セミナー情報

IMI WEBセミナー 「~大量出血対応 up to date~ 手術室における危機的出血への備え」ご報告 及びオンデマンド配信のご案内

  • 掲載:2024年10月
  • 文責:急性期ケアエリアチーム
IMI WEBセミナー 「~大量出血対応 up to date~ 手術室における危機的出血への備え」ご報告 及びオンデマンド配信のご案内

2024年8月28日のIMI主催Webセミナーにおいて、九州大学病院より、座長に山浦 健先生、演者に安藤 太一先生をお招きし、九州大学病院における大量出血症例への対応方法について、安藤先生のご経験やデータを基にご講演いただきました。

IMI WEBセミナー「~大量出血対応 up to date~ 手術室における危機的出血への備え」
オンデマンド配信のご案内

本セミナーを期間限定でオンデマンド配信いたします。視聴方法並びにセミナー概要については以下をご参照ください。多くの先生方にご視聴いただければ幸いです。

―オンデマンド配信 視聴方法―

下記URLより視聴登録をお願いいたします。

https://x.gd/9GvKt

お申込み時のメールアドレスへご視聴用リンクをお送りいたします。


配信期間:2024年10月15日(火)~ 2025年9月4日(木)18:00

チラシ : ※pdfが開きます(497KB)

IMI WEBセミナー「~大量出血対応 up to date~ 手術室における危機的出血への備え」ご報告

IMI WEBセミナー
日時 :

2024年8月28日(水)19:00~19:40

会場 : Zoom オンライン
演題 :

~大量出血対応 up t o da te~
手術室における危機的出血への備え

演者 :

安藤 太一 先生
九州大学病院
手術部 助教

座長 :

山浦 健 先生
九州大学大学院医学研究院
外科学講座 麻酔・蘇生学分野 教授

座長:山浦 健 先生
座長:山浦 健 先生
演者:安藤 太一 先生
演者:安藤 太一 先生

安藤 太一 先生 ご略歴

平成26年 3月 宮崎大学医学部医学科卒業
平成26年 4月 聖マリア病院 初期研修医
平成28年 4月 九州大学病院 麻酔科蘇生科 医員
平成29年 4月 小倉医療センター 麻酔科
平成29年 10月 聖マリア病院 麻酔科
平成30年 4月 九州大学病院 麻酔科蘇生科 医員
平成30年 8月 福岡市立こども病院 麻酔科
平成31年 2月 九州大学病院 麻酔科蘇生科 医員
令和 1年 9月 九州医療センター 麻酔科
令和 2年 4月 九州大学病院 麻酔科蘇生科 医員
令和 3年 4月 九州大学病院 集中治療部 医員
令和 4年 4月 九州大学病院 麻酔科蘇生科 医員
令和 4年 10月 九州大学病院 手術部 助教
  • 【所属学会】
  • 日本麻酔科学会
  • 日本集中治療医学会
  • 日本心臓血管麻酔学会
  • 日本小児麻酔学会
  • 日本周産期麻酔科学会
  • 日本老年麻酔学会
  • 日本蘇生学会
  • 【資格等】
  • 日本麻酔科学会専門医
  • 日本麻酔科学会認定医
  • 日本小児麻酔学会認定医
  • 日本周術期経食道心エコー(JB-POT)認定医
  • 麻酔科標榜医

出血の概念

出血の概念は、出血の程度によって表現が異なります。大量出血とは、24時間で循環血液量相当の出血がある状態とされ、このような状況であっても、 充分な血液製剤が揃っていれば、麻酔科医は十分に対処できます。活動性出血とは、出血が継続しており、止血ができていない状態を表します。外科的な出血もあれば、凝固障害による出血も含まれます。

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危機的出血とは、急速な出血により、心停止や生命の危険がある状態を表します。一般的には毎分150ml以上の 速度で出血が持続する状況と言われます 。このような状況は 、輸血用血液製剤の供給が間に合わず、マンパワーも不足しているような状態と言えます。

日本麻酔科学会における偶発症例調査の結果は右図の通りであり、出血は術中死と術後早期死亡の原因の大きな割合を占めています。術後1週間以内に死亡の転機を辿った症例のみを集めその原因を調査すると、43%は出血が原因であったという結果が出ています。また、術中に心停止を起こした症例の30%は出血を伴っていたという結果が出ています。このように出血は術中死と術後早期死亡の原因の大きな割合を占めています。

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日本における危機的出血に関するガイドライン

日本における大量出血・危機的出血に関するガイドラインの歴史について少し触れさせていただきます。
日本には2005年作成の血液製剤の使用指針、輸血療法の実施に関する指針がありましたが、これらには危機的出血に関する指針は示されていませんでした。この頃、日本国内では出血性ショックで患者が死亡する事例が頻発し、危機的出血の実態やその対応に対する反省を踏まえ、ガイドライン作成の気運が高まりました。

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現在、日本における危機的出血へのガイドラインとしては、危機的出血への対応ガイドライン、産科危機的出血への対応指針、大量出血症例に対する血液製剤の適正な使用のガイドラインの3つがあります。

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危機的出血への対応ガイドラインは日本麻酔科学会が中心となり、日本輸血・細胞治療学会が輸血学から見た正当性について検討するという形での合同作業が進められ、2007年に発表されました。発表から17年が経過していますが、その間、改定がなされておらず、内容としてはやや古い部分も認められ、各施設ではこちらのガイドラインをベースに、独自の修正やアレンジを加えて運用しているところも多いかと思われます。

危機的出血への対応ガイドラインの要点としては、救命を最優先した輸血療法を行うことが明記され、輸血用血液の供給が間に合わない場合には、交差適合試験の省略や異型適合輸血を行うことを推奨しています。

危機的出血発生時には意思決定を行うコマンダーを決定し、指揮命令系統を明確にすることが示されています。
「危機的出血」の「非常事態宣言」を出し、手術室や救急部などの現場と、輸血部、検査部、輸血センターなどが一体となったチームとして行動するように示されています。

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産科危機的出血への対応指針

危機的出血への対応ガイドラインは作成されましたが、産科出血は一般手術などの出血と比較して、急速に全身状態の悪化を招きやすく、また容易に産科DICを併発しやすい特徴があります。そのため、産科出血に対応できる実臨床ガイドラインの作成が要請され、日本産婦人科学会を中心として関連学会合同で産科危機的出血への対応指針が作成され2010年に発表されました。その後、2017年、2022年に改定が行われています。
分娩では外出血量が少量でも生命の危機となる腹腔内出血・後腹膜腔出血をきたす疾患も存在するため、計測された出血量のみにとらわれることなく、バイタルサインの異常、特にショックインデックス(SI)に留意し管理します。
経過中にSI:1となれば高次施設への搬送も考慮し、輸血の準備を行います。晶質液だけでなく人工膠質液も投与し、血圧維持に努め、同時に、出血の原因を検索し対応します。産科DICでは発症初期より線溶が亢進することが多いので、トラネキサム酸1gをボーラス投与し必要に応じて追加投与を行います。弛緩出血では子宮内バルーンタンポナーデを考慮し、高次施設に搬送の際にも実施しておくことが望ましいです。

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これら各種対応にも関わらず、出血持続とバイタルサインの異常がみられる、もしくはSI:1.5以上、もしくは産科DICスコアが8点以上、もしくはフィブリノゲンが150mg/dL未満となった場合、コマンダーは「産科危機的出血」を宣言し、直ちに輸血を開始し、高次施設へ搬送します。

輸血の際は産科出血の特徴を考慮し、RBCとFFPの投与比を1:1に近い比率で投与し、血小板は必要に応じて追加します。また、希釈性凝固障害と肺水腫予防の観点からクリオプレシピテート、フィブリノゲン製剤の投与も考慮します。また、子宮圧迫縫合や子宮摘出術などの外科的止血術や、子宮動脈・内腸骨動脈塞栓やIABOなどのIVRなどを試みます。

産科危機的出血への対応指針の直近での変更点として、①産科危機的出血の宣言の条件として 、単独でフィブリノゲン150mg/dL未満が追加となりました。②2020年9月から産科危機的出血に伴う後天性フィブリノゲン血症に対してフィブリノゲン製剤が保険適用となり、「フィブリノゲン製剤に際して」の項目が追加されました。③トラネキサム酸の投与量に関して、これまで「トラネキサム酸2~4gを予防投与する」となっていましたが、改定後は「トラネキサム酸1gをボーラス投与し 、必要に応じて追加投与を行う。」という記載に変更になりました。④今回の改定では新たに日本IVR学会が作成に加わり、これに伴い「IVR : interventional radiologyについて」の項目が追加されました。

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大量出血症例に対する血液製剤の適正な使用のガイドライン

大量出血症例に対する血液製剤の適正な使用のガイドラインは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が2019年に作成したものです。ガイドラインが出された背景として、それまで大量出血時の血液製剤の使用に関しては、厚生労働省から出されていた血液製剤の使用指針を基に対応がなされてきましたが、RBCや晶質液、膠質液の投与が優先されることとなり、希釈性凝固障害を引き起こし、凝固障害をより悪化させる可能性が高く、患者予後を損なう懸念がありました。

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大量出血症例における急性凝固止血障害の実態を的確に把握し、状況に応じた最適な血液製剤の迅速投与を行うことで患者の予後改善や、適切な血液製剤使用につながることを目的に本ガイドラインは作成されました。

ガイドラインの特徴として、大量出血患者の輸血治療における重要臨床課題を整理し、4つのClinical Question(CQ)を設定し、各CQに対する推奨を行っています。

CQ1:大量出血症例へのクリオプレシピテート、フィブリノゲン濃縮製剤の投与は推奨されるか?また、輸注開始トリガー値はどれくらいか?

フィブリノゲン製剤に関しては4つの領域で、クリオに関しては心臓血管外科、産科、外傷で推奨がなされています。輸注開始トリガー値に関しては概ね150mg/dLとなっていますが、産科領域に関しては早期より線溶が亢進しやすいという特徴があるので150-200mg/dLとやや高めに設定されています。

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CQ2:大量出血症例に対するmassive transfusion protocol(以下:MTP)は推奨されるか?また、FFP:PC:RCCの最適投与比はどれくらいか?

MTPに関してはすべての領域で推奨がなされています。最適投与比に関しては、こちらも産科領域に関しては産科DICを併発しやすいという特徴からFFPの投与比が同等かやや 高めに設定されています。

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CQ3:大量輸血療法において、PCC(乾燥濃縮人プロトロンビン複合体製剤)やrFⅦa(遺伝子組換え活性型血液凝固第VII因子製剤:ノボセブン)の投与は推奨されるか?

PCCは心臓外科領域で推奨されおり、それ以外の領域では効果が評価できませんでした。rFⅦaは心臓血管外科と産科でのみ推奨されおり、それ以外の領域では投与しないことが推奨されています。

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CQ4:大量出血症例において抗線溶療法(TXA)は推奨されるか?

全ての領域で推奨されるという結果になりました。

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出血による二重の悪循環

出血した際に何が問題になるかというと、多少の出血であれば我々の体が充分代償してくれます。ところが、出血量が多くなると、循環血液量が減少し血圧が下がる、重要臓器を含めた臓器循環が悪くなる、そうなると当然、臓器機能が低下します。それによって心拍出量が低下し、さらに血圧が低下するといった悪循環が形成されます。また、たとえ輸液・輸血投与を行っても希釈性の凝固因子減少や血小板減少、低体温、アシドーシスとなりますとさらなる出血傾向が出現し、二重の悪循環が形成されてしまいます。
二重の悪循環が進むと最終的には心停止、死亡に至るということになります。

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この中の低体温、アシドーシス、凝固機能障害について考えてみます。
外傷の手術に限らず、全ての手術は制御された外傷とも言えます。重症の外傷において、低体温、アシドーシス、血液凝固 障害は外傷死の3徴とも言われており、心停止死亡の一歩手前の状態です。

外傷死の3徴を回避するために、我々麻酔科医は、低体温に対しては患者の身体と輸液・輸血を加温することで低体温の進行を防ぎ、アシドーシスに対しては急速輸血により 循環血液量を維持し全身の組織への酸素供給を維持するように努め、血液凝固異常に対してはMTPに基づいた輸血戦略で凝固因子と血小板の補充を行います。

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このように危機的出血時には加温した輸血をバランスよく、急速に投与することは重要であると言えます。

これまでの急速輸液装置とその問題点

これまでの急速輸液装置は大きく分けてローラーポンプ式と加圧式の2つのタイプがありました。このうち、ローラーポンプ式輸液装置は現在販売を終了しており、加圧式急速輸液装置であるレベル1システム1000のみが現在も販売を継続しています。
ローラーポンプ式の急速輸液装置の問題点として、回路内に気泡が混入しやすく、気泡検知アラームが作動しポンプが頻回に停止していました。また、気泡検知アラームが正しく動作せず、空気混入による死亡事故の報告がありました。また、ローラーポンプは加温機能がないため、別に加温装置を接続する必要があり、結果として、輸液回路が長くなり、回路内圧が上昇するという問題がありました。

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加圧式急速輸液装置の問題点としては、流量調整ができない点、輸液量が記録されない点、装置が大きく、緊急時の速やかな導入が難しい点がありました。また、加圧装置にパックを装着する際のエア抜き、バッグ交換に手間がかかるため、操作する専用の人員が必要でした。また、ローラーポンプ式と同様に、こちらも空気混入の問題がありました。

SL One®の開発コンセプト

このような背景から、危機的出血時にvolume管理を手中にできる安全な急速輸液装置の開発が望まれました。こうして誕生したのがSL One®です。日本で開発され、「ボリューム管理を手中に収める」をコンセプトに作られています。SL One®は安全性、操作性、機能・性能 の3つに重点が置かれています。

SL One®の概要

安全性については、SL One®はローラーポンプ式を採用しており、気泡センサの搭載、リザーバを採用することで気泡除去機能が強化されています。また回路内圧が高くなり過ぎないように、定圧制御機能がついており、回路内圧が300mmHg以下となるように設定されています。また、設定流量と実際の流量をモニター画面で確認できます。加温機能があり、常にリザーバ内の輸液を加温部内で循環させておくことで、急速投与時も37.5℃に加温された状態で患者に投与できます。

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操作性、機能・性能については、流量設定は左側のつまみを回すことで毎分0.2mlから最大で150mlまで幅広く調整できます。また、つまみの右側には急速ハンドルがあり、こちらを回すことで一時的に流量を上げることができ、ハンドルから手を離すとつまみで設定した流量に戻ります。急速ハンドルの流量は最大毎分500mlまで上げることができます 。タッチパネルのボーラス投与開始ボタンを押すと、あらかじめ設定したボーラス量の液体が送液されます。

リザーバのメリットとして、RBCの粘性を低下させることで急速投与が可能となります。RBC、FFP、アルブミン等を混合投与することができ、MTPを実践しやすいです。また、余裕がある時に充填を行うことで緊急時でも焦らずに対応することができます。

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SL One®の使い方のコツとしては、SL One®回路の患者ラインは二股に分かれていますので、2つのルートに接続し、送血圧を分散して投与することができます。そうすることで高流量の輸血でも、圧制御に引っかからず、高流量の輸血が可能となります。この際、SL One®を接続するラインの選択が重要となります。可能な限り太いラインを使用することが重要です。

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輸液・輸血の流量はHagen Poiseuille(以下:ハーゲン‐ポアズイユ)の法則で表されます。流量:Qは圧力差:ΔPとカテーテルの半径:rの4乗に比例し、液体の粘性:μとカテーテルの長さ:Lに反比例します。このように、流量はカテーテルの半径に最も大きく影響を受けますので、可能な限り太いラインを使用すべきです。また、液体の粘性を下げるという点でも、リザーバ式の回路は優れています。

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ハーゲン‐ポアズイユの法則は急速輸液にも当てはまります。下図の論文1は加温式の輸液回路にローラーポンプの回路を組み込み、回路の先端に様々なサイズのカテーテルを接続してローラーポンプの流量を上昇させた時の回路内圧がどのように変化するかを測定した研究です。この研究では16Gから20Gの太さと長さの異なる末梢 静脈用カテーテルを使用して、Hot lineの前後での回路内圧を測定しています。
結果ですが、Fig. 2 a がHot Lineの手前の回路内圧、Fig. 2 b がHot Lineの後、つまり患者側の回路内圧を示したものです。a、b いずれにおいてもカテーテルの内径が細いほど、同じ流量を得るのに高い回路内圧がかかっていることがわかります。また、同じ内径のカテーテルでも長い方が同じ流量を得るのにより高い回路内圧がかかっていることがわかります。

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もうひとつ、この論文2は先程と同様にローラーポンプを組み込んだ輸液回路に、同じサイズの耐圧性PICCとCVを接続し、ローラーポンプの流量を変化させた時の回路内圧の変化を測定した研究です。Fig. 2の結果からはPICC、CVいずれにおいても、カテーテルの長さが長くなるにつれて、同じ流量を得るのにより高い回路内圧がかかっていることがわかります。先程の末梢静脈用カテーテルでも中心静脈カテーテルでも同様の結果が得られました。

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ちなみに、PICCとCVを比較すると、内径が同じでPICCの方がCVより長いにも関わらず、回路内圧300mmHgでの流量はFig 3.にありますようにほぼ同等であり、さらに高い回路内圧ではFig. 2cにあるようにPICCの方が高い流量を得られたという結果になりました。これは高い圧がかかるとPICCの2つのルーメンの間の隔壁の形状が変化し、カテーテルの有効内径が拡大することが理由だと考えられます。

当院でのSL One®の使用状況

九州大学病院は年間手術症例数約1万件と九州最大の症例数です。心臓・肝臓・膵臓・腎臓移植の実施施設であり、特に肝移植症例数は年間約50例と日本でも有数の症例数です。また、高エネルギー外傷、産科危機的出血などの症例も多いです。

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左の上のグラフは主要な国立大学病院の年間の臓器移植症例数を比較したものですが、当院は年間の延べ臓器移植の総合症例数は国内で最多となっております。右の下のグラフは当院の肝移植の年間症例数の推移です。ここ数年は平均して成人の生体肝移植が70%、小児生体肝移植が20%、脳死肝移植が10%程度の割合で推移しています。

肝移植の麻酔管理についてですが、レシピエントは術前から肝不全に伴う凝固障害をきたしています。慢性肝不全の患者では側副血行路が発達しており 、術中大量出血のリスクが高いです。術中は肝不全による熱産生の低下に加え、開腹手術であること、さらにグラフトの鮮度を損なわないようにするために室温も低いことから 、低体温をきたしやすいです。また術中に代謝性アシドーシスをきたしやすく、特に無肝期中はより一層アシドーシスが進行します。

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このように肝移植は、出血と外傷死の3徴が出現しやすい手術ということで、出血による二重の悪循環にいたりやすく、大量出血・危機的出血の危険性が高い手術と言えます。このような理由から、当院ではほぼ全例でSL One®を使用しています。

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肝移植の手術中の様子
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SL One®導入前はローラーポンプを使用していましたが、気泡混入が頻回に起き、その度にローラーポンプを停止してエア抜きをする必要があるため、専属でローラーポンプを操作する麻酔科医が必要でした。

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しかし、SL One®導入後は、ローラーポンプのように回路内に気泡が混入することもなく、麻酔科医一人でSL One®の操作も含めて麻酔管理を行っています。
SL One®の導入によって限られたマンパワーを有効に活用することができています。

SL One®を使用した症例

61歳、女性、肝不全に対して脳死肝移植を行った症例です。現病歴として他院で施行した胆嚢摘出術の際に右肝動脈を損傷して肝右葉が萎縮し 、肝機能低下を認めていました。 また経過中に胆管炎を併発、肝不全となり、手術の方針となりました。
肝性昏睡のため、ICUで挿管管理、肝腎機能低下に対してCHDFが行われており、連日FFPと血小板の輸血が行われていましたが、血小板数は3.5万/μLと低値で、PT-INRは1.81、APTTは107秒と高度の凝固延長を認めていました。

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全身状態としては非常に悪く、危機的出血による術中心停止・死亡の危険性が高い症例でした。予想出血量は1万ml以上とのことで輸血準備は通常よりも多く、RBC、FFP、血小板、それぞれ60単位ずつを準備して手術に臨みました。

麻酔チャートを示します。手術開始後、開腹時腹水が8,300ml ほど出て一時的な血圧の低下を認めましたが、SL One ®の急速輸液ハンドルとボーラスダイアルを使用して対処しています。その後、無肝期に入り、IVCクランプ時に前負荷で低下し血圧低下を認めましたが、どちらも急速輸液ハンドルとボーラスダイアルで対応しています。門脈再灌流時は最も循環変動が大きく変化するので特に注意を払って管理しました。

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幸い大きな血圧低下なく門脈再灌流を乗り切りました。門脈再灌流以降はグラフト内の血液が流れやすいようにCVPを上げない管理をすることが多いですが、この症例では側副血行路から出血が持続していたため手術終盤まで輸血が必要な状態でした。術中は血ガス、ROTEM、PT-INR、フィブリノゲンの迅速測定器の結果を指標にリザーバの補正を調整して輸血を行いました。手術時間は8時間33分、出血量は8,7 63ml、これはカウントできている出血だけなので、実際にはもっと多いです。 術中の輸血量はRBCが26単位、FFPが60単位、血小板が30単位でした。
この手術は週末の夜間に行われ、しかも同時に別の部屋で膵腎移植も行われていたため、マンパワーは非常に限られていましたが、SL One®のおかげで危機的出血に陥ることなく、手術は無事終了しました。

結語

  • 術中・術後の死亡例の半数近く(43%)は出血が原因によるもので、大量出血への備え、大量出血時の迅速な対応が重要である。
  • 従来の急速輸液・輸血装置は気泡混入が起こりやすく、気泡除去に時間、手間がかかり、時に空気注入による死亡事故につながり、volume管理を手中にできる安全な急速輸液装置が望まれ、医工連携でSL One®が開発された。
  • 九州大学病院では2022年3月よりSL One®を採用し、現在では大量出血・危機的出血をきたしやすい肝移植手術ではほぼ全例で使用している。
  • 大量・危機的出血に備え、このような省力化にもつながり、維持輸液も可能な急速輸液装置の採用を推奨します。

【 参考文献 】

1. Higashi M, Yamaura K, Matsubara Y, Fukudome T, Hoka S. In-line pressure within a HOTLINE® Fluid Warmer, under various flow conditions. J Clin Monit Comput. 2015 Apr;29(2):301-5. doi: 10.1007/s10877-014-9605-3. Epub 2014 Aug 3. PMID: 25087123.
2. Maki J, Sumie M, Ide T, Nagamatsu M, Matsushita K, Shirozu K, Higashi M, Yamaura K. A pressure-resistant peripherally inserted central catheter is as useful as a central venous catheter for rapid fluid infusion: an in vitro study. BMC Anesthesiol. 2022 Jul 4;22(1):205. doi: 10.1186/s12871-022-01738-x. PMID: 35787789; PMCID: PMC9252047.

質疑応答

Q1出血が予想される場合、16Gなどの複数の太いライン確保が重要であることが安藤先生の講演内でも述べられましたが、九州大学病院の院内ルールはありますか?どのような準備をされるでしょうか?

A1[安藤先生]

ご質問ありがとうございます。16G以上のラインが確保できることが一番良いと思いますが、患者さんの状態や血管の性状 によっては難しいこともありますので、当院では16Gに拘らず、可能な限りの太いラインを複数確保するようにしています。また急速輸液装置で輸液や輸血を行う場合は、自然滴下を確認できず点滴漏れの発見が遅れる可能性がありますので、可能な限りCV(中心静脈)やシース、それと同等 の確実なラインを使用するようにしています。

Q2肝臓移植の際にはシース、スワンガンツカテーテル、CVカテーテルなどが挿入されているかと思います。シースの径は単独なら大量の輸血ができると思いますが、この時の注意点はありますか?

A2[安藤先生]

当院では9Frのシースの中に8Frのスワンガンツカテーテルを使用してモニターしています。肝移植の場合は、CVカテーテルも挿入していますので、主にスワンガンツが入ったシース、CVカテーテルのディスタールの2本から SL One®を使用しています。スワンガンツが入ったシースですと、確かに22G程度の流量しか得られないという問題はありますが、CVカテーテルのディスタールと併用することで、SL One®のボーラスボタンや急速ハンドルを使用しても定圧制御に引っかかることなく送血できており、現状、その方法で使用しています。

[山浦先生]

SL One®は送血が二股に分かれており、2本のラインを使用して送れるのもの特徴ですね。

Q3SL One®使用の導入基準や、導入の際の実働スタッフの役割を教えていただけますか?

A3[安藤先生]

導入基準については、その時点で麻酔科医のマンパワーがどれぐらいあるか、マンパワーが比較的ありポンピングで対応できそうであればポンピングを行いますが、夜間の緊急手術、高エネルギー外傷、事前の情報が少なくどれぐらい出血するか分からない場合などは、できるだけ早い段階でSL One®を導入するかの判断を します。当院ではSL One®のプライミングなどを臨床工学技士さんにお願いしており、そのおかげもあり、スムーズに導入できております。

[山浦先生]

私も1度、回路をセッティングしましたが、そんなに時間がかからず輸血の準備ができ、速やかに操作ができました。

Q4SL One®が二股になっていることのメリットについて教えてください。

A4[山浦先生]

送血側のラインが二股になっており、2本を使用することで、圧があがらず、2か所から急速輸血が行えることがメリットです。また、SL One®は薬液ラインが3本あり、血液製剤を急速にリザーバに貯めることもできます。

[安藤先生]

最初のプライミングは生理食塩水で行うと思いますが、すぐに輸血からいきたい場合は、二股の片方を開放してプライミングした生理食塩水をウォッシュアウトし、すぐに輸血が送れる状態にできるかと思います。少しでも希釈性凝固障害の影響を失くすために、そのような使い方も有効かと思います。

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Q5輸血製剤はそれぞれ単体で別のラインから投与されますか? 様々な輸血製剤を混ぜた状態で輸血されますか?

A5[安藤先生]

使い始めた当初はリザーバの見た目があまり綺麗でないような気がしていたのでが、リザーバの中で1対1に近い比率に混ぜ合わせることで、結果的には凝固や、貧血の進行も補正されていることが経験して解かってきております。現在は最初からFFP、RBC、アルブミンをリザーバに混ぜながら投与しています。

総括[山浦先生]

  • SL One®はこれまでにない装置で大量出血時、緊急時、夜間にも対応でき、非常に助かっています。また、これまで2人で対応していた症例が1人で対応でき、医師の働き方改革にも役に立っています。
  • 出血の制御が手術を成功させる肝になります。手術成績を良くしようと思えば出血、感染をコントロールせねばなりませんが、まずは出血のコントロールが重要です。急速輸液装置などを用い凝固を整えることで内部から、そして術野では外科医が出血を止めに行きます。これら両方を伴って止血、患者の予後の向上に努めていきたいと思います。

※ご提示いただいた内容は演者である安藤先生の臨床経験によるもので、全ての症例に当てはまるものではありません。患者様の状態、特性によって結果が異なる場合があることにご留意ください。

※本資料は学術情報の提供を目的としており、実際のご使用に際しては事前に必ず添付文書を読み、SL One®の使用目的、禁忌・禁止、警告、使用上の注意等を守り、使用方法に従って正しくご使用ください。

※SL One®の添付文書は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の医薬品医療機器情報提供ホームページでも閲覧できます。

※本資料に、掲載されている内容の無断転載、画像の無断複製・転用を禁じます。



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