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在宅のハイフローセラピー

  • 掲載:2024年12月
  • 文責:メディカ出版
在宅のハイフローセラピー

近年、普及が進んでいるハイフローセラピー(high-flow nasal cannula;HFNC、高流量鼻カニュラ酸素療法)が、2022年に在宅の診療報酬にも保険収載された。ここでは在宅HFNCについて、病院でのHFNCと共通する点と、在宅特有の点を整理して解説する。

HFNCの概要

HFNCとは、鼻カニュラを用いて高流量の酸素混合ガスを投与する治療法である。高流量によって、解剖学的死腔の洗い出し効果、安定した吸入酸素濃度(FO2)の確保、吸気補助効果などが得られる。また、上気道内と同等の加温・加湿を行うことにより、気道粘膜を保護し、気道クリアランスを改善させる効果がある。さらに、マスクデバイスと比べて開放的であり、会話や飲食の面での患者負担も少ない(表11

表1:HFNCの有効性(文献1より作成)

  • 解剖学的死腔の洗い出し
  • 高流量システムによる安定したFO2供給
  • 軽度の呼気時陽圧
  • 相対湿度100%の加湿・・・気道クリアランス改善
  • 侵襲性の低いインターフェイス

病院でのHFNCの使用状況

病院では、急性Ⅰ型呼吸不全に対して通常の酸素療法では酸素化が維持できない場合にHFNCが幅広く使用されている。COVID-19感染拡大期においては、非侵襲的人工換気(noninvasive ventilation;NIV)や人工呼吸と比較しても、国際的に最も頻繁に呼吸補助として使用されたという報告もある2
当院での普及当初は、リザーバーマスク10L/minなど、酸素必要量の上昇が見られた後にHFNCへ切り替えが行われていた。しかし、呼吸仕事量の軽減や加温・加湿の有効性、自覚症状の軽減効果から、現在では通常の酸素投与中に酸素必要量が上がり始めると早期に導入されるようになってきている。

在宅HFNCに関わる診療報酬の設定と改定

慢性呼吸不全に対してもHFNCが大いに有用であると考えられ、専門家による知見が集積されてきた3。そうした動きを受けて2022年の診療報酬改定で「在宅ハイフローセラピー指導管理料」が保険収載された。さらに2024年の診療報酬改定で「在宅ハイフローセラピー装置加算」が増点され(表24、今後の使用拡大が期待されている。

表2:在宅HFNCに関する診療報酬(文献4より作成)

診療報酬 点数
C107-3 在宅ハイフローセラピー指導管理料 2,400点
C174 在宅ハイフローセラピー装置加算
1. 自動給水加湿チャンバーを用いる場合
2.「1」以外の場合
3,500点
2,500点
C171-3 在宅ハイフローセラピー材料加算 100点

在宅HFNCが適応となる患者

在宅HFNCの診療報酬上の対象となるのは、表35の要件を満たすCOPD患者で、病状が安定し、在宅でのHFNCを行うことが適当と医師が認めた者とされている。①②の要件から、PaCO2上昇がなければ在宅HFNCは適応にならないのではと思われることもあるが、③の要件のように、PaCO2上昇はなくとも夜間の低換気による低酸素血症を認める場合は導入が可能である()。

表3:在宅HFNCの算定要件(文献5を参考に作成)

  • ア.呼吸困難、去痰困難、起床時頭痛・頭重感などの自覚症状
  • イ.在宅酸素療法(HOT)を実施中かつ、次のいずれか
  • ①PaCO2 45mmHg以上 55mmHg未満
  • ②PaCO2 55mmHg以上であって、NPPVが不適
  • ③夜間の低換気による低酸素血症

HOT;home oxygen therapy
NPPV;noninvasive positive pressure ventilation(非侵襲的陽圧換気)

在宅HFNCが適応となる患者
:在宅HFNCが適応となる患者

当院の在宅HFNC導入例では、軽度のⅡ型呼吸不全患者の場合、一定の死腔洗い出し効果からPaCO2が10mmHg近く改善した例がある。
夜間の低換気による低酸素血症については、診療報酬点数表では『終夜睡眠ポリグラフィー又は経皮的動脈血酸素飽和度測定を実施し、経皮的動脈血酸素飽和度が90%以下となる時間が5分間以上持続する場合又は全体の10%以上である場合に限る』とされており、終夜睡眠ポリグラフィーでなくとも夜間SpO2モニタリングで判定が可能である。

退院時支援

在宅HFNCは、患者・家族のみならず、在宅支援にあたる訪問看護師やケアマネジャーなどにとっても経験者が少ない治療である。退院にあたっては、丁寧な導入説明と、在宅でも常に対応できる支援体制づくりが重要となる。

① 導入効果の説明

HFNCの意図する効果について患者の理解を得るために、実機を見せながら、フローを実際に手や顔に触れさせてイメージしてもらうなど、治療法に対する理解を促す。在宅で支援する介護者がいる場合は、一緒に体感してもらいながら実施できるとよい。

② 鼻カニュラのフィッティング

鼻カニュラは外れないようにしっかりと装着しがちだが、頬や鼻下に強い圧迫が加わると、医療関連機器圧迫創傷(medical device related pressure ulcer;MDRPU)が生じるリスクがある。また、フローの勢いが強く不快と感じることもあるため、必要に応じて鼻下に強く当たらない程度に下にずらすことや、固定紐が耳にかからない、締め過ぎない当て方を意識する。場合によっては、頬に当たる部分に皮膚保護材を巻いてもよい。
鼻腔内への当たりがつらい場合、鼻カニュラを大きいサイズに変更することで緩和できるため、患者の鼻腔サイズに応じて鼻カニュラのサイズを調整することも選択肢の一つである。

③ 機器の設定調整

基本的に医師の指示による。フローは在宅機器でも60L/minまで出力可能だが、HFNCの基本設定である30L/min、場合によっては20~25L/min程度で治療効果を評価しながら設定する。
慢性期の患者は急性期の患者よりもフローの当たりの強さを訴えることがある。この場合、慌てて呼吸をすると風圧に対する抵抗感が強くなりやすいため、ゆっくりの呼気を意識してもらうよう促す。
酸素濃縮器からの酸素流量の設定は酸素化の度合いを評価しながら行うが、在宅酸素濃縮器の出力限界を考慮して検討する。在宅移行後の環境でも問題がないか確認できることが望ましいので、それまで在宅で使用していた酸素濃縮器を使用できるとよい。
自動給水装置を用いない場合は、装着を予定している時間に対し、チャンバー内の加湿用水がもつかどうかのチェックも重要となる。自宅の温度・湿度によって水の減り具合が変化することを考慮して準備や在宅での対応を検討する。

④ 装着訓練

実際に患者自身による着脱、機器操作を練習する。介護者が行う場合は、繰り返し練習機会を設定して準備する。
HOTと併用することが多いため、酸素濃縮器の接続切り替え時やHOTとの切り替え時に呼吸困難をきたさないように自宅での環境設定も含めて練習を行う。在宅支援にあたる訪問看護師などのスタッフがいる場合、事前に機器情報や本人のトレーニング状況を共有しておく。
夜間のみの装着であっても、トラブル対応、フローや装着感に慣れるために日中短時間から始めることもある。フローの強さや加温された送気の感覚を確認して微調整を行いながら忍容性を高めていく。

⑤ 導入後評価

Ⅱ型呼吸不全に対してHFNCを実施する場合は、動脈血液ガス分析で有効性を評価する。経皮血液ガスモニタリングが可能であれば、装着中のトレンドを評価することができる。
本人のアドヒアランスを上げるには装着感が重要となるため、長時間装着したときのフローの感覚や、温度、湿り気などに対する忍容性を観察・聴取する。加温された回路が身体に当たって熱いという訴えもしばしば聞かれるため、自宅環境をイメージしながら、回路の固定方法や機器の配置を検討する。

⑥退院前後の在宅支援

退院前には、実際に自宅に設置して運転してみることができればなおよい。酸素濃縮器とHFNC機器の消費電力量が周辺家電に影響しないよう、設置場所についても確認しておく。
退院後の機器の使用状況を評価するため、退院後訪問を検討する。災害時の停電対策などもあらかじめ準備して説明しておく。

在宅HFNCの今後の展望と課題

前述したように、在宅HFNCは「夜間低換気による低酸素血症の患者」も対象となっている。軽度のⅡ型呼吸不全も含めて、「HOTを実施していてSpO2は悪くないが、自覚症状として苦しさが見られる」患者に対しては、呼吸仕事量の軽減や加温・加湿による気道クリアランスの改善を促し、症状を改善する可能性を持っている。診療報酬の改定が追い風となり、今後さらに適応が広がっていくと考える。
一方、課題として、現状では保険適用上の疾患がCOPDに限定されていることがまず挙げられる。HFNCの効果はほかの慢性呼吸器疾患の症状改善にも大きく寄与すると考えられることから、今後の知見の集積と適応拡大に期待したい。
また、在宅ではまだ治療法としての認知度が低く、在宅HFNCの支援に慣れたスタッフが少ない点も課題である。さらに、加湿用水の供給については、患者負担や病院の準備など地域や医療機関によって体制が定まりきっておらず、関連メーカーの対応も含めて検討の余地がある。


【 参考文献 】

1. ハイフローセラピー(HFNC)研究会.“ハイフローセラピーが慢性呼吸不全に対して有効である生理学的機序”.在宅ハイフローセラピーの手引き.大阪,メディカ出版,2019,1.
2. Reyes, LF. et al. Respiratory support in patients with severe COVID-19 in the International Severe Acute Respiratory and Emerging Infection(ISARIC)COVID-19 study: a prospective, multinational, observational study. Crit Care. 26(1), 2022, 276.
3. 富井啓介ほか.在宅ハイフローセラピーの現状.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌.28(2),2019,291- 7.
4. 厚生労働省.診療報酬の算定方法の一部を改正する告示.別表第一 医科診療報酬点数表.令和6年厚生労働省告示第57号.
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001251499.pdf
5. 厚生労働省.診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知).令和6年3月5日保医発0305第4号.https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001252052.pdf

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