セミナー情報

第50回日本集中治療医学会学術集会 教育セミナー(イブニング)2「心停止後の体温管理 ~TTM2 trial後に残された疑問~」ご報告

  • 掲載:2023年04月
  • 文責:カスタマーソリューション推進部
第50回日本集中治療医学会学術集会 教育セミナー(イブニング)2「心停止後の体温管理 ~TTM2 trial後に残された疑問~」ご報告

第50回 日本集中治療医学会学術集会(2023年3月2~4日、会長:広島大学大学院 医系科学研究科 救急集中治療医学 教授 志馬 伸朗 先生)にてイブニングセミナーを株式会社メディコン、アイ・エム・アイ株式会社で共催いたしましたので、ご報告申し上げます。

イブニングセミナー2                                       
日時 :

2023年3月2日(木)
16:05~17:05

会場 :

第6会場(国立京都国際会館 1F さくら)

演題 :

心停止後の体温管理
~TTM2 trial後に残された疑問~

演者 :

杉山 和宏 先生
東京都立墨東病院
救命救急センター長

座長 :

清田 和也 先生
さいたま赤十字病院 院長

共催 :

第50回日本集中治療医学会学術集会
株式会社メディコン
アイ・エム・アイ株式会社

チラシ :

※pdfが開きます(70KB)

演者の杉山先生がご勤務されている都立墨東病院 救命救急センターは、東京の区東部をカバーする救命救急センターです。

都立墨東病院 救命救急センター

  • 年間収容数:2100~2200件
  • OHCA(院外心停止)搬送数:500~600件/年
    そのうちの約100名が自己心拍再開し、蘇生後の治療を実施
  • ECPR実施件数:25~30件/年
  • ハイブリットERを兼ね備えている
座長 清田和也
座長:清田 和也先生
演者 杉山和宏先生
演者:杉山 和宏先生

本セミナーでは、「心停止後の体温管理のReview」「TTM2後に残された疑問点」「墨東病院の取り組み」の3点についてご講演いただきました。

心停止後の体温管理のReview

Therapeutic hypothermiaの歴史を振り返る

  • 1950年頃より、低体温療法における脳保護効果の検討がされ始めた
  • 1954年、「低体温にすると脳の酸素消費量・脳血流が低下する」という生理学的根拠を示す文献が発表された
  • 1959年、心停止蘇生後患者に対する低体温療法の効果に関するケースレポートが初めて報告された。しかしこのケースレポートは、目標体温28~32℃のModerate hypothermiaを実施していたため、合併症のコントロールが難しく、世界的に低体温療法が普及するまでには至らなかった
  • 1990年以降、目標体温32~35℃のModerate hypothermiaを実施した研究が発表されるようになった
  • 2002年、大規模なRCTにて、「Moderate hypothermia 実施群で神経学的転帰良好の割合が多かった」と発表された
  • 2005年、2002年のRCTの結果をもとに、蘇生ガイドラインにて低体温療法が推奨された

TTMトライアルとTTM2トライアル

  • TTMトライアル(ヨーロッパ多施設共同研究:2010~2013年)
    • 33℃の低体温療法群と36℃の目標体温管理群の神経学的転帰を比較
    • 神経学的転帰不良の割合に有意差を認めず
    • TTMトライアルの患者背景として、Bystander Witnessの割合が約90%、Bystander CPRの割合も73%あり、日本の現状と比較した場合、神経学的転帰良好となりそうな患者層が多い印象

蘇生ガイドライン(2020年)ではTTMトライアルの結果を受け、心停止蘇生後ケアとして、32~34℃の低体温療法ではなく、32℃~36℃の目標体温管理療法(以下TTM:Targeted temperature management)の推奨へと変更となる

  • TTM2トライアル(ヨーロッパ多施設共同研究:2017~2020年)
    • 33℃の低体温療法群と37.5℃以下(積極的に発熱を予防する)群を比較
    • 死亡率、神経学的予後不良に有意差を認めなかった

    ILCORのガイドラインがドラフトバージョンではあるが、TTM2トライアルの結果を受け、心停止蘇生後ケアとして、37.5℃以下の発熱回避の推奨へと変更となる

TTM2後に残された疑問点

Mild therapeutic hypothermiaはもうおしまいなのか?

先生は、「自分自身はTTM2トライアルが発表された後も、すぐに36℃のTTMに変更しておらず、まだ低体温療法は何かしらの有用性があると思っている。」と話され、低体温療法の病態生理学的な効果について、過去の論文などを用いてご説明くださいました。

まだMild therapeutic hypothermiaを検討すべき余地があるのか

  • TTMの目標体温、期間について
    • 目標体温31℃ vs 34℃を比較。神経学的転帰に有意差を認めなかった
    • 目標体温32℃ vs 33℃ vs 34℃をそれぞれ比較。神経学的転帰に有意差を認めなかった
    • 冷却時間24時間 vs 48時間を比較。神経学的転帰良好の割合に有意差を認めなかった
  • Hypothermiaの効果がある症例があるのではないか
    • ノンショッカブルリズムの患者で目標体温33℃ vs 37℃を比較。33℃の低体温療法群の方が神経学的転帰良好の割合が多かった
    • IHCA(院内心停止)患者に対して、目標体温32~34℃ vs 37.5℃以下の体温コントロール群を比較したところ、神経学的転帰に有意差を認めなかった
    • ECPRにおける目標体温は、まだRCTがない
    • Pittsburg Cardiac Arrest Categoriesを用いて重症度を分け、33℃の低体温療法と36℃の体温管理を比較。軽症患者は、36℃の体温管理の方が神経学的転帰良好の割合が多かったが、重症患者では、33℃の低体温療法の方が、神経学的転帰良好の割合が多かった
    • 乳酸値で重症度を分類し、目標体温32~34℃ vs 35~36℃を比較したところ、重症患者では、32~34℃の低体温療法群の方が神経学的転帰良好の割合が多かった
    • rCASTスコアを用いて重症度を分類し、目標体温33~34℃と35~36℃を比較したところ、軽症、重症群の患者に関しては低体温療法の効果を認めなかったが、中等症群においては、33~34℃の低体温療法の方が神経学的転帰良好の割合が多かった

Therapeutic window

  • ROSC前より冷却開始するのがいいのではないか
    • 病院前冷却輸液に関しては、目標体温までの到達時間は早かったが、肺水腫などの合併症が増加し、退院生存に有意差を認めなかった。有意差を認めなかったことによりガイドラインで冷却輸液は推奨されていない
    • 冷却輸液ではなく、Transnasal evaporative cooling(鼻にカニューラを挿入し、冷却した気体を流し、咽頭部より脳を冷却する)のスタディが開始されており、有意差は認めていなが、10分以内の冷却開始、VF群において有用性があるかもしれない
    • CPR中にTransnasal evaporative cooling実施群と普通のCPR群を比較したヨーロッパ多施設共同研究では、ROSC率はTransnasal evaporative cooling実施群の方が高く、VF患者ではCPC1だった患者の比率が高かった。その中から20分以内にcoolingを開始した群だけを比較したところ、有意性もってCPC1だった患者の比率が高かった

これらの内容を踏まえて、「技術、環境が変われば、Mild Hypothermiaの有効性が示されるのではないか、intra-arrest coolingに期待したい」とお話されました。

墨東病院の取り組み

脳波で体温管理をcustomizeする

  • 脳波を用いてベットサイドで低酸素性脳症の重症度を判定し治療に役立てるためには、予後良好な症例を同定でき、リアルタイムに判定、救急医、集中治療医が判定可能なことが要件になってくる

先生自身は、もともと脳波が読めるわけないと思われていたそうですが、aEEGの力を借りれば何とか理解できるのかなと思うようになったとお話されていました。

Continuous normal voltage(CNV)波形までの回復時間が低酸素性脳症の重症度と相関する

  • 神経学的転帰良好の患者はCNV波形までの回復が早く、神経学的転帰不良の患者はCNV波形までの回復が遅かった。23時間がカットオフだった
  • CNV波形までの回復時間を使用して重症度を分類し予後を比較
    • C1:12時間以内にCNV波形に戻る
    • C2:36時間以内にCNV波形に戻る
    • C3:36時間以降にCNV波形に戻る、もしくは回復しなかった
    • C4:Burst Suppression波形が出現
  • C1群は神経学的転帰良好の患者が多く、C2群は約半数の患者で神経学的転帰良好となり、C3,C4群は神経学的転帰良好の患者はいなかった
  • 経時的に神経学的転帰を確認したところ、C2群の患者はもともとCPC2で退院していたが、1年後にはCPC1まで回復していた患者が多かった

心停止蘇生後ケアのカスタマイズ

CNV回復時間などを用いて心停止後ケアのカスタマイズができる。C1群では早期の覚醒を目指したり、C2群では 体温管理の延長や、リハビリテーションを重要視したり、C3,C4群はグリーフケアの選択などに活用できるのではないかと考え、脳波所見に応じたプロトコルを作成した。
実際の症例では、プロトコルを用いてTTMの目標体温を変更しているが、軽症な症例に 対して治療を簡素化できていると考える。

スライド画像
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Mild Hypothermiaへの期待は捨てたくない。と思いつつ、TTMやTTM2トライアルで示されている軽症な群は体温を下げることがマイナスになる可能性もあるため、そのような症例を同定し、適切な管理、患者さんに応じた神経集中治療を行っていきたい。と締められました。
TTMに関する歴史から、TTMの疑問についてわかりやすくご講演いただき、学びの深まる機会となりました。

最後に、スムーズにセミナーを導いてくださった座長の清田先生、素晴らしいご講演をして頂いた杉山先生に心より感謝申し上げます。

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