経皮血液ガスモニタ「TCM5」
KKR札幌医療センター 感染制御部部長 呼吸器内科部長代行 福家聡先生、呼吸器内科 大越すみれさま
- 掲載:2018年11月
- 文責:レスピラトリ・ケア部
福家 聡(ふけ さとし)先生 ご略歴 |
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[ 経 歴 ] |
1997年 3月: 香川医科大学医学部医学科 卒業 |
1997年 4月: 北海道大学医学部附属病院医員 |
1998年 4月: 札幌北楡病院 血液内科 |
1998年10月: 札幌社会保険総合病院 内科・リウマチ科 |
1999年 4月: 市立小樽病院 呼吸器科 |
1999年10月: 砂川市立病院 内科 |
2000年 4月: 日鋼記念病院 呼吸器科 |
2000年10月: 国立札幌病院 血液科 |
2001年 4月: 北海道大学大学院医学研究科病態制御学博士課程入学(呼吸器内科) |
2005年 3月: 北海道大学大学院医学研究科病態制御学博士課程修了 |
2005年 4月: 国家公務員共済組合連合会幌南病院 呼吸器内科 |
2006年 4月: (名称変更)KKR札幌医療センター 呼吸器内科 |
2015年 4月: 北海道大学医学部保健学科非常勤講師併任 |
2018年 4月: 北海道大学医学部医学科非常勤講師併任 |
[ 学位論文題名 ] Chemokines in Bronchiolar Epithelium in the Development of Chronic Obstructive Pulmonary Disease 慢性閉塞性肺疾患の発症機序における末梢気道上皮での炎症性ケモカインの発現 |
[ 受 賞 ] 第18回日本内科学会奨励賞、第24回RMCB研究会賞、第3回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会 学会奨励賞、2014 Japan Antimicrobial Stewardship Program Workshop Good Presenter賞 |
[ 所属学会 ] 日本内科学会、日本呼吸器学会(代議員、COPDガイドライン第5版外部査読委員、英文誌編集委員)、日本呼吸ケア・リハビリテーション学会(代議員、学会誌編集委員、酸素療法マニュアル作成委員)、日本呼吸器内視鏡学会、日本感染症学会、日本環境感染学会、日本医療マネジメント学会 |
[ 資 格 ] 医学博士、日本内科学会認定医・指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本呼吸器学会専門医・指導医、気管支鏡専門医、指導医、呼吸ケア指導士、日本感染症学会認定ICD、臨床研修指導医 |
大越 すみれ(おおこし すみれ)さま ご略歴 |
[ 経歴 ] |
2013年 3月: 駒沢看護専門学校卒業 |
2013年 4月: KKR札幌医療センター 入職 |
[ KKR札幌医療センター webサイト ] https://www.kkr-smc.com/ |
KKR札幌医療センターの役割について御紹介ください。
[ 福家先生 ] 当院は410床の二次救急指定病院です。地域医療支援病院、地域がん診療連携拠点病院として日々救急車を受け入れたり、地域の先生方から紹介いただいた患者さんを受け入れています。
福家先生の御立場について御紹介ください。
[ 福家先生 ] 当院の呼吸器内科部長代行として日常業務の他に若手医師の指導も行っています。診療においては、急性呼吸不全・慢性呼吸不全をはじめとする全ての呼吸器疾患の入院診療をしています。
入院患者さんの比率としては、肺がんが半数で、あとはCOPD・喘息・肺炎・それに伴う急性呼吸不全・慢性呼吸不全です。
経皮血液ガスモニタTCM5についてお伺いする前に、まず前機種のTOSCA500をお知りになったきっかけをお教えください。
[ 福家先生 ] 僕自身は研修医の頃(20数年前)から経皮的にCO2をモニタリングできる器械に興味はあったのですが、当時は1日4時間位しか装着できないということと、血液ガス分析の値との相関があまり良くなくて、臨床的な運用は難しいとされていたと思います。
2005年、TOSCA500が出た時に12時間測定できるということと、血液ガス分析との相関が良さそうだということで研究を始めました。基礎的な研究と、患者さんへの臨床使用を通して、その有用性を確認し、以降TOSCA500を様々な患者さんへ使用し、経験を積んできました。
昨年TCM5が出て、学会で実際に見たり、デモ器を操作したことでTOSCA500の性能はそのままに、見易さと解り易さが加わり非常に使いやすい機種であるということが分かり、更に興味を持ち研究を進めました。具体的には、日本語の大きな表示やタッチパネル、チュートリアル機能により操作方法をビジュアルで教えてくれる機能が、TOSCA500と比較しステップアップした点と思います。
TCM5のデモ機を触った際、スタッフの方々の評価はいかがだったでしょうか?
[ 福家先生 ] TOSCA500と今回のTCM5を比較してアンケート調査を行いました。その中では、データがトレンドとして見易く表示されること、日本語表示されること、タッチパネルで操作しやすいこと、軽量であること、殆どの点でTCM5の方が高評価でした。
新機種を導入する際、新たに使用方法を覚える事に苦手意識がある方もいると思います。TOSCA500を使用していたため、スタッフの方々の経験値は高かったと思いますが、TCM5に関してその点はどうでしたか?
[ 福家先生 ] 殆ど皆さん迷うことなく装着できたと思います。プローブの付け方・取扱い方は同様ですし、TOSCA500で慣れていたからこそ、容易に対応できたと思います。
現在、経皮血液ガスモニタを使用する事はルーチン化されていると思いますが、これらを導入する前はどのようにされていたのでしょうか?
[ 福家先生 ] 我々は一般病棟ですので、血液ガス分析で呼吸不全を判断する時には、当然血液ガスを採取しなくてはいけません。血液ガスというのは医師が採取しなくてはいけないので、特に夜間や休日においては医師が患者さんのベッドサイドで血液ガスを採取していたという状況です。
また、血液ガスですので、ワンポイント毎の評価となり、治療介入及び経過観察をする中で、経時的な変化を見ることはできませんでした。それが経皮血液ガスモニタが導入されたことで、連続的にリアルタイムに呼吸状態をモニタリングすることができるようになりました。
血液ガスの採取はどのタイミングで行っていたのでしょうか?
[ 福家先生 ] 慢性期の場合は、就寝前と起床後で宜しいと思いますが、急性期で呼吸状態が刻一刻と変化する場合は、呼吸状態の変化を見ながら適宜採取するということしかできなかったと思います。そのため、医師が病院に泊まり込むとか、夜間にやってくるとか、そういうことをせざるを得ませんでした。
そうしますと、患者さんは血液ガスを採取される度、痛みを我慢していたわけですね。
[ 福家先生 ] そうですね、何回も採取するので痛みもそうですが、感染のリスクも高まります。昔経験があるのですが、蜂窩織炎を起こしてしまう患者さんもいらしたので、患者さんへの苦痛という意味で血液ガス分析は非常にリスクが大きいと思います。
Aラインというのはどれくらい痛いのでしょうか?
[ 福家先生 ] 痛いですよ。神経が近くに通っているので、それに触れると痛いですし、奥なので重だるい痛みを感じます。入れている間ずっと痛いですね。違和感があります。
どのくらいの頻度で患者さんに経皮血液ガスモニタを使用していますか?
[ 福家先生 ] 日数で言いますと1ヶ月に20日位ですね。1台しかないと仮定したら、他に付けたい患者さんが5人居ても付けられないし人数では正確には言えませんので、肺がん以外の患者さんで付ける必要性がある患者さんということでしたら、30%位かと思います。目的としては、夜間の呼吸状態の評価とモニタリング。NPPVや人工呼吸器を使用している時の呼吸管理や設定評価ですね。
急変の予防で使用されるケースはありますか?
[ 福家先生 ] 間質性肺炎で呼吸不全に陥っていた方で、搬送時に気胸が有ったので陽圧換気が直ぐにはできないという患者さんに於いて、TCM5を使って呼吸管理の状態を診ています。
あとは、喘息の重積発作で入院した方で、夜間に再度重積発作で呼吸状態が悪化しないかTCM5を使ってモニタリングしています。喘息の重積発作の場合は換気が落ちますのでCO2が増えます。その場合には呼吸補助が必要になります。あとは、NPPVから離脱した時に再度状態が不安定になり、NPPVを付けるか酸素チューブで粘るか・・・その判断にも使用しています。
自宅でNPPVを使用している患者さんが急性増悪で入院するケースでは、日中NPPVを外して夜は付ける時にモニタリングしています。増悪の予防はできませんが、増悪又は再度呼吸不全が進行しつつあることを早期に捉えることができるということがメリットですね。
使用中に耳クリップが外れないように工夫されていることはありますか?
[ 福家先生 ] 普段は問題になることは少ないと思いますが、体動によってクリップが外れてしまうという場合はクリップを付けてプローブの上からテープで留めるなどで対応しています。
装着するセンサは42℃で加温していますが、熱くて付けられないという声や、低温熱傷になったケースはありますか?
[ 福家先生 ] 病棟で使用している限りでそういうことは無いですね。
[ 大越さま ] はい、無いですね。
大越さまは入職されて何年目になりますか?
[ 大越さま ] 6年目です。入職1年目から呼吸器内科病棟でした。
それでは、1年目からTOSCA500があったということですが、初めて見た印象はどうでしたか?
[ 大越さま ] 最初の時は器械の表示が全て英語だったので、少し取り扱いに不安はありました。ただ、日本語の説明書が有りましたので、それを見ながら使用していました。
TOSCA500に取説を見ずに触れるレベルになるにはどれくらいかかりましたか?
[ 大越さま ] 1年目はTOSCAで常時CO2モニタリングをしなければいけない呼吸不全の患者さんを持ち始めたのが冬頃でしたので、そういう患者さんを持ち始めてから2年目3年目になって器械の操作も身についてきたという感じでした。初めの頃はあまり触る機会が無かったのですが、徐々に触れる機会が増えて来て大体1年くらいで普通に操作できるようになりました。
[ 福家先生 ] 僕らは患者さんが変わっても自分が主治医であれば触る機会が多いですけど、病棟の看護師さんは受け持ちが日々変わります。1人の患者さんが10日入院していても実際にその患者さんを受け持つのは数日間しかないので、なかなか直ぐには慣れないかもしれないですね。
新機種のTCM5を初めて見た時はどのように感じましたか?
[ 大越さま ] まずディスプレイが凄く見易いなと思ったのと、日本語表示なので操作がしやすい。先ほど先生も仰いましたが、器械の中でイラストでの操作方法の説明が表示(チュートリアル機能)されるので、初めて触るスタッフでも操作方法の習得が楽かなという印象を受けました。
チュートリアルを見る機会はありますか?
[ 大越さま ] 最初に患者さんに付けた時は、とりあえず全部開いてみました。TOSCA500の時はどこを触るとどこが開くのかが説明書を見ないと解りませんでしたが、TCM5はスマートフォンやタブレット感覚で操作できますし、目次もきちんと出ているのでここを押したらこれが見られるのだな・・・というのが凄く解り易いです。
[ 福家先生 ] 目次のタブが示されるので、あれが良いですよね。我々自身はTOSCA500を使用していたので、取扱自体は問題ないですけど、メンブレンを交換するやり方がチュートリアル通りやらないと先に進めないので、誰が触ってもやり方が統一され、データも安定すると思います。
経皮血液ガスモニタを使用しない看護と比べた業務の違いを教えてください。
[ 大越さま ] 一度ICUからAラインが入った状態で移動してきた患者さんを受け持ったことがあります。管理が難しいというのと、侵襲があるのでどうしても環境が変わり、夜間せん妄になってしまったりする患者さんにAラインが入っていると自己抜去のリスクが有ったりします。
TOSCA500が導入されたことにより、一般病棟ではAラインで管理せずTOSCA500で経過モニタリングし、安全面を確保することができ、夜間のマンパワーが少ない状態でも患者さんの状態をタイムリーに観察して看護に繋げていけるところが良いと思います。
自己抜去ということはよくあるのでしょうか?
[ 大越さま ] その時の患者さんはなかったですけど・・・
[ 福家先生 ] 動くことで、中が固まってしまい、動脈が引けて来なくなり、半分抜けかけているということは有りましたね。
TCM5は画面でトレンドグラフを見られますが、CO2が上がってきた場合、先生により規定値を設けて連絡するように事前の指示が有りますか?
[ 大越さま ] 患者さんによります。急激な変動をきたし易い病態の患者さんであれば【どれ位上がったら先生に電話をする】という指示が有ったり、CO2がこれ位の値になるようにサチュレーションや酸素流量の上限下限はこれ位で・・・という感じで看護師がモニタリングをしながら調整するという細かな指示が出ていたりもします。
[ 福家先生 ] ある一定以上になるとNPPVを再開するという指示を出している患者さんもいます。特にウィーニングをしている時に、してみたけれども呼吸不全が悪化してしまう可能性があるので、その場合TOSCAでCO2をモニタして一定の数値以上になったらNPPVを再開するという指示を出しています。
もしも経皮血液ガスモニタが無くなったら、どのようなことに困りますか?
[ 大越さま ] サチュレーションのモニタだけを見ていると、酸素の流量の細かな調整が呼吸不全の患者さんでは特に難しくて、酸素の流量をただあげるだけでは無いというところが管理の難しいところだと感じています。二酸化炭素の数値をモニタリングしながら微妙に調整していく必要があるので、無いと非常に困ります。
[ 福家先生 ] SPO2だけでは呼吸不全のモニタリングが半分しかできないということですね。
消耗品(耳クリップ・メンブレン・キャリブレーションガス)の交換は誰が行っていますか?
[ 大越さま ] 特に決まった担当は居ません。例えばキャルガスであれば、無くなった時に担当していた看護師が交換します。12時間以上装着することで低温火傷のリスクがあるということと、軽く圧迫はされているので褥瘡のリスクにもなりますので、必ず各勤務帯で皮膚の状態や装着がきちんとされているかという所は診ています。
実際に使用して印象に残っていることがあれば教えてください。
[ 大越さま ] 呼吸不全の患者さんは、大体在宅酸素療法や、自分の疾患を自己管理されてきた方が多いので、今までの自分の生活スタイルに合わせて、薬や酸素の調整をしたり、自分なりの体調管理方法が患者さんによって様々な所があります。
良い意味で言うとしっかり自分でやってらっしゃるのですが、悪い言い方をすると頑固な方が多く、『苦しいから酸素を上げた』と言う方が結構いらっしゃいます。今はご自宅に持ち帰るのはサチュレーションの体内酸素を測る器械だけなので、それだけ見ていて『ちょっと下がった、苦しいぞ、酸素を上げよう』と単純に自己判断で酸素を上げてしまうと、二酸化炭素が上がってしまいぼんやりしてしまう・・・という事に繋がるので、ただ酸素流量を調整するだけでは疾患のコントロールができないという事を患者さんに教育指導するという点でも有効なものになっています。
実際に使用してみないといくら口で説明しても理解いただけず、二酸化炭素が上がってもある程度しないと症状に出ないので、症状がでない分、放っておきやすかったり、『今までやってきたから大丈夫』という過信もあり、なかなか看護師の声掛けや指導に耳を傾けてもらえないことが有るのですが、実際の数値を見ると明らかですので、一緒に画面を見ながら『今はこういう状況ですね』ということを共有できる所がとても良いと思います。
NPPVを就寝時に使用するため自宅に持ち帰らないといけない患者さんだと、HOTは慣れてくれば装着の違和感は受け入れやすい物かと思うのですが、NPPV導入当初は圧迫感がつらくて眠れないという方が少なくありません。その際に必要性を説明しても、実際に体感して自分に必要なのだと理解していただいて、協力していただけないとNPPV療法のQOLはなかなか上がりません。
呼吸不全の患者さんは肺がんの患者さんと比べると、疾患を持ったままご自宅で生活する期間はとても長いので、いかに自分の呼吸苦を増強しないようにコントロールできるかという所を身に着ける上でも二酸化炭素と酸素の値をモニタリングして病院で正しく指導するということが非常に重要だと思います。
今のTCM5に有ったら良いなと思う機能は有りますか?
[ 福家先生 ] 僕は前から言っている、保存されているデータを本体上で読み出す機能がほしいですね。測定後にチャンバーにセンサを戻すと、トレンドグラフが消えてしまう所が改善されたら良いかな。あとは、在宅で患者さんが自分で簡単に装着できる様なクリップなどが開発されれば、診療の幅が広がると思います。
[ 大越さま ] キャリブレーションの時間が以前に比べてかなり短くなったので、それは凄く良い点だと思います。あとはもう少し小さくなったら24時間モニタリングをする際にショルダーに入れるなどして持ち運びもできることから、使用も簡便になると思いました。それから、耳クリップにコンタクトジェルが不要になれば、もっと便利かなと思います。そうなれば、患者さんが動いて取れてしまっても、直ぐ着けられますので。
導入を検討されている施設の方へメッセージをお願いいたします。
[ 福家先生 ] 経皮CO2モニタのTCM5は患者様に非侵襲的に経時的に呼吸状態を把握することが可能です。マンパワーが不足しがちな一般病棟において医師がいない状態でも呼吸状態が把握できる臨床上有用な器械です。特に高齢者の多い呼吸器疾患診療においては非常に有用だと思いますので導入をお勧めしたいと思います。
[ 大越さま ] 呼吸不全の患者さんは病気を持ったままの生活が非常に長いので、生活の質を高めていくという上でも病院でのこの短い入院期間でどういう治療を受けて、どういう指導を受けてご自宅に帰るかという所がとても大事になってきます。その点においても病院での細かな呼吸状態のモニタリングや酸素の調整が大事になりますので、導入をお勧めいたします。
貴重なお話を伺うことができました。本日はお忙しい中ありがとうございました。
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