セミナー情報

第63回日本新生児成育医学会・学術集会 教育セミナー
「新生児における近赤外時間分解分光法」

  • 掲載:2019年01月
  • 文責:クリティカル・ケア部
第63回日本新生児成育医学会・学術集会 教育セミナー</br>「新生児における近赤外時間分解分光法」
日時 : 2018年11月22日(木)12:00~13:00
会場 : 第5会場 701 都市センターホテル7F
演者 :

近藤 敦先生

亀田総合病院 小児・新生児科医長

座長 :

日下 隆先生

香川大学 小児科学講座教授

抄録 :

※pdfが開きます(87KB)

与田 仁志会⻑(東邦⼤学医学部 新⽣児学講座 教授)の下、第63回日本新生児生育医学会・学術集会にて、座長に日下 隆先生(香川大学)を、演者に近藤 敦 先生(亀田総合病院)をお招きし、教育セミナー【新生児における近赤外時間分解分光法】を共催させて頂きました。

座長:日下 隆先生
▲ 座長:日下 隆先生

演者:近藤 敦先生
▲ 演者:近藤 敦先生

講演の概要
■ 近⾚外線分光法(以下:NIRSモニタ)の特徴
■ 新生児の臨床でNIRS-TRS法を、どのように活用するか
■ NIRS-TRS法にての課題、期待されること

■ NIRSモニタの特徴

【 空間分解分光法(以下:SRS法)】

・現在、主に使用されている方式であるSRS法は、Hbの相対値を用いて計測 → ざっくり捉える

【 時間分解分光法:Time Resolved Spectroscopy(以下:TRS法)】

・理化学機器TRS-20などを経て、世界初のTRS法臨床用モニタ [ 非侵襲脳酸素モニタ tNIRS-1浜松ホトニクス社製)] が販売開始となった

・TRS法は、SRS法と異なり、Hbの絶対値を計測 → 厳密に捉える

・TRS法で得たHb計測値より、脳血液量(以下:CBV)を算出できる

・エコーのような特殊な技術を必要とせず、検査施行者間での手技の違いを受けずに簡単に測定できる

・[定量的]なモニタリングが可能となり、連続測定は必要でなくなり、体動があるようなタイミングを避け、安静時を狙ったポイントの測定で継時的な変化を比較することが可能になった

以上のように、ご説明されました。

■ 新生児の臨床でNIRS-TRS法を、どのように活用するか

【 早産児 】

正期産児(Term)と早産児(Preterm)の比較において

・頭部の組織酸素飽和度(以下:StO2)は、正期産児と早産児に有意差なし

・TRS法の計測値から算出したCBV(新生児の脳における正常値:2.1~2.3ml/100g)は、正期産児に比べ早産児は有意に低値

一方、極低出生体重児(1500g未満:VLBW)と超低出生体重児(1000g未満:ELBW)の比較において

・頭部のStO2は、極低出生体重児と超低出生体重児に有意差なし

・心拍出量も、極低出生体重児と超低出生体重児に有意差なし

・Hbは、極低出生体重児の方が有意に高値であった

しかしながら、CBVは、超低出生体重児が有意に高値であったことを示されました。

超低出生体重児のCBVが高値となる理由として、低血圧に対する出生直後からのカテコラミン投与が、脳の自動調節機能が未熟である超低出生体重児のCBVを増加させている可能性を示唆されました。頭部のStO2に問題がない場合、カテコラミン投与よりも輸血の方が有用ではないかと考えられ、自施設での早期輸血の実施、脳内出血が減少する傾向にあることもご紹介されました。超低出生体重児における目標血圧の議論について、TRS法を用いた頭部のStO2並びにCBVを参考にした管理も有用とご提案されました。

【 新生児仮死 】

新生児仮死症例では、まず、2つのエビデンスをご紹介されました。

・予後不良群は生後24時間からrSO2が有意に上昇し、FTOE(Fractional tissue oxygen extraction:組織酸素摂取率)が有意に低下する*1

・予後不良群は生後6時間からCBVが有意に上昇し、生後24時間からScO2が有意に上昇、生後24時間でのCBVとScO2の値が予後の悪さと相関する*2

次に、東京医科大学における [ 新生児仮死症例においてのTRSによる検討*3 ] をご提示されました。

・頭部のStO2は生後12時間にて上昇、FTOEも生後12時間にて低下

・一方、CBVは生後3-6時間から上昇しており、脳自動調節能の破綻、血液の再分配による異常を、TRS法によるCBVが、いち早く、鋭敏に捉えている

初期のCBVが高値であるほど予後が悪い

以上のことから、TRS法によるCBVを活用することにより、新生児仮死の脳状態をより早く把握でき、早期の予後予測、低体温療法の維持期間の検討にもつながる可能性を示唆されました。

【 母児間輸血症候群 】

在胎36週4日、経腟分娩、2388g、自施設搬送時の検査所見はHb2.3g/dl、pH6.788、BE-22.9と著明な貧血と代謝性アシドーシスを認め、母体検査所見はHbF2.9%(正常値0~1.0)、AFP1785.5ng/ml(正常値300~800)であった母児間輸血症候群症例において、輸血開始前よりTRS法にて評価された結果と考察をご提示されました。

・頭部のStO2とHb

  • ● 輸血開始前、頭部のStO2は52.8%と低値であったが、輸血開始後Hbが8g/dlに上昇したところで、正常新生児レベルのStO270%まで回復し、その後も70%前後で推移した
  • ● StO2上昇後の変化は正常範囲内 → 脳細胞の遅発性エネルギー障害が生じていない!
  • ● 脳循環代謝の観点から観ても重症貧血の輸血にはHb8g/dlが一つの目標か?

・CBVとHb

  • ● 輸血開始前、CBVは7.59ml/100gと著明に高値であったが、輸血開後、Hb8g/dlに上昇すると共にCBVは急速に低下し、生後48時間には正常新生児レベルとなった → 脳の自動調節能が保たれていた!
  • ● 重度の貧血にも関わらず、CBVが7.59ml/100gと高値であったのも、脳の自動調整能の働きで、血液を頭に送り、脳が守られていたことが伺える
  • ● 本症例ではCBVとHbには強い負の相関を認めた

・MRI所見(日齢41日)

  • ● 脳実質内出血後の変化を疑う所見を認めたが、大脳皮質、白質、基底核には病変を認めず、対象児は現在もお元気で小学校に通われていることにも触れられました

以上は、tNIRS-1の前身である理化学機器を使用した症例となり、新たな臨床用モニタ [ tNIRS-1 ] は、これまでの理化学機器よりコンパクトで、測定も簡便であり、頭部の測定は非常に安定しているとご評価され、 [ tNIRS-1 ] を使用した【 鎮静前後で脳循環代謝を評価 】した1例をご提示されました。

非侵襲脳酸素モニタ tNIRS-1

■ NIRS-TRS法にての課題、期待されること

[ tNIRS-1 ] での計測が有用であると考えられる複数の症例を示された後、「TRS法をとにかく使用し、どんな症例でも計測すると、このようになっていたのだという発見があり、治療の選択に役立つ」と述べられました。

また、座長:日下先生とのディスカッションにおいて、TRS法を用いた脳評価によって

・現在、Hb8g/dlという輸血基準があるが、将来的には、児の脳を観察し、その児、その児に適切な輸血の開始時期、Hbのバリューを決めることに繋がる可能性

体循環と脳循環を合わせて評価し、トータル的に介入すること

・脳の自動調節能が働いているかどうか解らない児に対しての更なる検討が必要であり、CBVの高い児の予後がどうであるか?CBVの値、変化をどのように管理すれば、予後に貢献できるかという点がとても大事であること

などがご提示されました。

最後に今回の教育セミナーにおいてご講演いただいた近藤敦先生、座長をお務めいただいた日下隆先生に、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

[ 文献・発表 ]

*1 Toet MC. et al. Cerebral Oxygenation and Electrical Activity After Birth Asphyxia: Their Relation to Outcome. Pediatrics 2006, 117;2:333-9

*2 Nakamura S. et al. Simultaneous measurement of cerebral hemoglobin oxygen saturation and blood volume in asphyxiated neonates by near-infrared time-resolved spectroscopy. Brain Dev 2015, 37;10:925-32

*3 Hirose A.Kondo A. et al. Usefulness of the evaluation of cerebral blood volume to predict adverse outcomes in infants with asphyxia. 5th Congress of the European Academy of Paediatric Societies (EAPS 2014)

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