通常はシミュレーション・ラボセンター、 災害時にはERスペースに変身!
国家公務員共済組合連合会シミュレーション・ラボセンター(KS-lab) 大森 正樹先生
- 掲載:2013年08月
- 文責:クリティカル・ケア部
今回、国家公務員共済組合連合会シミュレーション・ラボセンター(以下、KS-lab)設立の経緯・運営方法・成果・将来の展望について、ラボマネージャーの大森正樹先生にインタビューをさせていただきましたのでご紹介いたします。
KS-labは、全国の共済病院35病院の医療の安全を確保するため、シミュレーション教育に取り組んでおられます。教育は受ける側も教える側も業務の一環であるとして研修は原則平日に開催することや、研修には運営も含め全施設が参加すること、更に研修とKS-labに関するコストについて独自の清算方式を作り出すなどユニークなアイデアを駆使し、年間約2,000名の医療従事者および一般の方に利用されています。
この運営方法やノウハウ、未来構想の「通常はラボセンター、災害時にはERスペースに変身!」の狙いなどを医療安全対策に携わっておられる方々にお伝えし、今後のシミュレーション教育に少しでもお役に立てていただければと思います。
◆設立の経緯
2005年7月、国家公務員共済組合連合会本部は、「国家公務員共済組合連合会の安全対策に関する外部委員会の報告」により、KS-labの必要性について強い提言を受け、共済医学会と協力して事業を早期に立ち上げることが決定し、運営委員長には虎の門病院長、センター長には虎の門病院副院長、そして専従の管理人として、ラボマネージャー2名(看護師、臨床工学技士)が設立の準備から運営を任されました。そして、臨床現場に即した研修、新人・中堅・ベテランの医療従事者が必要とする教育プログラム・シナリオとは何かを模索しながら、組織全体のシステムとして2006年4月から運営が開始されました。
※設立に関する詳しい内容は、下記の「シミュレーション・ラボセンター 5年間のあゆみ」をご参照ください。
アドレス: http://www.toranomon.gr.jp/ks_lab/results/pdf/ayumi.pdf
◆シミュレーション教育立ち上げのポイントとラボマネージャーの業務
KS-labとしてシミュレーション教育を立ち上げる際に構成スタッフで考えたポイントとラボマネージャーの具体的な業務は以下の通りでした。
シミュレーション教育立ち上げのポイント | |
Point1 |
専従の管理人は必須。 運営体制を構築するには、下記の通り業務が山積し片手間では困難。 |
Point2 |
ハードとソフトのバランスが重要。 物が揃えれば何とかなると思いきや、それを活かせる人材が重要。 |
Point3 |
「シミュレーション教育のファシリテーター」の育成は重要。 ISD(instructional system design)を学習しておくことも必須。 |
Point4 |
利用基準のハードルを上げないことが、利用率の向上に繋がる。 気軽に利用できるように、申込みは電話一本で可能。 |
ラボマネージャーの業務 | |
・器材の準備、操作、保守管理 |
・講習会の開催、インストラクターの手配 |
・インストラクター、ファシリテーター | ・教材、シナリオの設計、作成 |
・利用者等のデータ集計 |
・学会、講演活動、取材見学対応 |
・論文、原稿執筆 |
・出張研修、遠隔教育など |
◆運営方法(利用方法、料金清算、指導員/講師の保有資格)
利用方法、利用規約
・利用時間帯:8:30-17:15 (但し、条件付きで自己練習の時間外利用可)
・受講者、指導員、講師が研修で疲弊しないよう、原則平日の利用です。
料金清算
・共済病院職員の使用は無料。(但し、年度末に利用施設に対し負担金を請求)
負担金の清算方法は、年間総運営費の一人当りの費用を算出して、受講者から同施設で派遣された指導者を差し引いて清算します。つまり、利用施設の負担金は指導者として協力すればするほど安くなるという仕組みです。・近隣住民、学生は無料。共済病院以外の方の施設利用は一律実費相当の請求。
指導員/講師の保有資格
・AHA JSISH-ITC BLSファカルティ/ACLSコースディレクター
・日本救急医学会認定ICLSインストラクター
・日本医療教授システム学会患者急変対応 コースディレクター (ラボマネージャー)
・日本医療教授システム学会(JSISH)
・AHA JSISH-ITC
◆成果
シミュレーション教育の成果としては、人材育成(特に透析医療に従事する新人臨床工学技士)に最低3年掛かっていたのが1年半に短縮されたこと、医療現場に受講者と指導員が増えて医療の質が向上し医療過誤が激減していることなどが挙げられます。また、安全対策に関する外部委員会からの強い後押しがあったことが、この事業がとんとん拍子に加速された理由でもあります。
年度別、受講・利用者、指導者、参加施設
全国35施設参加型の運用で、受講・利用者は年間約2,000名ですが、現行スタッフではこの人数がリミットです。利用者の傾向としては、指導者や教育に携わる医療従事者が年々増えており、教育の有用性が理解されてきていることが伺えます。2009年から全施設が毎年参加の方針に変更したことも医療安全のレベルアップに繋がっています。また、KS-labではシミュレーション教育の運営、人材育成、医師獲得、医療業界が取り組む医療安全の対策が知りたいなど、業界を問わず広い範囲で見学や取材の要望にお応えしています。
職業別、受講・利用者
利用者の職業は圧倒的に看護師が多く、近年、研修医の受講が年々増えています。
月別、受講・利用者実績
6月は、医療安全管理者研修(5日間コース、講師は外部のエキスパート、内容は座学とグループワーク)が開催されるために利用者が多く、その他の月は結果として平準化されています。
KS-labを直ぐ利用したい、研修の準備時間を短縮したい、研修内容を検証したい、交通・宿泊・出張費を削減したいなどの要望が出るようになり、以下のような手段を考えました。
※BCP: (事業継続計画:Business continuity planning)
その1.インターネットとテレビ会議システムを用いた遠隔シミュレーション教育の構築
このシステムは、インターネットとテレビ会議システムを用いた遠隔シミュレーション教育で、各施設で実践している研修を他の施設が視聴しながら意見交換を行ったり、KS-labで培われた「人材育成」のための教育教材・教育方法・その他ノウハウを「KKRクラウド」(仮称)に蓄積し、情報の共有化が図れるようにすると言う、未来構想の礎にもなるものです。
その2.今後起こり得る災害に備えた虎の門病院のBCP (事業継続計画) 対策
東京都港区にある虎の門病院一帯の再開発が計画されており、将来新虎の門病院が、続いて高さ180mの超高層オフィスビルが建設される予定です。
この再開発計画では、「大規模災害時にオフィスのホールを使って災害救援を行い、病院とオフィスが一体となった防災の仕組みを取り入れる」構想が含まれています。
今後起こり得る3.11クラスの大規模災害が発生した時には、インターネットとテレビ会議システムの環境が利用できるラボセンターと全施設をERに変身(拡張)させて、被災地の状況の把握と支援策について医療スタッフが情報を共有し救援活動を行うようにしようというものです。
<最後に>
大森先生、お忙しい所インタビューにお応えいただき、誠にありがとうございます。
最初は、KS-lab設立から運営の苦労話をお伺いできると思い込んでいましたが、苦労話は殆どなく、仕事に責任と誇りを持ち楽しんでおられる姿に感銘を受けました。
更に「通常はラボセンター、災害時にはERスペースに変身させて、重傷患者の仮入院スペースとして使用する」というアイデアは、一市民としても大変心強く思いました。
大森先生のお仕事を弊社の教育サービスを通じ、微力ながら引き続きサポートさせていただき、医療安全・患者安全のために誠心誠意尽くして参りますので、今後ともご指導の程、宜しくお願い申し上げます。
以上
文責:IMIサービス企画、教育チーム
2013年8月
KS-lab 4つの特徴
下の図は、グループ運営、多彩な講習、マネージャーに求められること、医療安全の方針について特徴をまとめたものです。
ラボマネージャーが求められる専門性としては、臨床業務と共に医療機器の操作・取り扱い、保守点検や軽微な修理ができることなどが挙げられます。また、多彩な講習スケジュールを上手にサイクルさせていくには、施設を利用される医師、看護師、臨床工学技士などの医療スタッフと良いコミュニケーションを取ることも重要で、利用率のアップに繋がります。
KS-lab年間スケジュール
研修は、定期開催/スポット開催/その他に分かれ、原則平日開催となります。
春・夏・秋には、キャラバンを組んで全国各地を回ります。
KS-lab設備、保有の器材/シミュレータ/ME機器
KS-labの総占有面積は400㎡、保有機器はシミュレータ:21機種、ME機器:8機種、その他:11機種、イス・机類は他施設のものを有効利用等々、初期投資には約2,000万円掛かりました。部屋は元々病室で、研修室(5)、バーチャルシミュレーション室、器材室(2)、仮眠室(2)、更衣室、スタッフルームに改装して使用しています。また、器材室と更衣室が必要であることは意外と盲点で、見学者の方が驚かれることがよくあります。
研修風景