瞳孔記録計NPi-200
日本医科大学付属病院 高度救命救急センター 横堀 將司 先生
- 掲載:2023年02月
- 文責:マーケティング部 ケアサポート・モニタリングチーム
自動瞳孔記録計NPiシリーズは2013年、前身モデルのNPi-100が発売されてから、約10年が経ちました。この間、JRC(日本蘇生協議会)蘇生ガイドライン2020にて、「ROSC後に昏睡状態にある成人の神経学的転帰を予測するために、ROSC後72時間以降に定量的瞳孔径測定※を使用すること」が推奨されました。
(第2章 成人の二次救命処置 〔8〕予後評価 2. ROSC後の神経学的予後評価)
今回、NPi-200のヘビーユーザーであり、多くの神経系疾患患者(心停止、脳卒中、頭部外傷等)さんの診療に従事されている日本医科大学付属病院 高度救命救急センター長 横堀將司先生に対光反射による定量的瞳孔径測定の意義やNPi-200の活用事例について、纏めていただきました。この記事により、NPi-200の有用性をご理解いただき、神経救急・集中治療にお役立ていただければ幸甚です。
※瞳孔径測定
定量的瞳孔径は、次のいずれかを自動的に評価する:
- 瞳孔径の縮小割合(qPLR)
- 瞳孔径、収縮割合、収縮速度および潜時など、いくつかの変数に基づく神経学的瞳孔指数(NPi:Neurological Pupil Index)
日本医科大学救急医学教室について
我々、日本医科大学救急医学教室のモットーは “チャレンジ(挑戦)”です。本学救急医学教室の創設以来、スタッフ全員が共有してきたスピリットです。
『どんなときも人命を第一に、決してあきらめない姿勢』
私たちがずっと大切にしてきた方針です。
日本医科大学救急医学教室は、1975年に本学付属病院に創設された「救急医療センター」、1977年の「救命救急センター」、そして1983年に開設された「救急医学講座」が基盤となっています。
日本医科大学の付属4 病院や全国に存在する関連施設の救命救急センター、救急部に人材を派遣し、わが国の救急医療の発展に大きく寄与して参りました。教室のスタッフは、救急科専門医・指導医の取得のみならず、外科、脳神経外科、整形外科、集中治療、外傷、脳卒中、中毒、内視鏡、脳血管内治療などサブスペシャリティの認定医、専門医を有する救急専門医の集団です。
救急医学は社会に直結する医学です。日々の診療は勿論、地域包括ケアの最後の砦として、地域・社会との連携を目指し、市民の皆様の安全安心に貢献できるよう、絶え間ない努力を続けて参ります。
日本医科大学付属病院 高度救命救急センターについて
東京都文京区にあり、東京都区中央部の医療圏における三次救急医療を支援しています。総ベッド数60 床、医師40 名、看護師140 名ほどが勤務しています。近年では、心停止患者さんの神経集中治療管理や、頭部外傷、脳卒中の集中治療管理に力を入れております。頭蓋内圧モニタリングや、持続脳波測定、自動瞳孔計などを駆使し、患者さんの病態を的確に把握した綿密な集中治療を心がけています。
特に、自動瞳孔計のデータはスマートガードリーダーを用いて、電子カルテの中にデータを自動入力するシステムを確立し、タイムリーなモニタリングを可能としています。
瞳孔測定と神経集中治療
意識障害患者において、血圧、脈拍、呼吸のみならず瞳孔所見の確認は必須である。瞳孔不同や対光反射の確認は、脳ヘルニア徴候を察知する有効な手段である。従来、対光反射はペンライトを瞳孔にあてることで検者が主観的に判断するものであった。
とくに瞳孔不同は1mm以上の瞳孔径の差異と定義されているものの、対光反射の収縮速度は迅速(prompt)、遅延(sluggish)、欠如(absent)と、その程度によって三段階に記載されるのが常であり、主観的な判断に頼らざるを得なかった。
しかし、近年では赤外線カメラを用いた全自動瞳孔計が救急・神経集中治療領域で普及しつつあり、より正確な瞳孔観察ができるようになった。わが国においては、救急現場で使用しうるものとして瞳孔記録計NPi-200
(IMI 株式会社)が上市されている。
自動瞳孔計についてその有用性と臨床使用の妥当性について、過去の報告と自らの経験をもとに論じたい。
自動瞳孔計の原理と測定パラメータ
瞳孔記録計NPi-200はハンディな自動瞳孔計であり、赤外光を被験者の瞳孔に照射し、瞳孔変化を内蔵ビデオカメラにより追跡し撮影解析する原理で、患者の直接対光反射を観察しうる(1)。
測定項目は、以下の7項目。
- 瞳孔最大径(pupil maximum size, MAX)
- 瞳孔最小径(minimum size, MIN)
- 瞳孔縮小率〔constriction% or percentage change, %CH(=MAX−MIN)/MAX〕
- 縮瞳開始までの潜時(latency, LAT)
- 平均収縮速度(constriction velocity,CV)
- 最大収縮速度(maximum constriction velocity,MCV)
- 拡張速度(dilation velocity, DV)
これら測定値とアルゴリズム(非公開)から算出されたNPiTM(Neurological Pupil index : 0.0〜5.0までの連続した数値で3.0 以上が正常、5.0 に近いほど反射が迅速)が表示される(表、図)。
光刺激から収縮開始までの時間が潜時(Latency: LAT)である。また、対光反射の瞳孔収縮が起きる前の瞳孔径が最大瞳孔径(MAX)、瞳孔収縮が終了した時点での瞳孔径を最小瞳孔径(MIN)と評価する。
収縮率(%CH)は最大径から最小径を減じたものを最大瞳孔径で除した値であり、パーセント値で表現される。
収縮速度(CV)は瞳孔変化を瞳孔収縮時間(T1)で除した値である。
MCVは最大のCV値である。同様に収縮速度DVは回復後の瞳孔径から最小径を減じたものを回復時間(T2)で除した値である。
これら7 つのパラメータを用いたアルゴリズムによりNPiTMが計算される。
ペンライトとの比較
従来のペンライト法による対光反射と正確性を比較した報告が散見される。
小畑らはペンライト法による112 件の観察データを自動瞳孔計のデータ
と比較しているが、全測定件数の34.8 % において0.5 mm 以上、13.4 % において1.0 mm 以上の差がみられたとしている(1)。
また%CH が10 % 以上の収縮を示した対光反射の40.9 % が対光反射なしと判定されたという。
さらに%CH が3 % 未満の症例の91.1 % は対応反射なしと判断されていたという。
以上により、ペンライト法による瞳孔観察は検者間の差が大きい上に、対光反射なしと判定されることが多いと結論付けている。
自動瞳孔計の臨床応用
わが国では上記の自動瞳孔計の前身モデル(NPi-100)が2013年に発売され、後継機器のNPi-200 は2015年に発売されている。
今までの報告の中では、頭部外傷や心停止後症候群(PCAS)に関連する報告が多い。
例えば、重症脳損傷患者において瞳孔反応の異常が頭蓋内圧と相関し、NPiTMの異常が頭蓋内圧上昇に平均15.9時間先行することが報告されている(2)。
PCAS の分野においては、心拍再開直後の%CH が、90 日生存および90 日の転帰良好率を最も鋭敏に予測したとされている(それぞれカットオフ3%,6%)(3)。
また、心拍再開前に、自動瞳孔計で正確に測定された瞳孔径が、患者の心拍再開を予測しうるという報告もある(4)。
上記の如く、3% の瞳孔収縮を見るには人の眼では限界があるといえ、自動瞳孔計が早期からの患者転帰の予測や治療方針決定に貢献しうる可能性を秘めている。今後の研究が期待されるところである。
瞳孔計と脳幹機能の関連性
瞳孔対光反射は図の如く、中脳レベルの反射弓を介したものである。すなわち、網膜に映った光刺激は両側の中脳上丘レベルにあるEdinger-Westphal 核(EW 核)
を介して両側の動眼神経に刺激が伝播し、副交感神経を介した瞳孔収縮が起こる。瞳孔計は直接的に脳幹機能障害の有無を知ることができるモニタリングである。
自動瞳孔計が脳幹機能の評価を反映するか、我々の施設の研究においても、瞳孔計のパラメータと聴性脳幹反応(auditory brainstem response:
ABR)の関連性を評価した。
研究デザイン:後ろ向き観察研究
日本医科大学高度救命救急センターに搬送された心停止患者で、初期治療後心拍再開したが意識障害が遷延しABR及びNPi-200 が同時に測定されていた患者。
ABRの潜時(Ⅰ-Ⅴ波)と自動瞳孔計のパラメータの比較はピアソンの積率相関係数を用いた。また予後予測能(CPC1-2 を良好とする)をROC曲線下面積
(AUC)で比較した。
ABRと瞳孔計の各パラメータの相関関係を見てみると、特に収縮率(%CH)
や収縮速度(CV)がABR との相関性が強いことが明らかになった。(相関係数%CH 0.502,CV:0.429)
また、各測定パラメータと、ABRとの比較では、予後予測能において、特に収縮率(%CH)と収縮速度(CV)、NPiTMは、ABR より転帰良好予測能が高いことが明らかとなった(5)。
自験例の提示:症例 ① 77 歳 男性
歩道で倒れている患者を通行人が発見し、救急要請。救急隊接触時CPA(PEA:Pulseless electrical activity)。119 番通報から救急隊接触まで 9 分、通報から来院まで21 分であった。バイスタンダーCPR はなし。CPA(PEA 継続)にて搬送された。来院時、GCS3 対光反射欠如。瞳孔両側4 mm、対光反射なし。来院後、気管挿管・アドレナリン5A 投与し、VF に移行。除細動 4 回にて心拍再開(ROSC)。心拍再開直後にNPi-200 を用いて対光反射を確認した(表)。
この患者は心停止時間も長く、意識の回復が難しい可能性があった。
しかし、心拍再開直後のNPiTM値、%CH、CV値は転帰良好予測のカットオフ
値からの判断で、患者転帰が期待できると判断し、体温管理療法(TTM)(34℃ /48 時間)を含む集中治療を継続した。
その後、3 日かけて復温し、入院7日目でTTM を終了した。
TTM 終了後、頭部CTを示すが、皮質髄質境界の消失などは見られなかった(図CT)。
この患者はTTM 復温後終了後に意識回復し、30日後CPC1で自宅退院した。本症例はNPi-200を、脳幹機能の定量的な評価のために使用し、脳障害の程度を判断することで、集中治療を継続させるかの判断の一助として活用することができた。
自験例の提示:症例 ② 9 歳女児
自転車乗車中タクシーと衝突し頭部を強打し、救急搬送された。来院時意識レベルGCSでE3V4M6であった。来院直後は応答可能であったが、頭部CT 撮影後に突然心室細動に至り心停止となる。
来院時CT 所見:急性硬膜外血腫が厚く、脳ヘルニアを起こしている。脳幹が圧迫を受けているのがわかる。
その後、心停止に対してアドレナリン計13A 投与、除細動7 回施行するもVF は回復せず、初療室で心マッサージしつつ中頭蓋を緊急穿頭し、44 分間の蘇生術にて心拍再開した。
その後、手術室で開頭血腫除去術を施行した。
術後は、ICP モニター・瞳孔計(毎時間チェック)・持続脳波でモニタリングしつつTTM による管理を行った(術後経過トレンド参照)。
その後、NPi -200における左右の%CHは50% にまで回復し、それに合わせ、ABRの潜時も短縮し、脳幹機能の回復が観察された(%CH グラフ参照)。
NPiTMの結果からも患者神経機能の回復を確信し、神経集中治療を継続した。綿密な集中治療が功を奏し、第12病日に意識が改善、第20病日に自宅退院した。
最後に
ベッドサイドで正確な脳機能を評価できる瞳孔計の活用により、安全かつ安心に、神経集中治療を継続し、患者転帰改善に貢献できると振り返る。
正確に脳機能、脳幹機能を定量的に評価できるNPi-200を活用し、脳障害や脳機能の回復の程度を可視化することは、安心安全の神経集中治療の展開のためには必須であろう。
参考文献
- (1)小畑仁司ら、脳神経モニタリングとしての定量的瞳孔計の導入 日集中医誌2015、22:221-2
- (2)Chen JW, Gombart ZJ, Rogers S, et al. Pupillary reactivity as an early indicator of increased intracranial pressure: The introduction of the Neurological Pupil index. Surg Neurol Int 2011;2:82.
- (3)Tamura T, Namiki J, Sugawara Y, et al. Quantitative assessment of pupillary light reflex for early prediction of outcomes after out-of-hospital cardiac arrest: A multicentre prospective observational study. Resuscitation. 2018 Oct;131:108-113.
- (4)Yokobori S, Wang KKK, Yang Z, et al. Quantitative pupillometry and neuron-specific enolase independently predict return of spontaneous circulation following cardiogenic outof-hospital cardiac arrest: a prospective pilot study. Sci Rep. 2018 Oct 29;8(1):15964.
- (5)Obinata H, Yokobori S, Shibata Y, et al. Early automated infrared pupillometry is superior to auditory brainstem response in predicting neurological outcome after cardiac arrest.Resuscitation. 2020 Sep; 154:77-84.