IMIオンラインセミナー「産科領域における危機的出血への対応方法」ご報告
- 掲載:2023年01月
- 文責:急性期ケアエリアチーム
2022年10月26日(水)、株式会社メテク/アイ・エム・アイ株式会社共催のWebinarを開催いたしました。
母体救命に豊富なご経験をお持ちの山下先生を演者に迎え、「産科領域における危機的出血への対応方法」についてご講演いただきましたので、ご報告申し上げます。
開催日時 : | 2022年10月26日(水) 19:00~19:30 |
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会場 : | Zoomウェビナー アイ・エム・アイ株式会社 東京本部より配信 |
講演 : |
「産科領域における危機的出血への対応方法」 |
共催 : |
株式会社メテク アイ・エム・アイ株式会社 |
「産科危機的出血への対応指針 2022」について
セミナー冒頭にて、危機的出血の対応についての指針は二つあり、その一つである本ガイドラインの対応フローチャートは大きく分けて、以下の3段階で示されていることをご説明されました。
- ① SI(ショックインデックス)が1以上、または出血量が一定量以上となる第一段階。この指標を超えた場合は分娩時異常出血として治療を行う。
- ② 第一段階で治療を実施したがSIが1.5以上、Fbg(フィブリノーゲン値)が150未満になる場合は、産科危機出血を宣言する。産科危機出血の宣言後、直ちに輸血を開始し、母体の集中治療ができる高次施設へ搬送を行う。
- ③ さらに出血が持続する場合は危機的出血を宣言し、治療を実施する。
そして、上記をまとめて、危機の指標は以下の点であるとご説明されました。
- バイタルサインの変化
- 悪化の傾向
- 凝固障害(特にFbg:150未満)
- 出血の持続
次に、本ガイドラインをさらに深く解説されました。
産科危機的への対応指針のフローチャートによると、以下の点に注意が必要となる。
- 患者さんの状態は段階的に状態が悪化していくことが強調されており、産科危機的出血への対応として、患者さんの経時的な変化をフォローすることが重要。
- 治療に伴う変化を予想し、“予想と大きく異なる場合”や“出血スピードが補充スピードを大きく上回っている場合”は、関連するバイタルサインが悪化し続けるため注意が必要。
出血でなぜ人が亡くなってしまうか
山下先生は出血による死亡原因について、2つの観点を指摘されました。
それは[失血死]と[出血性ショック死]です。
失血死
出血スピードが補充スピードを大きく上回る場合、失血死と判断。
出血性ショック死
出血に対してほぼ同等な補充はあるが、出血性ショックの状態が遷延し、アシドーシス、血圧の低下、尿量の低下、高カリウム血症等の様々な影響が患者さんに生じてしまい、最終的に亡くなってしまう場合を出血性ショック死と判断。
[失血死]と[出血性ショック死]、は血液の補充を充分に実施するという点は同じですが、病態が異なり、注意が必要とのことでした。
救命に重要な[全身管理]と[出血制御]について
次に、危機的出血時の全身管理に重要な[大量輸血]と[急速輸血]についてご説明されました。
大量輸血
手術の間や1日の間のような一定の長い時間の間に大量の輸血を行うこと。
急速輸血
1分間等の短い時間の間にどのくらいのスピードで輸血を行うか、単位時間あたりの輸血量のこと。
- 大量か否かの判断には循環血液量を参考にし、妊娠後期の場合、60㎏の患者さんでは約6Lの血液が体内を循環していることから3Lの出血(全身の半分)で大量出血と判断することができる。
- 出血スピードは妊娠子宮の血流速度を参考にすることができる。
- 妊婦の心拍出量は約6L/minであり、そしてその約10%が妊娠子宮に流れている。このことから分娩後の弛緩出血は相当量の出血が予想されるため、注意が必要。
[大量輸血]と[急速輸血]の違い
大量輸血、急速輸血どちらの考え方においても、時間を重要視する必要があり、治療でも時間を意識することが急性期患者の管理を行う上で非常に大切であることを強調されました。
また、全身管理の輸血における重要なポイントとして、[循環血流量][MTPと血液型の同定][体温管理]の3点を挙げられました。
①循環血流量
心拍出量を保つためには充分な静脈還流が必要。この静脈還流を維持するためには充分な循環血液量が必要であり、循環血液量が不足していると心臓に血液が戻らないためショック状態となってしまう。
②MTPと血液型の同定
輸血を充分に確保するためにはMTP(massive transfusion protocol)が有用。
一定の割合で血液を任意の量で投与できることが重要。
また、血液型が不明な患者さんに処置を行う際は異型適合血の使用を躊躇してはいけない。しかし、異型適合血を投与した後に患者さんの血液型を特定することは不可能になり、投与前に2時点で採血を行うことが重要。つまり、同じ箇所(Aライン等)で1回目に血液型、2回目にクロスマッチをとり、2つのタイミングで採血を行うことにより、確実に血液型を同定することが重要。
③体温管理
RBCは4℃±2℃で管理されており、大量に投与すると患者さんが低体温になる可能性がある。また危機的出血の場合、ショック状態のため細胞代謝の低下により熱産生が減少。また、乳酸の蓄積によるアシドーシスから細胞代謝はさらに低下。これらの要因で患者さんは低体温になりやすいため、輸血は必ず温めて行うことが重要。
急速加温輸血をどのように実践するか
山下先生は、「急速加温輸血の実施は、臨床上の大きな課題である」と示され、その解決に有用な機器として、急速輸液装置SL One®をご紹介されました。
SL One®開発背景
急速輸液装置SL One®は、2012年に[課題解決式型医療機器等開発事業]によって開発された国産の急速輸血装置です。
この事業制度は、経済産業省、文部科学省が連携し、日本国内で高度な医療機器の開発や医学研究を推進するもので、現在の医工連携イノベーション推進事業にあたり、健康・医療戦略推進法(平成26年法律第48号)に基づいて設立された制度です。
SL One®は国内で開発・生産していることから、“日本人の日本人による日本人のための装置”と言えます。
SL One®の特長
①急速投与ができる
SL One®は[急速ハンドル]を回すだけで非常にスピーディーに輸血をすることができます。500mL/minを投与することも可能です。また、送液スピードは[ツマミ]で設定することができ、送液スピードを一定に保ち、出血量に合わせた送液を行うことができます。
ポンピングの場合は、焦ってしまい、輸血が血管外に漏れていることに気づかないケースもありますが、SL One®は送血圧を常にモニタリングできる装置です。
下の写真は、重症頭部外傷で用いた症例です。麻酔科からの応援要請に応じた重篤症例です。 ポンピングでは輸血が間に合わず、血圧が60、50~と下がり続けていました。
SL One®を2本の18Gに接続して輸血したところ、非常に速やかに循環動態が安定しました。輸血バックの量からも大量出血症例であったことが示唆されています。
②リザーバがある
ポンピングの場合は輸血バックが空になると輸血を中断し、新しい輸血バックに差し替える必要があります。
SL One®にはリザーババックがあり、事前に血液製剤を溜めることができ、ロスタイムを減らすことができます。
下の写真(左側)はリザーババックの様子を表しています。写真(右側)は産科危機的出血の症例ですが、RBCとFFPをリザーババックに予め混ぜて溜めておき、急速ハンドルを回すだけでリザーババックに溜まった輸血を投与することができ、管理面で非常に楽に急速投与することができました。
③確実な加温
SL One®は、お湯を使わずに、非常に工夫されたヒーターを用いて回路内の血液製剤を加温するドライヒートを採用しています(特許取得済み)。回路出口からは常に37℃で送液できます。また、加温で発生した気泡は独自の気泡除去機構でリザーバへ排気される設計になっています。
SL One®は優れた機械ですが、万能ではなく、使用する際には以下に留意する必要があります。
- 輸血用血液製剤の確保
- 補充戦略が重要
- 輸血合併症に留意
危機的出血はチーム戦
「産科危機的出血への対応指針2022」には、マンパワーや様々な職種の確保が必要なことが記載されており、人的資源の確保が重要であることが示唆されています。また、多くの職種が関わることから指揮系統の確立も重要であり、全身管理と出血制御を効率よく行っていくためにはチーム医療が不可欠です。
様々な部署の連携があってこそ、危機的出血を乗り越えることができます。特に臨床工学技士はSL One®やセルセーバーの準備、薬剤部ではフィブリノーゲン製剤やトラネキサム酸の準備、輸血部では輸血の確保といった多部署の連携によって円滑な診療を実施することができます。
多職種・多診療科における連携の際は、情報のズレが命取りになります。
チーム内で、以下のような取り組みをしっかりと行うことが、危機的出血時の対応で重要であると仰っておられました。
- 患者さんの病態確認
- 輸血残量等の状況認識が一致しているか確認
- 先読みの共有
- 実施している治療が上手くいかなかった際のプランBについての話し合い
- 緊迫した空気で発言ができない雰囲気ではなく、多職種が声を出しやすい環境作り
最後には「危機的出血はチーム戦です。病院総合力で臨める産科危機出血への対応がなされることを願っています。」とまとめられました。
ご多忙な中、素晴らしいご講演をしていただきました山下先生に心より感謝申し上げます。
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