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第25回日本脳低温療法・体温管理学会学術集会 教育講演3 『「定量的」な客観的重症度評価に基づいた新しい蘇生後ケアの開発』 ご報告

  • 掲載:2022年12月
  • 文責:カスタマーソリューション推進部
第25回日本脳低温療法・体温管理学会学術集会 教育講演3 『「定量的」な客観的重症度評価に基づいた新しい蘇生後ケアの開発』 ご報告

第25回日本脳低温療法・体温管理学会学術集会[2022年9月23日~24日、会長:本多 満先生(東邦大学医療センター大森病院 総合診療・救急医学講座教授/救命救急センター センター長)]が開催されました。弊社では、“「定量的」な客観的重症度評価に基づいた新しい蘇生後ケアの開発”と題した教育講演を共催いたしました。

教育講演3             
日時 :

2022年9月24日(土)9:00~9:50

会場 : ティアットスカイホール(羽田空港 第3ターミナル4階)
演題 :

「定量的」な客観的重症度評価に基づいた新しい蘇生後ケアの開発

演者 :

西山 慶 先生
新潟大学大学院 医歯学総合研究科 救命救急医学分野 教授

座長 :

本多 満 先生
東邦大学医療センター大森病院 総合診療・救急医学講座 教授
救命救急センター センター長

共催 :

第25回日本脳低温療法・体温管理学会学術集会
アイ・エム・アイ株式会社

抄録 :

※pdfが開きます(533KB)

本教育講演では、西山先生により、TTMの現状と今後の方向性、「定量的」な重症度評価を行うことの重要性についてご講演いただきましたので、ご報告申し上げます。

座長 本多満先生
座長:本多 満先生
演者 西山慶先生
演者:西山 慶先生

西山先生は最初に、現在のガイドラインやTTM2 trialの影響についてご説明されました。

ガイドライン/TTM2 trial

【JRC蘇生ガイドライン2020】

JRC蘇生ガイドライン2020では、蘇生後は全例TTMを行う流れになっており、ガイドラインの内容を踏まえて今年の4月に診療報酬が改定された。

(関連記事:「Arctic SunTM 5000 体温管理システム「L008-2」診療報酬改定のお知らせ」参照)

【TTM2 trial】

  • TTM2 trial1)では、低体温療法と平熱療法の転帰に差はないという結果だったが、様々な議論が行われている。
  • 平熱群では5割近くが体温管理デバイスを使用しており、「平熱」と言いながらしっかり体温管理されていることがわかる。

【ERCガイドライン2022】

  • ERCガイドライン2022では、TTM2 trial後、以下の3つがGood Practiceとして記載された。2)
    • 蘇生後の継続的深部モニタリング
    • 蘇生後72時間の発熱予防
    • 蘇生後に低体温を平常体温に戻すための加温は不要
  • そして、32-36℃のTTMを行っていくべき群、行ってはいけない群の層別化はこれからの課題、とされている。
  • 今後の世界の流れは「層別化」が重要となるだろう。

リアルワールドのレビュー

  • 2013年のTTM trial3)後、転帰が悪化したという報告が複数ある。4)5)
  • 研究とリアルワールドに差がある場合、原因を考える必要がある。

TTMの過去の研究

  • TTMの過去の研究は、コントロール群の神経学的予後のバラつきが大きい。
  • 低体温群と平熱群で有意差がないとされるRCT(TTM trial や TTM2 trial)では軽症患者が多かった可能性がある。

このような現状を踏まえて、今後の方向性と層別化についてご説明されました。

矢印

今後の方向性:中等症がキーワード

  • 重症頭部外傷患者は脳温と深部温に差が生じるという報告6)があり、一番解離があるのは重症度が中等症の患者であったとされている。
  • 蘇生後脳症でも同様に、中等症では脳温が上昇しているのではないかと考えられる。
  • 中等症の患者に積極的なTTMを行うことで、利益が得られるのではないだろうか。
  • 重症度分類を行い、最適な体温と転帰についてデータを蓄積し、研究で明らかにすることでテーラーメイドケアが図れるのではないかと考えている。

層別化

重要なのは定量的に、リアルタイムでモニタリングできることである。

  • 重症度スコア
    • 患者を重症度別に層別化すると、低体温に効果を示す群があったという先行研究がある。7)
    • 日本ではrCASTスコアを用いた重症度分類が行われており、rCASTにて中等症とされた患者には低体温が有効であるという可能性が示されている。8)
    • ただ、このスコアは脳障害に着目したわけではなく、脳そのものの予後を示しているわけではない。

【脳障害を評価するために、活用できる可能性のある所見】

  • 脳波
    →定量化が進めば層別化が可能である。
  • バイオマーカー
    →NSEは特異度が高いが、急性期には適しておらず、24-48時間以内に評価できる方法の開発が望まれる。
  • 画像診断
    →目視には限界がある。AI診断をCTに活用し、人間の視覚を超えた情報を提供してほしい。
  • NIRSモニタ
    →入院時にrSO2が中等度(例:rSO2 40-60%)の低酸素脳症の患者は、32-34℃のTTMに効果があるという報告がある。他の方法と比較し、非侵襲で簡単である。

日本発のR-CAST OHCA Study

rCASTスコアを使用して中等度の患者を抽出して割付け、低体温と平熱を比較するRCTが開始されている。

(関連記事:第49回日本集中治療医学会学術集会 教育セミナー2「今後の体温管理療法(TTM)の展望と洞察」ご報告 参照)

まとめ

  • Normothermia=NOT-thermiaではない。平熱療法=体温管理をしなくていいという誤解が多く、放置したら予後が悪くなってしまうため、根気強く啓蒙する必要がある。
  • 研究とリアルワールドとのギャップの原因を探ることが、PCAS患者の転帰改善の鍵となる可能性がある。
  • 層別化の確立と中等症の患者を抽出することが重要であり、急性期に定量的に評価できることが必須である。
  • 中等症の患者は、積極的な冷却に効果を示す可能性がある。
  • 日本発のRCTを成功させ、日本から新たな知見を創っていきたい。

最後に、「心停止後の急性期で、重症度が中等症の患者を特定する方法を開発し、テーラーメイドの蘇生後ケアを行うことが重要である」と締められました。
TTMを取り巻く現状や、今後の方向性についてわかりやすくご講演いただき、学びの深まる機会となりました。
多忙な中、素晴らしいご講演をしていただきました西山先生、座長をお務めいただき、スムーズにご進行いただきました本多先生に、心より感謝申し上げます。

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論文

  • 1)J Dankiewicz et al. Hypothermia versus Normothermia after Out-of-Hospital Cardiac Arrest. N Engl J Med 2021; 384:2283-2294
  • 2)Sandroni C, Nolan JP, Andersen LW, Böttiger BW, Cariou A, Cronberg T, Friberg H, Genbrugge C, Lilja G, Morley PT, Nikolaou N, Olasveengen TM, Skrifvars MB, Taccone FS, Soar J. ERC-ESICM guidelines on temperature control after cardiac arrest in adults. Intensive Care Med. 2022 Mar;48(3):261-269.
  • 3)N Nielsen et al. Targeted Temperature Management at 33°C versus 36°C after Cardiac Arrest. N Engl J Med 2013; 369:2197-2206
  • 4)Salter R, Bailey M, et al.; Australian and New Zealand Intensive Care Society Centre for Outcome and Resource Evaluation (ANZICS-CORE). Changes in Temperature Management of Cardiac Arrest Patients Following Publication of the Target Temperature Management Trial. Crit Care Med. 2018 Nov;46(11):1722-1730.
  • 5)Nolan JP, Orzechowska I, Harrison DA, Soar J, Perkins GD, Shankar-Hari M. Changes in temperature management and outcome after out-of-hospital cardiac arrest in United Kingdom intensive care units following publication of the targeted temperature management trial. Resuscitation. 2021 May; 162:304-311.
  • 6)Rumana CS, Gopinath SP, Uzura M, Valadka AB, Robertson CS. Brain temperature exceeds systemic temperature in head-injured patients. Crit Care Med. 1998 Mar;26(3):562-7.
  • 7)Callaway CW, Coppler PJ, Faro J, et al. Association of Initial Illness Severity and Outcomes After Cardiac Arrest With Targeted Temperature Management at 36 °C or 33 °C. JAMA Netw Open. 2020;3(7): e208215.
  • 8)Nishikimi M, Ogura T, et al. Outcome Related to Level of Targeted Temperature Management in Postcardiac Arrest Syndrome of Low, Moderate, and High Severities: A Nationwide Multicenter Prospective Registry. Crit Care Med. 2021 Aug 1;49(8):e741-e750.
第25回日本脳低温療法・体温管理学会学術集会 教育講演3

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