第47回日本集中治療医学会学術集会 教育セミナー41
「Neurocritical care up to date. ~最新の神経集中治療と今後の展望~」ご報告
- 掲載:2020年06月
- 文責:クリティカル・ケア部
第47回日本集中治療医学会学術集会(2020年3月6日~8日、会長:藤田医科大学医学部麻酔・侵襲制御医学講座主任教授 西田 修先生)にて、教育セミナーを共催予定でしたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、日本集中治療医学会学術集会 WEB閲覧サイト上に動画にてご講演頂きましたので、ご報告申し上げます。
TMGあさか医療センター(埼玉県朝霞市)には、[脳卒中センター][てんかんセンター][神経集中治療部]があり、演者の江川 悟史先生は[神経集中治療部]にご勤務されています。
TMGあさか医療センター
- 2018年にNeuro ICUを開設
- Multi-Modalityモニタリング、Targeted temperature managementにも注力
- Multi-Modalityモニタリングにおいて、脳波モニタリング、瞳孔記録計(NPi-200)、NIRSモニター(tNIRS-1)などを使用
- 持続脳波モニタリング(10-20法)、簡易脳波モニタリング(8ch)をそれぞれ複数台所有
- 2018年から2019年までに約200件の脳波測定を実施、平均モニタリング時間は48時間
- 複数の脳波モニターを一つの部屋で管理できるEEGモニタリングルームを保有
本セミナーでは、TMGあさか医療センターにおける臨床現場でのNeuro ICU管理についてご講演頂きました。
NCSE(非痙攣性てんかん重積状態)の頻度
約2年間で約200件の脳波測定を実施。その中で、NCSE(非痙攣性てんかん重積状態)は、11.7%の患者様に認められ、この数値は世界的に発表されている発作の頻度と相違ない。
まず、最初に
- Neurocritical careの目的は、脳の酸素需給バランスを保ち、2次性脳損傷を防ぐこと
- SjO2(内頸静脈酸素飽和度)の概念、多角的モニタリング(Multi-Modality モニタリング)の重要性
- 脳内をリアルタイムでモニタリングすることがNeurocritical careの第一歩である
とのご説明がありました。
NCSE※1(非痙攣性てんかん重積状態)を理解する上でのポイント
- 脳の代謝需要の増加に対する代償反応
- 発作になりうる代表的な異常波形の3つのパターン
- 発作と2次性脳損傷のリスクの関係
- NCSEの診断方法
- IIC(The Ictal-Interictal Continuum:発作間欠期脳波)が発作となる可能性は周波数が増加するほど上昇し、その中でも片側の周期性発射(PD※2)波形は一番リスクが高い
※2 PD:periodic discharge
基礎的な病態生理の内容から、発作になりうる異常波形、2次性脳損傷リスク、てんかん発作管理のポイントや難しさなどを詳しくご講演頂き、その後、実際の症例報告をして頂きました。
症例報告:NCSEに対する治療を行う1ヶ月間
- 脳波の背景活動がどのように変化したか
- IIC波形の出現
- どのようにNCSEへと移行したか
- どのように診断に繋がったか
- どのような治療を行い、どのように改善したか
実際の症例を用いて、とても解りやすくご説明頂きました。
脳波モニタリングで解ること
- てんかん発作の検出
- 一歩進んだEEGとして脳虚血の検出ができる
- ・ 脳血流量(CBF※3)と脳波には関連性がある
- ・ δ(デルタ)波の出現が脳虚血の閾値であり、梗塞となる一歩手前である
TMGあさか医療センターでは、くも膜下出血(SAH※4)の中等症(Hunt and Hess scale 3)以上の患者様には、遅発性脳虚血(DCI※5)の早期発見を目的として、持続脳波モニタリングを装着されているそうです。
※4 SAH:subarachnoid hemorrhage
※5 DCI:delayed cerebral ischemia
DCIの検出
- 局所的な徐波化、速波の消失
- RAV※6(相対アルファパワー変動)の減少
- ADR※7(アルファ対デルタパワー比)の低下
- てんかん性異常波形の増加
※7 ADR:alpha-delta ratio
DCIの検出に有用である4つの重要な波形について、文献を用いて、詳細にご紹介して頂きました。
脳の自動調節能(Autoregulation)
- Autoregulationが正常であれば、血圧変動(50-150mmHg内)があっても脳血流は一定に保たれる
- Autoregulationが障害された場合は、血圧変動の幅が狭まる
- Autoregulationが破綻した場合は、血圧に依存性に脳血流が変化する
CBFを確保するための至適な血圧は、Autoregulationの障害の程度によって異なるため、脳のAutoregulationを意識した全身管理が大切である
と述べられました。
CMD (Cognitive Motor Dissociation:
指示で動作にはつながらないが、指示に従って脳波活動を認めること)
予後予測の指標としてコロンビア大学などで発表されているCMDについて
- CMDがあった患者様の44%は、転帰良好であり、脳波活動が、健常人と同様に変動が大きかった
- すなわち、患者様の声は眠っている可能性があり、指示に応じなくても脳波が答えを持っている可能性が高い
「脳が求めているものは何か?意識のない患者様の声を聞きとり、脳に優しい医療を行うためにも、脳波モニタリングが必要であり、今後も、Neurocritical careの教育を提供し、Neuro intensivistを確立していきたい」
と結論付け、講演を終えられました。
最後に、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)により、ご多忙を極める中、ウェブ講演を快諾して頂き、また素晴らしいご講演をして頂いた江川先生に心より感謝申し上げます。
なお、本講演の全スライドをNeuroモニタリング倶楽部*に掲載致しますので、是非、ご登録ください。
* 弊社では、“Neuroモニタリング倶楽部”という会員制サイトを運営し、【神経モニタリング】をはじめ、【脳神経蘇生】【神経集中治療】に関する学術情報をご提供しております。
脳波計(Arc Essentia、NicoletOne)、瞳孔記録計(NPi-200)の要約付き文献リストのご提供や、これまでの学術集会での共催講演の動画配信も行っております。
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