IMI WEBセミナー 「明日から使える人工呼吸器管理の基本 ~循環器疾患編~」ご報告 及びオンデマンド配信のご案内
- 掲載:2025年02月
- 文責:急性期ケアエリアチーム

2024年12月4日(水)に開催されたIMI WEB セミナー 明日から使える人工呼吸器 管理の基本~循環器疾患編~を開催いたしました。
本セミナーでは、心肺相互作用の理解を中心に、循環器疾患におけるNIVを含む人工呼吸器管理の基本とトラブルシューティングについてご講演いただきましたので、内容を一部抜粋しご紹介いたします。
IMI WEBセミナー「明日から使える人工呼吸器管理の基本 ~循環器疾患編~」ご報告
日時 : | 2024年12月4日(水)19:00~20:00 |
---|---|
会場 : | Zoom オンライン |
演題 : |
明日から使える人工呼吸器管理の基本 ~循環器疾患編~ |
演者 : |
鍋島 正慶 先生 |
はじめに
呼吸不全と心不全は相互に関連していることは良く知られており(図1)、心不全は肺水腫を惹起し、肺水腫は心機能の低下を引き起こすという症例を医療従事者の多くが経験する。そのため、人工呼吸器管理を行う際には呼吸状態だけではなく、循環状態も併せて評価する必要がある。

心不全急性期の治療目的
心不全急性期の治療目的は①心臓の負荷を減らす②心拍出量を増やす③肺水腫を改善することである。
心不全への人工呼吸器管理を解説する前に、まずは心不全治療の理解に必要な要素を紹介する。
心拍出量
心不全急性期の治療では心拍出量を増やすことが重要である。心拍出量は前負荷と後負荷と心収縮力の影響を受ける。
前負荷と後負荷
心不全の治療を行うためには「前負荷」と「後負荷」を理解する必要がある。
この2つを理解するためには心臓と肺を「回路」と「空間」という2つのコンセプトで考えることが重要である。
回路
心臓と肺は1つの回路になっており、右心系から拍出された血液は肺循環を通って左心系に通じており、左心系から拍出された血液は全身をめぐり右心系に戻ってくる(図2)。

空間
心臓と肺は胸郭という1つの空間を共有している。
通常であれば心腔内は陽圧であり、胸腔内は陰圧である。1つの空間を共有しているため互いにその影響を受けている。

前負荷
そもそも前負荷とは、心臓が収縮する直前にかかる負荷のことで、右心系では静脈還流、左心系では右心系から肺を通って左心系に戻ってくる血液量を指し、肺に陽圧がかかると静脈還流は低下し、陰圧がかかると静脈還流は増える。(図4)

後負荷
後負荷は心臓が収縮した後に心臓にかかる負荷を指し血管抵抗の影響を受ける。つまり、右心系は肺血管抵抗、左心系は全身血管抵抗の影響を受ける。肺血管抵抗は肺が虚脱しても過膨張になっても高くなり、低酸素でも肺血管抵抗は高くなる。
心不全では肺水腫による虚脱や低酸素により肺血管抵抗が高くなる(図5)。

呼吸が与える後負荷への影響
また、胸腔内と心腔内に圧較差がある場合、後負荷は高くなる。例えば、自発呼吸が行われると横隔膜が収縮して胸腔内は陰圧となるが、心腔内は陽圧であるため圧較差が生じ後負荷は高くなる。
反対にPEEPや陽圧換気は胸腔内を陽圧にす るため、心腔内と胸腔内の圧較差が下がり後負荷は低くなる(図6)。

つまり、肺水腫や低酸素の影響により肺血管抵抗が高くなっている心不全患者にとってPEEPや陽圧換気は前負荷の軽減だけでなく、ガス交換の改善による肺血管抵抗が低下および、圧較差の是正により後負荷の軽減効果も期待できる。
しかし、PEEPや陽圧換気がすべての患者に良い影響を与えるわけではない。例えば、右心不全、肺高血圧、心タンポナーデ等、PEEPや陽圧換気を行うことで前負荷がなくなる患者や、後負荷が高すぎる患者である。これらの患者にPEEPや陽圧換気を行う際には注意深く観察を行う必要がある。
心不全の治療戦略
心不全の治療戦略については通常酸素療法から始め、呼吸困難感の持続や呼吸数の上昇等がみられた場合、NIV(Non-invasive Ventilation)を選択することが多く、忍容性が得られなければHFNC(high flow nasal cannula oxygen)の使用を検討する。また、重度のショックやNIVやHNFCで酸素化が保てない場合は気管挿管を選択する(図7)。
本稿ではNIV、人工呼吸器管理、HFNCの治療戦略について解説を行う。

NIV
人工呼吸器管理の適応については「MOVES」が広く知られているが 、NIVの適応についても「MOVES」を参考にしている(図8) 。

NIVが心不全患者に提供できるサポートはMOVESのうち、「酸素化(O)」と「換気不良(V)」、「心室のサポート(V)」である。また、これら以外の項目でサポートが必要な場合は気管挿管を選択する。
換気モードは、CO2が貯留している場合はBiLevelを選択することが多いが、忍容性の高さやPEEPによる換気の改善を期待してCPAPから開始することも多い。CPAP、BiLevelの開始時設定と目標を図9に示す。

NIV開始後は、忍容性、呼吸状態、循環動態を確認しながら、FiO2はできるだけ低く設定する。
CPAPは2cmH2Oずつ上げていき10cmH2O程度を目標にする。
PS(pressure support)は換気量が過剰にならないように注意をしながら⊿Pが 15cmH2Oを超えない値で設定する。
NIVを成功させるには患者の忍容性を高めることが重要である。患者の忍容性を高めるためには、開始前や直後に充分に説明を行い、開始時はまず 用手的にマスクを付け 、強く固定しすぎないなど、いかに患者が安心して快適に過ごせるかが重要である。
リークについてはミストリガーがなければ許容する(図10)。

人工呼吸器管理
心不全の人工呼吸器管理は一般的な人工呼吸器管理と変わりはない。挿管直後は筋弛緩剤を使用しているためアシストコントロールを選択する。従圧式と従量式については施設で使い慣れているものを選択すれば良い。
ショックなどの状態が改善し自発呼吸が出現すればVILIや過剰な吸気努力を避け、VAPやストレス性潰瘍、VTE、ICU-AWの予防など並行して実践する。
人工呼吸器の開始設定を図11に示す。陽圧換気のリスクが高い患者の場合はPEEPと吸気圧は低めに設定し、換気量が4-6ml/kgになるように調整を行う。

人工呼吸器からのウィーニング
循環動態や呼吸状態が改善してくれば、SpO2が92-96%を保てるようにFiO2を下げていき、次に状態を観察しながらPEEPを2-3cmH2Oずつ下げていく。PEEP 4-5cmH2O、FiO2 30-40%まで下げることができれば抜管を検討する。再挿管のリスクが高い患者には抜管後の呼吸管理はNIVを選択する。
当施設では抜管時も「MOVES」に従い評価を行っている(図12)。
SATは「意識障害(M)」、SBTは「酸素化(O)」と「換気不良(V)」に該当する。抜管後には「喀痰(E)」の評価も忘れずに行う必要がある。

ウィーニングに伴う肺水腫(WiPO)
WiPO(Weaning-induced pulmonary edema)は人工呼吸器からのウィーニング過程で発生する肺水腫であり、心疾患など体液量過剰状態の患者に多くみられる。WiPOはウィーニングや抜管失敗の原因の1つである。WiPOを予防するためにはハイリスク患者には抜管後にNIVを使用する。NIVが使用できない患者には抜管前にTピースを使用し抜管可能か評価を行う。
HFNC
HFNCは通常酸素と比べて死亡率は低く、NIVと同等の効果があるとされているが、2024年12月現在では明確なエビデンスはまだ確立されていない。当施設ではNIVの忍容性がなく、低酸素のみが問題となる場合に使用することが多い。
まとめ
循環と呼吸は相関関係があるため心不全はもちろんのこと、他の疾患の呼吸管理でも循環に与える影響を考慮しながら人工呼吸器管理を行う必要がある。
IMI WEBセミナー「明日から使える人工呼吸器管理の基本 ~循環器疾患編~」
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配信期間:2025年1月10日(金)~ 2026年1月9日(金)18:00
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