急速輸液装置 SL One®の導入及び使用について
大分大学医学部附属病院 麻酔科学講座 助教 甲斐 真也 先生
- 掲載:2026年01月
- 文責:急性期ケアエリアチーム
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大分大学医学部附属病院 麻酔科学講座 助教 |
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| 甲斐 真也 先生 | |
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| [ 大分大学医学部附属病院 webサイト ] https://www.med.oita-u.ac.jp/hospital/ | |
大分大学医学部附属病院(大分県由布市)は、地域における高度医療を担う中核的存在です。今回は、麻酔科に所属する甲斐先生に、手術室における急速輸液装置の活用方法についてお話を伺いました。
大分大学医学部附属病院についてご紹介ください。
当院は、安全で安心できる医療の提供、高度医療人の育成、そして医療の未来を切り開く研究を一体的に推進する、全国に設置された42の国立大学医学部附属病院の一つです。
周産期から高齢期まですべての患者様に安全で安心できる医療を提供しています。
病院理念を達成するために、普段からどのようなことに取り組まれていますか?
当院は、「患者本位の最良の医療」を基本理念に掲げております。
この理念を達成するための基本方針として、「患者本位の医療を実践する。」「医療の質及び安全性の向上に努める。」「医学、医療の発展と地域医療の向上に寄与する。」「教育、研究、研修の充実を図る。」「病院の管理・運営の合理化を推進する。」ということを常に意識し、日々取り組んでおります。
貴院の大量出血対応についてお伺いします。急速輸液装置の使用症例は、年間にどの程度ありますか?
年間の使用症例はおよそ100例程度です。具体的には、開心術や腹部大動脈瘤の心臓血管手術で使用しています。当院では心臓血管手術を行う専用手術室を3室備えており、SL One®は週に2回程度(月に約8回)、主に月曜日と水曜日の手術日に加え、その他の手術でも取り入れています。心臓血管手術では、SL One®を含めた輸液ポンプをルーチンで使用しておりますが、すべての心臓血管手術が大量出血を伴うわけではありません。それ以外の場面では、緊急時の外傷など急速輸液・輸血が必要な際にも使用しています。
SL One®をお知りになった経緯を教えてください。
これまで輸液ポンプは3台体制で運用していましたが、そのうちの1台が故障したため、大量輸血時に使用できる機器を探していたところ、SL One®を発見しました。SL One®は急速輸液装置として正式に認められており、大量輸血時に使用が可能であることから、導入を検討することにしました。
危機的出血への対応ガイドラインについて
2025年4月に改訂された「危機的出血への対応ガイドライン※」では、急速輸液・輸血装置に関する章が設けられています。現在販売されている機器には、「(1)加圧式」と「(2)ポンプ式」の2種類があることが記載されており、SL One®はポンプ式に該当する機器として位置づけられます。
※公益社団法人 日本麻酔科学会と一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会が制定した危機的出血への対応ガイドライン。「関連診療科・部門との多職種連携の重要性」や「指揮系統の確立」、「急速輸液・輸血装置」などの項目が紹介されています。
PDFリンク
SL One®を初めて見た時の印象と実際の使用感をお聞かせください。
初めはセッティングに手間がかかりそうな印象がありました。実際は、ガイダンス画面に操作手順が表示されるため、セッティングはそれほど難しくありませんでした。
【SL One®ガイダンス画面】
SL One®をご採用いただいた理由は何でしょうか?
採用理由の一つは、安全性の高さです。従来使用していた輸液ポンプでは、エアが送られるリスクや気泡検知機能の不具合、過敏な反応による頻繁な停止など、使用上の問題がありました。
SL One®にはエアトラップ機能が搭載されており、エアを患者側へ送り込む心配がありません。さらに、自動でエアを除去する仕組みも備えています。こうした仕組みによる安全性の高さが大きな魅力だと思います。
具体的な運用方法について教えてください。

組み立て時
当初は臨床工学技士(CE)に組み立て方法を習得していただき、CEとともに組み立てを行っていました。しかし、急患対応時に医師自身が対応できない状況では支障をきたすため、医師も組み立てを行うようにしました。
現在では、ガイダンス画面を活用しながら、医師が自ら組み立てを行っています。
輸液時には、輸液操作も問題なく実施できています。
手術中
出血時や心肺離脱時など、ボリュームが必要な場面では、20~40mL/分や場合によってはそれ以上の 50~60mL/分といった流量で使用することもあります。この範囲であれば通常は十分に対応可能です。
出血が予想される手術では、基本的にSL One®をあらかじめ接続しておき、特に心臓手術ではルーチンで使用しています。通常は維持輸液として使用しますが、多くの場合輸血が必要となり、流量を上げる場面も少なくありません。そのため、急速輸液および輸血に備えて常に対応できる体制を取っています。
当院の手術室では、出血リスクが高い症例が多いため、SL One®の使用は非常に有用です。
SL One®は、0.2mL/分~の維持輸液と、500mL/分の高流量送液に対応できます。その他には、加温機能、送血圧異常を防ぐ定圧制御、気泡除去機構などを備えています。
ポンピングと比較したSL One®の評価をお聞かせください。
ポンピングでは、輸液時に人手を要し、輸液速度にも限界があるかと思います。
特に、大量出血時には、ポンピングによる対応では輸液が間に合わず、低血圧が進行して臓器障害や、最悪の場合は心停止を引き起こす危険性もあります。その点、SL One®の導入により大量出血時のリスクを大幅に軽減できると考えています。
また、人力でのポンピングには常に人員を確保する必要があり負担が大きいため、心臓手術や重症症例の多い大学病院においては、大量出血時にも対応できる機器が必要であると感じています。
実際にSL One®をご使用いただいた感想を具体的な症例とともに教えてください。
【現病歴】
70代 男性
20XX年に大動脈弁形成術を施行し外来follow中であった。その後、心エコーで重症の大動脈弁狭窄症および冠動脈狭窄を認めたため、20YY年に大動脈弁置換術・冠動脈バイパス術を行う方針となった。
【麻酔・手術経過】
麻酔導入・維持はレミマゾラム、レミフェンタニル、ロクロニウムで行った。再手術ということもあり、人工心肺離脱後の止血に難渋し、出血量が増加し、血圧が低下した。出血に対し赤血球濃厚液(RBC)6単位、新鮮凍結血漿(FFP)8単位、クリオプレシピテート12単位、血小板濃厚液(PC)20単位を輸血した。その後、出血は落ち着き、バイタルサインも安定し、手術は終了。鎮静・挿管下でICU入室となった。
【術後経過】
手術当日に抜管し、翌日から食事開始。軽度の酸素化低下は認めたが、全身状態は安定しており、術後2日目にICU退室となった。
【SL One®の使用について】
本症例では再手術ということもあり、上記のように大量の輸血が必要となった。特に人工心肺離脱直後は出血により血圧が著明に低下した。あらかじめ末梢静脈ルート18Gに接続したSL One®から最大40mL/分の輸血を速やかに行うことで、大量出血に対応できた。また高流速であるが、気泡除去機構が適切に機能し、安全かつ有効に高流速輸血を行うことが可能であった。
輸血の対応で意識されていることはありますか?
バイタルサインを安定して維持することが最も重要であり、そのためには十分な輸血を行うことが不可欠です。組織内での酸素運搬を適切に保つためにも、循環血液量を常に意識しながら管理しています。
最後に、SL One®の今後に期待することがありましたらお聞かせください。
リザーバに貯留した液体は破棄することも可能ですが、途中で別の輸液に切り替えることはできません。例えば、リザーバにRBCを貯めていた際に、RBCの投与が終わる前に急遽FFPの投与が必要となった場合、混合(ミキシング)を行わざるを得ません。途中で輸液内容を変更したい際には、リザーバ内に残っている液体をどのように処理するか悩むことがあります。
この点が改善され、途中で輸液内容を柔軟に切り替えられるようになれば、さらに使いやすい機器になると思います。
貴重なお話を伺うことができました。お忙しい中インタビューにご協力いただきありがとうございました。






