当院における急性呼吸不全に対する体外式人工呼吸器 (BCV):
RTX®の使用経験
~RTX®に関する温故知新:古き良き時代を振り返る
- 掲載:2024年11月
- 文責:メディカ出版
人工呼吸管理の歴史
初期の人工呼吸は1838 年にスコットランドのJohn Dalziel らによって行われた「箱型人工呼吸」であり、患者は密閉された箱形の人工呼吸器に座り、首から上を箱から出し、ふいごを用いて人力で陰圧を発生させて呼吸を行わせるものであった(図1)。 その後、1900年前半までは人工呼吸といえば陰圧式人工呼吸器が主流であった。
1920 年代にタンク型陰圧式人工呼吸器が開発・実用化され、1928 年にDrinker とShawにより有名な「鉄の肺」と言われる陰圧式人工呼吸器が開発1され、1950 年頃に始まったポリオの世界的大流行の際に大活躍した(図2)。
しかし、ポリオパンデミックでは機器の絶対数が見合わず、緊急避難的に施された気管切開チューブを介したバッグ換気による陽圧人工呼吸が多くの患者を劇的に救命した。その結果、その後の人工呼吸管理といえば、気管挿管をして間欠的に陽圧を加えて肺を内側から膨らませる換気法や、マスクで陽圧をかける非侵襲的陽圧換気(noninvasive positive pressure ventilation;NPPV)などが主流となっている。
換気という呼吸運動そのものを補助する単純で生理的かつ非侵襲的な陰圧人工呼吸は、陽圧人工呼吸が席捲した中でもなおヨーロッパを中心に細々としかし連綿と使われ続けた。
そして1990年代にHayekらにより、胸腹部を覆うキュイラスが開発され、その内部の圧を陰圧または陽圧に変化させることによって胸郭を可動させ、非侵襲的に人工換気を行う体外式人工呼吸器(biphasic cuirass ventilation;BCV)が開発2された。
BCVは主に横隔膜を動かす呼吸補助を特徴とし、持ち運びのよさや着脱の簡便さから、RTX®(United Hayek, UK)(図3)という名で陰圧人工呼吸器の臨床使用が再び始まった。
図3:初期のThe Hayek oscillator*と現在のRTX®
*Woollam CH. The development of apparatus for intermittent negative pressure respiration. (2) 1919-1976, with special reference to the development and uses of cuirass respirators. Anaesthesia. 31(5), 1976, 666-85.より引用
BCVの作動原理
陰圧人工呼吸の作動機序と利点
人間の生理的な呼吸である陰圧呼吸は、呼吸筋の収縮・伸展により横隔膜を引き下げ、胸腔内圧を陰圧にして肺を膨らませることで行われる。陰圧人工呼吸は、体外から胸郭と横隔膜に直接陰圧を付加し、胸郭可動域を拡げて胸腔内圧を下げることによって二次的に肺気量を増大させる。前述したタンク型陰圧式人工呼吸器では、全身を覆うタンク内部を持続的に陰圧にすることで呼吸補助を行う(continuous negative pressure;CNP、持続陰圧)。呼気終末陽圧(positive end expiratory pressure;PEEP)に対し、呼気終末陰圧(negative end expiratory pressure;NEEP)と捉えるとわかりやすい3、4。
陽圧人工呼吸は、設定した換気量や気道内圧を機器から直接肺に供給するため確実性が高い反面、陰圧呼吸とは異なる様式であり、両側下肺野背側の無気肺や圧損傷による気胸が報告されている5、6。一方、陰圧人工呼吸は気管挿管・気管切開を必要とせず、より生理的な呼吸様式であるため、陽圧人工呼吸で問題となる合併症はきわめて起こりにくい。
臨床におけるBCVの使用場面
1980 年頃から神経変性疾患を中心とする慢性呼吸不全にBCV が再び使用されるようになり7、その後は、筋萎縮性側索硬化症、間質性肺炎、急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)8、9、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease;COPD)の急性増悪10、心原性肺水腫11などの急性呼吸不全時や侵襲的人工呼吸管理との併用時にも使用されるようになった12。また、小児呼吸不全13や在宅での使用14など、現在その使用は多岐にわたっている。 BCVの直接的な胸郭の縮小・拡張作用から、呼吸筋のストレッチ効果や用手的に代わる呼吸介助効果など、呼吸理学療法的な有効性も考えうる。
RTX®の特徴
RTX®は最大キュイラス内圧±50cmH2O、換気回数6~60回/min、IE比1.0:6.0~6.0:1.0の陽陰圧を加えることで、強制換気モードや自発呼吸にトリガーする同調モードによる呼吸補助が可能である。さらに、気道内の分泌物を排出させるcough(擬似咳)モードや、240~1,200回/minの高頻度振動換気(high frequency oscillatory ventilation;HFOV)によって、末梢気道から上気道までの分泌物(secretion)を剝がし、除去(clearance)することができるsecretion clearanceモードを装備したため、気道のクリアランス(排痰補助)が可能となった。
RTX®に搭載された5つのモードの特徴を表にまとめた。それぞれの特徴を踏まえて、適正な場面で適切なモードを使い分けることでこの機器の特徴を遺憾なく発揮できるものと考える4。
表:RTX®の操作モード
禁忌・禁止症例
RTX®は、皮下脂肪が多い肥満体型や胸郭変形、腹部術後のドレーン留置例などでキュイラスがきちんと装着できない場合には、その効果が期待できない可能性がある。侵襲性が低く優れた換気方法であるが、上気道が開存し自発呼吸がしっかりしていること、キュイラスの装着が可能な胸郭であること、装着を嫌がらないことなどがその導入にあたっての必要条件となる。
*導入時の留意点
筆者らは体位ドレナージを意識して積極的に患側を上側にした側臥位でsecretion clearanceモードを施行していたが、自力排痰能が途絶している症例では口腔外に排泄できずに下側の健側肺に流れ込むことがしばしばあった。そのため、そのような症例では、RTX®施行中は適宜、喀痰吸引が必要である。
RTX®の臨床応用
ここでは以下の2つに絞って解説する。
①排痰促進を目的とした呼吸理学療法補助としての応用
secretion clearanceモードは、胸部に高頻度振動を与え、痰を気管支壁・肺内で移動させ、陽圧(=擬似咳)を加えて喀出させることを目的としている。このモードによる排痰はいわゆる高頻度胸壁振動法(high frequency chest wall oscillation;HFCWO)15の一つであり、振動により、痰や異物を気管・気管支壁から剝がし、剝がれた異物を擬似咳により上部気道まで押し上げることが可能となる。閉塞性肺炎8、喀痰排出困難による無気肺16に対してはvibrationモードの有効性が報告されており、今までは急性期にICUで行うことが多かったが、現在では使用の簡便性や適応疾患の拡大に伴い、一般病棟での使用が急激に増加している。
②陰圧を生かした呼吸リハビリテーションへの応用
間質性肺炎や胸壁疾患などの拘束性換気障害患者に対するリハビリテーションとしてBCVを使用した研究では、6分間歩行、Borgスケール、QOLの改善ならびに、一秒量および努力肺活量を含む肺機能の改善を認めたと報告している17。
また、RTX®は吸気筋を他動的に伸展できる機器であり、胸郭可動域の増大により呼吸困難感を改善させることが報告18されている。最近では、RTX®装着下での運動(エルゴメーター)負荷において、respiratory synchronizedモードの換気補助により呼吸仕事量が軽減され、呼吸困難感を減少させる可能性も報告されている19。
ほかにも、COPDや肺がん術後、陳旧性肺結核による慢性呼吸不全、二次性肺高血圧患者に対するBCVの使用(controlモード)により肺循環機能改善を認めたという報告もある20。
当院での施行例
①HFNCとRTX®の併用で気管挿管を回避し、ADL回復と早期自宅退院を達成した症例
高齢者の肺炎球菌性重症肺炎に対してNPPV使用下で肺炎の悪化を認め、高流量鼻カニュラ酸素療法(high flow nasal cannula oxygen therapy;HFNC)とRTX®を併用することで気管挿管を回避し、ADL回復と早期自宅退院を達成した症例を経験した21。
当院では当初、呼吸器内科とリハビリテーション科でのみ施行していたが、上記の症例以降、その有効性を認識した他科の医師が次々と使用したことで病院全体へと広がり、排痰を目的としたRTX®の使用が格段に増えた。今では医師の指示で、一般病棟では看護師が主体で施行する状況であり、各病棟間でRTX®を使用する時間の調整を行うなどのやり取りがなされるほどである。
②ToiletingにRTX®を併用し、より効果的な吸痰が行えた症例
さらに、挿管人工呼吸管理中の患者の気管支鏡によるtoileting(気道内吸痰)にRTX®を併用することで、より効果的な吸痰が行えることを経験している。
肺炎治療に対する理学療法としてのRTX®の有効性
これらの使用経験を踏まえて筆者らは、高齢者肺炎における呼吸リハビリテーションの一環としてRTX®を治療応用できると考え、肺炎治療に対する理学療法としてのRTX®の有効性を検討して報告した22。RTX®の設定は全例一律とし、vibrationモードは回数600cpm、陰圧-20cmH2O、時間1分間で、coughモードが回数50cpm、陰圧-20cmH2O、陽圧15cmH2O、吸気呼気時間比(I:E比)6:1、時間1分間を1セットとして、3~5サイクル行う設定とした。キュイラスは患側を上とした側臥位で装着し使用することで体位ドレナージと併用し、両側性の肺炎に対しては仰臥位で装着した。
その結果、以下の4項目がRTX®を使用した肺炎症例の治癒に関連する因子であることが示唆された。
- ①CAPもしくはNHCAPである
- ②経過中の血清アルブミン最低値
- ③肺炎のX線画像所見がconsolidation(浸潤影)主体
- ④血清CRP値が高値でも治療により早期に改善する
- CAP;community acquired pneumonia(成人市中肺炎)
NHCAP;nursing and healthcare associated pneumonia(医療・介護関連肺炎)
RTX®に関するこれまでの報告では、無気肺のような分泌物による閉塞性要素のある病態に対してsecretion clearanceモードでRTX®を使用すると、理学療法効果がより高いことが予測され、そのような症例においてはconsolidationをきたす可能性が高いと考えられた。実際に、本検討では改善群の全てが濃いconsolidationをきたしている症例であり、非改善群ではすりガラス影の症例が多かった(p=0.008)。
なお、基礎研究では喀痰排出には200~1,000cpmの振動回数が必要であり、600~800cpmの振動が痰の性状を変え、線毛運動を促進させ、最大で340%の排痰量を得たという報告がある23。また、口腔からよりも胸郭を介した振動の方がより効果が高いと報告24されているため、これらを参考にして設定を行い治療にあたった。
まとめ
StillerによるICU患者への呼吸理学療法のレビュー25でも、理学療法のstrong evidenceとして急性肺葉性無気肺や肺病変が片側性であるものを挙げており、体位変換や気管吸引処置などによる無気肺の改善が報告されている26。secretion clearanceモードは原理的には理学療法の一種であり、同様にこれらの病態の改善に寄与する可能性がある。
症例報告ベースでは、RTX®施行中は換気量が約300mL増加し、RTX®を中止しても100~200mL増加したという報告27があり、胸郭の揉みほぐし効果28などの排痰促進以外の効果も推測されている。継続的なRTX®の実施は従来の陽圧換気にはない直接的な呼吸筋トレーニングになり、呼吸リハビリテーション的効果が得られる可能性29も示唆されている。
より生理的な「陰圧」による人工呼吸療法を実現するRTX®は、着脱が比較的簡便で、幅広い臨床応用が可能な機器である。2024年には、このRTX®の後継器として、アイ・エム・アイ社からTCV-100Kが発売された。Made in Japanで表示が日本語に対応したほか、操作もタッチパネル化され、使いやすさが向上している。興味のある方はぜひ販売店にお問い合わせいただきたい。この製品が、ICUなどの急性期病棟のみならず、一般病棟や在宅医療でも幅広く活用され、恩恵を受ける患者の層が広がっていくことを期待する。
【 引用・参考文献 】
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