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第24回日本脳低温療法・体温管理学会学術集会 特別講演「TTM2トライアル、結果と洞察」ご報告

  • 掲載:2021年11月
  • 文責:クリティカル・ケア部
第24回日本脳低温療法・体温管理学会学術集会 特別講演「TTM2トライアル、結果と洞察」ご報告

第24回日本脳低温療法・体温管理学会学術集会(会期:2021年9月25日~26日)において、座長に香川大学医学部附属病院・黒田 泰弘 先生、演者にスウェーデン ルンド大学・Niklas Nielsen 先生をお招きし、「The TTM2 Trial、Results and Insights(TTM2トライアル、結果と洞察)」と題した特別講演を共催しましたので、ご報告申し上げます。

特別講演
配信日時 :

2021年9月25日(土)17:00~18:00

演者 :

Niklas Nielsen(ニクラス・ニールセン)先生
ルンド大学(スウェーデン)
麻酔・集中治療医学 准教授

座長 :

黒田 泰弘 先生
香川大学医学部附属病院 救急災害医学教授 救命救急センター センター長

共催 :

第24回日本脳低温療法・体温管理学会学術集会
株式会社メディコン
アイ・エム・アイ株式会社

抄録 :

※pdfが開きます(315KB)

特別講演
「The TTM2 Trial、Results and Insights(TTM2トライアル、結果と洞察)」のご報告

Nielsen先生の講演、その後のディスカッションの要旨をご報告いたします。

黒田泰弘先生
▲ 座長 黒田 泰弘 先生

Niklas Nielsen先生
▲ 演者 Niklas Nielsen 先生

TTM2トライアル(以下、TTM2)が行われた背景

2010年 : 国際蘇生連絡委員会(ILCOR)から発表された「心肺蘇生に関わる科学的根拠と治療勧告コンセンサス(CoSTR)」において、目標体温を32℃~34℃とする低体温療法が推奨される
2010年
CoSTR
院外でのVFによる心停止後、自己心拍再開(ROSC)後、昏睡状態の成人患者に対しては低体温療法(12~24h、32~34℃)を施行すべき

TTM2トライアル(以下、TTM2)が行われた背景

2010年 : 国際蘇生連絡委員会(ILCOR)から発表された「心肺蘇生に関わる科学的根拠と治療勧告コンセンサス(CoSTR)」において、目標体温を32℃~34℃とする低体温療法が推奨される
2010年 CoSTR
院外でのVFによる心停止後、自己心拍再開(ROSC)後、昏睡状態の成人患者に対しては低体温療法(12~24h、32~34℃)を施行すべき
2013年 : 今回の講演の演者Niklas NielsenらによるTTMトライアル(以下、TTM1)の発表※1
2013年
TTM1
ROSC後患者に対し、目標体温33℃の低体温療法と36℃の平熱療法との死亡率、神経学的予後を比較、有意差なし
2013年 : 今回の講演の演者Niklas NielsenらによるTTMトライアル(以下、TTM1)の発表※1
2013年
TTM1
ROSC後患者に対し、目標体温33℃の低体温療法と36℃の平熱療法との死亡率、神経学的予後を比較、有意差なし
2015年 : TTM1の結果を受け、CoSTR改定において、目標体温を32℃~36℃とする体温管理療法の推奨に変更される
2015年
CoSTR
心停止後に自己心拍再開が認められた昏睡状態にあるすべての成人患者に対し、32~36℃から目標体温を選びその体温に達したらそれを少なくとも24時間維持する目標体温管理(TTM)を施行すべき
2015年 : TTM1の結果を受け、CoSTR改定において、目標体温を32℃~36℃とする体温管理療法の推奨に変更される
2015年
CoSTR
心停止後に自己心拍再開が認められた昏睡状態にあるすべての成人患者に対し、32~36℃から目標体温を選びその体温に達したらそれを少なくとも24時間維持する目標体温管理(TTM)を施行すべき

しかしながら、TTM1では体温管理の質が低いという意見もあり、さらに大規模な人数(凡そTTM1の2倍)、より厳格な体温管理と患者選定で、その続編となるTTM2トライアル(以下、TTM2)を行った

TTM2の結果※2

  • 心原性・原因不明院外心停止患者対象、14か国、61病院、4355患者がエントリー、ランダム化し、低体温療法(33℃)群930例、常温管理(37.5℃以下)群931例に割り付け
  • 6か月後の低体温療法群は常温管理群より死亡率を低下させなかった
  • 機能的予後(mRS)、健康関連QOLも2群で同等
  • サブグループ解析でも2群に差がなかった
  • 唯一の相違は合併症で、低体温療法群で不整脈の発生頻度が高かった
  • TTM2の結果はTTM1と同じで、TTM1の結果を強力にサポートする内容であった

TTM2結果発表後の指摘

  • 低体温療法群の目標体温到達が遅い
  • 選定された患者の割合が現実社会を表していない
  • HYPERIONスタディー等、低体温療法の方が効果があるという論文も多く存在する

今後の予定と課題

  • TTM2対象患者の12か月後の予後のフォローアップ
  • 次のような研究を検討
    • 成体脳回(皺脳)動物での動物実験
    • 適切な早期冷却導入の研究
    • 院内心停止患者への低体温療法効果の是非
    • 非心原性患者を対象とした適切な規模の試験
    • 発熱が本当に有害かどうかの研究

講演後の質疑応答およびディスカッション

黒田先生
  • 2013年にTTM1が発表された後、冷やさなくても平熱で良いと考えた医療従事者が増え、一時、世界的に心停止蘇生後患者の予後が悪化した経験があり、今回も同様の事が起こらないか懸念している
  • 低体温療法がより効果的な対象患者がいるのは間違いないので、その層別化が証明されるまで自施設では引き続き低体温療法を継続する
Q1. 低体温療法の方が効果があるという論文が多く発表されている事について
Nielsen先生
A1. TTM1/2に参画した施設以外からでも、2群間に予後の差がないという結論の論文は出ている
黒田先生
Q2. 自施設での体温管理療法はどのようにされているか
Nielsen先生
A2. 自施設の体温管理療法プロトコールでの目標体温は37.5℃以下というものだが、低体温療法を選択している施設を否定するものではない
低体温療法が効果があるというもっと強力なエビデンスが出てくるまでは目標体温を変えるつもりはない
黒田先生
  • 2013年にTTM1が発表された後、冷やさなくても平熱で良いと考えた医療従事者が増え、一時、世界的に心停止蘇生後患者の予後が悪化した経験があり、今回も同様の事が起こらないか懸念している
  • 低体温療法がより効果的な対象患者がいるのは間違いないので、その層別化が証明されるまで自施設では引き続き低体温療法を継続する
Q1. 低体温療法の方が効果があるという論文が多く発表されている事について
Nielsen先生
A1. TTM1/2に参画した施設以外からでも、2群間に予後の差がないという結論の論文は出ている
黒田先生
Q2. 自施設での体温管理療法はどのようにされているか
Nielsen先生
A2. 自施設の体温管理療法プロトコールでの目標体温は37.5℃以下というものだが、低体温療法を選択している施設を否定するものではない
低体温療法が効果があるというもっと強力なエビデンスが出てくるまでは目標体温を変えるつもりはない

Niklas Nielsen先生による特別講演の報告としては以上になりますが、このTTM2特別講演を受けて、今回の学会プログラムでは、教育講演4「日本蘇生協議会(JRC)蘇生ガイドライン2020により今後の体温管理療法(TTM)がどのように変わるのか?」、シンポジウム脳を護る1「J-PULSE-Hypo Registry Open Meeting」が組まれ、日本蘇生協議会の関係者、ガイドライン策定メンバーの間で、TTM2をどう解釈し、ガイドライン改訂の必要があるのか等、活発な議論が行われました。

TTM2の結果だけでは、「今後、体温管理療法(TTM)とどのように関わっていくべきか」、「TTMのプロトコールを変えるべきか」とお悩みの医療従事者の方もいらっしゃると思います。それらのヒントが、教育講演4の結語、シンポジウム脳を護る1のディスカッションにあるかと思いますので、ご紹介させていただきます。

教育講演4「日本蘇生協議会(JRC)蘇生ガイドライン2020により今後の体温管理療法(TTM)がどのように変わるのか?」
演者:黒田 泰弘 先生 香川大学医学部附属病院 救急災害医学講座教授 救命救急センター センター長

TTMは必要であり、TTM2 Trialの結果が最終結論ではない4つの理由

  • TTMを有効としている多くの基礎研究がある
  • 3つのRCTで33℃ TTMが転帰を改善すると報告している
  • TTM目標体温を33℃から36℃に変更して、転帰不良となったというReal World研究がある
  • 最近の2つの大規模研究で、より重症患者には33℃でのTTMで生存率増加、一方、さほど重症でない患者には差はなく36℃で良いと示唆された
Take Home Message
  • 低体温療法が有効なPCASパラメータが解るまで、低体温療法(例33℃)を勧める
  • 目標温到達4時間以内の早期冷却を目指す
  • パラメータが解れば層別化可能(低体温療法レスポンダーを探す)
    • 今後は脳パラメータも重要(簡易持続脳波、瞳孔記録計、バイオマーカー等)
    • 脳パラメータでは重症度判定のみならず、治療介入による効果もわかるものが必要
  • 従来のプロトコールを変更しないことを勧める
  • 発熱コントロールを勧める
  • 目標体温の高値化は転帰不良につながる
  • 目標体温に関わらず、High Quality TTMができる体温管理装置を使用することを勧める
  • TTMは有害ではない(TTMをやめてはいけない)

シンポジウム 脳を護る1「J-PULSE-Hypo Registry Open Meeting」
座長:野々木 宏 先生(日本蘇生協議会代表理事、大阪青山大学健康科学部特任教授)、田原 良雄 先生(国立循環器病研究センター)

冒頭、座長の野々木先生から

  • TTM2において、2002年のHACA Study、2013年のTTM1と比べ、CPC1/2の転帰良好群の比率が向上していないのは何故か
  • 低体温療法群、常温管理群の転帰が同じという結果を日本の現状にそのまま当てはめて良いものか

という問いかけに、演者からはTTM2の患者背景が以下の点が日本の現状と違うことが指摘されました。

TTM2の患者背景

低体温療法(33℃) 常温管理(<37.5℃) 日本と比較して
VF/VT 671例(72%) 700例(75%) → 高い
Bystander CPR 759例(82%) 728例(78%) → 高い
VF/VT Bystander CPR
低体温療法
(33℃)
671例
(72%)
759例
(82%)
常温管理
(<37.5℃)
700例
(75%)
728例
(78%)
日本と
比較して
→ 高い → 高い

92時間後の神経学的診断で重症患者は治療撤退 → CPC3/4が少ない原因?リカバリーできる可能性のある患者もこの中に含まれているのではないか?

J-Pulse-Hypo Registryの残された課題(今後の予定)

明確なエビデンスはないものの重症度に以下の3分類があるという前提の下

  • 低体温療法(以下HT)、平熱療法(平熱維持、以下NT)どちらも効果がない超重症群
  • HTでは効果があるが、NTではない中等度重症群
  • HT、NTのどちらでも効果がある軽度重症群
  • 層別化の確立
  • 中等度重症はHTの方が効果があるというエビデンスの確立
  • 超重症患者も救う方法の模索
  • 早期冷却法の確立

これらについて5名のシンポジストによる発表、ディスカッションの後、「今後、日本からこれらのテーマでRCTを組んでエビデンスを世界に発信していくべき」と締めくくられました。

最後に、TTM2の結果と洞察について、ご多忙を極める中、快くご講演を引き受けていただいたNielsen先生、司会をお務めいただきTTMを取り巻く環境の解説やディスカッションのスムーズな進行をいただいた黒田先生、このような貴重な講演の場を提供いただいた大会長の清水先生、共催社の株式会社メディコンの関係者の皆様に、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

弊社は2007年の体温管理装置・アークティックサン発売以来、「より良い神経学的予後のために」、「完全社会復帰を目指して」をモットーに、アークティックサンならびに神経系モニタリング機器(簡易持続脳波計、電子瞳孔記録計、NIRSモニター等)の普及、国内外のエキスパートの先生方による教育セミナーの開催に努めてきました。今後とも、弊社へのご支援の程、宜しくお願い申し上げます。

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[ 参考文献 ]

  • ※1「Targeted Temperature Management at 33°C versus 36°C after Cardiac Arrest」N Engl J Med 2013; 369:2197-2206
  • ※2「Hypothermia versus Normothermia after Out-of-Hospital Cardiac Arrest」N Engl J Med 2021; 384:2283-2294

当講演の動画を、弊社の運営する会員制サイト【Neuroモニタリング倶楽部】にて公開しております。
ご興味ございましたら、会員登録の上、ご視聴いただけますと幸いです。
※英語での講演であり、日本語通訳はございませんので予めご了承ください。

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