重度COVID-19患者に対する血液粘弾性検査について
- 掲載:2020年06月
- 文責:クリティカル・ケア部
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」の世界累計感染者数は440万人、世界累計死亡者数は30万人※を超えていますが、その病態については未解明な点が多く、日々、情報がアップデートされています。
※2020年5月16日時点
主要な死因の一つとして、重度COVID-19患者の凝固障害が挙げられおり、
国際血栓止血学会(ISTH)は、今年3月下旬に、COVID-19の凝固異常に関する暫定ガイダンス[ISTH interim guidance on recognition and management of coagulopathy in COVID‐19]を発表しました。
続く、4月下旬には、COVID-19の凝固機能障害の診断と治療に関する中国の専門家の合意[Chinese expert consensus on diagnosis and treatment of coagulation dysfunction in COVID-19](以下、中国ガイドライン)が発表され、その中で、重度COVID-19患者の凝固障害に対する凝固能評価、抗凝固療法のモニタリングとして、弊社取り扱い商品、米国Sienco社製 Sonoclot(ソノクロット)を含めた 血液粘弾性検査装置の使用が推奨 されています。
血液凝固・血小板機能分析装置
Sonoclot モデルSCP2
血液凝固・血小板機能分析装置Sonoclotは、一度の測定で凝固能、血小板機能など止血機構の全過程をモニタリングできる血液粘弾性検査機器です。凝固障害患者の凝固能評価や抗凝固療法管理には勿論のこと、周術期での出血に対する輸血鑑別、ECMO(体外式膜型人工肺)やCRRT(持続的腎代替療法)の抗凝固薬管理など、様々な領域の血栓・止血モニタとしてご活用いただけます。
発表された中国ガイドラインをはじめ、DIC患者に対してSonoclotを使用した文献「SonoclotはDICにおける死亡率を予測するための有用な手段」および「DICの治療中の即時凝固モニタリングの重要性」をご紹介いたします。
COVID-19患者に対する 凝固障害の診断と治療に関する中国ガイドライン
Chinese expert consensus on diagnosis and treatment of coagulation dysfunction in COVID-19(COVID-19の凝固機能障害の診断と治療に関する中国の専門家の合意)
Jing-Chun Song, Gang Wang, Wei Zhang, Yang Zhang, Wei-Qin Li, Zhou Zhou, People’s Liberation Army Professional Committee of Critical Care Medicine, Chinese Society on Thrombosis and Haemostasis Published online 2020 Apr 20.DOI: 10.1186/s40779-020-00247-7 ※外部サイトが開きます
【要約・抜粋】
- COVID-19症例の死亡率は約5.44%で、死亡患者の71%が、播種性⾎管内凝固症候群(DIC)と診断され、重篤な基礎疾患を持つ患者は、凝固機能障害のリスクが⾼い。
- 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、これまでのコロナウイルス(SARS-CoV)と⽐較すると、10〜20倍の⾼い親和性を⽰し、全⾝性炎症反応症候群(SIRS)のリスクが高い。
- 定期的な凝固検査が推奨され、COVID-19患者183⼈の凝固検査分析では、⾮⽣存者の⾎漿フィブリン分解産物(FDP)、Dダイマー(DD)が⽣存者よりも有意に高値を示し、プロトロンビン時間(PT)と活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が有意に延⻑を認めた。
Dダイマーの上昇が死亡の独⽴した危険因⼦である。 - COVID-19患者の凝固能評価には、血液粘弾性検査(TEG/Sonoclot推奨)の実施が有効。
- 血栓性合併症のリスクが高く、未分画ヘパリン/低分⼦ヘパリンでの抗凝固療法が推奨され、血液粘弾性検査を使用した投与量検討および凝固管理が必要。
- ヘパリン投与量をモニタリングするためにTEG/Sonoclotヘパリナーゼ⽐較検査を推奨。
- ほとんどの患者はヘパリン投与を受けているため、患者自身の凝固機能を正確に評価することは困難であるが、ヘパリナーゼ⽐較検査により、患者⾃⾝の凝固機能とヘパリン効果の凝固機能をそれぞれ評価できる。この評価はヘパリン投与量の決定に使⽤でき、この比は約1:2が推奨される。
- 各治療においての推奨抗凝固剤
持続的腎代替療法(CRRT)
- → 未分画ヘパリン、低分⼦ヘパリン
- → 局所クエン酸(活動性出⾎を伴う場合
- → 未分画ヘパリン
- → アルガトロバン、ビバリルジン(日本国内未承認)
PTまたはAPTTが1.5倍を超えて延⻑する場合、またはTEG-R時間が10分を超える場合、またはSonoclot gb-ACTが240秒を超える場合、FFPを15〜30ml/kgで投与。
フィブリノゲン<1.5g/L、TEG-FIBTEM MA 10 mm未満、またはSonoclot CR(Clot Rate)が10未満の場合、クリオプレシピテートされたフィブリノゲン10ml/kgまたはヒトフィブリノゲン30〜50mg/kgを注⼊。
以前の研究では、⾎⼩板数を⾎⼩板輸⾎の指標として使⽤しても、重症患者の転帰が改善されることは⽰されておらず、TEG-MA<43 mm、またはSonoclot-PF(Platelet Function)<1の場合、⾎⼩板輸⾎を推奨。注⼊後、効果に応じて⽤量を評価し、調整。
DIC患者に対してSonoclotを使用した文献(1)
Sonoclot coagulation analysis: a useful tool to predict mortality in overt disseminated intravascular coagulation(SonoclotはDICにおける死亡率を予測するための有用な手段)
Peng Wan, Min Yu, Min Qian, Huasheng Tong, Lei Su Blood Coagul Fibrinolysis. 2016 Jan;27(1):77-83.DOI: 10.1097/MBC.0000000000000345 ※外部サイトが開きます
【方法】
- DICを発症した患者(237名)を入室時にSonoclotで分析
測定された指標(gb-ACT、Clot Rate、PF)を生存:S群(n=146)と非生存:NS群(n=91)で比較し、30⽇間の⽣存に関連するかどうかを評価
【結果】
Sonoclot
- gb-ACTおよびPF (血小板機能):生存率 と相関(P <0.05)
- gb-ACT:S群 194.6 ± 126.8 s で、NS群 289.5 ±200.5s は有意に延長(P<0.001)
- PF:S群1.6±1.2で、NS群1.2±0.9と低値(P=0.010)
一般検査(APTT、PT、INR、Fibrinogen、Platelets、D-dimer):有意差を認めなかった
DIC予後予測 ROC曲線
- gb-ACTの延長(OR 1.002、95%CI 1.001–1.003、P<0.01)、
および PFの低下(OR 0.761、95%CI 0.607–0.953、P<0.05)は、生存率に影響する独立因子であった - PFと組み合わせたgb-ACTは、特異度82.6%、感度80.5%、AUC= 0.876 (P<0.05)を示した
【結論】
- gb-ACT+PFのAUCは、APACHE IIおよびISTHスコアのAUCよりも高く、Sonoclotが DIC予後のより良い指標であることを強く示唆した
- ISTHスコアとSonoclotの組み合わせは、DICによる死亡の可能性を示す非常に有用な予測因子となる
DIC患者に対してSonoclotを使用した文献(2)
The significance of immediate coagulation monitoring during the treatment for DIC
(DICの治療中の即時凝固モニタリングの重要性)
WAN Peng, et al. Department of Critical Care Medicine, First Hospital of Sanxia University, Yichang, China. Medical Journal of Chinese People’s Liberation Army 40(8):632-637 DOI:10.11855/j.issn.0577-7402.2015.08.06 ※外部サイトが開きます
【方法】
- DICを発症した患者(237名)を、Sonoclot指標(gb-ACT、Clot Rate、PF)を用いて抗凝固療法、補充療法を管理した群(n=116)と、従来の凝固検査指標を用いて管理した群(n=121)に分け、抗凝固療法の投与量、期間、輸血量、合併症発生率、ICU滞在日数、生存率などの転帰比較を行う
【結果】
Sonoclot群が有意差を認めた内容
- ヘパリン使用率はかなり高かったものの、期間は短く、使用量は少なかった(P<0.05)
- 出血率は有意に低かった(P<0.05)
- FFP、PLT、およびクリオ製剤の投与量もかなり低かった(P<0.05)
- ICU滞在期間は短かった(P<0.05)
- 生命予後は有意に改善した(P<0.05)
【結論】
- Sonoclotは、合理的な血液製剤の選択と必要な投与量の決定に役立つ
- DIC患者の出血リスクと死亡率を減らすための抗凝固療法を効果的に誘導する
重度COVID-19患者の凝固障害に対処することは、治療の予後改善において、一つの鍵になり得るのかもしれません。Sonoclotが、今後、COVID-19を含めた、より多くの治療に使用され、様々な領域での血栓・止血モニタとして、ご活用していただける事を切に願っています。
最後になりましたが、最前線で国民の命を守っておられる先生方および医療従事者の方々に敬意を表するとともに、ご健勝とご安全を心からお祈り申し上げます。
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