赤外観察カメラシステム PDE vol.5 冠動脈バイパス手術中の血流評価
秋田大学大学院 医学系研究科 機能展開医学系 心臓血管外科学講座
教授 山本浩史先生
- 掲載:2015年08月
- 文責:クリティカル・ケア部
冠動脈バイパス術は冠動脈病変の先で血管をバイパスさせ、心筋への血流を増やす手術です。「PDE(浜松ホトニクス社製 赤外観察カメラシステム)」リリース当初より、PDEをご採用頂いております、秋田大学大学院 医学系研究科 機能展開医学系 心臓血管外科学講座 教授 山本浩史先生に、PDEの観察のポイント等についてお話を伺いました。
秋田大学大学院医学系研究科 機能展開医学系 心臓血管外科学講座 教授 山本浩史先生 ご略歴 |
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1983年3月 | 旭川医科大学医学部 医学科 卒業 | |
1983年6月 | 旭川医科大学医学部 第一外科勤務 医員 | |
1986年5月 | 国立循環器病センター 心臓血管外科 レジデント | |
1993年1月 | 旭川医科大学 第一外科勤務 医員 | |
1994年9月 | 旭川医科大学 第一外科勤務 助手 | |
1998年2月 | 旭川医科大学 第一外科勤務 講師 | |
2001年1月 | 秋田大学医学部 心臓血管外科学講座 助教授 | |
2014年5月 | 秋田大学医学部 心臓血管外科学講座 教授 | |
海外留学歴 | ||
1989年11月~1991年12月英国ロンドン大学 St. Thomas病院 Cardiovascular Research 研究員 | ||
学会専門医、資格 | ||
1) 日本外科学会 認定医、専門医、指導医 | ||
2) 日本胸部外科学会 認定医 | ||
3) 日本循環器学会 専門医 | ||
4) 3学会構成心臓血管外科 専門医、修練指導医 | ||
5) 臨床研修指導医 |
1.心臓外科手術について
Q: はじめに冠動脈疾患についてお話をお伺いできますでしょうか?
山本先生: 冠動脈疾患は狭窄や閉塞により心筋に血液が供給されなくなる病変です。外科的治療では狭窄や閉塞を生じている病変部位の末梢側に別の血管を使ってバイパスさせ、心筋への血流を増やす目的の手術を行います。当院では開存性がよい代用血管として動脈を積極的に取り入れてバイパス術を行っています。
Q: 冠動脈バイパス手術時に特に注意していることはなんでしょうか?
山本先生: 冠動脈バイパス手術時では吻合後にきちんとバイパスに血液が流れているか(虚血が生じていた心筋に正しく血流が送られているか)という点を注意しています。吻合部位が閉塞してしまい、きちんと血流が送られていないケースもあります。私たちはドップラー血流計と赤外線カメラPDEを用いて正しく吻合ができているか?閉塞していないか?確認するようにしています。
2.ICG蛍光法について
Q: ICG蛍光法はどのようなタイミングで具体的にどのように使用されているのでしょうか?
山本先生: ICG蛍光法はバイパスを作成後にICGを5㏄の注射溶液で希釈し(5㎎/ml)、1ml投与しています。冠動脈バイパス術では、人工心肺を用いるOn-Pump症例と、人工心肺を用いないOff-Pump症例がありますが、Off-Pump症例では中心静脈から、On-Pump症例では人工心肺のリザーバーより投与しています。投与後、数秒から十数秒後に、バイパスグラフト及び冠動脈の画像が、モニター上で得られます。
Q: PDEで観察中にどのような点に着目しているのでしょうか?
山本先生: バイパスを介して心筋組織に血液がどのように広がり、浸みわたっていくのか、その点を最も着目しています。
バイパスの血流の良し悪しについてはドップラー血流計を使用すれば、把握することができます。一方で、ICG蛍光法は血液が流れている、流れていないかの確認はできますが、現状では定量性に乏しく、どれぐらい流れているということを把握することはできません。
しかし、ドップラー血流計はバイパス内の血流のみを評価しており、側副血行や末梢冠血管抵抗の影響を受けますので、本来重要である心筋組織へ血液が十分に送られているかの評価は難しいと考えています。ICG蛍光法の利点としては、血流状態を面で捉えることが可能であり。どのように血液が分布しているか?バイパスから流入した血液が心筋組織にどのように広がり、浸みわたっていくか?既存の冠動脈からの流入が早いのか?バイパスからの流入が早いのかなどの様々な事を画像としてとらえることができます。
Q: 血流の分布状態に関してはCTなどを用いた冠動脈造影(冠動脈CT)等もありますが、それと比べたPDEの利点は何でしょうか?
山本先生: 確かに造影の精度、質、得られる情報量などはICG蛍光法に比べて冠動脈CTが優れています。しかし、冠動脈CTは動的評価ができませんし、術後状態が落ち着いた時期(術後1週間~10日程度)まで、待たなければなりません。
PDEの最大の利点は術中に簡便に血管造影ができることだと思っています。外科医は手術中に自分自身が行った治療の結果・効果をすぐに知りたいと思っています。問題があれば、その時点で対応ができるからです。そういった点でICG蛍光法を術中に実施することで安心感が異なってきます。
3.今後のICG蛍光法について
Q: 今後のICG蛍光法ついてどのようにお考えでしょうか?
山本先生: ICG蛍光法は様々な目的で使用できる可能性を秘めていると思います。心臓の血管に限らず、動静脈のシャント、ASO(閉塞性動脈硬化症)等の下肢血管の走行及び、組織血流の分布状態など、心臓血管外科分野でも多くの目的で臨床報告がされています。
しかし、現時点では流れている?流れていない?光っている?光っていない?ということしか判らず、PDEの画像を客観的に定量評価する術がありません。
私たちの使用方法においても、バイパスした血液がどのように心筋組織に浸みわたっているか画像解析等を行うことで定量化が可能となれば、今以上に治療の効果について、より正確に術中の判断をすることができるのではと思っております。
また、東北地方は高血圧に起因する疾患が多い地域で、時に急性大動脈解離による臓器灌流不全例も認められます。ICG蛍光法は、こうした疾患での応用も可能ではないかと考えており、新たな使用方法や活用方法についても今後検討していきたいと考えています。
この度はお忙しいところ、貴重なご意見を頂き、誠にありがとうございました。
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