺縁部に圧がかかることによる皮膚トラブルのリスクがあるため、最低でも2時間毎に皮膚チェックを行うようにしています。

特に体圧がかかりやすい側胸部や腋窩、大腿外側、ずれやシワが生じやすい大腿内側は重点的に観察を行っています。

また浮腫の増悪などによって患者の皮膚にパッドが食い込むようになった場合には、パッドを一度剥がして皮膚状態を確認したのちに再度パッドを固定しています。

Arctic SunTM 作動時の基本画面

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Arctic SunTMでは、患者体温と水温が表示されており、この2つは反比例するように動作します。この2つを見比べることで状態を把握することができます。

水温が目標体温とかけ離れた温度のまま長時間推移していないかを確認し、冷却時に水温が長時間低いまま(4-10℃)の時には、温度管理システムが何らかのトラブルで上手く機能していない、もしくは患者の体温が上がっている可能性があります。

パッドサイズが合っていない、流量不足、シバリング、感染などのチェックを行い介入するようにします。

二次性脳損傷を最小限にとどめるためには体温管理以外にも、総合的な全身管理が重要であり、呼吸・循環目標、てんかん、鎮静・鎮痛薬、栄養や予後評価などを当センターのプロトコールとして記載し、適切な蘇生後管理ができるよう工夫しています。

症例提示

現病歴: 20歳代、男性
職場で会話中に誘因なく突然倒れ、同僚によるバイスタンダーCPRが実施され救急要請となった。救急隊による初期波形はVFであった。除細動を行うも搬送中はVF継続したままであった。

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来院後経過: ECPRを念頭に血管造影室に直接搬入したが、病着後の初回除細動にて心拍再開したためECPRは導入せず。推定の心停止時間は44分であった。直ちに冠動脈造影検査、全身CTを施行するも心停止の原因となるものはなかった。意識はGCS:E1VTM1であった。冷却輸液投与、Arctic SunTMを装着して神経集中治療のためICUへ入室した。
低体温療法導入期: ミダゾラム、フェンタニルによる鎮静鎮痛薬と、ロクロニウムによる筋弛緩薬の投与、さらにアセトアミノフェン投与して約210分後に目標体温の33℃に到達した。
維持期: 低体温中は徐脈となったがその他の不整脈などの合併症は特になく、33℃を24時間維持した。
復温期: 24時間かけて36.5℃へ復温した。復温完了後に、鎮静・鎮痛薬、筋弛緩薬を終了した。その後体動を認めるようになった。
Day4: 意思疎通可能となり、呼吸・循環も問題なく抜管となった。
Day6: CPC1(脳機能カテゴリー:機能良好)で、精査目的に循環器内科に転院となる。

現病歴
20歳代、男性
職場で会話中に誘因なく突然倒れ、同僚によるバイスタンダーCPRが実施され救急要請となった。救急隊による初期波形はVFであった。除細動を行うも搬送中はVF継続したままであった。


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来院後経過
ECPRを念頭に血管造影室に直接搬入したが、病着後の初回除細動にて心拍再開したためECPRは導入せず。推定の心停止時間は44分であった。直ちに冠動脈造影検査、全身CTを施行するも心停止の原因となるものはなかった。意識はGCS:E1VTM1であった。冷却輸液投与、Arctic SunTMを装着して神経集中治療のためICUへ入室した。

低体温療法導入期
ミダゾラム、フェンタニルによる鎮静鎮痛薬と、ロクロニウムによる筋弛緩薬の投与、さらにアセトアミノフェン投与して約210分後に目標体温の33℃に到達した。

維持期
低体温中は徐脈となったがその他の不整脈などの合併症は特になく、33℃を24時間維持した。

復温期
24時間かけて36.5℃へ復温した。復温完了後に、鎮静・鎮痛薬、筋弛緩薬を終了した。その後体動を認めるようになった。

Day4
意思疎通可能となり、呼吸・循環も問題なく抜管となった。

Day6
CPC1(脳機能カテゴリー:機能良好)で、精査目的に循環器内科に転院となる。

最近のトレンド

PCAS患者の体温管理について、ショック非適応リズムの心停止蘇生後患者において、低体温療法(33℃、24時間)は、平温療法と比較して90日後の神経学的転帰良好な患者の割合を有意に増加させたとの報告があります(3)

また、ピッツバーグ大学の研究では、独自の重症度の評価(FOUR scoreとSOFA scoreの組み合わせ)を用いると、軽症~中等症は33℃と36℃でも転帰は変わらないが、重症群は33℃で良い結果であったと報告されました(4)

本邦のJAAM OHCAレジストリからの研究では、来院時のLactateにて重症度を層別化すると、高Lactate群である重症群では、35-36℃に比べて低体温群(32-34℃)で神経学的転帰が良好な結果でした(5)

維持時間については、33℃における24時間と48時間を比較したRCTでは転帰に差は示されず(6)、復温速度やいつまで高体温を避けるかに関しても明確な基準はありませんが、本邦のJ-PULSE Hypo registryからの観察研究では、復温時間と転帰との関連が示されました(7)

PCAS患者の早期の予後予測として、来院時の近赤外線分光法を用いた局所脳酸素飽和度(rSO2(8)を指標にしたもの、初期波形・ROSC時間・pH・乳酸値・GCS M・CTのGWR・Alb・Hbの8個の項目をいれてスコアリングするCAST score(9)、心拍再開直後に瞳孔の反射、収縮を瞳孔記録計であるNPi200で測定する方法(10)など、本邦からも様々な検討がなされています。

TTMの未来

PCAS患者では、重症度、つまり脳のダメージの大きさに応じて、目標体温、維持時間、復温時間を設定するようになるのではと考えます。では、いつ・どのようにして脳障害を評価するか、さらなる研究が望まれます。

また、今後Arctic SunTMではまだ適応はありませんが、熱中症や低体温症での体温管理、脳卒中や頭部外傷後などの神経集中治療での体温管理を目的とした使用にも着目しています。



アイ・エム・アイ株式会社 IMI.Co.,Ltd

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