アジア看護シミュレーション事情 ~興隆するアジアのシミュレーション・センターの今!~
- 掲載:2011年11月
- 文責:救急・教育部
御存じ無かった方も多いかもしれません。本年10月15日(土)・16日(日)の両日、アジアで初めての看護シミュレーション・コンフェレンスが開催されました。会場はマレーシアの首都クアラルンプール南東約80kmに位置するニライ大学。
国内外を含め300人以上の参加者を集め、看護シミュレーション教育に関する講演、ワークショップ。更には、高機能患者シミュレータを使用した看護対応コンペティションなど、たくさんのプログラムが行われました。
兎角、「高機能患者シミュレータ使用した看護教育」といえば欧米に目が行きがちです。確かに米国の多数の州では看護学生病院実習の一部を高機能患者シミュレータ使用の研修で置き換える事を認めています。また英国看護協会によるOSCEでは、高機能患者シミュレータが使用されています。
ただ、アジア諸国を侮ってはいけません。高機能患者シミュレータを使用した看護教育に限定すれば、はるかに日本の先を行っています。「ウッソー」と思われる方も多いかもしれません。そこで今回はアジアの看護シミュレーション教育施設の一部を御紹介したいと思います。
台湾の医学・看護シミュレーションの歴史は浅く、シミュレーション・センターも現状では3-4カ所にとどまります。
但し、シミュレーション教育に対する意識はにわかに高まっています。
Mackay Memorial Hospitalは約130年前にカナダの宣教師により設立されました。現在の病床数は2000。病院のワンフロアーを全てシミュレーション・センターとして使用しています。シミュレーション用ルームは合計6室。専任スタッフ4名を擁し、Mackay院内の研修のみならず周辺病院のシミュレーション教育も一手に引き受けています。
しかも、外部施設による同病院のシミュレーション・センター使用は無償。センター長の王明淑氏は「確かにシミュレーション・センターの設立、維持には金がかかるが、医療事故発生による人的・経済的損失と比べれば、較べようもない。病院全体、地域全体として積極的にシミュレーション教育に取り組んでいる」と述べています。
使用予約リストを見せて頂きましたが、確かに使用予約は数カ月先までいっぱい。手技トレーニング用各種シミュレータの他に、高機能患者シミュレータを複数台揃え、受講者のレベル・教育目的に沿って部屋・シミュレータを使い分けているとのことです。
インドネシア厚生省(Ministry of Health)によって設立された看護師教育に特化したシミュレーション・センター。
2009年にシンガポールの南20km、リウム諸島内バタム島に建設されています。
驚いた事に、ビル一棟全てがシミュレーション・センター。 5名の専任インストラクターを含め総勢49名のスタッフを抱えます。
インドネシアは東西5110km、約1万8千の島から成ります。
広大な地域にたくさんの島嶼を抱えるというお国事情より、「各島・各施設に中途半端な教育用機材をばらまくよりも中央に近代的な教育施設を作り、集合研修を行った方が効率的・効果的」とのインドネシア厚労省の判断・方針がこのセンターを産みました。
前記しましたように、このセンターは看護職のみを対象としたシミュレーション・センターです。
地方に散らばる一定能力以上の看護職を招集し、看護技術のレベリングと向上を目的として教育が為されます。
また、今後海外に働きに出るインドネシア人看護職も、ここで実践的な教育を充分受けたうえで国外に派遣される事になるとの事です。
マレーシアの東海岸クアンタンにある大学。大学名にあるとおりイスラムの教義を教育の基調としています。
主に中近東を中心に、マレーシア国外からの留学生も数多く受け入れています。同大学では2006年にシミュレーション・センターを開設。手技訓練用のトレーニング・センターの他に、麻酔科用の高機能患者シミュレータ“HPS”、救急用の高機能患者シミュレータ”ECS”、乳児用患者シミュレータ“ベビーシム”を各部屋に設置。
麻酔導入訓練、外傷患者の救急対応、小児救急ほかのプログラムを医師、看護師ともに実施しています。
シナリオ作成や高機能患者シミュレータのオペレーションも全てシミュレーション・センター自身で行っています。
以前、本メルマガでも取り上げました。ITEはシンガポールのSMCP(戦略的産業へのマンパワー・シフト政策)の一貫として2001年1月に開校した国立職業訓練大学です。
シミュレーション・センターは看護教育専門用として2007年3月に開設。看護学生は1学年500人。シミュレータ使用の授業は、20人単位。高機能患者シミュレータを設置した場所にはインストラクターと生徒3人、設置場所の傍らにガラス張りの広いデブリーフィング・ルームがあり、残りの17名の生徒はその部屋でシミュレーション風景を観察します。
デブリーフィング・ルームからはガラス越しに全景が見える他に、シミュレーション場所に設置された3箇所のカメラによりシミュレーション詳細を見ることが出来ます。
デブリーフィング・ルームの学生達は評価表を持たされ、シミュレーション参加の3名のシミュレーションを評価すると共に、シミュレーション後全員で内容のデブリーフィングと教官によるレクチャーが行なわれます。
入学した学生は3ヶ月の座学で看護基礎を叩き込まれた後、タスク・フォースマネキンで包帯の装着などの基本手技教育を受け、その後3ヶ月シミュレーション・センターでの教育と、実際の病院での臨床実習を交互に繰り返すというシステムになっています。
最後に。海外の看護シミュレーションに就いてもっとお知りになられたい方。
マレーシアの看護シミュレーション・コンフェレンスへの参加を逃さて、「しまった」と思われている方。御安心ください。
もっと大規模な機会があります。来年2月28日―3月1日の三日間。米国フロリダ州タンパにてHPSN(Human Patient Simulator Network)が開催されます。
ここでは80を超える看護教育用ワークショップ ・講演が予定されています。
是非御検討頂ければと思います。詳しくは、下記URLを御参照ください。
http://www.hpsn.com/event/hpsn-annual-2012/67/
(終わり)
文責:救急・教育部
(2011年11月更新)
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