特別企画

血液凝固・血小板機能分析装置Sonoclotの歴史、取り扱いの経緯
~令和2年度診療報酬 D006-21 血液粘弾性検査(新設)に寄せて~

  • 掲載:2020年05月
  • 文責:商品・市場開発本部 津賀茂雄
血液凝固・血小板機能分析装置Sonoclotの歴史、取り扱いの経緯<br>~令和2年度診療報酬 D006-21 血液粘弾性検査(新設)に寄せて~

令和2年度(2020年)の診療報酬改定により、この4月から、[D006-21 血液粘弾性検査(一連につき)600点]が新設されました。
これは、日本心臓血管麻酔学会が平成26年(2014年)から、「開心術時の止血管理において、血液製剤等の投与の必要性の判断、及び血液製剤等の投与後の評価」を主な目的として診療報酬収載の要望を上げはじめ、8年を経て、収載の運びとなりました。

 令和2年3月5日 厚生労働省告示第57号、実施:令和2年4月1日
D006-21 血液粘弾性検査(一連につき)600点
診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について

  1. (1) 血液粘弾性検査は、心臓血管手術(人工心肺を用いたものに限る)を行う患者に対して、血液製剤等の投与の必要性の判断又は血液製剤等の投与後の評価を目的として行った場合に算定できる。
  2. (2) 術前、術中又は術後に実施した場合に、それぞれ1回ずつ算定できる。
    なお、所期の目的を達するために複数回実施した場合であっても、一連として算定する。
  3. (3) 検査の実施に当たっては、日本心臓血管麻酔学会の定める指針を遵守し、適切な輸血管理を行うこと。

この[D006-21 血液粘弾性検査]の項目に関しては、弊社取り扱いの米国Sienco社製血液凝固・血小板機能分析装置Sonoclot(ソノクロットが該当します。
現在、弊社が取り扱っているSonoclotは、初期モデルからは3代目となり、前モデルを合わせると、20年以上も前から販売を行っている歴史ある装置です。この度の診療報酬収載にあたり、Sonoclotの歴史や導入の経緯について、ご紹介させていただきたいと思います。

Sonoclotの日本での販売開始は1998年です。筆者と「血液凝固線溶系」の出会いは、その2年前に遡ります。
1996年に開催された日本臨床麻酔学会第16回大会(11月6日~8日、東京、会長:日本医科大学麻酔科 小川龍教授)に参加した折、シンポジウム外科侵襲の評価法を聴講しました。札幌医科大学医学部麻酔科学教室 山蔭道明先生(現・同大学麻酔科教授)が、シンポジストのお一人として血液凝固線溶系について講演をされていました1)
主な内容は、「生体に外科(手術)侵襲が加わると、血液凝固線溶能が変動し、疼痛刺激が加わると血液凝集が促進される。簡単な操作で血液凝固異常をスクリーニングし、凝固線溶系の全過程を客観的に評価することが可能な検査としてトロンボエラストグラフ(TEG)法が有用である」というものでした。それを聴講し、「画期的な装置がある」と思い、すぐさまメーカーを調べましたが、TEGは、既に日本国内に代理店があり、しかも1970年代から発売されているもので、新鮮味を強く感じず、TEGについての取り扱いを、一旦はあきらめました。

麻酔と手術侵襲
「麻酔と手術侵襲」
(真興交易医書出版部)


「外科侵襲の評価法」のシンポジウムは、小川龍先生らが編集された書籍「麻酔と手術侵襲―免疫・内分泌・自律神経系から見た21世紀への提言」(真興交易医書出版部 1994年)をアップデートされた内容で非常に興味深いものでした。


TEGの取り扱いを一旦はあきらめたものの、心臓手術に関係する仕事が多かったこともあり、「もっと簡便で、有用な血栓止血管理に使える器械はないものか」と思い続けていたところ、大分大学医学部附属病院 手術部・谷口一男先生(当時・大分医科大学 助教授)から、「ASA(米国麻酔科学会)で面白そうな器械を見つけた。個人輸入したいので手伝ってほしい」と声が掛かりました。
その器械がSonoclotで、当時はSonoclot Surgical Analyzer IIという名称であったため、TEGと同じ目的の器械とは知らず、輸入のお手伝いをすることになりました。輸入手続きの中、メーカーより貰った器械の詳細資料を読むと「血液の粘稠度を測定し、その変化を波形にして解析。血液凝固能、血小板機能、線溶亢進を起こしているかどうかの判定ができる」と書かれ、TEGと同じ目的の器械であり、且つ、日本に代理店がなかったため、すぐさま、メーカーと販売権の交渉を始め、1997年秋にSienco社と代理店契約を締結することができました。日本の麻酔科領域でSonoclotに関する文献第1号が大分大学医学部から出たのは、そのような経緯があったためです2)

Sienco社は、Sandy Simonというコロラド大学の検査技師だった方が興した会社です。創設当初は血小板凝集計を製造販売していたのですが、コロラド大学のドイツ人外科医から、「肝臓手術の管理にドイツで使っていたトロンボエラストグラフ(TEG)のように血液の粘弾性がみられ、簡単に、短時間で結果が解る分析装置を作ってほしい」と言われたことを契機に開発されたのが[Sonoclot Surgical Analyzer]でした。
初代モデルは粘弾性の変化を波形で見るだけの器械でしたが、その後[Sonoclot Surgical Analyzer II]へと改良され、弊社が販売を開始する1998年には名称もSonoclot Coagulation & Platelet Function Analyzerと改名されました。

当時のSonoclotの測定において、凝固能は、活性化凝固時間(ACT)と、凝固が始まりファイブリノゲンがフィブリンに変化し、粘弾性が上がっていく勾配(Clot Rate)の2つの数値的パラメーターを計算し、血小板機能は、粘稠度が最高値となるピークまでの到達時間を血小板機能の強弱の判定とするものでした。
Sonoclotは、血小板機能の4つの働きである、血小板の[粘着][凝集][ADP放出][血餅収縮]のうちの[血餅収縮能]を観察しています。
血餅収縮が進み、更に粘稠度が低下し、最終的に、測定開始時の粘稠度をベースラインとして、粘稠度がベースライン以下まで下がると線溶亢進を起こしている可能性があると判定するものでした。ちなみにSonoclotの名称はSonic(音波)とClot(血餅)を合わせたものです。「音波で血餅の粘度を測定する」ことから、そのように名付けられています。

1998年販売開始当時のSonoclot
1998年販売開始当時のSonoclot

1998年の販売開始前に、浜松市で18th International Symposium on Computing in Anesthesia and Intensive Care(1998年3月18日~21日、会長:浜松医科大学麻酔科 池田和之教授)という国際学会が開催されました。
教育講演凝固モニタリングがあり、演者であった米国アトランタにあるEmory大学麻酔科のJerrold Levy教授が、様々な凝固モニター、分析装置の特徴とその長短所を紹介され、最後に「周術期の血栓止血管理には血液の粘弾性を見る分析装置が一番良い」と言われ、TEGとSonoclotを紹介されていました。それを聴講し、Sonoclotの上市に大いに自信が付いたことを鮮明に覚えています。

薬事が取得できると、筆者がこの分野に興味を持つ契機となった山蔭道明先生(札幌医科大学医学部麻酔科学教室)のもと、Sonoclotの臨床評価が開始され、その後、多くの学会で、Sonoclotの発表をしていただきました。

麻酔科学会チラシ
第46回日本麻酔科学会
ランチョンセミナー5チラシ

1999年には、当時、海外でSonoclotを用いた複数の論文を書かれていたスウェーデンÖrebro Medical Center 麻酔科・集中治療部 Dr. Ulf Schött(Lund大学麻酔科出身)を招聘し、第46回日本麻酔科学会学術集会(5月26日~28日、札幌、会長:札幌医大麻酔科 並木昭義教授)にて、周術期におけるセライト活性化血液粘性凝固テスト-Sonoclotの有用性と題したランチョンセミナーを共催しました。セミナーは満員御礼の盛況で、特に心臓血管麻酔に関係する先生方から多くの引き合いをいただきました。

 Dr. Ulf Schöttは、第11回日本心臓血管麻酔学会(2006年9月、長崎、会長:長崎大学麻酔科 澄川耕二教授)に、招待講演「Point of Care Monitoring of Haemostasis in Cardiovascular Surgery」で2度目の来日をされています。


Sonoclotはわずか0.36ccの全血を用い、1回の測定で止血過程の全容が見れると評判になり、販売開始直後から、麻酔・集中治療領域のみならず、循環器内科、脳神経外科、消化器外科、産婦人科、小児・新生児科から透析、検査室、漢方の分野までいろいろな研究に使われました。
最初の頃は単一施設での観察研究が主で、エビデンス確立までには至らなかったですが、以下のような研究が興味深いものでした。

  1. 従来の活性化凝固時間(ACT)測定ではあまり薬効の変化が見られなかった抗凝固剤、血小板機能抑制剤の薬効の評価(低分子ヘパリン、フサン、アルガトロバン、クロピドグレルなどの薬剤)
  2. 透析や血液浄化に使うダイアライザーの膜の材質と個々の患者さんとの生体適合性を評価(治療終了後の回路内の残血の有無)
  3. Sonoclotの測定温度可変機能(研究用)を用い、低体温手術、低体温療法中の患者さんの実体温に合わせた温度で測定(血小板機能などの過大評価回避)
  4. ヘパリナーゼ入りキュベットを用いた開心術中ヘパリン投与下患者さんの、プロタミン中和前の血小板機能の評価3)

様々な領域で使用されましたが、弊社はPRの主軸を[心臓血管手術の周術期管理]に置いており、当時は毎年、米国麻酔科学会(ASA)に参加し、血栓止血管理の発表、特にEmory大学のJ. Levy教授のグループの発表をチェックしていました。
2000年頃だったか、Levy教授のグループのASAポスター発表を見に行くと、日本人の先生がポスターの前に立たれていました。それが、当時、Emory大学に勤務されていた田中健一先生(慶応大学麻酔科出身、現Maryland大学麻酔科教授)との出会いでした。田中健一先生は、凝固の研究を主とされ、それ以降、長きに渡り、この分野でのご指導をいただくこととなりました。Emory大学のLevy教授の研究室には、多くの日本の麻酔科医の先生方が留学され、現在も、日本で、主にこの分野を中心に活躍されています。
田中健一先生には、後に、日本臨床麻酔学会 第34回大会(2014年11月1日(土)~3日(月)、東京、会長:東京女子医科大学麻酔科 尾崎眞教授)にて、「止血・血栓管理:プラクティカルガイド」というタイトルでランチョンセミナーをご講演いただきました。

 このセミナーDVDをご希望の方は、こちらからお申し込みください→ DVD「日本臨床麻酔学会第34回大会 ランチョンセミナー21」


第23回国際血栓止血学会懇親会場にて
第23回国際血栓止血学会懇親会場にて(2011年7月:京都)
左からJerrold Levy教授・田中健一教授・Ulf Schött教授

米国麻酔科学会(ASA)展示場Sienco社ブース
米国麻酔科学会(ASA)展示場Sienco社ブース
(2008年10月:オーランド)
左から筆者・Sienco社 社長Jon Henderson氏


現在のSonoclotは2013年にSC1(1チャンネル、凝固能のACT、Clot Rateのみ)、SCP1(1チャンネル、凝固能、血小板機能)、SCP2(2チャンネル、凝固能、血小板機能)の3機種を同時に販売を開始し、このモデルから、血小板機能はPF (Platelet Function)と数値化されるようになりました。

血栓形成や止血機構は、様々な要因が絡み合って作用するため、止血管理は、1台の検査機器、分析装置で事足りるものではありませんが、少なくとも、Sonoclotは、以下の特徴を持っています。

  1. 少ない血液検体量
  2. 簡便な操作
  3. 安価なランニングコスト
  4. 出血の原因が凝固能、血小板機能、線溶亢進のいずれが原因かの推測が可能

血液凝固・血小板機能分析装置Sonoclotが、診療報酬収載となった周術期の管理は勿論のこと、これからも、多くの領域での研究、日々の臨床モニターとして、ご活用していただける事を願ってやみません。



脚注

  1.  1)外科侵襲の評価法 ― 血液凝固線溶系、特にトロンボエラストグラフィーを用いての評価、山蔭道明他、日臨麻会誌 Vol.17 No.9 Nov. 1997, 502-504
  2.  2)新しい凝固,血小板機能評価法Sonoclotの使用経験、 北野敬明他、麻酔・集中治療とテクノロジー 1997(1): 11-12, 1997.
  3.  3)Impact of Sonoclot hemostasis analysis after cardiopulmonary bypass on postoperative hemorrhage in cardiac surgery Tatsuya Yamada1, Nobuyuki Katori1, Kenichi Tanaka2, and Junzo Takeda1
  4. 1.Department of Anesthesiology,School of Medicine,Keio University,Tokyo,Japan

    2.Deparment of Anesthesiology,Emory University School of Medicine,Georgia,USA


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