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薬学部の新しい臨床教育
鈴鹿医療科学大学 薬学部薬学科教授 大井 一弥先生

  • 掲載:2009年12月
  • 文責:クリティカル・ケア部
薬学部の新しい臨床教育<br />鈴鹿医療科学大学 薬学部薬学科教授 大井 一弥先生

薬学部の新しい臨床教育

臨床現場で幅広く活躍できる薬剤師を育てる為に薬学教育6年制が2006年よりスタートしました。
これにともない、「よりベッドサイドに近い薬剤師」の育成とその取り組みが薬学の世界で始まっています。鈴鹿医療科学大学 薬学部薬学科教授 大井一弥先生は、学生の変化のみならず薬剤師を取り巻く環境自体が大きく変化していると考えています。
この変化した環境に対応できるだけでなく、真に「患者を治すマインド」をもった薬剤師教育が必要と考えられ、新たな挑戦を開始されています。大井先生が薬学部の臨床教育を積み上げる為に選んだ手法はシミュレーション教育の導入でした。
6年制がスタートしてからシミュレーション教育導入までを大井先生にインタビューしました。

 

大井一弥 先生 プロフィール

1986年城西大学薬学部薬学科卒業、同年三重大学医学部研究助手。1987年社会保険羽津病院薬剤部(現・四日市社会保険病院)、1998年薬剤部係長。2005年城西大学薬学部助教授。現在は鈴鹿医療科学大学薬学部薬学科教授。日本薬理学会学術評議員。三重薬学研究会顧問。薬学博士、ICD注)。専門分野:薬物治療学、腫瘍薬学、臨床薬理学。主な著書:「医療に貢献できる薬剤師:薬学的臨床研究のすすめ」(じほう)、「セルフメディケーション」(南山堂)など。
注)Infection Control Doctor

鈴鹿医療科学大学 

鈴鹿医療科学大学 薬学部(白子キャンパス)
〒513-8670 三重県鈴鹿市南玉垣町3500-3
TEL:059-341-0550

URL:http://www.suzuka-u.ac.jp/

 

 

 

薬学教育6年制がもたらした教育の変化

2006年より薬学教育6年制がスタートしましたが、教育現場では何か変化はありましたでしょうか?

 

大井先生

まず、6年制になりモデルコア・カリキュラム注)が分野ごとに策定されました。

また特徴として5年次にOSCE(調剤技能や態度を評価する臨床能力試験)、CBT(コンピュータを用いた知識と問題解決能力を評価する試験)に合格した者が、薬局と病院にそれぞれ11週間実習にいきます。実習までに基礎的な知識を学び、実習を通じて現場での経験を積みます。実習担当施設も指導項目が増えましたし、当然、我々教員の教育内容も増えました。

 

 

2年間、就学期間が増えたわけですから教員の方も大変でしょうね。

 

大井先生

例えば薬局でのセルフメディケーションやコミュニケーションを教えるコミュニティーファーマシー注)といった科目も増え、より細分化され専門性も増しています。しかし、年限延長した2年間を知識の詰め込みに終始してはいけません。薬剤師に求められているスキルとは、待ったなしの臨床で耐えうる素養を持っているかどうかです。なぜなら医療を取り巻く社会環境が大きく変化し、薬剤師の職能拡大が進み、求められるものも多様化しています。

 

注)医学教育モデル・コア・カリキュラム(平成19 年度改訂版)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/033/toushin/1217987_1703.html
注)コミュニティーファーマシー Community Pharmacy :地域薬局

 

臨床に近くなった薬剤師

以前は病院勤務の薬剤師と言えば、調剤室にいるというイメージがあるのですが、最近では臨床スキルの向上が求められているようですが、これは何故でしょうか?

 

大井先生

学生に実施したアンケートを見ても、「未だに薬剤師は調剤室にいる」というイメージを持っている学生が多いのは事実です。実際に、早期体験学習などで薬剤師が病院や薬局で活躍している姿を見て驚いています。薬剤師が患者さんの治療に参画しているという状況を鑑み、教育も当然変っていかなければなりません。

 

確かに、ここ最近は、病院経営の問題、医療事故など環境は様変わりしてきています。 これが関係しているということでしょうか? 

大井先生

もちろん薬剤師も例外ではありません。例えば、患者さんが薬に関して敏感になっていて、薬剤師に説明を求めてくる場面が増えてきています。薬の成分、副作用の情報をより詳しく知りたいという患者さんの声です。薬の説明に薬剤師が出ていく機会が増えたり、病棟に薬を届けたり、また副作用モニタリングを行う機会が著しく増えてきています。ひと昔前ですと、病院が処方した薬に対して説明を求める患者さんがいたでしょうか。少なかったでしょう。良い意味で患者さんの権利意識と薬に対する関心が高くなっています。薬局でも薬の成分が記載された情報提供書を添付してい ますね。 

 

そういえば、薬局にいくと薬の成分が記載された紙が入っています。インターネットでも薬の情報を提供していたりします。

 

大井先生

薬剤師の職域も増えており、その一つとして在宅患者さんの服薬指導といったものもあります。以前は比較的に容易に長期入院もできていたと思いますが、現在では診療保険体制も変り、在院日数が減らされる方向にあります。そうしますと、在宅患者さんが増え、中には知らぬうちに薬を多量に摂取してしまっているケースも出て きてしまいます。薬剤師が正しい服薬指導を行い、薬を整理してあげなければイベント注)につながる場合もあるのです。病棟では、感染制御や副作用対策など職能が拡大しています。これらが薬剤師に臨床スキルが必要だとされる理由のひとつと言えるでしょう。

 

注)薬を飲むことで、何か良くないことが起きてしまうこと。

 

薬剤師の臨床教育に高機能患者シミュレータ

鈴鹿医療科学大学薬学部で、高機能患者シミュレータECSを採用して頂いていますが、なぜ高機能患者シミュレータを導入されたのでしょうか?

 

大井先生

医学部には患者さんはいますが、多くの薬学部には患者さんがいないのです。臨床スキルを教えるのに、患者さん不在の教育で良いというわけにはいきません。
高機能患者シミュレータを導入したきっかけは、6 年制になって早期体験学習がスタートしたことです。
私が体験学習を担当する事になり、学生らを病院に連れて行きました。すると、数人は患者さんを見て、ショックを受け気分が悪くなったりするわけです。病院には重篤な患者さん、事故で救急に運ばれた患者さん、死期が迫り痩せ細った患者さんなどがいます。普段学生が接した事がない患者さんと接する事になるのです。患者さんといえば、「風邪や盲腸」といったイメージを持った学生が、真の臨床現場を見たことにより現実と認識のギャップにショックを受けてしまうわけです。
このようなギャップを少しでも埋めるためには、疑似体験であれ経験というものが必要になります。そう考えた時に高機能患者シミュレータがひとつの重要なツールになるのではないかと考えたのです。

 

高機能患者シミュレータを知ったきっかけを教えて頂けますでしょうか。

 

大井先生

九州福祉保健大学が現代GP注)で採択されたという記事を見て、高村教授注)にコンタクトさせて頂き、ベッドサイド実習室を見学に行きました。そこで高機能患者シミュレータを知りました。初めて見てみますと、これ(高機能患者シミュレータ)が薬学教育にも普及したらスゴイな、と思いました。
高機能患者シミュレータでは、薬剤の投与ができて、その後、バイタルサインが変化する様子を疑似体験できます。これが大事なのです。そういった知識は、フィジカル・アセスメントを行う看護師さんは体験を通して知ることができます。患者さんと接することが少ない薬剤師の場合、薬の種類と適切な投与量、及び、それらが人体に与える影響についてよく理解することが大切なのです。患者さんの様子やバイタルサインから薬の副作用の前兆を発見できるまでの教育が出来ればと考えています。このあたりも今後のシミュレーション教育に反映させていきたいと考えています。

 

実際に授業で使用されてみて、学生さんの反応は如何でしょうか。

 

大井先生

面白いと言います。教育効果の測定は、データを取り始めたばかりなのですが、従来の講義だけの教育より良い結果になると思っています。それよりも何より、学生に病んだ患者さんについて、講義で語り/理解させ/実感させる事は容易ではありません。
しかし、高機能患者シミュレータを使いますと学生のモチベーションは、必ず上がります。
「最近の学生は・・・」と感じている教員の方がいれば、使用してみては如何でしょうか。

 

注)現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)

http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/needs.htm

注)薬学部薬学科

 

シミュレーション教育の実施を検討されている施設に何かアドバイスがありましたら教えて頂けますでしょうか。

 

大井先生

薬学部にくる学生は、医師の壁というのを強く感じています。その彼等にシミュレーション教育を行いますと、一人二人は、医師の真似ごとではないかと言い出す学生がいるはずです。

彼等は疑問を少なからず持っているのです。そのため、まず講師自らシミュレーションを行う姿勢を示す事が必要です。そこから疑念を晴らすきっかけにして欲しいのです。
彼等が対患者さんの事を考えるマインドを養うきっかけになります。そのマインドを持っていない学生は、臨床に立たざるを得ない場面に出くわした際、躊躇してしまうでしょう。今は、臨床教育を行ったか否かによって、将来、学生に格差が出てきてしまうのではないかを非常に気にしています。

 

シミュレーション教育の課題があるとすれば、どういった事が考えられますでしょうか?

大井先生

シミュレーション教育を行うには、少人数が向いているのではないかと考えています。マンモス校と呼ばれる学校では教育方法に少し工夫を加える必要があるかもしれません。私の場合、例えばアナフィラキーショックのシミュレーションを約100 名に行っているのですが、これ以上、学生が増えると大変ですね。あとはシミュレーション教育を重要だと考える教員の人数が少ないのも今後の課題です。

 

シミュレーション教育の将来について、何かお考えでしょうか?

 

大井先生

将来は高機能患者シミュレータを学外にオープンにしようと考えています。
学生にシナリオを作成させるのも面白いかもしれません。学生自身が自ら考え、行動することにより学ぶ事も大きいと思います。学生が臨床スキルを少しでも身に付け、現場で活躍できるようにしたいですね。薬学部の学生についての進路ですが、卒業後必ずしも薬剤師になるわけではありません。
しかしながら一度は薬剤師として現場に立ってほしいものです。それが薬学部を卒業したスキルとして認められる事になるからです。その後、色々な進路に進むにしても高機能患者シミュレータを使用した教育は、必ず役に立つと思います。

 

大変貴重なお話をお聞かせ頂き、ありがとうございました。

 

(2009.12.15 鈴鹿医療科学大学薬学部にて)

 

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