第64回 日本新生児成育医学会・学術集会 スイーツセミナー
「“脳”酸素使われている? – NIRSの臨床的意義 – 」ご報告
- 掲載:2020年01月
- 文責:クリティカル・ケア部
日時 : | 2019年11月28日(木)15:00~16:00 |
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会場 : | 第6会場 SHIROYAMA HOTEL kagoshima 4F[アイリス] |
演者 : |
清水 正樹 先生 埼玉県立小児医療センター 総合周産期母子医療センター長/ 新生児科 部長 |
座長 : |
日下 隆 先生 香川大学 医学部 小児科学講座 教授 |
抄録 : |
▲座長 日下 隆 先生
▲演者 清水 正樹 先生
第64回日本新生児成育医学会・学術集会(2019年11月27~29日、会長:鹿児島市立病院 総合周産期母子医療センター長 新生児内科部長 茨 聡 先生) が、SHIROYAMA HOTEL kagoshimaにて開催されました。浜松ホトニクス株式会社と共に、スイーツセミナー3を共催させて頂きましたのでご報告いたします。
今回、座長に、香川大学医学部 小児科学講座 教授 日下 隆 先生、演者に、埼玉県立小児医療センター 総合周産期母子医療センター長 新生児科 部長 清水 正樹 先生をお迎えし、「”脳”酸素使われている?-NIRS※の臨床的意義ー」と題してご講演いただきました。多くの方にご来場いただき、会場はすぐに満席となりました。
演者の清水先生は、以前にも、第46回日本周産期・新生児医学会 教育セミナーにて、「新生児脳低温療法の新戦略」と題したNIRSモニタについてのご講演や、第14回日本脳低温療法学会 教育セミナー4 「新生児脳低温療法における脳モニタリング」では、脳波(aEEG)を中心とした脳低温療法中の脳モニタリングについてご講演いただきました。NIRSをはじめ、新生児神経学に関する様々なテーマを研究されておられます。
※ Near Infra-Red Spectroscopy:近赤外線分光法
清水先生は、本講演のはじめに、「埼玉県立小児医療センターでは、脳モニタリングを重要視し、脳の血液循環や組織酸素飽和度の測定値によって、血圧管理や呼吸管理を行う治療を目指している。そのために一番有用なのは、NIRSモニタを活用することである」と述べられました。
次に、【測定法による解釈の違い】への理解を深めるために、【NIRSの基本的な原理】とそれぞれの特徴についてご説明されました。
NIRSの基本的な原理
空間分解法
- 従来のNIRSモニタは空間分解法を使用。連続測定を行い、相対変化を示すことを特徴としている。
- 長時間のモニタリングには適しているが、個人間の比較ができず、再現性・定量性には限界がある。
時間分解法
- 従来のNIRSモニタと違い、絶対値を示すことができる大きな特徴がある。
- 再現性・定量性に優れており、他のバイタルサイン値と同様に、単発での測定、個人間の比較が可能である。
「NIRSに関しては、様々な文献が発表されているが、空間分解法と時間分解法、どちらの測定方法を用いるかによって、解釈は変わってくるため、注意が必要である」と述べられました。
新生児領域での臨床的意義
新生児領域の文献をはじめ、自施設でNIRSモニタを使用されている症例についてご紹介頂きました。
空間分解法を用いた低酸素性虚血性脳症(HIE)の予後予測
- 予後不良児は、予後良好児と比べ、脳血液量が多い傾向がある。
- 低体温療法を行ったHIE12例において、NIRSモニタリング(生後6~24時間)を行った報告※1
- ・死亡例を含め1歳での発達予後評価が不良な群は、良好群に比べ、生後の脳組織酸素飽和度(TOI%)が高値であった。
- 重症なHIE児ほど、脳で酸素を消費できていない可能性がある。
空間分解近赤外線分光法
- 空間分解法では個の相対変化を示し、単一の測定値では重症度評価が難しい。これを補う方法として、自施設では[脳の組織酸素飽和度]と[大腿部の組織酸素飽和度]を同時測定し、その比率[TOI頭部/大腿<1]を用いた神経学的評価を行っている。
- ・低体温療法を行ったHIE 27例の検討において、生後18か月以降の神経学的評価を予後良好群、境界群、予後不良群に分類し、[TOI頭部/大腿<1]との関連を検討した結果、生後0~6時間のTOIが頭部/大腿<1であった場合、予後良好群21例、境界群3例、予後不良群0例であった。
時間分解法(tNIRS-1)を用いた先天性心疾患やECMO使用中のモニタリング
- tNIRS-1を装着した先天性心疾患新生児10例を、チアノーゼ群(C群)と非チアノーゼ群(NC群)で比較
時間分解近赤外線分光法- ・チアノーゼ群は非チアノーゼ群と比較してStO₂が低いが、tHbには差がなく、O₂Hbが有意に低かった※2。このことから、脳血液量(tHb)は保てていても、脳内の酸素(O₂Hb)が不足しているということがわかる。SpO₂が保たれていても、脳内の血液量が低下することにより、脳機能を悪化させる可能性があるため、Hb値にも注目することが、非常に重要である。
- ECMO中にtNIRS-1を使用した例
- ・ECMOからの離脱中、フローの低下と共に、StO₂とtHbが低下したため、離脱が難しいと考え、フローを元に戻した。
- ・ECMO中、SpO₂だけでなく、脳循環モニタリングも有用であると考えられる。
時間分解法(tNIRS-1)を用いた早産児の脳出血予防
- tNIRS-1を用いて、脳の血液量(tHb)、O₂Hb、HHbの値をモニタリングし、[血圧を上昇させるのか]、[血管を拡張させるのか]、[酸素量を上げるのか]、[呼吸器の設定をどうするか]、[輸血を実施するか]などを判断するモニタリングツールとして活用していきたい。
- 早産児は皮膚が弱く、測定プローブの長時間の貼付が内出血を起こす可能性がある。時間分解法を使用したtNIRS-1は、1~2分の測定で安定した絶対値が得られるため、短時間の測定による評価が可能であり、早産児にも使用しやすい。
- 初期は時間分解法を用い、ある程度の週数を越えたら空間分解法の使用を検討するなど、使い分けも有用である。
音楽療法中の効果の評価
- 現在、自施設のNICUでは、発達予後、家族サポートなどのために、音楽療法を取り入れている。NIRSを効果判定の目的で使用し、音楽療法中の血流変化をモニタリングしたいと考えている。
以上のように、様々な症例でのNIRSモニタの活用法や、対象や症例によるNIRSの使い分けについてお話していただきました。本記事にて紹介させて頂いた他にも、たくさんの有益な情報を聞くことができ、非常に濃密な1時間となりました。その中で、時間分解法での測定が可能な機器は、現時点では[tNIRS-1 非侵襲脳酸素モニタ(浜松ホトニクス社製)]だけであること、tNIRS-1の有用性を、改めて示されました。tNIRS-1が、これから産まれてくる新生児の神経学的予後の改善のために、少しでもお役に立てれば幸いです。先生は現在も、tNIRS-1を使用して研究を続けているとのことなので、また新しい情報が公開される日を、楽しみにお待ちしたいと思います。
最後に今回のセミナーでご講演頂いた清水先生、座長をお務めいただき、スムーズな進行をしていただいた日下先生に、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
【文献・抄録】
※1 [Early predictors of short term neurodevelopmental outcome in asphyxiated infants. A combined brain amplitude integrated electroencephalography and near infrared spectroscopy study]
Gina Ancora : Brain Dev. 2013 Jan;35(1):26-31.doi:10.1016
※2 [先天性心疾患の新生児に対するtNIRS-1の有用性]
埼玉県立小児医療センター 2018年 第63回日本新生児成育医学会・学術集会 ポスター発表
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