TTMオンラインセミナー「当救命センターでのTTM(体温管理療法)の実施について~合併症対策を考える~」 ご報告
- 掲載:2023年06月
- 文責:カスタマーソリューション推進部
2023年1月25日、株式会社メディコン、アイ・エム・アイ株式会社共催の、TTMオンラインセミナーを開催いたしました。心拍再開後患者へのTTM実施時において、合併症対策における重要なポイントや、実際の現場におけるTTMの実施についてなど、ご自身のご経験なども踏まえながらご講演いただきましたので、ご報告申し上げます。
日時 : | 2023年1月25日(水)19:00~19:40(質疑応答含む) |
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演題 : |
当救命センターでのTTM(体温管理療法)の実施について |
演者 : |
井上 明彦 先生 |
座長 : |
牧 盾 先生 |
共催 : |
株式会社メディコン |
本セミナーでは、「体温管理療法」「安定した体温管理のために」の2つのテーマについてご講演いただきました。
体温管理療法について
心停止蘇生後のTTM目標体温の歴史
- 2002年、32℃、33℃の低体温療法は生存率、神経学的予後に有益だった(HACA Study、Bernard Study)
- 2013年、33℃の低体温療法と36℃の体温管理を比較し、神経学的予後に有意差を認めなかった(TTM trial)
- 2019年、Asys/PEA波形の患者において、33℃の低体温療法は、神経学的予後に有益だった(HYPERION study)
- 2021年、33℃の低体温療法と発熱回避(37.5℃以下)を比較し、神経学的予後に有意差を認めなかった(TTM2-trial)
TTM2-trialの結果を受け、2022年の国際蘇生ガイドラインの声明では、弱い推奨ではあるが、72時間の発熱回避、37.5℃以下の発熱回避が推奨された。
TTM2-trial
- 低体温療法と発熱回避を比較し、神経学的予後に有意差を認めなかった
- TTM2-trialの患者背景は、Bystander CPRの割合が約80%(日本のデータ:約51.7%)、Shockable rhythmの割合が約70%(日本のデータ:約51.7%)あり、日本のデータと患者背景に違いがある
- 動脈血、ICU滞在日数、呼吸管理日数などのデータに関しても、患者背景が日本の現状と違う印象を受ける
- 合併症に関して不整脈以外は有意差を認めなかったが、予期しなかった重篤な有害事象として、平熱群の患者で、血管内冷却デバイス関連の血栓による肺塞栓症による死亡例などが報告されている
低体温?平温?
- TTM2-trialに関して、患者背景が日本の印象と違うため、37.5℃以下の発熱回避を日本で応用することは正しいかどうか疑問が残っている
- すべての心停止患者に対し37.5℃の体温管理を実施するのではなく、低体温療法が有効な患者群がいるのではないか、重症度によって体温管理療法を分けた方がいいのではないかと言われている
- rCASTスコアを用いて重症度を分類し、目標体温33~34℃と35~36℃を比較したところ、軽症群、重症群の患者に関しては低体温療法の効果を認めなかったが、中等症群においては、33~34℃の低体温療法の方が神経学的転帰良好の割合が多かった。という結果が発表され※1、重症度に応じた個別化した低体温療法の可能性が示唆された
※1:Outcome Related to Level of Targeted Temperature Management in Postcardiac Arrest Syndrome of Low, Moderate, and High Severities: A Nationwide Multicenter Prospective Registry
重症度に着目した場合、重症度が中等症の患者は低体温療法が有効である可能性がある。しかし、中等症などの重症度分類は明確ではなく、もしかしたら低体温療法が有効であった患者に対し、低体温療法が実施できていない可能性もある。これらを考慮し、「兵庫県災害医療センターでは、現状33℃の低体温療法を基本方針としている」とお話されました。
安定した体温管理のために
兵庫県災害医療センターのTTMプロトコル
基本方針
- 33℃の低体温療法とし、目標体温に達成してから24時間33℃で維持し、24時間かけて36.5℃に復温
- 外傷、脳血管障害、術後、感染症、妊娠、出血高リスク群、出血性合併症の見られた患者は平熱療法の適応を検討
- 平熱療法では、36℃を目標体温として24時間維持、その後は24時間(0.05/hr)で37℃±0.5℃まで復温
体温管理療法で使用するデバイス
- Arctic SunTM5000 体温管理システム、血管内冷却装置、体外循環装置を使用。Arctic Sunに関しては非侵襲で体温自動調節機能があるため、扱いやすいが、皮膚障害の合併症の発生リスクがある。血管内冷却装置においては、血栓、挿入時関連合併症が発生リスクがある
- 機器の選択方法は中心静脈路が必要か不要かなどで判断
Arctic Sunの選択(例)
低体温療法の場合
- カテコラミン投与などで中心静脈路が4日以上必要と見込まれる場合
→Arctic Sun+中心静脈路 - 中心静脈路の必要性が4日以内と見込まれる場合
→Arctic Sun+中心静脈路
血管内冷却 - 中心静脈路が不要
→Arctic Sun
Arctic SunTM5000 体温管理システムの合併症について
皮膚障害の対策
- 皮膚血管の収縮がパッド辺縁部に圧がかかることにより生じるため、2時間毎に皮膚チェックの実施
- 浮腫の増悪などによって患者の皮膚にパッドが食い込むようになった場合には、パッドを一度剥がして皮膚状態を確認後、再度パッドを装着
- 皮膚が弱い場合は皮膚側に被覆材の使用を考慮
- 適切なパッドサイズの選択
シバリングの対策
- オリジナルのBedside Shivering Assessment Scaleを用いて対応
- 筋弛緩薬を使用しているため、発生リスクは低いが、心電図上のシバリングを認めていないかなど、注意深く観察
- 末梢循環を良くする目的とシバリングの予防を目的として、スキンカウンターウォーミングを実施し、末梢を温めるようにしている
体温管理の実際
- 目標体温に到達しない場合は、原因精査が必要である。体温管理機器を使用するだけでは、上手く体温管理はできない
- 循環水温の状態を確認し、水温の低下が継続している場合は、感染やシバリングなど原因精査を実施
- 復温後もArctic Sunを装着したままとし、復温後の急激な体温上昇を予防
全身管理のプロトコル
体温管理では、体温以外の循環、呼吸、電解質などの全身管理も重要である
[迅速な目標体温への到達][一定した体温維持][適切な全身管理][合併症の早期認識や対応][適切な方法とタイミングでの予後評価]など、これらのHigh quality TTMが実施可能であれば低体温療法/平熱療法は安全に実施できる。
Arctic SunTM 5000のデータ管理システムでは、治療全体の振り返りを行うことができ、より良い体温管理に繋がるのではないかと考える。とお話されました。
今の治療のトレンドと実症例やプロトコルなど、とてもわかりやすくご解説いただき、学びの深まる機会となりました。
また、セミナー参加者の皆様より、多くのご質問をいただきました。講演時間内にお応えできない質問もありましたが、質疑応答集を作成しましたので、ご参考にしていただければ幸いです。
最後に、スムーズにセミナーを導いてくださった座長の牧先生、素晴らしいご講演をされました井上先生に心より感謝申し上げます。
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