第24回日本脳低温療法・体温管理学会学術集会 教育講演1「近赤外線分光法NIRSを用いた脳機能モニタリング」ご報告
- 掲載:2021年11月
- 文責:クリティカル・ケア部
第24回日本脳低温療法・体温管理学会学術集会(会期:2021年9月25日~26日、会長:清水正樹先生 埼玉県立小児医療センター)が開催され、弊社では、浜松ホトニクス株式会社と共に、教育講演1「近赤外線分光法NIRSを用いた脳機能モニタリング」を共催しましたので、ご報告いたします。
日時 : | 2021年9月25日(土)14:00~14:50 |
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演者 : |
藤谷 茂樹 先生 |
座長 : |
清水 正樹 先生 |
共催 : |
第24回日本脳低温療法・体温管理学会学術集会 |
抄録 : |
本講演では、救命救急領域においての心肺脳蘇生に対する近赤外線分光法(Near Infra-Red Spectroscopy、以下:NIRS)モニタについて、Pre-Hospital とIn-Hospitalそれぞれでの自己心拍再開評価(以下:ROSC評価)を中心に、これまでのエビデンスと自施設における臨床データ、今後の可能性についてご講演いただきました。
座長 :清水 正樹 先生
演者 :藤谷 茂樹 先生
まず、はじめに心肺脳蘇生におけるAHAガイドライン2020、ERCガイドライン、マルチモーダル神経予後戦略、NIRSモニタの概要についてご説明されました。
心肺・脳蘇生について
- AHAガイドライン2020、ERCガイドライン2021では、マルチモーダル(Multimodal)神経予後戦略が推奨されている
→脳波計、瞳孔観察、バイオマーカ、CT、MRIなどの複数モニタリング - AHAガイドライン2020、ERCガイドライン2021では、マルチモーダル(Multimodal)神経予後戦略が推奨されている
→脳波計、瞳孔観察、バイオマーカ、CT、MRIなどの複数モニタリング - これまで脳モニタリングとして内頚静脈酸素飽和度(SjO2)を測定していたが、侵襲的ゆえに、血種形成、血栓、頸動脈穿刺等の合併症の問題がある
- 非侵襲的な脳モニタリングとしてNIRSモニタを使用することが近年多くなっており、メリットは、簡便にリアルタイム測定が可能なことである
NIRSモニタ
- NIRSは動脈拍動成分を観察するパルスオキシメータ(SpO2)とは違い、骨組織、動脈、静脈、脳組織全体の酸素化Hbの割合をみている
- NIRSの測定原理には、Modified Beer Lambert法(以下:MBL法)、空間分解分光法(以下:SRS法)、時間分解分光法(以下:TRS法)などがあり、メーカー、機種によって用いる原理が異なり一定の数値比較は困難である
- NIRSはSpO2とは異なり正常範囲が広く、絶対値が得られず、相対的な変化をみるものである
- 浜松ホトニクス社製NIRO-200NXは、SRS法とMBL法との二つの測定原理を採用しており、測定項目として、SRS法で得られる組織酸素飽和度の指標TOI(%)、Hb濃度指標のnTHI、更にMBL法により得られる酸素化Hb(以下:O2Hb)、脱酸素化Hb(以下:HHb) の変化量が加わる
続いて、自施設で実施されているNIRO-200NXを用いたROSC評価についてご説明されました。
NIRO-200NXを用いたROSC評価
- NIRO-200NXのサンプリングタイムを0.05秒にすることで、拍動を検出することが可能となり、検出した拍動成分の各Hb成分をみることによってROSC評価を行っている
- 蘇生中と蘇生後のNIRO波形
蘇生中: 蘇生中: 赤い部分(ΔO2Hb)が蘇生中は少ない → O2Hbが脳組織で検出されていない 蘇生後: 蘇生後: 赤い部分(ΔO2Hb)が蘇生中より多く検出される → O2Hbが多くなってくるとROSCした可能性が高い
次に、これまでのエビデンスと自施設での臨床データに基づいたPre-HospitalとIn-HospitalそれぞれにおけるNIRSを用いたROSC評価や低体温療法中のNIRS測定についてご説明されました。
In-HospitalにおけるNIRS測定とROSC評価
- 15名の心停止(以下:CA)患者(ROSC:5名)を測定した研究では、病院到着時のTOIが40%以上の場合、ROSC率67%であった
→ 入院時CAの場合、TOIが40%以上あれば蘇生される可能性が高いPMID:23969279 am J Emerg med 2013oct;31(10):1504-8
- 117名のCA患者(ROSC:44名)を測定した研究では、病院到着時のTOIが59%以上の場合、ほとんどが生存し、TOIが24%以下では生存は0例であった
→ TOI 24%~59%の間がグレーゾーンPMID:30446504 Emerg med 2019jan;36(1):33-38
- rSO2 40%以上をカットオフ値にすると90日後のCPC1-2の感度/特異性が高い(INVOS使用)
PMID:26291387 Resuscitation 2015 Nov;96:135-41.
- 病着時のrSO2<15%の場合、71%がROSCしない(INVOS使用)
PMID:26215479 Resuscitation 2015 Nov;96:16-22.
- EtCO2とrSO2の両方ともROSCの予測因子であり、rSO2の方がやや優れている(INVOS使用)
PMID: 30978377 Resuscitation 2019 Jun;139:174-181.
- 測定方法の異なるデバイスで得られた静的指標(rSO2測定値)での比較は困難であるため、動的指標(ΔrSO2)の方がROSC予測は優れている(INVOS使用)
PMID: 29410191 Resuscitation 2018 Apr;125:39-47.
- 測定開始時から16分間での変化がROSC予測に有効、ベースラインが高いほど変化量が少なくてもROSCする(TOS使用)
PMID: 31004721 Resuscitation 2019 Jun;139:201-207.
In-HospitalにおけるNIRS測定とROSC評価のまとめ
In-HospitalにおけるNIRS測定とROSC評価のまとめ
- Quality of CPRの指標としてNIRSの波形が有効である可能性がある
- 動的指標であれば、変化値が大きいほうがROSC/CPS1-2の予測には有効である
- 機器ごとに測定原理が異なるため静的指標よりも動的指標が有効
- NIRSでも、EtCO2と同等のROSC予測効果を有する可能性がある
- より正確な絶対値(tNIRS-1)での評価でもこれまで同様のことが言える
Pre-HospitalにおけるNIRS測定とROSC評価
- ΔTOIとROSCには関連があり、胸骨圧迫率(CC)とΔTOIにも関連を認める
PMID: 33663569 Scand J Trauma Resusc Emerg Med. 2021 Mar 4;29(1):42.
- 救急車内のhigh-Quality CPRの遵守率は46-67%の報告があり、救急車内で効果的CPRができていない可能性がある
- rSO2 カットオフ値の研究報告は測定機器によってばらつきがある
PMID:29580958 Resuscitation. 2018 Aug;129:107-113.
- StO2が低下するとVFが発生し、脳灌流が低下する可能性がある
PMID:23448653 Crit Care . 2013 Mar 1;17(2):R36.
Pre-HospitalでのNIRS測定とROSC評価のまとめ
- Quality of CPRとTOIに相関を認める
- 機器によって、rSO2をどの程度上昇させるべきかは様々である
- TOIを上昇させることはROSCを予測する上で重要である
- TOIが低下すると致死的合併症を引き起こす可能性がある
脳低体温療法とNIRS
- 日本大学グループの研究では、低体温中のrSO2はSaO2、Hb、PaO2、MAP(平均血圧)などの影響を受けるため、他のパラメータも複合的にみる必要がある
PMID:31825272 Ther Hypothermia Temp Manag.2020 Mar,10(1):71-75
- 韓国の報告では、TTM中のrSO2は管理温度によって差はなく、6ヶ月後の神経学的予後と相関があるため、TTM予後予測にrSO2が有用の可能性がある
PMID:34331985 Resuscitation.2021Jul29;S0300-9572(21)00278
次に、新しいNIRSである浜松ホトニクス社製tNIRS-1を用いたROSC評価、低体温療法中のモニタリングについてご説明されました。
新しいNIRSモニタ
- 浜松ホトニクス社製tNIRS-1 は測定原理にTRS法を用いている
- 光路長、吸収係数、散乱係数を計測することで、O2Hb、HHb濃度を絶対値として算出することが可能
- 臨床的判断を行う上で貴重な情報が得られるモニタである
In-HospitalにおけるtNIRS-1測定とROSC評価
- 絶対値が測定できるtNIRS-1の測定データでは、ΔTOI(StO2)を除き、現時点ではこれまでの報告と差はでていない
- tNIRS-1を使って今後更に臨床データを取得していきたいと思っており、従来のNIRSより更なる有益な結果を期待している
新しいNIRSモニタ(tNIRS-1)の可能性
- TRS法を用いたtNIRS-1によって、今後、定量性、再現性が高くなり、脳蘇生の中でのNIRSの可能性が広がっていくことが予測される
- 現在、tNIRS-1を用いて、TTM、COVID-19患者のBest supportive careなど様々なデータをとっており、まだデータ数は少ないが、tNIRS-1を脳蘇生において、トータルケアの一つとして組み込むことができるのではないかと考えている
まとめ
- 神経学的予後のさらなる改善を目指すにはNIRSを用いた集学的な治療が有効な可能性がある
- 脳酸素代謝比の指標として、新しいNIRSであるtNIRS-1の今後の研究が望まれる
以上のように、心肺脳蘇生におけるNIRSモニタの研究結果、問題点、課題を解りやすくご説明して頂き、救命救急領域におけるNIRO-200NXの有用性、tNIRS-1の将来性など、有益な情報が得られるご講演をされました。
最後に、ご多忙を極める中、素晴らしいご講演をいただきました藤谷先生、このような講演の機会をくださり、また座長も務めていただきました大会長 清水先生に、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
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