特定行為研修制度で 看護師の働き方はどう変わる?
~呼吸療法認定士かつ、特定行為研修を修了した看護師の取り組み~
- 掲載:2023年05月
- 文責:メディカ出版
鹿児島大学病院 救急病棟
特定看護師(呼吸器3区分修了)
3学会合同呼吸療法認定士
西村広宣
Nishimura Hironobu
〇看護経験年数 13 年
〇受講を修了した特定行為区分
- 呼吸器(気道確保に係るもの)関連
- 呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連
- 呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連
〇実践でよく行う特定行為
- 侵襲的陽圧換気の設定変更
- 人工呼吸器からの離脱
- 人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量の調整
特定行為研修の受講
受講した経緯、きっかけ
看護師として病院へ入職してまだ新人だったころ、重症肺炎患者のA さんを担当することになり、それが呼吸ケアに関心をもつきっかけとなりました。ある勤務帯でAさんの担当をしていたときのことです。
Aさんは痰が多く、SpO2が70%台まで低下していました。顔色が悪く呼吸も浅く、意識は朦朧としていました。そのAさんに、先輩看護師が体位ドレナージと吸引介助を施行したところ、SpO2は90%台まで回復し顔色も改善していきました。
そのとき、先輩看護師と行った呼吸ケアで良くなっていく患者の姿をみて、呼吸ケアのやりがいや呼吸ケアの力を感じました。同時に、知識や技術の未熟さから自分はAさんに何もできなかったという不甲斐なさも感じました。「同じような状況になった患者に対して、今度は自分が呼吸ケアの知識や技術をもって苦痛を緩和させられるようになりたい。」Aさんを通して体験したその思いが、呼吸ケアを極めていくうえでの自分の礎となっています。
その後、呼吸器内科のある病棟に所属し、率先して呼吸ケアを実践していきました。さらに質の高い看護を提供したいと思っていた矢先に、特定行為研修修了者(以下、特定看護師)の呼吸分野の取得を上司に勧められました。当院で特定看護師を育成する研修が受講できたこともあり、アクセスがしやすかっ たことも受講の助けとなりました。
大変だったこと、研修を通して得た気づき
勤務をしながらの1年におよぶeラーニングを含む研修は、仕事との両立のため休日にも受講する日々が続き、とても大変だった記憶があります。また、研修では膨大な知識が求められ、自分の未熟さを痛 感する日々でした。一緒に研修を受けた受講生同士、ここを乗り越えて特定看護師になって活躍していこうと共に励まし合い、無事に研修を修了することができました。
研修を通して知識が身についてくると自信にもつながり、経験や立場の異なるほかの受講生からも多くのことを学びました。また、研修の内容は呼吸の知識だけでなく医学知識全般に及び、実践の現場で統合的に患者の状態を評価していくための必要な知識やアセスメントについて学ぶ機会にもなりました。
特定行為研修の修了後
現在、どのような場面で特定行為を活用しているか
現在は救急病棟に所属していますが、救急患者のほかに、脳神経外科・消化器外科の術後で人工呼吸管理を行っている入院患者に対しても、主治医から手順書を発行してもらい特定行為を実践しています( 図1 )。
人工呼吸器を早期に離脱できるよう、【侵襲的陽圧換気の設定の変更】【人工呼吸器からの離脱】【人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量の調整】といった特定行為の介入を主に行っており、以下のような実践事例を経験しました。
事例実践
食道がん術後で人工呼吸管理中の患者に対して、主治医より【侵襲的陽圧換気の設定の変更】【人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量の調整】の手順書が発行されました。覚醒後の抜管に向けて鎮静薬の調整を行ったところ指示動作や自発呼吸が出現し、人工呼吸器の設定を変更しウィーニングを図りました。特定行為後のバイタルサインの悪化はなく、患者の呼吸状態や血液ガスのデータをみながら特定行為を実施し、抜管可能な状態までもっていきました。主治医に患者の状態を報告して無事に医師が抜管することができました。その後も鎮静薬の調整により、創部痛などの訴えもなく経過することができました。
人工呼吸管理中の患者は鎮静薬を使用している場合がほとんどであり、抜管のためには人工呼吸器の設定を変更するのと同時に、鎮静薬を調整して覚醒を図り自発呼吸がしっかりできるように調整していきます。その際、患者が苦痛なく抜管できるようサポートしていくことが特定看護師の役割の一つと考え取り組んでいます。
修了後、自身の働き方がどう変わったか
以前は、人工呼吸器を装着している患者が人工呼吸器の設定が合わずに苦痛を訴えていたときに、すぐに設定の調整をしたくても資格がなく、またアセスメントにも自信が持てない部分もあり、患者を楽にしてあげたいという思いはあっても実行に移せないジレンマを感じていました。主治医からの指示がなければ対応すらできず、主治医がほかの患者の手術や処置に追われているときなどどうすることもできません。
呼吸分野の特定行為研修を修了したことで、手順書の範囲内で主治医が到着するまでの間に設定変更ができるようになりました。いち早く介入できることで、患者の苦痛を最小限にするための関わりができているのではないかと感じています。今では呼吸のフィジカルアセスメントなども意識して、医学的知識をふまえて統合的に患者をとらえて看護することができるようになりました。スタッフへの指導も自分の知識や技術をふまえて、より深く患者を捉えられる指導方法に変化したように思います。
特定行為の実践において気をつけていること
特定行為は、対象が看護師の診療の補助を行わせる患者の病状の範囲内であると判断したときに主治医から手順書を発行してもらい実践していくのですが、その際は患者から離れず、状態のモニタリングはもちろん、表情や呼吸パターン、皮膚の状態変化などにすぐに気づけるように対応しています。患者の状態が手順書から逸脱したときにはすぐに医師へ相談し、判断を仰いでいます。
特定行為を実施した後にはスタッフにその旨を知らせ、なぜ変更する必要があったのかを理解してもらい、変更後の患者状態で注意すべきポイントを伝えるようにしています。チームで患者をみるという意識で多職種と連携を図り、相談しながら安全な医療を提供するよう心がけています。特定看護師のメンバーの一人として、“患者の苦痛を早く取り除く” ことを最大の目標として日々活動しています。
呼吸療法認定士の資格があることによる違い、活動の広がり
呼吸療法認定士を取得したことで、呼吸ケアについて学生や新人看護師への講義を任されることになり、自分の得た知識を伝える機会が得られました。実践の現場でも、自分が中心となって呼吸ケアのカンファレンスを開催するようになり、酸素療法や呼吸ケアにかかる知識や技術を実践に活かせる取り組みができるようになりました。
また、呼吸療法認定士を取得する過程で呼吸に関する酸素療法、吸入療法、人工呼吸管理なども学んでいたため、特定行為研修に取り組む中で大いにその知識が役に立ちました。
特定看護師になったことで、現場での特定行為が実践できるようになったことはもちろん、特定看護師としてスタッフにアドバイスする機会や勉強会の活動が増えたように思います。血液ガス分析の見方や人工呼吸管理の看護など、当該領域の分野をさらに深めた勉強会を開催することができるようにもなりました。
多職種との協働の変化
特定看護師になる前に比べて医学的知識が増した分、患者の病態やアセスメントをふまえて、担当医と治療の方向性について情報交換をする機会が増えたと思います。その情報を病棟スタッフで共有してタイムリーに看護が提供できるようになり、医師と看護師の架け橋的役割を果たせているのではないかと思います。
また、早期離床を進める過程において、理学療法士の役割は非常に重要となります。体位ドレナージやポジショニングなど積極的に取り組んでもらい、そうした患者の状態を理学療法士と評価して情報を共有し、離床が早く進むよう協働しています。現在は、特定看護師としての知識や技術でもって、医師や理学療法士とも協力して呼吸ケアを行っています。
今後の課題、展望
団塊の世代が全員75歳以上となる2025年に向けてさらなる在宅医療等の推進を図っていくためには、個別に熟練した看護師のみでは足りず、医師または歯科医師の判断を待たずに、手順書により、一定の診療の補助を行う看護師を養成し確保していく必要があることから、特定行為研修制度は創設されました。看護師一人ひとりの質の高い看護の実践が求められており、自分で考えて、行動できる看護師を育成する必要があります。特定行為における看護師の役割や実践内容について、勉強会を開き、実際に現場のスタッフに呼吸ケアのアセスメント方法を指導するOJTを行うなど、スタッフの育成に力を入れていきたいと考えています。
現在は救急病棟での活動が主ですが、院内で横断的に活動している特定看護師と協働して当院全体で特定行為を実践し、患者の苦痛緩和を第一に活動の場を広げていきたいと考えています。将来的には、在宅で呼吸ケアを必要とする患者に介入し、苦痛を緩和して安楽な環境を提供していける存在になることが目標です。
提供元:みんなの呼吸器 Respica 2022 vol.20 no.6(メディカ出版)
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