セミナー情報

第31回日本臨床モニター学会総会
教育講演「新しい脳酸素モニターの可能性」ご報告

  • 掲載:2021年01月
  • 文責:クリティカル・ケア部
第31回日本臨床モニター学会総会<br>教育講演「新しい脳酸素モニターの可能性」ご報告

第31回日本臨床モニター学会総会(2020年11月21日~22日、会長:横田美幸先生 がん研究会有明病院副院長、麻酔科部長)がオンライン形式にて開催され、弊社では、浜松ホトニクス株式会社と共に、「新しい脳酸素モニターの可能性」と題した教育講演を共催しましたので、ご報告いたします。

教育講演
演題 :

新しい脳酸素モニターの可能性

視聴期間 : 2020年12月10日(木)~2021年3月10日(水)
演者 :

末盛 智彦 先生
自治医科大学とちぎ子ども医療センター
小児手術・集中治療部講師

共催 :

浜松ホトニクス株式会社
アイ・エム・アイ株式会社

抄録 :

※pdfが開きます(137KB)

演者の末盛先生は、専門的な小児医療を提供する大学病院併設型の小児病院である自治医科大学とちぎ子ども医療センターにご勤務され、先天性心疾患を始めとした心臓外科手術の麻酔管理を行っておられます。

末盛 智彦 先生 ご略歴
1999年: 岡山大学医学部卒業、岡山大学医学部附属病院麻酔科研修医
2004年: 岡山大学医学部附属病院麻酔部医員
2010年: 岡山大学病院集中治療部助教
2013年: 川崎医科大学麻酔集中治療科講師
2013年: メルボルンMurdoch Children’s Research Institute 留学
2015年: 岡山大学病院麻酔科助教
2018年: 自治医科大学麻酔科講師
専門領域: 心臓麻酔、小児麻酔、集中治療

本講演では、NIRSモニターについての測定原理、臨床的有用性、問題点と課題解説、新しいNIRSモニター(非侵襲脳酸素モニタ tNIRS-1)の測定原理、可能性、使用経験についてご講演されました。

従来型NIRS

まず、はじめに、近赤外線分光法(Near Infra-Red Spectroscopy、以下「NIRS」)の測定原理、従来型NIRSモニターの臨床的有用性、問題点及び課題についてご説明されました。

測定原理

  • NIRSの測定原理には、[Modified Beer Lambert法、以下「MBL法」][空間分解分光法、以下「SRS法」][時間分解分光法、以下「TRS法」][位相分解分光法]があり、機種によって用いる原理が異なる。
  • INVOSはSRS法、NIRO-200NXはMBL法とSRS法の二つの測定原理を採用している。
  • 組織酸素飽和度の指標としてINVOSでは[rSO2]、NIRO-200NXでは[TOI]が測定される。NIRO-200NXでは、さらに、Hb濃度の指標として、SRS法で得られる[nTHI]、MBL法により得られる[酸素化Hb、以下「O2Hb」][脱酸素化Hb、以下「HHb」]の変化量が加わる。

従来型NIRSの臨床的有用性(成人心臓手術)

  • 大動脈手術後に神経学的合併症を発症した症例は選択的脳灌流中のrSO2低下時間が長い。※1
  • 心臓手術中の最低rSO2が50%未満であった患者は合併症が多い。※2
  • 手術中の最低rSO2が35%未満の患者は神経学的異常が多い。※3
  • Area of rSO2が40%未満は術後神経学的異常の独立予測因子である。※3
  • 人工心肺中の最低rSO2が65%以下はPOCDの危険性ある。※4

従来型NIRS臨床的有用性(小児心臓手術)

  • Norwood手術後の遷延するrSO2 45%未満が180分を超えて低下する場合は術後MRIの異常と関連がある(p=0.029)。※5
  • Norwood手術において、rSO2 45%未満と他のリスクを避けられれば正常な神経発達を期待できる。※6
  • 心臓手術を受けた乳児において、人工心肺離脱後60分間のrSO2は1才時における神経発達指標と関連がある(p=0.02)。※7

従来型NIRSの問題点

  • コンセンサスとして、rSO2が45~60%以下となった時、もしくはベースラインから20%以上低下した時は、何らかの治療介入を行った方が良いと考えられるが、明確なエビデンスがあるわけではない。
  • 測定精度の不安定さが、NIRSに対する不信感を生み、モ二タリング行為自体を疎かにしてしまっている可能性や、rSO2低下時の対応遅れを招いている可能性がある。
  • プローブの装着状態が測定精度に影響する。
  • rSO2の低下を来す病態はたくさんあるため、原因を速やかに特定し、治療介入を行うことは簡単ではない。
  • rSO2の指標だけでは、rSO2低下の原因を見定めることはできない。

従来型NIRSの問題点・課題

  • SRS法とMBL法は[変化量]の測定であり、絶対値としての評価ではないため、測定開始時点での病態評価は行えず、一度測定が中断されてしまうとそれ以降の評価はできない(手術中などの比較的短時間での測定には、適している)。

NIRO-200NXの特徴


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  • NIRO-200NXはSRS法によるnTHI(組織Hb指標)に加えて、MBL法を用いた組織Hb濃度指標があり、酸素飽和度低下の原因特定に対して参考にすることができる。

NIRO-200NXを用いた文献紹介

NIRO-200NXを使用していると組織酸素飽和度だけでは見えない病態が明らかになることもある。 小児心臓手術患者399人の手術前後でのNIRO-200NXの値の変化を評価した。※8


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横軸は手術のリスクを示す。
ハイリスク手術ほど術後にTOIが低下している。これは、当初、手術後の低心拍出状態を反映していると考えたが、Hb濃度変化に着目すると、O2Hb濃度に変化はなく、HHb濃度が上昇しており、TOIの低下は静脈鬱血による影響が強いことが示唆された。

このように組織Hb濃度に着目してみると、組織酸素飽和度だけでは見えない病態が見えてくる。

新しいNIRS(tNIRS-1)

次に、新しいNIRSモニター(非侵襲脳酸素モニタ tNIRS-1)の測定原理、従来型NIRSモニターとの違い、可能性、使用経験などをご説明されました。

測定原理

  • NIRSの測定原理のうち[時間分解分光法:Time Resolved Spectroscopy、以下「TRS法」]の原理を使用。
  • tNIRS-1は、半導体レーザから1.5ns(1ns=10億分の1秒)の短パルス光を、9MHz(1秒間に900万回)で照射し、27ps(1ps=1兆分の1秒)の高分解能を持つ検出器で光子の数を計測している。

従来型NIRSモニターとの違い

  • TRS法の大きな特徴は、光路長、吸収係数、散乱係数を計測することで、O2Hb、HHb濃度を絶対値として算出することが可能であること。
  • TRS法により各Hb濃度が表示され、臨床的判断を行う上で貴重な情報が得られる。


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tNIRS-1の可能性

  • tNIRS-1で得られる組織Hb濃度は、健常人の場合、血液Hb量と近似値となる換算式を利用することにより、患者病態評価が簡便にできる可能性がある。
  • tNIRS-1で求められた組織Hb濃度と血液Hb量の比率は、患者の脳血流異常パターンを鑑別するのに役立つかもしれない。
  • tNIRS-1で測定された組織Hb濃度と、血液Hb量を使用することによりCerebral Blood Volume、以下「CBV」が算出できることが過去の報告で示されており、このTRS法で求めたCBVは、PETで得られるCBVと有意に相関することが報告されている※9。また、TRS法で求めたCBVは新生児の修正月齢に相関することが報告されており※10、新生児の脳血管床の発達を評価できる可能性がある。

tNIRS-1の使用経験


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● Case study1 脳過潅流パターン

患者 10歳男児
主訴 頭痛
診断 腹部大動脈狭窄
既往 完全大血管転移症、Jatene手術後(生後14日)
現病歴 7歳ごろから腹部大動脈狭窄が進行し、上半身の高血圧が顕著となり頭痛も認めた。
頭部への血流過剰が原因と考えられステント挿入術を予定。
経過
  • 麻酔導入後のtNIRS-1測定値でtHbが100 μmol/Lを超え、血液Hbで割ってみると正常の倍近くの値を示した。
  • ステント導入後、PICUの測定では、tHbが64.2 μmol/Lに低下。脳血流過剰の解除がtHb値に反映された。


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● Case study2 静脈鬱血パターン

患者 10か月女児
主訴 低酸素血症、鬱血
診断 無脾症、機能的単心室、総肺静脈還流異常症
現病歴 難治性、再発性の肺静脈狭窄、大静脈狭窄のために低酸素血症及び全身浮腫が出現するため、血管内治療を繰り返していた。
4月に静脈狭窄悪化、チアノーゼ進行のために緊急入院し、翌日にバルーン拡張術が予定された。
経過
  • 1月の測定で、StO2は50.4%と低値で、tHbは135.8 μmol/Lであり、非常に高値であった。
  • 4月の緊急入院時のStO2は59.2%で酸素飽和度は比較的保たれていたが、tHbは161.9 μmol/Lであり、これまでにない高値を示した。
  • カテーテル治療後は、狭窄の解除を受け、tHbは134.4 μmol/Lになり、1月の測定値近くに戻った。

● Case Study3 動脈低酸素パターン

患者 9か月女児
主訴 チアノーゼ
診断 ファロー四徴症、肺動脈閉鎖症、主要大動脈肺動脈側副血行路
現病歴 出生時よりチアノーゼを認めており、成長に伴いチアノーゼが進行したため体動脈肺動脈短絡手術(BT shunt)+肺血管統合手術(Unifocalization)が予定された。
経過
  • 麻酔導入直後のSpO2は84.6%、tNIRS-1のStO2は58.4%であり、全身チアノーゼを反映し、低い値を示した。tHbは67.5 μmol/Lであり、ほぼ正常を示した。
  • 人工心肺離脱後、StO2は51.8%で低値であるが、tHbは67.2 μmol/Lと正常範囲内であった。患者の肺血管が非常に細いことからも、StO2の低値は低酸素症によるものと考えられた。

● Case Study4 脳低潅流パターン

患者 生後5日男児
主訴 SpO2の上下肢差
診断 大動脈弓離断症、心室中隔欠損症
現病歴 出生直後より上肢SpO2が98%、下肢SpO2が88%と上下肢の差があり当院へ緊急搬送となる。
心エコー検査の結果、上記診断に至り手術適応と判断された。
経過
  • 大動脈弓再建時に循環停止が必要になり、脳血流停止時間が生じるため、この間のtNIRS-1測定値の変化を観察。
  • 循環停止前後のtNIRS-1値を比較。
    循環停止前 循環停止後
    StO2(%) 88.7 60.6
    tHb(μmol/L) 49.9 16.1
  • 脳虚血を評価する場合にはStO2よりもtHbの方が鋭敏である。

tNIRS-1の使用経験のまとめ

  • tNIRS-1は、先天性心疾患に特有の複雑な脳血流パターンを教えてくれる
  • 手術中の脳酸素モニターとして有用
  • 測定再現性に優れているため、経日的、長期的フォローにも有用
  • 定量的指標を持ち、測定精度の高いtNIRS-1は、従来型NIRSモニターには測定できない情報をもたらしてくれる

以上のように、新旧のNIRSモニターの原理や、それに伴う問題点・課題を解りやすくご説明して頂き、NIRO-200NXのHb濃度変化の有用性、tNIRS-1の絶対値測定の有用性、tNIRS-1の臨床事例(脳血流パターン)のご紹介など、有益な情報が得られるご講演をされました。

最後に、素晴らしいご講演をされました末盛先生に、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

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[ 文献 ]

  • 1[Near-infrared spectroscopy for monitoring cerebral ischemia during selective cerebral perfusion]
    Orihashi et al. Eur J Cardiothorac Surg. 2004 Nov;26(5):907-11.doi:10.1016/j.ejcts.2004.06.014.
  • 2[Cerebral oxygen saturation monitoring in on-pump cardiac surgery – A 1 year experience]
    Sch?n et al. Appl Cardiopulm Pathophysiol 2009
  • 3[Cerebral oxygen desaturation is associated with early postoperative neuropsychological dysfunction in patients undergoing cardiac surgery]
    Yao et al.jCardiothorac Vasc Anesth. 2004 Oct;18(5):552-8.doi:10.1053/j.jvca.2004.07.007.
  • 4[Postoperative cognitive deficit after cardiopulmonary bypass with preserved cerebral oxygenation:a prospective observational pilot study]Fudickar et al. BMC Anesthesiol 2011
  • 5[Brain magnetic resonance imaging abnormalities after the Norwood procedure using regional cerebral perfusion]Dent et al. Thorac Cardiovasc Surg 2006Jan;131(1):190-7.doi:10.1016/j.jtcvs.2005.10.003.
  • 6[Perioperative cerebral oxygen saturation in neonates with hypoplastic left heart syndrome and childhood neurodevelopmental outcome]Hoffman et al. J Thorac and Cardiovasc Surg 2013 Nov;146(5):1153-64.doi:10.1016/j.jtcvs.2012.12.060
  • 7[Relationship of intraoperative cerebral oxygen saturation to neurodevelopmental outcome and brain magnetic resonance imaging at 1 year of age in infants undergoing biventricular repair]
    Kussman et al. Circulation 2010 Jul 20;122(3):245-54.doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.109.902338. Epub 2010 Jul 6.
  • 8[Changes in cerebral oxygen saturation and haemoglobin concentration during paediatric cardiac surgery]Tomohiko Suemori et al.Anaesth Intensive Care. 2017 Mar;45(2):220-227.doi:10.1177/0310057X1704500212.
  • 9[Cerebral hemodynamics evaluation by near-infrared time-resolved spectroscopy:correlation with simultaneous positron emission tomography measurements]Ohmae E et al. Neuroimage. 2006 Feb 1;29(3):697-705.doi:10.1016/j.neuroimage.2005.08.008. Epub 2005 Sep 13.
  • 10[Developmental changes of optical properties in neonates determined by near-infrared time-resolved spectroscopy]
    Ijichi et al. Pediatr Res. 2005 Sep;58(3):568-73.doi:10.1203/01.PDR.0000175638.98041.0E.

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