確認しよう!人工呼吸患者の感染管理
- 掲載:2023年12月
- 文責:メディカ出版

人工呼吸器装着中の患者に関する感染対策は、かねてより集中治療室(ICU)における重要課題であった。2020年以降、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の流行に伴い、特に病原微生物の感染伝播観点からの議論が進んでいる。現時点までに得られている知見をもとに、感染予防策を中心に整理する。
標準予防策
標準予防策は大きな手間や負担がなく行える感染予防策であり、状況や患者にかかわらずひろく適用するものとしてコンセンサスが得られている。最も重要性が強調されるのは手洗いで、診療区域に入る前、患者周囲の物品(人工呼吸患者の診察においては人工呼吸器や呼吸器回路など)に触れる前後、患者に触れる前後には、手洗いを行う。
個人防護具(personal protective equipment;PPE)
人工呼吸を含む呼吸ケアを必要とする患者に対応する医療従事者は、適切なPPEを着用する。接触、飛沫、エアロゾル感染に対応可能なPPEとして、アイシールド付きサージカルマスク、あるいはサージカルマスクとゴーグル/アイシールド/フェイスシールドの組み合わせ、キャップ、防水性の長袖ガウン、手袋の装着がある。
エアロゾル対策
- コロナウイルス、インフルエンザウイルスの伝播形態として、エアロゾル感染が示唆されている。
- エアロゾルが発生しやすい呼吸管理の状況として、気管挿管・抜管、気管吸引、呼吸器回路交換、NPPV(非侵襲的陽圧換気)装着、気管切開術、心肺蘇生、バッグバルブマスク換気、気管支鏡検査、ネブライザー療法、誘発採痰が挙げられてきた。
- しかし、どのようなエアロゾル発生状況でSARS-CoV-2の発生リスクが上昇するか、予防策により発生リスクが低減するか、に関する質の高い臨床的エビデンスはほとんどない。現時点で重要視されるのは、気管切開術、開放式気管吸引、気管挿管・抜管などと思われる1、2。
- 2022年のシステマティックレビュー1では、SARS-CoV-2の感染リスクが上昇することが示唆されたのは、①気管吸引時、②気管挿管時、③バッグバルブマスク換気時、のみであった。いずれも限られた単一のコホート研究であった。
- NPPVや経鼻高流量酸素療法(HFNC)による感染リスク上昇効果は明らかでない。
- N95マスクの着用がサージカルマスクよりも感染防止効果があるかどうかはわからないが、何らかのマスク着用による予防効果はありそうである1。気管挿管/抜管手技者はN95マスク着用がよいかもしれない。
人工呼吸器
- 人工呼吸器の吸気および呼気入口にフィルタを使用することにより、人工呼吸器内部や環境の汚染を回避するかもしれない。
- 呼吸器回路やバッグバルブマスクにバクテリアフィルタ付人工鼻を使用したり、閉鎖式気管吸引チューブを用いると、回路あるいは環境汚染は低下するかもしれないが、感染伝播が減らせるかどうかの傍証はない。
人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia;VAP)
- 院内感染症として重要なVAPへの対策、特に予防策は病原体に関係なく重要である。
- しかし、VAPの予防策に特別なものはない。人工呼吸中は仰臥位での管理を避け、人工呼吸器から早く離脱することに尽きる。
- カフ上部吸引孔付き気管チューブや自動カフ圧計は使用してもよいだろう。
まとめ
COVID-19の診療経験を通じて、我々は改めて呼吸管理処置における感染対策の重要性について考えたが、確立したプラクティスにつながる質の高い研究成果は残念ながら得られていない。
現時点では以下のような基本に注意して、無理のない予防策を適用すればよいと思われる3。
- ①手指衛生を行う。
- ②サージカルマスクは日常的に着用する。
- ③呼吸ケア提供者は目、鼻、口を防御しておく。
- ④エアロゾルが発生しやすい処置を回避する(開放式気管吸引、呼吸器回路開放など)。
- ⑤気管挿管/抜管、気管切開手技者は、フェイスシールド/アイシールド、キャップ、ガウン、手袋とN95マスクを着用する。
【 参考文献 】
1. | Leal, J. et al. Risk of transmission of respiratory viruses during aerosol-generating medical procedures (AGMPs) revisited in the COVID-19 pandemic: a systematic review. Antimicrob Resist Infect Control. 11(1), 2022, 102. |
2. | Li, J. et al. Aerosol-Generating Procedures and Virus Transmission. Respir Care. 67(8), 2022, 1022-42. |
3. | Martins, MS. et al. Recommendations for the safety of hospitalised patients in the context of the COVID-19 pandemic: a scoping review. BMJ Open. 12(9), 2022, e060182. |
関連商品
関連記事
新着一覧

IMI WEBセミナー
「ARDS管理の最適化:令和時代の肺保護換気戦略」
セミナー情報 
第52回日本集中治療医学会学術集会 教育セミナー(ランチョン)16
「蘇生後の転帰改善を目指して」ご報告
DVD・資料請求 
DVD【C58】「第52回日本集中治療医学会学術集会 教育セミナー(ランチョン)16」
セミナー情報
日本蛍光ガイド手術研究会第8回学術集会 ランチョンセミナー3「ICG蛍光造影を活用した循環補助デバイスの研究開発から考えるICGの新たな可能性」
特別企画
総合カタログintの歴史 ~ インテリジェンスをお届けする
商品ナビ
瞳孔記録計 NPi-300 NeurOptics社 HP 文献紹介
イベントスケジュール
保守点検技術講習会スケジュール
現在開催の予定はございません
展示会・セミナースケジュール
日本蛍光ガイド手術研究会 第8回学術集会
2025年5月23日 ~ 5月24日
京都大学百周年時計台記念館 国際交流ホール
アジア太平洋離床ネットワーク 日本離床学会 合同学...
2025年6月1日
国立オリンピック記念青少年総合センター
日本麻酔科学会 第72回学術集会
2025年6月5日 ~ 6月6日
神戸国際展示場
第7回日本在宅医療連合学会大会
2025年6月14日 ~ 6月15日
出島メッセ長崎
第28回日本臨床救急医学会総会・学術集会
2025年6月20日 ~ 6月21日
パシフィコ横浜 会議センター