今こそ知りたい! ハイフローセラピーのケアとアセスメント:急性期~終末期まで 【急性期】急性期ハイフローセラピーのアセスメント
- 掲載:2024年08月
- 文責:メディカ出版
1分サマリー
準備は導入前から始まっている。施設の設備を確認し、安全な導入を目指そう。
装着は患者の協力を得て行う。適切に装着・設定し、事故にならないような管理が必要となる。
治療をいつ終了するか、そのときはどのような管理を行うかを常に考えておく。
はじめに
高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC)は呼吸不全を管理する上でとても有効な手段であり、使いこなせば患者にも負担が少ないものです。しかし、間違った使いかたをすれば、効果を得られにくいばかりか、患者自身にも危険を伴います。ここでは、実際に患者にHFNCを導入する手順を確認しながら、私たちが気をつけるべきことについて一緒に考えていきましょう。
治療導入の準備
急性呼吸不全の対応は、目の前に呼吸状態の悪い患者がいる状況であり、しばしば迅速さを必要とします。いざという時に慌てなくてもいいように、院内で使用されているデバイスについてある程度知っておくことが望ましいでしょう。
〇 デバイスの種類と特徴
HFNCのデバイスはさまざまなものが市販されていますが、大きく①ブレンダー型、②フロージェネレーター型、③汎用人工呼吸器(ハイフローモード搭載型)の3タイプに分けることができます(図1)。
ブレンダー型は酸素配管からの酸素と空気配管からの空気をデバイス内でブレンドするもので、FIO₂や流量の管理が簡単で静音性にも優れますが、空気配管がベッドサイドにないと使用することができません。一方、フロージェネレーター型は酸素配管と電源だけで使用できる反面、酸素投与量の調整でFIO₂を設定する必要があり、少し慣れが必要です。以前はベンチュリー型というタイプもありましたが、空気を取り込む際の大きな吸引音が難点で、現在はあまり使われていません。人工呼吸器のハイフローモードは、より侵襲的な管理を含めてデバイスを1台で完結させられるのが大きな利点です。
〇 使用に際しては必ず医療チームで方針を共有する
もちろんどのデバイスを使用してもよいのですが、院内のデバイスがどの型で、使用すべき患者のところに使用できる設備があるか、それとも転棟や転床が必要かどうかについては必ず確認が必要です。酸素配管のない病室でブレンダー型のデバイスは使用できませんし、結核や新型コロナウイルス感染症など一部の感染症の患者に対して病室の空気をそのまま使用するフロージェネレーター型のデバイスを用いることは、感染対策の観点からは勧められません(機材の清掃時などに感染のリスクがあります)。
また、デバイスの使用に際しては、必ず医療チームで方針を共有しておく必要があります。HFNCは簡便に行うことのできる治療ですが、操作を間違えば患者にも大きな影響が出るので、必ずデバイスを扱うことのできるスタッフを配置することが重要です。Fisher & Paykel Healthcare株式会社のAIRVOTM2は、アプリで使用の練習が可能なので、取り入れてみてもよいかもしれませんね。
治療を導入する
HFNCは患者の理解と協力があって初めて成立します。導入するときは、必ず患者にも治療のメリットを説明し、協力を依頼します。
〇 初期設定
●流量と加温・加湿の温度
デバイスを立ち上げ、加湿のための蒸留水を接続して、初期設定を確認します。流量は低すぎなければ(>30L/min)よく、患者が受け入れやすい流量で開始します。急性期HFNCの有効性を示した研究は50L/minで使用開始するものが多いですが、低い流量から少しずつ慣らすという方法もあります。
加温・加湿の温度は37℃に設定されていることが多いと思います。デバイスによって設定温度には多少の差がありますが、低い温度では加温・加湿のメリットを享受しにくく、不快感の原因にもなり得るので、患者が熱さを訴えない限りは37℃、低くとも34℃くらいまでで対応するのがよいと考えます。加湿のための蒸留水が接続されているかを必ず確認しましょう。
〇 鼻カニュラの選択・装着
患者の頭部のサイズに合わせて鼻カニュラを選択します。鼻カニュラは、鼻柱部や鼻翼部に当たって褥瘡にならないよう、5mmほど離して装着します。装着時に褥瘡予防としてドレッシング材を貼付する方法もありますが、結局のところ褥瘡の原因になる「ずり応力」のかかる面積が増えるだけになってしまうと思われるので、筆者はお勧めしていません。
ヘッドストラップや蛇管のクリップは確実に留める
鼻カニュラのヘッドストラップのクリップ・蛇管のクリップは確実に留められていなくてはなりません。HFNCは鼻カニュラの先端からのみ高流量のガスを供給する構造上、何かの拍子に鼻カニュラが外れてしまうと酸素の供給が一気に滞り、文字どおり命に関わります。この点は患者にもよく説明し、協力を依頼します(図2)。
〇 不快感などへの対応
HFNCについてよく患者から訴えがあるのは、「ガスが熱い」「ガスが口の中を通っていくのが不快」「音が気になる」などです。ガスの熱さについては温度調節を行い対応します。「口をどうしていたらいいのかわからない」という人もいるので、具体的な指示が必要であれば口を半開きにするよう伝えることが多いです。
誤嚥のリスクについては注意が必要です。40L/minの流量では健康な人でも誤嚥のリスクが増えるのではないか、という報告もあり1)、注意が必要です。一方で、経鼻胃管が入っている人についても、安定して使用することができます。
終了するタイミング
HFNCを終了するタイミングは、治療を開始したときから考慮しておくべきです。HFNCはデバイスの装着によって患者の自由を制限する治療であり、一方で呼吸不全の治療としては決して万能の治療ではないためです。
〇 挿管人工呼吸管理が必要な状況になったとき
悪化しつつある呼吸不全に対してHFNCを目的なく継続することは勧められません。非侵襲的換気(noninvasive ventilation;NIV)への変更、または挿管人工呼吸管理への移行が必要です。では、どのような場合に呼吸管理の移行を検討するのでしょうか。一例ですが、FIO2 0.6~0.7でも管理が難しいようであれば、呼吸管理方法の変更、または方針を再確認してもよいと考えられます。また、HFNCには基本的に患者の換気を補助する機能はないので、CO2貯留が進んだり、呼吸努力が強く見られたりする場合は、換気補助を行ってくれるNIVや挿管人工呼吸管理への移行が勧められます(後述の「アプローチの引き出しを増やす視点」参照)。
デバイスに対して不耐の場合も検討しておきましょう。治療開始後にせん妄や不穏、不快感によって装着できない場合、また装着による褥瘡の発生などがあり使用が難しい場合などです。特にせん妄などで頻回に自分からデバイスを外してしまう場合、HFNCのデバイスにはデバイスが外れていることを知らせるアラームが付いていないため、非常に危険です。この場合は、行動制限(身体抑制)を行うか、デバイスの変更を含めて呼吸管理の方法そのものを再検討しなくてはなりません。
〇 呼吸状態が改善したとき
患者の呼吸状態が改善した場合は離脱を検討します。離脱の具体的な数値や目安を研究した大規模な報告はありませんが、自身の中に基準を持っておくことは重要です。あくまで目安ですが、FIO₂ 0.3~0.35くらいでSpO₂ 88%が保てる(おおよそP/F比300以上)なら、十分に離脱を検討してよいと思われます。もちろんこの条件に従わずとも、病勢が回復傾向で患者本人の離床・リハビリテーションを優先したい場合に、より早期に離脱することは理にかなっています。施設内のハード面での制限(デバイス数が限られるなど)もあるでしょう。さまざまな要素を考慮する必要があります。
なお、患者の処置や移動、ケアなどのため、一時的にHFNCを中断しなければならない場面があるかもしれません。その場合は、SpO₂が指示範囲を保てるように、適宜、低流量デバイス(リザーバーマスクなど)に変更します。これも具体的な基準があるわけではありませんが、筆者は、ベッドサイドで試して問題がないことを確認してから移動やケアを行い、極力中断の時間は短くして1時間以内に抑えることを目安にしています。
アプローチの引き出しを増やす視点
挿管の基準(治療失敗)
日本においてNPPVとHFNCを比較した臨床研究2)では、挿管の基準(治療失敗)について、下記の要件を1時間以上満たした場合、としています。
Major Criteria(ひとつでも見られれば合致)
- 呼吸停止
- 意識障害を伴う呼吸の中断
- 循環動態の不安定化(血圧低下など)
- デバイスに対する不耐
Minor Criteria(2つ以上見られれば合致)
- FIO2 0.6以上でもSpO2 92%を保てない、またはベースラインのP/F比から30%以上の低下
- PaCO2が40mmHg以上かつベースラインより20%以上の上昇
- 意識障害(GCS 12点以下)
- 新たな呼吸促迫所見(呼吸補助筋の使用、奇異性呼吸)
- 呼吸数上昇(30回/min以上)
ここが強化ポイント
〇HFNCを開始するときは、急いでいても焦らず周囲のスタッフ(看護師、理学療法士、臨床工学技士)と十分に連携をとります。
〇HFNCを継続するときは、適切に装着・設定がなされているかを注意しておきます。
〇HFNCを中断するときはできるだけ短く、中止するときは何となくではなく、どんな条件がそろえばやめるかを常に考えておきます。
【 引用・参考文献 】
1. | Arizono, S. et al. Effects of different high-flow nasal cannula flow rates on swallowing function. Clin Biomech(Bristol, Avon). 89, 2021, 105477. |
2. | Nagata, K. et al. Continuous positive airway pressure versus high-flow nasal cannula oxygen therapy for acute hypoxemic respiratory failure : A randomized controlled trial. Respirology. doi: 10.1111/resp.14588. (Online ahead of print) |
提供元:みんなの呼吸器 Respica 2023 vol.21 no.6(メディカ出版)
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