人工呼吸器離脱でおさえるべきポイントは? ~SAT・SBTを安全に行うために
- 掲載:2023年09月
- 文責:メディカ出版
POINT
- SAT・SBTを単に実施するのではなく、目的を明確にして実施する。
- SATは人工呼吸管理中の患者の鎮静薬・鎮痛薬を中止または減量することによって、患者が覚醒するメリットを活かしていく方法である。
- SBTを利用することによって人工呼吸期間が短縮する。
SATとSBTは実施することが当たり前の時代
自発覚醒トライアル(spontaneous awakening trial;SAT)と自発呼吸トライアル(spontaneous breathing trial;SBT)は、PICS(post intensive care syndrome)予防という文脈の中でABCDEFバンドルの一部として紹介されている(表1)1。それは、PICSの要因には、私たちが重症疾患の治療のためだからと優先順位を低く見積もっていたものが多い。したがって、SATとSBTの近視眼的な目的(SATは意識確認・鎮静薬や鎮痛薬の適正量の調整・薬剤の蓄積回避、SBTは人工呼吸期間の短縮・VAP予防)で満足するのではなく、俯瞰した目的であるPICS予防・入院期間の短縮を目指すことを忘れてはいけない。ICUでは「行うこと(doing)」に目が行きがちで、何かを行うことで集中治療をしていると錯覚してしまうが、よい集中治療なのかを決めるのは「ありたい姿(being)」を思い描くことができているか、それをチームで共有できているかであると考える。SATとSBTはdoingに当たる行為であるため、beingを明らかにして治療を進めたい。
表1 :ABCDEFバンドル(文献1より作成)
A | Assess, prevent, and manage pain(疼痛の評価、予防、マネジメント) |
---|---|
B | Both spontaneous awakening trials(SAT)and spontaneous breathing trials(SBT) (自発覚醒トライアルSATと自発呼吸トライアルSBTの実施) |
C | Choice of sedation/analgesia(鎮静薬/鎮痛薬の選択) |
D | Delirium monitoring and management(せん妄のモニタリングとマネジメント) |
E | Early mobility and exercise(早期離床とリハビリテーション) |
F | Family engagement and empowerment, Follow-up referrals, Functional reconciliation (家族を含めた対応、転院先への紹介状、機能的回復) |
SATとは何なのか?
SATはdaily interruption of sedation(DSI)やsedation vacationとも表現され、患者が覚醒して指示動作に従うことができるようになるまで、鎮静・鎮痛薬を中断することである。人工呼吸器離脱に関する3学会合同プログラム2によると「鎮静薬は中止または減量、鎮痛薬は中止せずに継続」と記載されている。個人的には、目的を見失わなければ鎮静・鎮痛薬を両方中止してもよいし、減量にとどめてもよいと考える。患者背景、経過、予想される反応を考慮すれば、自ずと中止/減量/継続なのかを判断できる。一つだけ言えることは、どのような形であれ患者が覚醒しないと、患者が必要としている鎮静薬と鎮痛薬の量はわからない。観察を強化して、恐れずに実施してもらいたい。
患者が覚醒したらどうするか?
患者が覚醒した時に最初に行うことは鎮静・鎮痛評価やせん妄評価ではない。声掛けして、あいさつして、患者が置かれている状況を教えてあげることである。患者を評価対象ではなく人として接する。その後、疼痛をVAS(visual analog scale)など、鎮静をRASS(Richmond Agitation-Sedation Scale)など、せん妄をCAM-ICU(Confusion Assessment Method for the ICU)などで評価する。引き続いて、患者が覚醒することのメリットを活かすSBTやリハビリテーションなどの介入を始める。
SBTとは何なのか?
SBTは人工呼吸器を離脱できる/できないを判断する方法の1つにすぎない。その判断ができれば必ずしもSBTに固執する必要はないが、SBTは定型化されており均一な医療の提供につながること、人工呼吸期間短縮のエビデンスがあること、再挿管になった場合にSBT中のいつもとは異なる変化を振り返りやすくなることから、現在推奨されているSBTをあえてやらない選択を取る必要はないだろう。また、あなたが所属しているICUを俯瞰して見た時に、日によってSBT開始の判断・方法・成功の判断が異なっているとすれば、治療の質という面で望ましいとは言えない。SBTの経験が少ない医療者には、まずは決められたとおりにSBTを行うようにアドバイスしたい。SBTの目指すところは、抜管後の呼吸デバイスのサポートがない状態に近い設定にして、その設定でも酸素化と換気が無理なく保たれることである。つまり、SBTはtrialにより呼吸器離脱できる状態なのかを確認することであって、徐々に慣らしていくweaningとは別物である。
SBTの方法
現在実施されているSBTの方法は大きく分けて2通りある。1つは人工呼吸器のPSV(pressure support ventilation)モードを使いPS 5~8cmH2O、PEEP 5cmH2Oとする方法、もう1つは人工呼吸器を外しTピースに接続して30L/分以上のフローで吹き流す方法である。通常は30分間、長くても120分間でSBT成功か失敗かを判断する。PSVとTピースとの間には明確な優位性はないため、どちらを選択してもよい。ただし、PSVは呼吸器回路を変更することなく実施できるため利便性がよい。
また生理的視点からは、TピースによるSBT中は抜管した後の呼吸仕事量に近く、PSVによるSBT中はTピースの時より明らかに呼吸仕事量は少なくなる。したがってPSVによるSBTはTピースより緩い試験と言える3。
以下の基準に該当すればSBT成功と判断する4:
- 呼吸数<35回/分
- SBTを許容できている
- 心拍数<140/分、または心拍数の変化<20%
- SaO2>90%、またはPaO2>60mmHg(F1O2<0.4)
- 収縮期血圧80~180mmHg、または基準値から<20%の変化
- 以下がない:
呼吸仕事量の増加、呼吸補助筋の使用、奇異性呼吸、肋間の陥凹、尾翼呼吸、冷汗、不穏
この基準は絶対ではなく、経過、元の状態からの変化、未来予想を踏まえて総合的に判断する。実臨床では、この総合的判断がリスクの高い症例の再挿管を回避する重要なポイントなのではないかと考える。
しかし、「SBTクリア=抜管成功100%」を保証するものではないことを理解しておきたい。上記は10~15%程度の再挿管を許容した基準となっている。基準を厳しくすれば再挿管率は低くなるだろうが、その反動として、人工呼吸管理が不必要に長くなる症例が増える。その結果、全体としての人工呼吸期間の延長、ICU滞在日数の延長、VAPと人工呼吸器関連肺傷害のリスク増加、PICSリスク増加が予想される。また、抜管後の気道開通や排痰の評価はSBTには入っていないため、カフリークテスト、痰の量と性状、咳嗽の力などを別に評価しておく。
最後に
令和4年度の診療報酬改定によって新たにSAT・SBTが算定可能となった。これにより集中治療に精通していない医師が管理しているICUにおいてもSAT・SBTが認識されるようになり標準化につながること、また、SAT・SBTはともに看護師特定行為の範囲であるため看護師の活躍の場が広がっていくことが期待される。
【 参考文献 】
1. | Ely, EW. The ABCDEF bundle: Science and philosophy of how ICU liberation serves patients and families. Crit Care Med. 45(2), 2017, 321-30. PMID:28098628. |
2. | 3学会(日本集中治療医学会,日本呼吸療法学会, 日本クリティカルケア看護学会)合同人工呼吸器離脱ワーキング.人工呼吸器離脱に関する3学会合同プロトコル.2015.https://www.jsicm.org/pdf/kokyuki_ridatsu1503b.pdf |
3. | Esteban, A. et al. A comparison of four methods of weaning patients from mechanical ventilation. Spanish lung failure collaborative group. N Engl J Med. 332(6), 1995, 345‐50. |
4. | Peñuelas, Ó. et al. Discontinuation of ventilatory support: new solutions to old dilemmas. Curr Opin Crit Care. 21(1), 2015, 74–81. |
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