NPPVとハイフローセラピーの比較【総論】NPPVとハイフローセラピーの基本と役割分担
- 掲載:2024年09月
- 文責:メディカ出版
1分サマリー
侵襲的人工呼吸と標準的酸素療法の間を埋めるものとして、NPPVに加えハイフローセラピーが登場した。
厳密な使い分けが難しい領域も多く残されており、それぞれの侵襲度の違い、施設の習熟度、患者の希望などの要素を加味して使い分ける。
エビデンスで割り切ると、急性 I 型呼吸不全ではCPAPが最も優れ、急性 II 型呼吸不全では換気補助のあるNPPVが最も優れ、慢性 II 型呼吸不全では在宅NPPVと在宅ハイフローセラピーは共に推奨される。
NPPVとハイフローセラピーの最近の動向
非侵襲的陽圧換気(NPPV)が開発されたのはおおよそ30年以上前であり、COPD増悪や急性心不全などにおけるNPPVの有用性が確立したのはもはや20~30年前のことです。一方、ハイフローセラピー/HFNC(〔high flow nasal cannula oxygen therapy〕など多くの表記がありますが、本稿では “ハイフローセラピー” で統一します)は約20年前に誕生し、エビデンスが確立する前にその有用性に気づいたエキスパートのもとから、ここ10年ほどで一気に臨床の現場に普及した感があります。
多くの医療従事者は、 I 型呼吸不全でも II 型呼吸不全でも、急性呼吸不全でも慢性呼吸不全でも、最重症例では侵襲的人工呼吸を行い、軽症では標準的酸素療法(鼻カニュラや酸素マスクなど)を行い、その間を埋めるものとしてNPPVが存在し、NPPVの牙城にハイフローセラピーがどこまで食い込めるか、ハイフローセラピーによりNPPV同様に気管挿管を回避できるのか・・・・・・という構図で物事を理解されているのではないかと思います。
〇 COVID-19がもたらしたもの
2019年末からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックは、われわれ呼吸不全を扱う医療従事者にとっては大いなる挑戦となりました。NPPVやハイフローセラピーは当初、感染管理上は邪魔者扱いされ、一時は「NPPVなんて二度と使えないのではないか」とさえ思ったものです。しかし、世界中から果敢にCOVID-19症例にNPPVやハイフローセラピーを使用した事例やランダム化比較試験(RCT)が多数発表され、COVID-19症例の救命や挿管回避にこれらが有用であること、感染管理はツボを押さえておけば思ったより安全であることなどが次々と明らかになり、結果的には呼吸管理のエビデンスはCOVID-19のおかげで10年は進歩したとまでいわれるようになりました。
本稿ではNPPVとハイフローセラピーの違いを概説し、あらゆる使用局面においてこれまでわかっているエビデンスの概略を解説し、本特集のこの後の各論への橋渡しをすることを目標とします。
NPPVとハイフローセラピーの違い(メリットとデメリット)
ここであらためて、NPPVとハイフローセラピーの違いについてまとめてみましょう1、2)。「比べてわかる! NPPVとハイフローセラピー」をご参照ください。
NPPVはその名のとおり非侵襲的と思われていますが、それはあくまでも気管挿管による人工呼吸と比べての話です。実際には、ハイフローセラピーと比較するとマスクの圧迫感、鼻根部潰瘍、発声や食事の不自由さ、口腔内ケアの際には着脱を要するなど侵襲度は高く、看護ケアは比較的手厚く必要になりますし、在宅導入にあたってはそれなりの教育を要します。
一方で、ハイフローセラピーと比べてNPPVは、より確実な換気補助とより確実なPEEPが得られるというメリットがあり、病態によって厳密な換気補助とPEEPを必要とする際にはNPPVの方が確実な効果を期待できます。
エビデンスに基づいて両者を使い分けるのが望ましいですが、多少手間がかかっても厳密に換気補助とPEEPを必要とする際にはNPPVを、より手間がかからず低侵襲なデバイスが望まれるときや、単に高い吸入酸素濃度や気道加湿が目的の際にはハイフローセラピーを選択する、という使い分けが現実的だと考えられます。各施設の習熟度によっても使い分けの比重が変わることはあると思われます。
NPPV/ハイフローセラピーの禁忌、リスク
まず両者に共通した特徴は、気道確保できていないので生命維持装置ではないということと、患者の協力がないと継続できないという点です。この点から容易に想像できますが、両者に共通する禁忌は、呼吸停止、気道確保できない場合、昏睡など意識レベル高度低下、非協力的で不穏、循環動態不安定もしくは心停止などであり、さらに顔面の外傷・火傷・手術などでデバイス不耐などは相対的禁忌~適応注意と考えられます1)。
ハイフローセラピーは特有の禁忌やリスクが比較的少ないデバイスです。それがゆえに、侵襲的人工呼吸と標準的酸素療法の間を埋めるNPPVに変わり得るものにならないか、という思いから急速に普及が進んでいる側面があると思います。
NPPVは生命維持装置ではありませんが、重篤な呼吸不全や末期呼吸不全の患者に装着すると、その換気能力とPEEP効果に患者が依存状態になり、離脱困難を招き半ば生命維持装置のようになってしまうケースがしばしば見られます。そうなると、長期間のマスク圧着などから鼻根部潰瘍を起こすなどのリスクが生じます。重篤な呼吸不全や末期呼吸不全で気管挿管が前提ではない患者にNPPVを装着する際は、長期にわたりマスクが外せなくなるリスクをよく説明しておく必要があります。
アプローチの引き出しを増やす視点
早めの注水ボトル付け替えを心がける
なお、これは実際に使用した患者にしかわからないことですが、ハイフローセラピー使用中に加温加湿器の水が切れると、そのときの流量にもよりますが1分以内に乾いたフローが吹き込んできて鼻腔が激烈に痛くなるそうです。自動注水が切れて加温加湿器が空焚きになる前に「カチッ」という音がして、同時に刻々と鼻腔が乾燥して痛くなるといいます。注水ボトルを使い切って自動注水が切れ、さらに加温加湿器の液面が下がって加温加湿器が停止するまで待つのではなく、早め早めに注水ボトルを付け替えるようにしましょう。
NPPVとハイフローセラピーの適応と使い分けに関するエビデンス
それぞれの引用文献の詳細と解説は本特集の各論に譲るとして、エビデンスに基づいた各場面でのNPPVとハイフローセラピーの使い分けを[表]に示します。
〇 急性 I 型呼吸不全
急性 I 型呼吸不全においては、NPPVとハイフローセラピーについての質の良いRCTが5つは引用できます。換気補助ありのNPPVとハイフローセラピーの比較をしたFLORALI試験3)とCOVID-19対象のNairらのRCT4)では挿管率も死亡率もハイフローセラピーの方が良い、もしくは良い傾向が示されていますが、NPPVをCPAPモードにすると、COVID-19対象で実施されたCOVIDICUS試験5)では結論は出ず、日本で実施されたJaNP-Hi trial6)ではCPAPがHFNCより挿管率が低く、COVID-19対象のRECOVERY-RS試験7)では、HFNCではなくCPAPのみ標準的酸素療法より挿管率が低いという結果でした。総じて急性 l 型呼吸不全では(換気補助のあるNPPVではなく)CPAPがハイフローセラピーより挿管回避に優れると考えられます。
ARDSの研究(LUNG SAFE試験8))でP/F比150未満ではNPPVは侵襲的人工呼吸と比べて予後が悪いことが知られており、P/F比150~300がCPAPの良い適応であり、P/F比150未満は侵襲的人工呼吸、P/F比300以上は標準的酸素療法でよいと考えられます。なお、P/F比150~300でHFNCを実施してはいけない、という話ではなく、患者の希望、原疾患、ケア度、医療機関の各デバイスの習熟度などによって最適なものを選べばよいと考えます。
〇 急性 II 型呼吸不全
急性 II 型呼吸不全のエビデンスは主にCOPDで構築されてきました。NPPVが標準的酸素療法よりも挿管回避や死亡率低下に優れることは、すでに10以上のRCTの裏付けがあり、20年以上前に確立した話です。ハイフローセラピーについては、挿管率や死亡率といったハードアウトカムをエンドポイントにしたRCTはまだ少なく、ほかのエンドポイントを検証した試験を含むメタアナリシスが乱立している状況です。しかし、最近になりハードアウトカムを検証するためのハイフローセラピーと標準的酸素療法を比較した質の良いRCTが2つ中国から相次いで発表され、pH 7.35以上の高二酸化炭素血症を伴うCOPD増悪で治療不成功率が減少するという報告9)と、挿管基準達成率は改善しなかったという報告10)で意見が割れています。今後ハードアウトカムをエンドポイントにしたNPPV vs ハイフローセラピーのRCT(非劣性試験)が発表予定であり、結果が待たれます。
なお、急性 II 型呼吸不全におけるNPPVの効果を検証したRCTの組み入れ基準や実際の患者のpH実測値は、おおむねpH 7.25~7.35です。pH 7.25未満は侵襲的人工呼吸、pH 7.35以上は標準的酸素療法で、間をNPPVが埋めると考えてください。ただし、これはあくまでもエビデンス上の話であり、習熟した施設で気管挿管スタンバイでpH 7.25未満にNPPVを実施したり、挿管を希望しない患者でpH 7.25未満でもNPPVを実施することは当然あり得ますし、pH 7.35未満でもNPPVを希望しない患者でハイフローセラピーを導入することはしばしばある話です。
〇 慢性 II 型呼吸不全
慢性 II 型呼吸不全における在宅NPPVは、高二酸化炭素血症を伴うCOPDで導入すると、挿管率は減少し、入院や死亡率も概して減少傾向になることから、最近のATSガイドラインでもメタアナリシスの結果を載せて推奨しています11)。在宅ハイフローセラピーについては、高二酸化炭素血症を伴うCOPDで導入するとCOPD増悪が減少することが日本より示され12)、今後の普及が期待されます。慢性 II 型呼吸不全における在宅NPPVと在宅ハイフローセラピーの比較試験は存在しません。
COVID-19に対するNPPV/ハイフローセラピー
急性 I 型呼吸不全のところでも話しましたが、COVID-19による呼吸不全に対してもNPPVやハイフローセラピーは挿管回避などの効果が示されており、治療効果という点からは推奨される呼吸管理です。ただし感染管理が必要です。
日本で汎用される厚生労働省の手引きでは、NPPVやハイフローセラピーは周囲に対する飛沫感染のリスクがあるので、陰圧個室もしくはレッドゾーンに隔離し、患者が治療に協力的で(ハイフローの上からサージカルマスクをつけるなど)、医療従事者がエアロゾル対策が可能(個人防護具装着)であれば、まずはハイフローセラピーを考慮し、続いて必要ならフィルター付きCPAPやNPPVも許容しています13)。これらが困難な場合には気管挿管による人工呼吸を勧めています。
いずれも各施設での設備や人員状況、習熟度などに応じて現実的な対応が求められます。
ここが強化ポイント
〇エビデンスだけではなく、それぞれの侵襲度の違い、施設の習熟度、患者の希望などの要素を加味して使い分けることが重要です。
〇NPPVとハイフローセラピーは生命維持装置ではなく、導入には患者の協力が不可欠です。
〇ハイフローセラピーの加温加湿器は水切れ前に早めに補充することを忘れないようにしましょう。
【 引用・参考文献 】
1. | 日本呼吸器学会NPPVガイドライン作成委員会編.NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)ガイドライン.改訂第2版.東京,日本呼吸器学会,2015,157p. |
2. | 西村直樹.ハイフローセラピーの原理と効果,エビデンス.みんなの呼吸器Respica.18(6),2020,732-7. |
3. | Frat, JP. et al. High-flow oxygen through nasal cannula in acute hypoxemic respiratory failure. N Engl J Med. 372(23), 2015, 2185-96. |
4. | Nair, PR. et al. Comparison of High-Flow Nasal Cannula and Noninvasive Ventilation in Acute Hypoxemic Respiratory Failure Due to Severe COVID-19 Pneumonia. Respir Care. 66(12), 2021, 1824-30. |
5. | Bouadma, L. et al. High-Dose Dexamethasone and Oxygen Support Strategies in Intensive Care Unit Patients With Severe COVID-19 Acute Hypoxemic Respiratory Failure. The COVIDICUS Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 182(9), 2022, 906-16. |
6. | Nagata, K. et al. Continuous positive airway pressure versus high-flow nasal cannula oxygen therapy for acute hypoxemic respiratory failure: A randomized controlled trial. Respirology. 2023 Aug 30. doi: 10.1111/resp.14588. Epub ahead of print. |
7. | Perkins, GD. et al. Effect of Noninvasive Respiratory Strategies on Intubation or Mortality Among Patients With Acute Hypoxemic Respiratory Failure and COVID-19. The RECOVERY-RS Randomized Clinical Trial. JAMA. 327(6), 2022, 546-58. |
8. | Bellani, G. et al. Noninvasive Ventilation of Patients with Acute Respiratory Distress Syndrome Insights from the LUNG SAFE Study. Am J Respir Crit Care Med. 195(1), 2017, 67-77. |
9. | Li, XY. et al. High-Flow Nasal Cannula for Chronic Obstructive Pulmonary Disease with Acute Compensated Hypercapnic Respiratory Failure: A Randomized, Controlled Trial. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 15, 2020, 3051-61. |
10. | Xia, J. et al. High-flow nasal cannula versus conventional oxygen therapy in acute COPD exacerbation with mild hypercapnia: a multicenter randomized controlled trial. Crit Care. 26(1), 2022, 109. |
11. | Macrea, M. et al. Long-Term Noninvasive Ventilation in Chronic Stable Hypercapnic Chronic Obstructive Pulmonary Disease. An Official American Thoracic Society Clinical Practice Guideline. Am J Respir Crit Care Med. 202(4), 2020, e74-e87. |
12. | Nagata, K. et al. Home High-Flow Nasal Cannula Oxygen Therapy for Stable Hypercapnic COPD: A Randomized Trial. Am J Respir Crit Care Med. 206(11), 2022, 1326-35. |
13. | 厚生労働省.新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き.第9.0版.2023.https://www.mhlw.go.jp/content/000936655.pdf〔2023. 9. 9〕 |
提供元:みんなの呼吸器 Respica 2023 vol.21 no.6(メディカ出版)
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