IMI WEBセミナー 「~賛否両論~ 人工呼吸療法における自発呼吸は残すべき?」 ご報告 及びオンデマンド配信のご案内
- 掲載:2024年11月
- 文責:カスタマーソリューション推進部
2024年10月3日(木)にIMI WEB SEMINAR Respiratory seminar2024 Vol.1を開催いたしました。
練馬光が丘病院 総合救急診療科 集中治療部門より片岡先生を演者にお迎えし、「~賛否両論~ 人工呼吸療法における自発呼吸は残すべき?」という演題でご講演いただきましたので、ご報告申し上げます。
IMI WEBセミナー「~賛否両論~ 人工呼吸療法における自発呼吸は残すべき?」
オンデマンド配信のご案内
当セミナーはご参加いただいた皆様からのご要望を受け、オンデマンド配信を行います。
この配信が、少しでも人工呼吸療法に関わる方々のお役に立てれば幸いです。
―オンデマンド配信 視聴方法―
下記URLより視聴登録をお願いいたします。
https://form.k3r.jp/imi_co_ltd/20241003jihatuonline
お申込み時のメールアドレスへご視聴用リンクをお送りいたします。
配信期間:2024年11月1日(金)~ 2025年10月30日(木)18:00
IMI WEBセミナー「~賛否両論~ 人工呼吸療法における自発呼吸は残すべき?」ご報告
日時 : | 2024年10月3日(木)19:00~20:00 |
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会場 : | Zoom オンライン |
演題 : |
~賛否両論~ 人工呼吸療法における自発呼吸は残すべき? |
演者 : |
片岡 惇 先生 |
自発呼吸の生理学について
- 呼吸ドライブが呼吸筋に伝わり、呼吸努力を生み出す。
- 呼吸筋が収縮し、胸郭が広がり胸腔内圧が陰圧になる。
- 気道に空気を通す力と肺を広げる力が生まれる。
ARDS患者ではなぜ自発呼吸が強くなるのか?
ARDSは背側肺が虚脱し、正常に換気できる腹側肺が小さくなる(baby lung)。
呼吸はメタボリックハイパーボラ(青)とブレインカーブ(黒)の交点が40になるように調節されており、呼吸ドライブの指示で6L/分の換気が行われる。
健康肺の場合、呼吸ドライブの指示(ブレインカーブ)と呼吸筋(ベンチレーションカーブ「赤」)が生み出す力が一致している。
ARDS肺の場合、コンプライアンスが低下し、呼吸ドライブの指示通りに肺が膨らまない(ブレインカーブとベンチレーションカーブが一致しない)。結果CO2の値が上昇し、それを感知した脳がより大きな力で肺を広げようとする。
またARDSでは代謝性アシドーシス・痛み・不安・炎症・低酸素により、PaCO2のセットポイントを下げる動きが生じる。さらに死腔換気の増加やCO2の産生量増加に伴い、大きな呼吸ドライブが発生する。
これがARDS肺かつ炎症のある急性期患者さんの病態で起こる、著明な自発呼吸努力が発生する生理学的な理由。
一番重要なポイント:呼吸器システム(コンプライアンス/気道抵抗)の悪化は、ブレインカーブとベンチレーションカーブのズレによって大きな呼吸ドライブが生み出されることを理解すること。
強い自発呼吸は何を引き起こすのか?
① 肺全体の過伸展
強い自発呼吸は大きな1回換気量を生み出し、volutraumaやbarotraumaを引き起こす。また自発呼吸により、気道内圧よりも高い圧が肺にかかっている可能性がある。
経肺圧(PL)=気道内圧(Paw)―胸腔内圧(Ppl)
重症患者さんにおいて、より重症かつ肺に障害を負っていればいるほど、強い自発呼吸(大きな経肺圧)によって肺が障害される(two-hit-theory)。
② 背側肺の局所的な過伸展
ARDS患者さんでは、浮腫の影響で背側により強い陰圧が生じやすくなっている。この不均一性によって腹側から背側に空気が移動するPendelluft現象が起こる。
これにより障害されている背側がより傷つくのではないかといわれている。
たとえ換気量を制限していたとしても、空気の移動により背側が大きく膨らみ局所的な過伸展が生じてしまう。
③ 肺水腫の増悪
強い自発呼吸は肺灌流を増加させ、経血管圧の上昇を招くことで肺水腫を引き起こすと考えられている。
これら強い自発呼吸は悪循環を引き起こし、肺を障害していく。(P-SILI)
④ 人工呼吸との非同調
強い自発呼吸は人工呼吸との非同調を引き起こす(ダブルトリガー/サギング)。従量式換気の場合、ダブルトリガーの発生により設定の2倍の換気量が供給されるため、肺障害を引き起こすと考えられる。
⑤ 肺胞虚脱
呼気努力の強い患者さんは、腹筋を収縮させることで腹部臓器を圧迫する。これにより肺胞が虚脱する可能性がある。
自発呼吸を抑えるためには?
① なぜ患者さんの吸気努力が強いのかを考える
- 呼吸器システムの異常(コンプライアンスの低下/気道抵抗の上昇)
- 代謝性アシドーシス
- 鎮痛/鎮静のコントロール不足
- 発熱
- 低酸素状態
- 死腔換気の増大
② 鎮静による呼吸努力の抑制
- オピオイドによる鎮痛管理は呼吸回数を下げる呼吸抑制が働くが、薬理学的に呼吸努力を下げる作用はない。
もしオピオイドで吸気努力が収まった場合は、疼痛がコントロールされた結果として呼吸努力が収まったと考えられる。
オピオイドの過剰な投与は呼吸回数の低下と1回換気量の増加を招く。 - ベンゾジアゼピン・プロポフォールは呼吸中枢を抑える効果はあるが、デクスメデトミジンは鎮静作用のみで呼吸抑制の作用はない。
③ 筋弛緩薬の使用
ACURASYS TRIAL(2010年)でP/F比<150の患者さんに48時間筋弛緩薬を使用する群と使用しない群を比較し、90日死亡率が使用群で優位に下がったという 結果が発表された。これにより、臨床現場で筋弛緩薬が使われるようになった。特にP/F比<120ではしっかり死亡率が改善されるというデータが出ている。
④ 高いPEEP
横隔膜が収縮し難くなり、吸気努力が抑制される。また酸素化やコンプライアンスの改善でも吸気努力が減少する可能性がある。
自発呼吸を残すことのメリット
- 背側の虚脱肺を広げるので酸素化が改善するかもしれない
- 自発呼吸を維持することで、横隔膜萎縮の予防ができるかもしれない
- 筋弛緩薬を使用しないことでICU-AWを防ぐことができるかもしれない
横隔膜の観察
横隔膜の動きが弱い場合、萎縮してしまう。また、動きが強すぎると、横隔膜に障害を引き起こしてしまう。どちらも人工呼吸期間の遅延を招く。適切な形で自発呼吸を残し、適切な換気を維持することが、最も人工呼吸期間を短縮する。
近年、肺保護換気と共に横隔膜保護換気(横隔膜の萎縮や障害を防ぐ)という考え方が提唱されている。
「自発呼吸を消すこと」をルーティンで行うのではなく、適切な呼吸努力かどうかを考えた上で、自発呼吸をできるだけ残す管理を行った方が良いという流れが生まれてきている。
ただし、まず優先すべきは肺保護換気。人工呼吸関連肺障害やP-SILIは死に直結するため、しっかりモニタリングしていく必要がある。
肺保護換気を達成していても制御すべきHigh respiratory driveとは?
① Pes(食道内圧)
生理学的に最も信頼に値するのは胸腔内圧で、測定により≒の値が得られる食道内圧がゴールドスタンダードと言われている。気道内圧-食道内圧=経肺圧となる。ΔPesやΔPL-dyn(経肺圧)は吸気努力の指標として使われている。
② P0.1(吸気開始後0.1秒の気道閉塞圧)
- 閉塞させずに自動測定する機種では過小評価する可能性があるので注意が必要
- P0.1は吸気ドライブの強さを感知しているといわれている
- P0.1とΔPesは強い呼吸努力があれば一致するといわれている
③ ΔPocc(MPI/NIF)吸気ポーズ時の自発呼吸による気道内圧変化
食道内圧測定ができない場合の手法の一つ。ΔPes≒0.66×ΔPocc
参考になる研究では、NIVで管理する急性呼吸不全患者さんのΔPesもしくはΔPL-dynを高い群・低い群で比較し、2時間後のΔPesが<10cmH2Oの患者さんではNIV成功を高い閾値で予測するという結果が出ている。(Am J Respir Crit Care Med. 2020 Aug 15;202(4):558-567)
またCOVID-19の挿管患者さんでP0.1を測定し、呼吸不全が再発するかを調査した研究では、P0.1の閾値が4を超えると再発率が上がるという結果が報告されている。(Am J Respir Crit Care Med. 2020 Oct 15;202(8):1173-1178)
ARDSに対する筋弛緩薬についてのuncertain evidence
肺保護換気を鎮静やPEEPを高めて達成できなければ、筋弛緩薬使用は妥当だと思うが・・
- カットオフのP/F比<150は妥当か?
- 持続時間の「48時間」は妥当か?
- 腹臥位療法との併用が有効か?
- 必要最低限の筋弛緩薬とする手法は?
- 肺保護換気を達成していても制御すべき強い自発呼吸の指標は?
⇒何が正解かまだわからない。わからないので自発呼吸を残すべきかどうかは賛否両論となっている。
まとめ
- 強い自発呼吸はそれによって肺障害(P-SILI)を引き起こす
- なぜ強い自発呼吸が生じているかをベッドサイドで考えることが大事
(肺メカニクスの異常、低酸素、鎮静・鎮痛の必要性、発熱、代謝性アシドーシスなど) - 自発呼吸を残すメリットもある!
- 適切な自発呼吸モニタリングが大事(P0.1≦4cmH2O、ΔPes≦10-15cmH2O)
ARDS患者さんの自発呼吸について、呼吸生理から呼吸努力が増加する機序、強すぎる自発呼吸の弊害や管理方法などを大変分かりやすくご講演いただき、学びの深まる機会となりました。