特別企画

いま読みたい! 人工呼吸管理にまつわるギモン【人工呼吸管理/モード】
なぜ吸入気の加温加湿は37℃、相対湿度100%を目指すの?

  • 掲載:2025年10月
  • 文責:メディカ出版
いま読みたい! 人工呼吸管理にまつわるギモン【人工呼吸管理/モード】<br>なぜ吸入気の加温加湿は37℃、相対湿度100%を目指すの?

サクッとアンサー

  • 自然呼吸は空気が気道を通過する間に加温加湿され、気管分岐部付近では完全に加湿された状態[温度37℃、相対湿度100%、絶対湿度44mg/L]になります。これは、気管の線毛運動がはたらく上で最適な状態です。線毛運動は乾燥に弱いため、湿度の維持と体内の水分量を保つことが重要です。
  • 人工気道挿入中はチューブによって上気道をバイパスするため、自然呼吸と同等の温度や湿度を目指して加温加湿を行います。
  • 人工鼻と加温加湿器の選択は、喀痰や結露の状況など臨床的指標をもとにアセスメントし、使い分けます。

じっくりアンサー

気道の役割

私たちが普段何気なく行っている呼吸は、空気[温度22℃、相対湿度30%、絶対湿度6mg/L]が気道を通過する間に血管や粘膜によって加温加湿され、気管分岐部に達する頃には完全に加湿された状態[温度37℃、相対湿度100%、絶対湿度44mg/L]になります(図1)。


クリックで拡大 》

これは、気管の線毛運動がはたらく上で最適な状態です。線毛運動は乾燥に弱いため、湿度の維持と体内の水分量を保つことが重要です。

湿度の基礎知識

〇 絶対湿度(mg/L)と相対湿度(%)

湿度とは、空気中にどれだけ水分が含まれているかの度合いを数字で表したものです。このときの水分を「水蒸気(水が気体の状態)」といいます。湿度の度合いを表すのに「絶対湿度(mg/L)」と「相対湿度(%)」という2種類があり、天気予報などで使われる一般的な「湿度%」は相対湿度のことを指します。
絶対湿度(mg/L)は、空気1L中に含まれる水蒸気量のことで、温度が変化しても変わりません(図2)。


クリックで拡大 》

飽和水蒸気量(mg/L)は、その温度で空気1L中に含むことができる最大水蒸気量のことで、温度増加に伴い上昇します。相対湿度(%)は[絶対湿度÷飽和水蒸気量×100]で表され、飽和水蒸気量に対して空気中にどれだけの水蒸気量が含まれているかの割合です。気温30℃と15℃の場合では、同じ相対湿度(%)でも水蒸気量(=絶対湿度)が変化することになります。絶対湿度(mg/L)が一定の場合、温度の増加と共に飽和水蒸気量が上昇するため相対湿度(%)は低下します。

人工呼吸器やHFNC使用中の問題点

〇 温度37℃、相対湿度100%、絶対湿度44mg/Lを目指す理由

挿管や気管切開をしている患者は気管にチューブを挿入しており、上気道をバイパスすることで加温加湿機能は75%も低下1)します。また、人工呼吸器からの医療ガスは、低温で水分が限りなくゼロに近い乾燥した状態です。
自然の加温加湿機能を有する上気道を通過せずに低温のドライガスが直接患者の肺に送られると、生体ではどのようなことが起こるのでしょうか。気道粘膜から大量の熱と水分が奪われ、痰は固形化し、チューブ閉塞や無気肺が発生します。また、気道浄化機能が低下すると痰の排出が滞り、肺炎のリスクや気道抵抗の上昇に伴う呼吸仕事量が増加するおそれがあります。そもそも、気管にチューブを挿入すること自体が分泌物増加の一因となり、加温加湿の面では人工呼吸管理は不都合な点ばかりなのです。
また、高流量鼻カニュラ酸素療法(high flow nasal cannula oxygen therapy;HFNC)や非侵襲的陽圧換気(non-invasive positive pressure ventilation;NPPV)は上気道をバイパスしませんが、高流量の医療ガスを患者に送気するため加温加湿器を使用することが前提の機器です(図31)

図3

こちらに関しても、加湿不足は口・鼻腔粘膜の乾燥や気道抵抗の増加、患者の不快感などさまざまな弊害をきたします。
このことから、人工呼吸療法中や高流量酸素投与時は、自然呼吸と同じ状態[温度37℃、相対湿度100%、絶対湿度44mg/L]を目指した加温加湿が必要となるのです。

加温加湿器と人工鼻の使い分け

人工呼吸器管理中は加温加湿したガスを送るために、加温加湿器か人工鼻のいずれかを選択して使用します(図42)


クリックで拡大 》

加温加湿器は、チャンバーに入れた蒸留水を加温することで水蒸気を発生させ、流れるガスに温度と湿度を与え、37℃、相対湿度100%にして患者側へ送ります。
人工鼻は、患者の呼気に含まれる熱と水分を人工鼻にトラップし、次の吸気ガスに与えることで加温加湿を行う仕組みです。そのため、熱と水分の交換器(heat and moisture exchanger;HME)という略語で使用されます。人工鼻は絶対湿度34mg/Lの呼気を再利用して加湿することから水蒸気量はそれ以上にはならず、理想である絶対湿度44mg/Lには達しません。そのため、加湿効果は加温加湿器の方が優勢ですが、ETCO2モニターは水滴に弱いため人工鼻が有利となります。
使い分けはガイドラインによって異なります。それぞれのメリット・デメリットを踏まえ、患者の喀痰の状況や全身状態をアセスメントした上で選択します(表12)

表1

〇 両者の併用は禁忌!

人工鼻と加温加湿器は併用禁忌です。加温加湿器で発生した水蒸気が人工鼻にトラップされると人工鼻が水浸しになり、呼吸ができなくなります。また、人工鼻装着中のネブライザーも同様で、薬液が人工鼻に付着して目詰まりを起こし、空気が通過できなくなります。原因不明の換気量低下が起こり、見に行ってみると人工鼻と加温加湿器を併用していた、ということがあります。十分に注意しましょう。

加湿不足と加湿過剰時の対応

臨床では「痰が硬くて吸引しづらい」「回路内の結露が患者側に流れ込んで咳き込んでいる」といった声をしばしば耳にします。人工呼吸器やHFNC使用中は、加湿の過不足がないか、誰が見ても同様に評価ができることが求められます(表2、33、4)

表2
表3

〇 加湿不足時の対応

人工鼻使用中に加湿不足と判断すれば、加温加湿器に変更します。加温加湿器をAutoモードで使用中なら、設定をマニュアルに変更して対応します(図5)。

図5

また、加温加湿器の多くは自動給水システムを使用しており、蒸留水が空になることで加湿が不足している場合もあります。蒸留水の消費量は流量に比例して増加するため(表41)、残量をこまめに確認し空焚きにならないよう注意します。

表4

HFNCは人工呼吸器と同じ侵襲モード、もしくは温度37℃で使用しますが、患者が熱さを訴える場合は安易に温度設定を下げずに、頭頸部周囲や体幹のクーリングをすると不快感が緩和されます。機器の設定変更も大切ですが、患者の体温や脱水の状態などのフィジカルアセスメントや、患者の苦痛緩和がベッドサイドケアの基本となります。

〇 加湿過剰時の対応

加湿過剰のサインは、大量の結露と喀痰の粘稠度低下です(図6)。

図6

温度低下に伴い飽和水蒸気量が下がると、飽和水蒸気量を超えた分の水蒸気は水(液体)となり、これを結露といいます。結露の発生要因の一つは寒暖差で、湿度は関係しません。冬に寒い外気と暖かい室内の温度差によって窓に水滴がつくのと同じことが、人工呼吸器にも起こっているのです。
チャンバー内で最適な加温加湿状態のガスを作っても、室温が低いと回路内の温度が下がり、飽和水蒸気量以上の水蒸気は過剰な結露に形を変え、加温加湿不足のガスが送られてしまいます。特に、閉鎖式吸引システムの蛇腹部分や気管チューブ、HFNCのカニュラ部分は非加熱素材のため、温められていたガスが室温にさらされ温度が低下し、結露が生じやすいスペースになります。大量の結露は気道分泌物の増加や気道刺激による咳嗽を誘発したり、フローセンサーやETCO2の測定不良など、機器側へも悪影響を及ぼします。
過剰な結露対策には回路内の温度低下を防ぐことが重要で、病院で頻用されている熱線入り回路は、内側にヒーターワイヤーを入れることでガスを温める構造となっています。ほかにも、回路の外側にラップやタオルを巻き、熱を逃さない工夫をする施設もあります。医療品ではありませんが、患者・家族、医療者の負担軽減を目的として大学病院と共同開発された結露防止の製品もあります(図75)


クリックで拡大 》

【 引用・参考文献 】

1. Fisher & Paykel HEALTHCARE株式会社.MR850ご使用の手引き.
2. Fisher & Paykel HEALTHCARE株式会社.MR850詳細資料.
3. 磨田裕.加温加湿と気道管理 人工気道での加温加湿をめぐる諸問題.人工呼吸.27(1),2010,57-63.
4. Suzukawa, M. et al. The effect on sputum characteristics of combining an unheated humidifier with a heat-moisture exchanging filter. Respir Care. 34(11), 1989, 976-84.
5. HBサポート株式会社.FIT人工呼吸器回路カバー.
6. 清水孝宏編.一歩先を行く ICUナースの新スタンダード.東京,Gakken,2024,328p.

提供元:みんなの呼吸器 Respica 2025 vol.23 no.1(メディカ出版)

関連商品

関連商品はありません。

関連記事

関連記事はありません。

アイ・エム・アイ株式会社 IMI.Co.,Ltd

このページは、医療関係者の方へ弊社の販売する商品・サービスに関連する情報をご提供することを目的として作成されております。一般の方への情報提供を目的としたものではありませんので、あらかじめご了承ください。

あなたは医療関係者ですか?
TOPへ