危機的出血への対応ガイドラインとその対応例
- 掲載:2024年10月
- 文責:メディカ出版

危機的出血・大量出血とは
人間の身体には約4~5L(体重の約8%)の血液が循環している。ある程度の出血に対しては血管外の水分を血管内へ移動させる代償機構が働くが、代償を上回る量やスピードの出血が発生すると、全身の循環が維持できなくなる。症状としては、低血圧と心拍出量の減少が顕著となり、いわゆるショック状態となる。以下のような状況では、重点的な輸血・輸液や補助薬剤の投与を行わなければ生命に危険が及ぶ。
循環血液の喪失量と時間 | 症状 |
---|---|
20%(1,000mL) | 全身への影響が明らかとなる |
1~2時間の内に30~40%(1,500~2,000mL) | ショック状態 |
24時間の内に100%(5,000mL) | 生命に危険が及ぶ |
出血のスピードと量に見合うだけの輸血や輸液が投与できない場合、血圧が刻々と低下していく。心臓が一回に駆出する量(一回拍出量)が減少するため、代償的に心拍数が上がる。この反応を利用して循環の切迫度を簡便に表現するのがショック・インデックス(shock index;SI)である。
ショック・インデックス(SI)=
心拍数/収縮期血圧
SI ≧ 1治療をさらに強化すべき状態
SI ≧ 1.5 危機的な状態
緊急の場面で誰にでもわかりやすい指標として利用されており、すべての医療従事者は知っておくことが望まれる。正常の状態、たとえば、収縮期血圧が120mmHg、心拍数が60回/分の場合を計算してみると、SI = 60/120 = 0.5 となる。収縮期血圧が70mmHg、心拍数120回/分では、SI = 120/70 = 1.7 となり、簡便に切迫度合いを表すことができる。さらに直感的な簡略指標として、心拍数100回/分以上、収縮期血圧90mmHg以下、末梢循環不全(手足の冷感、チアノーゼ)、ということだけでもショック判断の目安となる。実際には、出血部位の様子や検査結果なども含め、状況を総合的に考慮して危機的状況か否かを判断する。
危機的出血がみられる状況の代表としては、外傷、分娩、心臓血管手術などがある。近年広く用いられるようになった抗凝固薬に起因する思わぬ大量出血も散見される。
危機的出血・大量出血に対する対応
危機的出血と判断した場合、「危機的出血の宣言」を行い、チーム一丸で対応する。
- コマンダーの決定 指揮命令系統を確立し、状況に対する共通認識をもつ
- 人手を集める
①出血を減少させる方策と②出血量を上回る血液量補充の二軸で対応する。
① 出血を減少させる
- 圧迫止血やガーゼパッキング
- 大動脈を含む上流動脈の遮断(血管内バルーンや塞栓術)
近年は選択的動脈塞栓術の有効性が認識されており、検討可能な場合は放射線科医へ早期にコンサルトする。 - 抗凝固薬に起因する出血は、特異的拮抗薬の適切な使用が有効となる。
② 出血を上回る血液量補充
- 輸注ルートの確保
太い静脈留置針を複数挿入する。留置困難な場合は躊躇せず中心静脈を確保する。その際、静脈は虚脱していて穿刺難易度が高いことが予測されるため、必ず超音波装置を併用しガイドワイヤーを用いるセルジンガー法での穿刺が推奨される。挿入するカテーテルは太く短いものほど輸液の注入抵抗が小さい。血管造影の際に使用する太径シースや、透析の際に使用するブラッドアクセスカテーテルも有用である。 - 輸血の確保
輸血部門に連絡し、赤血球液・新鮮凍結血漿(FFP)・濃厚血小板液の各種製剤を速やかに供給できるよう連携する。時間的猶予がなければ、クロスマッチや放射線照射の省略を検討する。FFPは融解に時間を要するが、より短時間で融解可能な小容量製剤を複数使用することも考慮される。 - 緊急時の異型輸血
生命維持に必要な、全身組織への酸素供給の危機に救命目的で実施する。赤血球製剤が主な対象となる。
【患者血液型が未確定の場合】O型赤血球液
【患者血液型が確定している場合】
- 患者血液型O型 → なし(同型のO型赤血球液のみ)
- 患者血液型A型 → O型赤血球液
- 患者血液型B型 → O型赤血球液
- 患者血液型AB型→ A型またはB型の赤血球液、O型赤血球液も可 が利用できる
(厚生労働省「輸血療法の実施に関する指針」より)
大量出血のヒヤリハットとその対応
点滴漏れによるコンパートメント症候群
点滴回路に圧力を加えて強制送液する場合、点滴漏れがあると皮下注入となり、大量の皮下注入により組織圧が上昇し環流不全を生じうる。定期的に刺入部を確認する。
低体温
加温が不十分な赤血球製剤や低温の輸液が大量に輸注されると容易に低体温となる。低体温は血液凝固反応を鈍らせ、止血を困難にして出血を助長するほか、致死性不整脈を誘発する。輸液の加温装置は、高流量に耐えうる性能をもつ機材が望ましい。体幹四肢のウォーマーも併用して身体の内外から温め、保温に努める。
血球成分異常
輸血製剤の準備が追いつかない場合、細胞外液成分の輸液で循環血液量を補わざるを得ない。そのとき各種成分の濃度は低下する。
① 赤血球成分の不足
酸素運搬体であるヘモグロビンの濃度が下がり、単位血液量あたりの酸素含有量が低下する。少ないヘモグロビンを最大限活用するため、SpO2を100%に維持するよう、呼吸器条件は余裕をもって高めに調整する。
② 凝固因子の不足
凝固因子濃度はひとたび低下するとFFPを大量に輸血しなければ濃度は戻らない。大量出血の場合には赤血球と同時に早期から同量のFFP投与を開始することや、フィブリノゲン濃縮製剤、クリオプレシピテートの利用が有用であると報告されている3)。フィブリノゲン濃度を測定し、100mg/dLを下回らないように維持することが必要であるが、検査結果到着までのタイムラグを考慮すると150mg/dLの時点で積極的な介入が必要である。
③ 血小板の不足
血小板は比較的出血に耐性の高い成分といわれ、5,000mL以上の出血で補充を考慮するといった記載がみられるが、大量出血の場合は病態が異なり、FFP同様、早期からの投与が必要である。血小板数の検査は短時間で完了する一方、血小板製剤は院内在庫がないことが多く、発注から搬送の時間が一番の足枷となる。
5万/mm3を下回らないようにコントロールする。
高カリウム血症
赤血球製剤、とくに放射線照射後日数の経過した製剤ではバッグ内のカリウム濃度が上昇している。大量出血時には急性腎不全を併発していることが多く、カリウム排泄が障害されているため、思わぬ高カリウム血症からの心停止が発生しうる。
低カルシウム血症
血液製剤には保存中の凝固防止剤としてクエン酸が添加されている。クエン酸によりカルシウムイオンがキレートされ、大量輸血では低カルシウム血症となる。頻回な検査と適切なカルシウム補充を行う。
強制送液のリスク
血管外注入
注入速度を上げる目的で圧力を加えた強制送液を行う場合、輸液ラインのトラブルが発生しやすくなる。とくに注意したいのは前述の点滴漏れで、重篤な場合には減張切開術が必要になる。合併症回避のため、刺入部周囲や刺入部上流にある古い穿刺痕周辺を定期的に目視し漏出がないことをよく確認する。定期的な自然滴下の確認も有用で推奨される。
輸液セットの破損
輸液ラインの多くは耐圧上限が300mmHgに設計されている。コネクタ部などの外れやクラック損傷等による液漏れに注意する。とくにドレープ下の接続外れは発見しにくく、輸血が身体に入らないばかりか、身体側からは自然脱血を行ってしまうという結果をまねく。十分注意したい。
送気事故
加圧バッグを利用して点滴ボトルの輸液を送液する場合、点滴ボトル内の輸液を押しきった後に、ボトル内に残った空気を押し込んでしまうリスクがある。圧力をかける前に、必ず輸液ボトル内の空気を除去しておく。
ポンピングの注意点
注射器の押し引きを反復して急速輸注を行う方法はポンピング法とよばれているが、いくつかの注意点がある。
① 輸血を充填する際の過度な陰圧
用手的なシリンジ操作は容易に気圧の数倍の高圧や数分の一の低圧を発生させることができる。とくに過陰圧は赤血球の破裂(溶血)をまねく。
② シリンジの反復使用による細菌汚染。
③ シリンジ充填に要する時間が想像よりも長く、結局トータルの輸液速度が上がらない。
④ 気泡の大量混入
シリンジ充填時に細かな気泡が発生しやすい。
急速輸血装置の必要性
SL One®(図1)に代表される専用の急速輸液装置は、上記に述べたさまざまな注意点を解決する。
- 高流量を送出
- 送血圧のモニタリングと適切な自動調整
- 気泡の検知と除去
- 高流量に対応した加温性能
といった特徴があり、緊急の現場で簡単かつ安全に患者の循環管理ができる非常に有用なデバイスで、危機的出血を扱う際には強力な手助けとなる。
専用の回路は直感的に組み立てられるように工夫されているが、一度は組立て経験があったほうがよい。危機的出血のシミュレーショントレーニングを実施する際、同時に機器と回路のセットアップをトレーニングすると安心である。

(アイ・エム・アイ株式会社)
【 参考文献 】
1. | 御園生与志, 山田高成.急速輸液(輸血)法アップデート.臨床麻酔.47(5),2023,676-81. |
2. | 日本麻酔科学会,日本輸血・細胞治療学会.危機的出血への対応ガイドライン. https://anesth.or.jp/files/pdf/kikitekiGL2.pdf〈2024 年 8 月参照〉 |
3. | 日本産科婦人科学会ほか.産科危機的出血への対応指針2022. https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/shusanki_taioushishin2022.pdf〈2024 年 8 月参照〉 |
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