セミナー情報

第48回 日本救急医学会総会・学術集会 ランチョンセミナー4
「救急・ICUにおけるチーム医療の実践 ~心肺蘇生と呼吸管理~」ご報告

  • 掲載:2021年01月
  • 文責:レスピラトリ・ケア部
第48回 日本救急医学会総会・学術集会 ランチョンセミナー4<br>「救急・ICUにおけるチーム医療の実践 ~心肺蘇生と呼吸管理~」ご報告

第46回日本救急医学会総会・学術集会(会期:2020年11月18~20日)において、司会に大阪大学医学部附属病院 高度救命救急センター 小倉 裕司先生、演者に奈良県立医科大学 高度救命救急センター 淺井 英樹先生、広島大学大学院 救急集中治療医学 大下 慎一郎先生をお招きし、「救急・ICUにおけるチーム医療の実践 ~心肺蘇生と呼吸管理~」をテーマとしたセミナーを共催いたしましたので、ご報告申し上げます。

ランチョンセミナー4
日時 :

2020年11月18日(水) 12:25~13:25

会場 :

第5会場(都ホテル 岐阜長良川 2F 漣)

演者 :

淺井 英樹 先生
奈良県立医科大学 高度救命救急センター 助教

大下 慎一郎 先生
広島大学大学院 救急集中治療医学 准教授

司会 :

小倉 裕司 先生
大阪大学医学部附属病院 高度救命救急センター 准教授

チラシ :

※pdfが開きます(422KB)

セミナー風景
▲ セミナー風景

司会 小倉 裕司 先生
▲ 司会:小倉 裕司 先生

まず、本セミナーは感染対策に万全を期すため、聴講者用座席の間隔を通常より広く空け、最前列の座席を使用しないことにより司会・演者の先生と聴講者の距離も空け、司会・演者の先生の左右にアクリル板を配置することで、マスクを外してご講演いただくことといたしました。

また、演者用マイクやポインターにつきましても、講演間にアルコールによる清拭を実施いたしました。
感染対策にご理解、ご協力をいただきました学会運営事務局及び会場スタッフの皆様に深く感謝申し上げます。

【講演1】
アクションカードを用いた質の高いCPRの実践

2020.11.18
奈良県立医科大学 高度救命救急センター 助教 浅井英樹 先生

淺井 英樹 先生
▲ 淺井 英樹 先生

淺井先生は、「質の高いCPR」を実現するため、災害時に使用する「アクションカード」を参考に、5つのアクションカードをCPR用に作成し運用されているご経験を、実際の臨床現場の動画を交えながらご解説されました。

また、新型コロナウイルス感染症患者を搬送する際のPPE着脱方法についても動画を用いてご解説されました。

まず淺井先生が強調されたのは、先進国の死亡原因の上位に「突然の心停止」があり、心停止からの蘇生は救急医学の大きなテーマの1つであること、「社会復帰をみすえた蘇生」が大事である、ということでした。

これは、奈良県立医科大学附属病院でCPR時に実施している「質の高いCPR」や「神経学的予後予測」にも繋がっています。


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また、質の高いCPRは技術の定着に時間がかかり、医療従事者であっても質の高いCPRを必ずしも提供できるとは限らない、とおっしゃっていました。

奈良県立医科大学附属病院は初期研修医が多く、救命センターのローテートは必修であるため、外来でのCPR時の人員確保は比較的確保しやすい。しかし、2年間の初期研修医期間中、どの診療科にいつ在籍するかは研修医本人が自由に選択できるため、卒業後すぐに当センターに来る研修医もいるなど、研修医のCPRのレベル差が大きく、効率的な人員配置が難しかったそうです。

そこで、災害時に使用される「アクションカード」をCPRに取り入れることにしました。


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災害時アクションカードとは、このような内容になっています。

  • 行動を促し、判断を導く、活動の事前指示書。
  • 災害時の初動に関して1枚のカードに記載してあり、各個人がパニックになりがちな初動時の動きを、もれなく行うことができる。
  • 年数回程度の訓練しか受けていないものでも動けるように作られている。

これをCPRに用い、奈良県立医科大学附属病院では下記5つのアクションカードを作成しました。

CPR患者が病院到着前に蘇生チームを5つの班に分け、それぞれの担当者にカードを渡して備えます。

【CPR時の5つのアクションカード】
  • ① 蘇生リーダー
  • ② 胸骨圧迫
  • ③ 気道確保
  • ④ 静脈路確保
  • ⑤ 神経モニタリング


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  • ① 蘇生リーダー
  • ② 胸骨圧迫
  • ③ 気道確保
  • ④ 静脈路確保
  • ⑤ 神経モニタリング


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<編集者補足>


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「③ 気道確保」のアクションカードに記載されている「MONNAL T60のCPVモード」とは、CPR中に継続して圧制御換気を行う人工呼吸器の換気モードです。

このCPVモードでは測定パラメータもCPRに特化しており、「胸骨圧迫回数」「胸骨圧迫を行っていない時間」「CPVモード開始時からの時間」「胸骨圧迫時の気道内圧の変動値」を表示します。

また、「ROSC」キーを押すことで、通常のPCVにワンタッチで切り替えが可能です。


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「⑤ 神経モニタリング」では「瞳孔記録計NPi-200」が使用されています。NPiとはNeurological Pupil Index(神経学的瞳孔指標)の略で、NeurOptics社独自のアルゴリズムにより算出されます。

神経学的重篤度を数値(0.1~5.0)で判定でき、数値が低い(より0に近い)ほど重篤とされています。

奈良県立医科大学附属病院では、ROSC後の予後予測として、ROSC直後のNPi測定を行っています。

ここで動画をお見せできないのは残念ですが、この後は実際にアクションカードを用いたCPRについて動画でご解説されました。ご興味のある方は、ぜひセミナーDVDでご覧ください。


編集者注:DC=Doctor Car

また、CPA患者がCOVID-19に感染していると想定して実施するPPEの装着についても、スライドと動画でご解説されました。


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奈良県立医科大学附属病院では、「質の高いCPR」の実現を目指してCPRにアクションカードを導入されました。


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その結果として、アクションカード導入前後で胸骨圧迫の質を比較すると、「適切な深さの割合」が有意に増加したそうです。しかし、それでも「適切な深さの割合」はまだ低いのが現状とのことです。

「更に質の高いCPRを目指すため、今後は胸骨圧迫継続時間を2分間から1分間に減らすなどの工夫を行って行きたい」とのまとめで淺井先生のご講演は終了となりました。

【講演2】
チーム医療で戦う新型コロナウイルス感染症
~肺メカニクス改善のために~

2020.11.18
広島大学大学院 救急集中治療医学 大下 慎一郎 先生

大下 慎一郎 先生
▲ 大下 慎一郎 先生

大下先生は、従来の人工呼吸器管理法におけるトピックスをご解説いただいた後、新型コロナウイルス感染症における人工呼吸管理を詳しくご解説されました。

また、チーム医療のトピックスとして、腹臥位の実際やECMOの管理方法についてもご解説されました。

本講演は、「肺メカニクス改善のために」必要な情報として、3つのテーマを中心にご解説されました。


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  • 人工呼吸管理法の変遷
  • 呼吸仕事量の重要性
  • チームで何を行うのか?

また、本題に入る前に、基礎的な情報としてARDS定義の変遷と現状についてご説明されました。

ARDSの定義は、本講演の内容を理解する上で、とても重要な内容になります。


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まず初めに大下先生が強調されていたのは、2000年代から提唱されてきた4つの人工呼吸管理法の内、1が「肺を動かさない」戦略であるのに対し、3と4は「肺を動かす」戦略であり、両者を同時に完璧に行うことは困難である、ということです。そして、どちらを優先させるべきなのかわからないまま20年が経過しました。

2020年までの20年間で、どのような知見が集積されてきたのか、詳しくご解説されました。

1.肺保護換気法


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右のスライドにある3本柱をもって肺保護換気法とされていますが、一回換気量は6mL/kgより小さい方が炎症性サイトカインの発症が少なかったとの報告もあります。

また、駆動圧(Driving Pressure:プラトー圧とPEEPの差)は小さければ小さいほど寿命は延びるということもわかってきており、このことからも肺はできるだけ動かさない方が良い、であればECMOを使用することが更に良いのではないか、ということが示唆されます。

2.オープン・ラング戦略


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「ARDSの肺胞は虚脱しているより開いた方が予後が良い」と言われていましたが、ARDSの患者を対象にOpen lungを行った/行わなかった場合の寿命を比較したところ、Open lungを実施しても寿命は延びなかったことがわかりました。

3.自発呼吸温存

自発呼吸を温存する換気モード(APRV)と、温存しない換気モード(PCV)を比較したところ、APRVではP/F比が速やかに改善し、人工呼吸期間とICU滞在期間は短くなったという論文があります。

これをもって自発呼吸の重要性が唱えられているわけですが、P/F<300の軽症のARDS患者も多く含まれています。

これを重症の患者(P/F<150)に絞り、肺保護戦略の観点から48時間に限って筋弛緩薬を投与したところ、筋弛緩を投与した群が投与しなかった群より寿命が延びたという結果になりました。

これは、軽症の患者は自発呼吸を残してリハビリを行い、早期離床を目指す、重症の患者は自発呼吸を消してしっかり肺を休ませることが予後の改善に繋がる可能性があるということを示しています。


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4.早期離床


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右のスライドは、早期離床の有用性を示した論文です。早期離床を行った群と行わなかった群の比較では、早期離床を行った方が身体機能予後は良かったとされています。

しかし、患者の背景を見ますと、年齢は50代、疾患の半分は脳梗塞や心筋梗塞などの肺疾患ではない患者となっています。

2016年には、ARDSの患者のみを対象に研究したところ、普通のリハと集中的リハを行った比較では機能予後に差はなかった、という論文が出ました。

これは、早期離床よりも肺を安静にした方が良いのではないか、という概念に繋がります。


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このトピックスの結論として、人工呼吸管理法で注目すべき点は、次のようにシフトしてきています。

  • 呼吸仕事量
  • 強すぎる自発呼吸の有害性

2020年代の人工呼吸管理では、適切な自発呼吸制御(=呼吸仕事量管理)が重要であり、それを実施するためにはチーム医療が重要である、と強調されていました。

次に、大下先生はCOVID-19における人工呼吸管理についてご解説されました。


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COVID-19には2種類のタイプがあり、早期の患者はType L、重症化した患者はType Hという概念が提唱されています。

COVID-19では、低酸素性血管攣縮が障害されていると言われています。このため、肺病変がわずかでもその部位への血流が減少しないため、結果として肺病変のわりに高度な低酸素血症を呈します。患者は低酸素血症を補正するため強い自発呼吸をしてしまい、これによってP-SILIを起こしType Hへ移行する結果となります。

それを防ぐためには、早めに気管挿管を行い筋弛緩で自発を消失させ、P-SILIを回避することが重要である、ということが最近の知見でわかってきたとのことです。


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低酸素血症を放っておけば強い自発呼吸が生じてしまうため、腹臥位が再び脚光を浴びてきました。

仰臥位では心臓が肺の上に載るため、心臓の重量で肺が圧排されます。また肺の断面は背側が大きい洋梨型をしているため、仰臥位では重力によって潰れる領域が大きくなります。

よって、上下が逆になる腹臥位の方が低酸素血症を改善しやすいと言われています。

COVID-19感染患者は、腹臥位によりP-SILIを回避でき、重症化を予防できる可能性があるため、より早期に腹臥位を試すことを推奨されました。

【補足説明:P-SILIとは?】


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近年、注目されているP-SILI(Patient Self-Inflicted Lung Injury)とは、自発呼吸による肺傷害(患者自身の自発呼吸により自身の肺を悪化させている)です。

肺胞上皮障害が発生し、患者の努力呼吸をそのままにしておくと、1回換気量が増大し、更に肺胞上皮傷害が進行し、負のスパイラルに入っていく、ということがP-SILIの概念です。

また、COVID-19感染患者の腹臥位への体位変換も写真を用いて詳しくご解説されました。ご興味のある方は、ぜひセミナーDVDでご確認ください。


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次に、呼吸仕事量に関わる話として、経肺圧についてご解説されました。

経肺圧とは、肺胞上皮にかかる圧力ですが、気道内圧から胸腔内圧を引いたものになります。

経肺圧は0~25cmH2Oの値に収まることが適正とされており、右のスライドでは、吸気努力が強い患者の場合、経肺圧は30cmH2Oとなっています。

つまり、強い自発呼吸は患者にとって有害はとなる可能性があり、放っておいてはいけない、ということを表しています。


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次に、閉塞圧(P0.1)についてご解説されました。

閉塞圧(P0.1)とは、人工呼吸器の吸気時にフローを0.1秒間停止し、患者がどのくらいの力で吸うことができるのかを表した数値です。

呼吸ドライブの数値が高ければ吸う力が強い、ということを表し、数値が低ければ吸う力が弱く、呼吸筋が疲労している疑いがある、ということを表しています。

閉塞圧(P0.1)が強すぎる場合、P-SILIにより肺を痛める可能性があるため、鎮静を考慮せずにそのまま抜管することは危険である、ということになります。

これは近年、ECMOの離脱法についても取り入れられてきており、英国のECMOセンターでは閉塞圧(P0.1)が5cmH2O未満であることを離脱指標のひとつとしています。


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次に、非同調についてご解説されました。

非同調は、①トリガーのずれ、②呼吸サイクルのずれ、③吸気流速のずれ、の3つに分類できますが、最近特に注目されている①の中の「逆行性トリガー」について詳しくご解説されました。

逆行性トリガーとは、鎮静している患者の横隔膜が、人工呼吸の機械刺激によって反応し、強制換気の少し後に自発呼吸が始まってしまう現象です。

逆行性トリガーが発生するとARDSの肺の病変部が過剰伸展してしまい、放っておくと1回換気量がとても大きくなってしまいます。その結果、P-SILIを惹起してしまうため危険である、とのことです。


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次に、横隔膜障害についてご解説されました。

人工呼吸管理では、自発呼吸の制御が大事であるとここまで述べられてきましたが、横隔膜の保護はそれと同じくらい重要である、と強調されていました。

筋弛緩を用いて自発呼吸を制御することは、肺にはとても有効なのですが、横隔膜が弱っている患者に筋弛緩を使用すると予後が悪い、ということがわかっています。

また、横隔膜は使わなければ痩せてしまうため、人工呼吸器からの離脱ができなくなってしまいます。

そのため、推奨される呼吸管理としては、肺保護が第一ではあるが、ある程度回復した段階で横隔膜を守るために自発呼吸を開始しなければならず、そのタイミングを見極めることがとても重要である、とおっしゃっていました。


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本講演のまとめとして、人工呼吸において最も重要なことは呼吸仕事量の制御であること、それには様々なパラメータを見なければならず、人工呼吸中に記録として残らない項目もあるので、医師だけでは不可能であり、看護師や理学療法士の協力が不可欠であること、また、腹臥位は低酸素血症の改善には有効ですが、こちらも一人ではできず、やはりチームワークが重要であることを強調され、講演終了となりました。

最後に、COVID-19感染拡大の影響による特殊な学会開催状況の中、このような素晴らしいご講演をされました淺井英樹先生、大下慎一郎先生、スムーズな司会進行をしていただきました小倉裕司先生に心より感謝申し上げます。


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