要点サク押さえ! モニタリングの必須知識 カプノメーター
- 掲載:2025年01月
- 文責:メディカ出版

要点サク押さえ
換気の評価および循環・代謝を知る一助に
- カプノメーターは、呼気に含まれる二酸化炭素(CO2)を測定するための機器で、呼気終末二酸化炭素分圧(partial pressure of end-tidal CO2;PETCO2)値と、その波形が表示されます。カプノメーターは主に換気状態を評価するモニターですが、換気だけでなく循環や代謝を知る一助となります。
- 動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)とPETCO2の関係を理解することが、カプノメーターを活用するカギです。
- 波形の成り立ちを理解しておくと、患者の状態把握に役立ちます。
モニタリングの目的とタイミング
- PETCO2値だけでなく、波形を見ることで患者の呼吸状態を知る一助となり、より良い評価やケアにつながります。
- 心肺蘇生(CPR)の際、蘇生処置の質を評価でき、自己心拍再開(ROSC)後の患者管理に役立ちます。
測定の原理と測定方法のポイント
- カプノメーターは、赤外線吸収法を利用してPETCO2を測定します。
- 呼気ガスのサンプリング方式には、メインストリーム方式とサイドストリーム方式の2種類があります。
- カプノメーターを使用する際、センサーに水滴や分泌物が付着すると測定できなくなるため、対策が必要です。
- アラーム設定は、PaCO2を予測して設定します。
押さえておくべき点
- 患者の病態によっては、換気(V)と血流(Q)のバランスが悪い場合(換気血流比不均等=VQミスマッチ)があります。その場合、PETCO2はPaCO2を反映しません。どんな場合にVQミスマッチが起こるのかを理解することが、患者の病態把握につながります。
人工呼吸器によるモニタリングにプラスして測定する意義
- 人工呼吸器のパラメーターからではPaCO2の予測はできません。PETCO2は、VQミスマッチがない場合にPaCO2を反映するため、PETCO2を連続モニタリングすることでタイムリーにPaCO2を把握でき、患者の状態変化に気づく一助となります。
カプノメーターでわかること
〇 CO2の産生と排泄

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吸気にCO2は含まれていませんが、呼気には含まれています。これは、細胞内で好気性代謝が行われ、エネルギー(アデノシン三リン酸=ATP)を産生する過程で、CO2が産生されるためです(図1)。産生されたCO2は、肺まで運ばれ、肺毛細血管と肺胞間で拡散し、呼気として排泄されます。
細胞や肺までCO2を運ぶためには血流が必要であり、産生には細胞での代謝が必要です。産生されたCO2の大部分は肺胞から排泄されます。肺毛細血管と肺胞間で拡散が行われる過程で、血流が減少すると、肺まで運ばれるCO2は減少します。また、肺への血流が維持されていても肺胞における拡散障害や、気道・気管支の狭窄があれば、CO2の排泄は低下します。そして、発熱などで代謝が亢進するとCO2産生は増加し、代謝が低下するとCO2産生も低下します。CO2の産生から排泄までの過程で、細胞や肺への血流(循環)と、細胞でのCO2産生(代謝)、肺胞における拡散と、気管支や気道における換気が関与しています(表1)。

〇 PaCO2とPETCO2の関係(図2)
静脈血から拡散されたCO2と吸気(PICO2)が肺胞で混じることで、肺胞内のCO2(肺胞気二酸化炭素分圧:PACO2)は40mmHgとなります。その後PACO2は動脈血へ拡散されます。このときCO2は拡散能が良いため、肺胞と動脈血のCO2の差(肺胞気-動脈血二酸化炭素分圧較差:A-aDCO2)は0mmHgです。そのため、VQミスマッチがない場合、PACO2≒PaCO2となります。

呼気時は、PACO2を口まで吐出しますが、細気管支から口までの換気に関与していないスペース(解剖学的死腔)が存在します。解剖学的死腔の圧は2~5mmHgであるため、PACO2から解剖学的死腔(2~5mmHg)を引いた値がPETCO2となります。PACO2≒PaCO2のため、PETCO2の正常値はPETCO2=PaCO2-(2~5)=35~38mmHg(式①)となります。挿管下では解剖学的死腔は5~10mmHgのため、PETCO2=30~35mmHgです。式①を変換すると、PaCO2を予測することができます(Point 参照)。

PETCO2とPaCO2に乖離がある場合は、VQミスマッチをきたしている可能性があり、その要因を考える必要があります。VQミスマッチとは、換気(V)と血流(Q)のバランスが悪い状態のことです。通常、1分間に4Lが換気され、1分間に5Lの血流が肺毛細血管に流れます。そのため換気血流比(VA/Q)の基準値は0.8となります。換気と血流のどちらが障害されているかで病態は異なります。VQミスマッチのそれぞれの病態による違いついては後述します。
〇 波形の成り立ち
正常波形は[図3]のような形になります。
● l 相(A-B)
A点が呼気の始まりです。呼気の始まりは解剖学的死腔内のガスが吐き出されるため、PETCO2はあまり上昇しません。
● ll 相(B-C)
ll 相では、呼気の大部分が吐き出されるため、PETCO2は急上昇します。
● lll 相(C-D)
呼気の終末を示しており、肺胞は収縮しています。そして、D点は呼気の最終でありCO2の一番高いポイントです。PETCO2はD点を測定しています。
● Ⅳ相(D-E)
次の吸気が開始されたことを意味します。吸気にはCO2は含まれていないため、PETCO2は一気に下降します。

モニタリングするタイミングのポイント
〇 波形の変化を知る
正常波形(図3)との違い(図4)を知ることで、患者の状態を知ることができ、より良いケアにつながります。

● 波形に凹みができる(図4 ①)
凹みはPETCO2の低下を意味し、自発呼吸の出現を意味します。この波形が出現した場合、鎮静薬の効果が減弱している可能性があるため、鎮静状態を再評価し、鎮静薬の増量や薬剤の変更・追加を検討します。
SAT(spontaneous awakening trial;自発覚醒トライアル)中であれば、計画外抜管に備えた対策が必要ですし、CPAP(continuous positive airway pressure;持続気道陽圧)への変更を検討し、スムーズなSBT(spontaneous breathing trial;自発呼吸トライアル)につなげます。
● 第 lll 相が消失(図4 ②)
第 lll 相の消失は、リークによるPETCO2低下を意味します。この場合、D点がなく正確なPETCO2値は得られません。挿管チューブのカフリークや、回路の一部が外れているなどの可能性があります。
小児の場合、カフなしの挿管チューブを使用するため、この波形が出現することがあります。
● 第 ll 相が緩やかに上昇(図4 ③)
この波形は、呼気抵抗があることを意味します。痰や血液などで挿管チューブが狭窄し呼気が延長している可能性や、気管支が細くなっている可能性があります。
狭窄に対しては、吸引や気管支鏡により狭窄原因の除去や挿管チューブの入れ替えの必要性を評価します。気管支が細くなっている場合は、喘息発作の有無、オートPEEPの出現などを確認します。同時に血液ガス分析を含めて呼吸状態の評価を行います。
● 波形がフラット(図4 ④)
カプノメーターは適切に装着されているのに値や波形が表示されない場合、センサー部分に痰や水滴が付着し、センサーが反応しない場合があります。対策は「測定方法のポイント」で後述します。
特殊な例では、ECMO装着時、完全に人工肺に依存している場合、自己肺でガス交換を行っていないためPETCO2は0mmHgとなるため、波形はフラットになります。自己肺でガス交換を行うことができるようになれば、波形は徐々に出現します。
〇 蘇生処置の質が評価できる
● 食道挿管の有無を評価
食道挿管の場合、人工換気を行っても通常CO2は検知できませんが、確実な挿管ができた場合は、CO2を検知できます(図5)。そのため、カプノメーターを装着することで食道挿管の有無を評価できます。CPR時に肺からの呼気が胃内に逆流し、食道挿管であっても少量のCO2を検知する場合がありますが、PETCO2値は低く上昇しません。波形も徐々にフラットになります(図5 ②)。
CO2で食道挿管を評価する方法は、日本蘇生協議会の『JRC蘇生ガイドライン2020』において信頼性の高い方法として強く推奨されています1)。

● 胸骨圧迫の質やROSCを評価し、ROSC後の管理に役立つ
質の良い胸骨圧迫とは、心臓から血液が拍出されている状態です。動脈ラインが挿入されている場合、圧波形を確認することで胸骨圧迫による心拍出を評価できますが、医師による挿入が必要であり、常に挿入されているとは限りません。
その点、カプノメーターは患者の状態にかかわらず非侵襲的に装着が可能です。PETCO2を検知できるということは、血流があることを意味し、CPR中の循環を評価する一つの手段となります。また、ROSC直後は、心停止による血流低下で末梢組織にCO2が貯留していること、循環の再開で肺血流が増加することから、一時的にPETCO2が40mmHgを超える場合があり、この数値によりROSCであると判断できます。
ROSC後は、過換気により脳血管収縮をきたすので、脳血流の低下を回避するためにPETCO2=35~45mmHgで管理します。
測定の原理

カプノメーターのセンサー部分は、光源部分・赤外線フィルター・受光部から構成されています。CO2は4.3μm付近の短い波長の赤外線をよく吸収する性質があり、[図6]のように呼気ガスに赤外線を透過し、赤外線フィルターを介して4.3μmの赤外線を受光部で受け取ることでPETCO2を測定しています。この原理を基に、メインストリーム方式とサイドストリーム方式の2種類のサンプリング方式が普及しています。
〇 メインストリーム方式(図7)
この方式は、呼気の通り道となる回路の一部にエアウェイアダプターとCO2センサーを装着することで、PETCO2を測定しています。呼気の通り道にセンサーを装着することで、その場でCO2を検知して測定するため、タイムリーにPETCO2が表示されます。


〇 サイドストリーム方式(図8)
この方式は、呼気の通り道となる回路の一部にエアウェイアダプターを装着します。エアウェイアダプターには呼気を採取するチューブが付いており、呼気を吸引し機器本体の内部にあるCO2センサーで測定しています。呼気を採取する必要があるため、メインストリーム方式に比べるとPETCO2や波形の表示にはタイムラグが生じます。
しかし、呼気ガスに含まれるほかの成分(吸入麻酔薬など)も測定できるため、手術室ではこの方式が採用されています。


〇 測定方法のポイント
● 測定のポイント
人工呼吸器は人工鼻か加温加湿器を使用していますが、外気との温度差によって回路内に水滴が生じます。エアウェイアダプター内側や呼気ガスのサンプリングチューブ内に水滴が付着すると、PETCO2が測定できなくなるため対策を行います。
加温加湿器使用の場合、人工鼻よりも水滴が生じやすいです。波形や値が表示されないとき、メインストリーム方式の場合は、エアウェイアダプター内部の水滴を拭き取るか、エアウェイアダプター本体を交換します。サイドストリーム方式では、[図8]のようにサンプリングチューブを上向きに装着します。水分は下に貯留するため、サンプリングチューブを上向きにすることで水滴の付着が軽減できます。
人工鼻使用の場合、人工鼻の後ろ(人工呼吸器側)にエアウェイアダプターを装着することで水滴の付着を軽減できます。しかし、人工鼻の抵抗で波形に歪みが生じたり、PETCO2値が変化する場合があるため、自施設で検討が必要です。
〇 アラーム設定
PaCO2の基準値は40±2~5mmHgです。PaCO2は挿管下で「PETCO2+解剖学的死腔(5~10)mmHg」で予測できます(Point参照)。そのため、一般的にはPETCO2は上限アラームを40、下限アラームを30と設定します。この設定で、VQミスマッチがない場合、PaCO2=35~45mmHgから逸脱したことに気づくことができます。しかし、患者の状態は変化するため、適宜PaCO2とPETCO2の乖離状況を確認する必要があります。
押さえておくべき点
カプノメーターを使用する大きなメリットは、PaCO2を予測できることです。VQミスマッチがない場合(図9)、PACO2≒PaCO2で、A-aDCO2=0mmHgとなり、「PaCO2=PETCO2+5~10(挿管下)」と予測できました(Point 参照)。
しかし、VQミスマッチがある場合、PETCO2はPaCO2を反映しません。血流に障害がある場合と、換気に障害がある場合があります。

〇 血流の障害(V>Q)(図10)
肺胞における拡散は正常ですが、血流低下あるいは血流遮断により、肺胞での拡散ができない状況です。CO2が運搬されないことで拡散できない肺胞(肺胞死腔)では、PACO2は0mmHgです(図10 肺胞A)。血流の正常な部位も存在する(図10 肺胞B)場合、PACO2は分散され20mmHgとなります。よって、PaCO2とPACO2の差(A-aDCO2)は20mmHgです。

解剖学的死腔(挿管下)を5mmHgと考えるとPETCO2は15mmHgとなり、PaCO2と乖離します。そのため、適宜血液ガスでPaCO2を確認する必要があります。
肺血流低下の例として、以下が考えられます。
- 肺塞栓で肺血流が低下、あるいは遮断されている
- 肺動脈自体の狭窄により肺血流が低下している
- 脱水、出血、敗血症などで全身の循環血液量が減少している など
〇 換気の障害(V<Q)(図11)
肺血流は正常ですが、肺胞虚脱や間質の炎症などにより拡散障害をきたしている状況です(図11 肺胞A)。CO2を含んだ肺静脈血(PVCO2)が拡散できないまま動脈へ流れるためPaCO2は上昇します。そして、虚脱した肺胞には圧分散ができず、PACO2が40mmHgの場合(図11 肺胞B)、解剖学的死腔を5mmHg(挿管下)と考えると、PETCO2は35mmHgとなります。A-aDCO2は3mmHgと開大しますが、PETCO2は35mmHgと正常範囲内です。そのため、適宜血液ガス検査でPaCO2を確認する必要があります。
拡散障害の例として、以下が考えられます。
- 肺毛細血管と肺胞の間(間質)に滲出液があるため、CO2の拡散障害をきたしている
- 炎症や気腫性変化などで肺胞自体が破壊・虚脱している、あるいは滲出液や血液、痰などで肺胞内が侵食されているなど

人工呼吸器によるモニタリングにプラスして測定する意義
カプノメーターを使用することで、PaCO2を予測できるため、現状の人工呼吸器の設定が適切かどうかを評価する指標となります。そして、人工呼吸器の設定を変更した場合、タイムリーに換気状況を評価できることから、人工呼吸器のモニタリングと併用することでより患者の状態把握につながります。
Expert‘s eye
データを正しく評価すると同時に、その限界も知っておく
私たちは、さまざまなパラメーターやデータに囲まれています。患者の生体反応を反映するための正確な値を得ることを意識しながらも、パラメーターやデータが教えてくれる患者の病態と、データから評価できる範囲の限界を正しく知り、さまざまな情報を総合して判断をする大切さを日々感じています。
【 引用・参考文献 】
1. | 日本蘇生協議会監修.“気管チューブの気管内留置確認”.JRC蘇生ガイドライン2020.東京,医学書院,2021,61-2. |
2. | 2020 アメリカ心臓協会(American Heart Association).CPRおよびECC のガイドライン:ハイライト. https://cpr.heart.org/-/media/CPR-Files/CPR-Guidelines-Files/Highlights/Hghlghts_2020ECCGuidelines_Japanese.pdf[2023. 1. 26] |
3. | 金井克樹ほか.二酸化炭素の生理学-CO2の動態とモニタリングへの臨床応用.INTENSIVIST.12(1),2020,55-65. |
4. | 岩瀬良範.ETCO2カプノメーター “素敵なモニター”は実在するのか?.INTENSIVIST.3(2),2011,293-300. |
5. | 伊藤彰師.PETCO2とPaCO2の差はどこから生まれるのか.LiSA.18(5),2011,452-54. |
6. | 木下亮雄.え?知らないの?ETCO2モニターの使い方.INTENSIVIST.5(2),2013,454-6. |
7. | 小松孝美.呼気CO2モニター(基礎編).人工呼吸.34(1),2017,51-4. |
提供元:みんなの呼吸器 Respica 2023 vol.21 no.2(メディカ出版)
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